後始末屋の特異点   作:緋寺

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『逸らす』と『届かない』

 一斉射の反動で距離欺瞞の中を強引に進んでいた戦装大発は、海中からのスキャンプのサポートで一気に陸へと進むことが出来た。まだ上陸とまではいかないものの、環礁空母泊地棲姫の声が聞こえる程にまで近付くことが出来ていた。

 会話は出来るかもしれないが、手が届くような距離ではない。砲撃だって、互いの『ジャミング』によって全て逸れる。未だ不毛な状況は変わっていない。

 

「いい加減、諦めたらどうだ」

 

 環礁空母泊地棲姫は妙高を睨みつけながら主砲を突きつける。だが、この時点で『ジャミング』が効いており、その照準は明らかにズレている。当人はそれに気付いていないのだから、『ジャミング』が自他共に認める凶悪な能力であることが頷けた。

 だが、これは逆も然り。妙高が環礁空母泊地棲姫に主砲を向けたとしても、ここまで近くにいるというのにまともな照準になっていないだろう。微妙に下を向き、意味のない場所を撃つことになる。そしてそれに気付かない。

 

 ニュアンスは違えど、同じ力のぶつかり合い。ここまで近付いても、勝敗は見えない。

 

「諦める? 何故?」

「お前達の攻撃は届かない。ならばこれ以上は無駄だろうに」

 

 何も出来ないのだから意味のない抵抗はやめて屈しろと言う環礁空母泊地棲姫。妙高のことは厄介な敵であると認識はしている。今の自分では斃せるかはわからない。だが、有利なのは自分も同じで得る。故に、屈してこちらにつけと。

 

「何を以て無駄だと思っているかはわかりませんが、少々早計では?」

 

 対する妙高も、自分のペースを崩すことなく至って冷静に反応をした。こうしている間も戦装大発は陸に向かっており、後少しすれば上陸も可能になるというところまで来ている。

 だが、距離欺瞞のせいで身体が前に向かってくれない。何かに押されているなら進むことが出来るが、自分の意思で前に向かうことが出来なくなっている。距離欺瞞によって、()()辿()()()()()()()()()()()()()()()()()かのように。

 

「今こうしている間も、私は貴女の力の綻びを探っている。絶対に突破出来ないとお思いで?」

 

 話しながらも考えて、考えて、考える。どうすれば『ジャミング』を突破出来るか。()()()()()、白雲という大きな範囲を一気に凍結させて、うもすもなく勝利を捥ぎ取られた。視認も距離欺瞞も関係ない。温度の低下に方向も距離も何もない。その場を全て凍結させるだけなのだから、『ジャミング』相手には最大の力を発揮する。

 だが当然、ここには白雲はいない。どころか、攻撃的な力を有する仲間もいない。長門と清霜はここでもまだ艦娘として立っている。海中の様子は詳しく聞いていないが、ここまでの感じで大範囲を攻撃する手段を持ち合わせている者はいない。戦装大発を押してくれた誰かが力を得たのだろうと察したが、それが環礁空母泊地棲姫に対抗出来るかは何とも言えない。

 

「貴女もわかっているでしょう。私と貴女、方向性が違うだけで、力の本質は同じ。貴女が私を突破出来そうならば、その逆も然り。貴女が私の弱点に気付いているのですから、私が気付いていることだってあるでしょうに」

 

 少し強気に環礁空母泊地棲姫を挑発するように語る。だが、そんなことでは冷静を崩すことは出来なそうである。

 こういうところからしても、この敵はこれまでとは違う。感情的にならない。冷静にこの戦いを進めようとしている。まるで()()()()()()()()()()()()()

 

 環礁空母泊地棲姫は足元の艤装が蠢くことで陸側へと退避していく。距離を取れば勢いで上陸された戦装大発はそこで止まり、距離欺瞞でそれ以上進めず、砲撃も届かない。陸を陣取っている限り、基本的には敗北はない。

 その上で、妙高の弱点である視界を封鎖出来てしまえば勝利。水柱を立てることはもう不可能ではあるが、それ以外にもいくらでも手段はある。どんなことをしてでも、妙高の目さえ潰してしまえばいい。それにはもう、環礁空母泊地棲姫も気付いている。

 

「間合いを取る、ですか。なるほど、自分の力をよく理解している。近付けないのだから、遠退けばいい。自分が有利になる場所に行けばいい。わかりますよ、その策は。私でもそうします」

 

 それでも妙高は探りを入れるために攻撃を開始する。今ならば、前方に砲撃を放っても、進行の邪魔にはならない。水流によって押してもらえているため、動力に不安が無くなった。

 ならば何をするかと言われれば、自分の弱点がそのまま敵の弱点になっているかを調べることである。

 

 まず繰り出したのは、環礁空母泊地棲姫ではなく、その横を狙うこと。距離感覚が狂わされるのは、敵を狙った時に限るかどうかを知るため。

 結果、真っ直ぐ狙うよりは砲撃が前に進んだ。陸が爆散し、大きく抉れることになったが、距離的には真横を狙ったつもりでも実際はそれよりも手前で落ちている。

 

「調べさせてもらいますよ」

 

 そこからは無駄弾かもしれないと思いながらも砲撃を繰り返す。距離欺瞞がどれだけの範囲に影響を与えているか。

 

「無駄なことを。何をしても届かないならば関係ない」

「届かせようと思っていませんから」

 

 時には環礁空母泊地棲姫の頭上をすっぽ抜けるような砲撃も放たれる。また、山なりに飛ばして環礁空母泊地棲姫の真後ろに着弾出来るかも試す。目の前にいるのに照準に合わせないなんてこともした。とにかく情報の数を増やす。

