後始末屋の特異点   作:緋寺

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飛車

 妙高達の策──砲撃と爆雷での地形破壊によって、周囲には深い堀が掘られたことで、環礁空母泊地棲姫はその場から移動出来なくなった。

 その艤装の性質、這いずり回るように動くため、堀に落ちれば上がることが困難となり、前に進もうにもそこにはもう妙高達が到着している。

 

「退路は塞ぎました。あとは真正面からの殴り合いですよ」

 

 退がることも出来ない。横にも行けない。正面には妙高達の乗る戦装大発。環礁空母泊地棲姫は、もう何処にも行けない。包囲されているとは言えないが、艤装を捨てない限りはこの場から動くことも難しい。

 正面にいる敵を斃すというのも普通にあるだろう。むしろ、()()環礁空母泊地棲姫でなければ、自分の得た力による無敵感を味わっているせいで、負けると思わず突っ込んできているはずである。だが、妙高の『ジャミング』がわかっているからこそ、すんなりと足を進めるようなことは出来ない。

 

「……お前達だって、何も出来ないだろう」

 

 冷静に、しかし必死にこの状況を打破出来るように頭を回し、環礁空母泊地棲姫は言う。時間を稼いだところで何が変わるかと言われればそうでもない。

 だが、それはお互い様である。妙高達だって、目の前の環礁空母泊地棲姫には近付けても手が届かない。岸についたところで、この戦況は何も変わらない。

 

 妙高の攻撃は環礁空母泊地棲姫に届かない。環礁空母泊地棲姫の攻撃は妙高から逸れる。

 

「いえ、何も出来ないのは貴女だけですよ」

 

 だが、妙高は強気にそれを告げる。ここからお前に勝つぞと、眼前で断言する。

 

 環礁空母泊地棲姫はどうすればそんなことが出来ると叫びかけたが、動揺を表に出すことを控え、顔を顰める程度で止めた。

 妙高には仲間がいる。だが、人数が増えたところでその攻撃は届かない。どれだけ撃ったところで、全て手前で落ちる。そして接近することも出来ない。距離欺瞞が移動を禁じている。妙高はそう言いながらも身体が前に動かないはずだ。

 ならばどうやってこの状況を突破するのだと、そちらにも頭を回す。何をすれば自分に手が届くのだと。

 

「私達は貴女の逃げ道を無くすことが仕事です。なので、もう仕事は終わっています。牙城を崩し、貴女の構えを壊した。王を表に曝け出すことに成功した」

「……何を言っている」

 

 視野を広く持ち、何かが自分を襲ってくるのかと警戒を続ける。対潜掃討をする回転翼機も、より激しく潜水艦を攻め立てる。これだけ攻撃しても潜水艦を誰一人として始末出来ていないのは、後始末屋の潜水艦の腕が普通ではないのだろうと納得はしているが、それにしてもここまでかと驚きもしていた。

 回転翼機の情報は、環礁空母泊地棲姫に常に送られている。何処に潜水艦がいるか、手に取るようにわかる。これまで相手をしていた伊26と3つの潜水艇、それに対して鬼ごっこを仕掛けた潜水新棲姫2人、さらに途中から入ってきた潜水艦の姿も。その片方のスキャンプが何かをしていることで、戦装大発が途端に進むようになったのも、環礁空母泊地棲姫にはわかっていた。それが『スクリュー』の水流であることはわからずとも、スキャンプがこの状況を作り出してことは理解している。

 

 だが、ここで疑問符が浮かんだ。何かを忘れている。いや、忘れているわけではない。()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()、回転翼機から確認出来ない。

 

「奴は何処に行った」

 

 顰めた顔がより歪み、不安が表に出始めた。

 

「奴、とは?」

 

 対する妙高は冷静さを失わない。何を言ってきているのかは勿論わかっている。だが、答えを口にすることはない。説明する理由がない。自分の手を話しながら指す棋士なんていないだろうと。

 環礁空母泊地棲姫は回転翼機による対潜掃討を一時的に中断し、海中を徹底的に捜索する事に専念し始める。その姿を確認しなければ、何をしてくるかもわからない。そもそも、何の障害物もない海中にいるはずなのに、その姿が見えないという時点でおかしい。

 

 距離欺瞞によって自力でここまで辿り着くことは不可能なはずである。だが、戦装大発はここまで来れた。ならば、()()も何かを使えばここまで来れるということに他ならない。

 

「しらばっくれるな。伊203だ」

「フーミィさんですか、本当に彼女は有名になりましたね。そこまで警戒するものですか」

「……っ、何処にいる」

 

 妙高の語り口調からして、伊203が決め手になるのだろう。しかし、その姿が全く見えない。回転翼機の目を以てしても、それが見えない。

 環礁空母泊地棲姫の回転翼機は、潜水艦の場所を目で見て確認しているようなモノである。ソナーを完備していたとしても、自分から直線上に視界を拡げて、海底までハッキリと確認する。その間に障害物が無い限り隠れることは出来ない。海中を全て視野に収めるために、この何も無い海を戦場に選んだのだ。

 

 逆に言えば、()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()ということ。この戦場に障害物は無い。無いはずなのだが、それは()()()()()()()()()()

