妙高とは違う『ジャミング』を操る環礁空母泊地棲姫を斃し、その影響は解除された。戦装大発から動けなかった妙高達は、一度そこから降りて、改めて環礁空母泊地棲姫の様子を確認する。
伊203によって堀に突き落とされた後、気を失うまで蹴り続けられたことで、それはもう酷いことになっていた。自己修復をするとはいえ、顔面はボコボコになり、身体中も痣だらけ。骨も折れていることがわかる。伊203がこれまで味わったストレスを、全てその身体に受けたのではと思えるほどである。
「フーミィさん、ひとまず大丈夫です、命を奪いたいのは山々ですが、後から面倒になりそうなので今は止めておきましょう」
妙高に言われて、ふぅと小さく息を吐くと、軽々と堀から抜け出てきた。環礁空母泊地棲姫が下にいるにもかかわらず、思い切りジャンプしたため、それもまたダメージとなっていた。
「このまま置いておいたら、また目が覚めて脅威になる。スキャ子が持ってるのも含めて、面倒なのばかり」
「はい、なので放置しようとは思っていませんから安心してください」
ここにいる環礁空母泊地棲姫は勿論、海中で捕らえられている潜水鮫水鬼と潜水鰆水鬼もどうにかしなくてはならない。命を奪わないにしても、その力は3人とも厄介極まりないモノである。
特に面倒なのが、まともに捕らえることすら出来ない潜水鮫水鬼。今でこそスキャンプが艤装を持つことで運んできているが、素肌に触れた時点で有機物も無機物も劣化するという最悪な力を持っている。
「まずはそれらを全てここに連れてきてもらいましょう」
「わかった。スキャ子に話してくる」
言うが早いか、伊203はすぐに海中へと戻っていく。今はこの戦いでの消耗もあるため、少しばかりの休息の時間も兼ねて、海中の面々を一旦海上に連れてくるために。
「ははっ、ザマァねぇな。でも、これが一番手っ取り早いか」
「動きを止めるにはこれが早いので」
「速いのは好き」
結果的に、海中から運んできた敵達の扱いは散々と言ってもいい状態だった。全ては潜水鮫水鬼の『劣化』を機能させないようにするための窮余の策ではあるのだが、スキャンプにはそれが大ウケだった。
というのも、これ以上面倒なことをさせないために完全に拘束するためのモノはここにはないため、有り合わせのモノで動きを封じなくてはならなかったため、よりによって
かなり深めに掘られた堀だが、周りの土なども上手く崩すことで、多少は元に戻すことが出来る。それでも舞い散った土などはどうにもならないので、そこには大穴が空いているようなモノなのだが。
「自力で抜け出すこたぁ出来ねぇだろうな。はっ、いい気味だぜ」
ここにいる者で最も膂力があるのは長門。その長門が、スコップもないこの場所で、手や足を使って上手いこと土をかき集め、身体を完全に埋めてしまった。少し時間がかかりそうだったが、そこは仲間達が力を合わせることで迅速に終わらせている。
最終的には、3人の敵は地面に胸像のように突き刺さった状態で固定されている。潜水鰆水鬼はその頃には手足が自己修復してしまっていたが、伊203の脅しによって新たに力を発揮させられることもなく、その手も全く動かなくなるように土の中に埋められている。
一番の問題だった潜水鮫水鬼はさらに念入りだった。集められるだけの土を全て使い、胸像どころか晒し首にするレベルで埋められている。これならば、『劣化』を使ったところで土を掘り返すことは出来ない。自力で上がってくることは出来ないだろう。スキャンプにはそれが面白かった模様。
「貴女達には申し訳ありませんが、今はそうしておいてください。何を言っても、何をしても、貴女達は思い直すことはしないでしょう。貴女達にとって私達が敵であるように、私達にとって貴女達は敵。これで済ませているのですから、むしろ感謝してもらいたいくらいです」
妙高にも少々棘が見え隠れしているが、そこは誰も気にしていなかった。ここにいる3人は、それくらい言われてもいいくらいの敵。環礁空母泊地棲姫に至っては、利用している子供達も巻き込んで潜水艦隊を始末しようとしたくらいなのだ。
「さて、潜水艦隊の皆さんは本来の仕事に戻るべきでしょうね。他に敵影は無さそうですか?」
「うん、戦ってる間もずっと索敵してたけど、海の中には今はもういないよ。増えてくる可能性はあるけど」
伊26はこの戦いの最中でも、手に入れた『ソナー』をフル回転させ、怪しいモノが近付いてきていないかをずっと確認していた。潜水新棲姫2人のような、目に見えない敵が迫ってきている可能性も考えて。
結論から言えば、今はまだ敵はいないし来ていない。ここに配置された敵は、これで全て解決したと言える。それでもまだ潜んでいる可能性を考えて、警戒はいつまでも厳にしているのだが。