 

「清霜さん、今なら少し動けますね」

「大丈夫!」

「私は爆雷が装備出来ませんから、少し使ってもらっていいですか。()()()()()()()()()

「りょーか、陸に!?」

 

 反動がそこまで必須ではない今、清霜も敵に探りを入れるために動いてもらえる。そこでやりたかったのは、爆雷投射がどこまで届くか。

 

「私が言うところに全力で投げてください。コントロールとかは大丈夫ですか?」

「えっと、うん、人並みには出来る、と思う」

「結構。では、お願いします」

「は、はーいっ。長門さん、一斉射から少し抜けます!」

 

 長門は妙高の策を全面的に信じているため、清霜を使うことに何も言ったりなどしない。爆雷も奇策のうちだろう。陸で爆雷なんて普通は使わないが、そういう()()()()()()()()()()()()()()()で、新たな情報は手に入るというモノである。

 

「それじゃあ、いっぱい投げる!」

 

 清霜の爆雷投射が開始される。本人を狙う、隣を狙う、真後ろを狙う、山なりに狙うなど、妙高が砲撃で繰り出したことを全て爆雷で実行する。

 

 環礁空母泊地棲姫は、その妙高の迅速ではあるが地道な探りに、徐々に緊張感が増していた。それを表に出さないようにしているが、このまま行けば本当に何かされるのではないかとヒヤヒヤしている。

 自分の力を無敵の力だと慢心はしていない。だからこそ、距離を詰められたら距離を取ろうと動いている。一定の距離さえあれば、距離欺瞞は常に発揮し続ける。それを冷静に判断して、今出来ることを全力でやる。

 

「なるほど、おおよそ理解しました。あくまでも距離欺瞞は()()()()()()()()()()()()()()()()()に対してのことですね。そもそも狙っていないモノは狙い通りに飛ばせる。私と同じです」

 

 そういう意味では、視界に入っていないと逸らすことが出来ない自分よりは強い力かもと内心思いつつ、これで狙いが決まった。

 

「清霜さん、彼女の後ろに爆雷を投げ続けてください」

「後ろ?」

「はい。下がれないように、後ろの地面を抉り続けるんです。私は横を撃ちます」

 

 環礁空母泊地棲姫はジリジリと間合いを拡げようとしている。だが、それをやめさせるため、清霜の爆雷で後ろの道を抉り続ける。爆雷一発でも、そこそこの大きさの穴が作れるのだから、そこに何度も何度も爆雷を投げ込めば、大きく穴を拡げることが出来る。

 同じように横にも行かせないように妙高は砲撃を続けた。それはまるで堀を作るかのような爆破の仕方。

 

「その程度で私の退路を塞ごうと──」

「いえ、貴女の『ジャミング』の弱点、私とは違う点を見つけたので、それを実践中です」

「弱点、だと……?」

 

 環礁空母泊地棲姫は自分の力については全て理解していると思っていた。あくまでも出来るのは距離欺瞞。自分に向かってくる攻撃が届かなくなる、自分に向かってくる者の足を止めることが出来るというだけであり、自分に向かってこないならば無力であることも把握している。だからこそ、何かあれば間合いを取って届かない位置を増やしている。陸を陣取っているのもそのため。

 故に、知らない弱点と言われた時にまだ何か見落としているのかと頭を回し始めた。何がある、何がまずい、敗因になり得るモノは何だと。

 

「長門さん、砲撃をお願いします。戦艦の威力で大きく掘りたいので」

「心得た。もう反動で動かさなくてもいいということだな」

「はい。今もまだ押してくれているみたいですからね」

 

 スキャンプの『スクリュー』による水流の存在にはもう気付いている。これならば、砲撃の反動はもういらない。

 

 長門に頼んだのは、やはり横への逃げ道潰し。環礁空母泊地棲姫を狙っているわけではないため、これも着弾はする。妙高の砲撃以上の火力を誇る戦艦主砲が、敵を斃すためではなく、掘削に使われている。何とも贅沢な土木工事。

 地面は大きく抉れ、一度落ちたら簡単には上がってこれないほどの大穴に。それを両サイドに作り出すのも、長門の火力ならばすぐのこと

 

「私ならば、穴を掘られる前に横にいきます。それで逸らすことが出来るので。でも、彼女はそれをしない。ここからわかるのは、私との違いです」

 

 爆雷による穴掘りも随分と捗り、長門の砲撃とまでは行かずとも、こちらも一度落ちたら自力で上がるのは難しいほどにまで拡がっていた。いくら環礁空母泊地棲姫であっても、そこに落ちたら退くことは出来なくなる。

 

「『逸らす』のではなく、『届かない』力ですから、自分の足で届く位置に行った場合は、届かないことはないということ。勢いがあれば進めるわけですし、『届かない』はそれなりに穴がありますよ。私と同じで」

 

 砲撃と爆雷による穴掘りで、環礁空母泊地棲姫の移動先はことごとく潰す。他の艦娘などならば飛び越えることも容易であろうが、彼女の艤装はそういうことに向いていない、地面を這いずるような形状をしているため、踏破が出来ない。

 これが海上ならば話が変わっているだろうが、如何せん自ら陸を陣取っているのだから、自業自得である。

 

 

 

 

「退路は塞ぎました。あとは真正面からの殴り合いですよ」

 

 そして、戦装大発は、岸へと辿り着く。環礁空母泊地棲姫との距離は、目と鼻の先。

 

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