 

「そこか!」

 

 冷静ではあったが、それに気付いた環礁空母泊地棲姫は声を荒げて回転翼機をそこ──戦装大発に集約させた。爆雷をありったけぶつけて、戦装大発を破壊しようと目論む。妙高達をここまで運ぶのを止めておけばよかったと後悔しつつも、今は出来ることをやるのだと。

 

「私のことを狙っていますよね、それは」

 

 だが、ここで妙高の『ジャミング』が効果を発揮する。回転翼機による攻撃かもしれないが、環礁空母泊地棲姫は()()()()()()。ならばそれは当たらない。回転翼機の投下する爆雷は、戦装大発に掠ることもなく落ちていき、知らない場所で爆発する。

 大きな水柱は立つが、戦装大発は無傷。大きく揺れはするものの、環礁空母泊地棲姫の思惑は何も上手く行かず。障害物はそこから動かない。

 

「邪魔な力だ……っ」

「そっくりそのままお返ししますよ。それに、貴女のそれが、最後の一手です」

 

 回転翼機の全力投下は、爆雷数発分を一気に使うほど。数メートルを超える水柱がそこに出来上がった。それは障害物にはならないかもしれないが、明確に視界を塞ぐには充分である。

 環礁空母泊地棲姫の距離欺瞞は、彼女の視界によるモノではない。彼女を認識し、彼女に近付く、攻撃するなど、意思を以て脅威が近くに迫ることを届かなくさせる。

 

 

 

 

 よって、意思なき水流に押し込まれて突撃してくる伊203が水柱の中から現れても、それを止める手立てはない。

 

 

 

 

 伊203は環礁空母泊地棲姫が思った通り、戦装大発の裏、船底に隠れていた。そこまで行くのもスキャンプの水流を使っている。自力で進めないのならば、水流の勢いを使ってそこまで辿り着けばいい。

 戦装大発が水流で動き始めた時には、伊203は既にそこにいた。むしろ、戦装大発の船底でスキャンプに指示を出していたまである。その勢いを身体に受けるのは、相当な圧だったであろう。だが、伊203の()()()()()()()()()()()()()強靭な身体は、それを耐え切った。水着は一部傷付いてしまっていたが。

 

「やっと届いた」

 

 進めずとも退くことは出来る。回転翼機の爆雷を確認した直後、伊203は戦装大発の船底から離れ、勢いをつけるために距離を取る。

 そこに示し合わせたようにスキャンプの水流が到達。爆雷爆発と同時にその水流を足裏に受け、猛烈な勢いとともに海面から飛び出した。

 

 こんなことが出来るのは、伊203だけ。普通の潜水艦なら、水流を足裏に受けた時点で安定性を失って真っ直ぐ進めない。

 

「終わりにする」

 

 その勢いのまま、伊203は環礁空母泊地棲姫に直撃。反応することも許さず、ミサイルの如く飛び込み、その胸に肘を入れるようなタックルを決めた。

 

「かっ……っ」

 

 胸──肺への強烈な一撃に呼吸が一瞬止まる。だが、それだけでは終わらない。

 

「触れちゃえばもう距離も何もない」

 

 体当たりと同時に、体勢が崩れた環礁空母泊地棲姫を押し倒すように踏みつける。

 距離欺瞞があろうが、重力には逆らえない。倒れた環礁空母泊地棲姫は伊203から蹴られるようなカタチで地面に叩きつけられ、そのまま勢いを殺せずに引き摺られるように掘られた堀の中へと叩き落とされた。

 

 勿論、伊203も同時に落下。その加速も取り入れて、穴の底に落ちたところで凶悪な蹴りへと変わる。

 

「ごっ……!?」

「届く届かないの話じゃなくなった。貴女が下にいるだけ。離れたくても離れられないね」

 

 伊203は環礁空母泊地棲姫を見下すような冷ややかな瞳で見つめる。

 

「足を……退け……っ」

 

 まだ戦意を残している環礁空母泊地棲姫は、その足を退かそうと全力で殴りかかろうとした。だが、その拳は全く見当違いなところを空振り。

 伊203は、未だ妙高の『ジャミング』の範囲内にいた。故に、妙高が視認していなくても、伊203が視認している時点で、『逸らす』効果に影響される。もう、抵抗する手段はない。

 

「私は貴女を狙っているわけじゃない。跳んで、落ちてるだけ」

 

 離れようと跳んだところで、重力に引かれて落ち、その足が環礁空母泊地棲姫を抉るのみ。距離欺瞞なんてもうあったモノではない。空中で留めることが出来るなら話は変わっただろうが、そんなことが出来るわけがない。

 

「おしまい」

 

 そこから始まる、地獄のタップダンス。床にされた環礁空母泊地棲姫は、意識が飛ぶまで蹴り続けられることとなった。

 

 

 

 

 妙高達に対しての距離欺瞞が失われたことで、環礁空母泊地棲姫の意識が失われたことを知る。これによって、この戦いが終わったことを誰もが知ることとなった。

 

「やはり、攻めの決め手は飛車ですね」

 

 ホッと息を吐く妙高は、そんなことを呟きつつ、微笑んだ。

 

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