「索敵している間に、海の底に怪しい場所も見つけたよ。多分アレ、隠し通路」
「そんなモノあった?」
「すっごく綺麗に隠されてたんだけど、ニムの力を使ったら、それが偽物ってわかったんだ。土や石とは違うなってすぐにわかったよ」
伊26の『ソナー』は、『迷彩』によって透明となった潜水新棲姫を見透かすだけにとどまらず、明らかに偽物である隠し通路についても見通していた。おそらくそれが、裏切り者達が隠れてこの島に来ていた通路。
潜水艇が入れるようにとそれなりに大きめに作られているのは確実であるため、そこをこじ開ければ、潜水艦娘どころか、丁型海防艦の潜水艇もそこから侵入が可能だろう。
「ここが済んだならすぐに行く」
「フーミィちゃん、ちょっと待って。そっちはこれでいいかもだけど、こっちがね」
敵として立ちはだかった3人は別に構わないが、今でも伊26が一緒にいる子供、深海新棲姫はそうは行かない。手を繋ぎながら回転翼機による対潜掃討を避け切ったが、本来なら満足するまで遊んであげる約束をしている。今すぐ仕事に戻ろうと思っても、子供がそれを納得するかと言われると、何とも言えない。
しかし、それは意外なカタチで終わることになる。どうしよっかと伊26が子供達に話そうとした時にそれがわかった。
「あー……海の中でアレだけ動き回ったら、こうなっちゃうか」
潜水新棲姫2人は、こうやって話している間にうつらうつらと船を漕いでいた。
最初の鬼ごっこで力一杯遊び回った後、当人達は戦闘と認識していたかはわからないが、対潜掃討から逃げ回っている間も全力で事に当たっていた。
それだけやっていれば、疲れが溜まっていてもおかしくはない。今の身体に慣れているかわからず、そうだとしても体力があるかわからない。とにかく、今のこの子供達は、体力切れでおねむという状態のようである。
「何処かで寝かしてあげたいんだけど、ここに置いていくのは危ないし、一度うみどりに連れて行った方がいいかな」
「……」
これには伊203であってもすぐには答えが出せないようだった。すぐにでも攻略に向かうなら、そのまま連れていく方が速いだろう。だが、子供達の存在は間違いなく後々邪魔になる。そちらに気を向けている余裕なんて無くなるだろうし、庇って戦うなんて以ての外だ。
ならば伊26が提案したように一度うみどりに連れて帰るかと言われると、その時間も惜しいというのがある。今の戦場はうみどりからそれなりに離れており、往復するだけでもそこそこ時間がかかる。そうしている間に調査が遅くなり、敵に致命的な行動をされても困る。
だがここで、長門と清霜から新たに提案。
「我々は先の戦いでかなり消耗してしまった。まだ弾切れとまでは行かないとは思うが、言ってしまえば相当な無駄弾を使わされている」
「補給のために一度戻ってもいいかなって思うんだよね。それなら、そのついでにその子達をうみどりに連れて行こうか?」
「それがいいかもしれませんね」
清霜の戦装大発でうみどりに運び、その後補給して戦線に戻るというのが一番妥当だと。
そもそもが正面突破部隊からこちらに増援に来ているのだから、事が済んだら本来の戦場に戻ることだって普通。そのついでに発見した捕虜を拠点に連れて帰るというのも悪いことではない。
そうなると今度出てくるのは、埋めた3人の敵の存在。いくら身動きを取れなくしたからといって、放置して次の戦いに向かうのはかなり怖いところである。自分達の与り知らぬところで救われ、再度敵として立ちはだかられても困るだけだ。
「では、コレの見張りは私がやっておきましょう。長門さん、清霜さん、正面突破の部隊から、また何人か見繕ってこちらに連れてきてもらえますか」
「心得た。それまで1人で大丈夫か」
「大丈夫と胸を張って言えないのが残念です。こうしている間も何処かから見られていてもおかしくありませんから」
それこそ『迷彩』持ちがこうやって出てきていることを考えると、今この場にとやってくる可能性がある。念のため海上に出て見張るつもりではいるようだが、敵の出方がわからない以上、ここで1人になるのは確実にまずい。
そのため、まず普通に新たな増援を呼び、そちらが到着次第、入れ替わるように長門と清霜が潜水新棲姫を連れて撤退となる。
潜水艦隊はもう本来の持ち場に戻り、調べなくてはならないところを調べることに。
「助かった、ありがとう」
「いえ、これは我々がいなければ難しかったでしょう。適材適所、必要ならいつでも呼んでください」
礼を言って、伊203は早々に海中へと潜っていく。
「今は一度、ニム達の住んでる場所に行ってもらっていいかな。ここは危ないから、遊ぶには難しいからね。それに、今は眠いみたいだから、お昼寝の時間にしようね。遊ぶなら後からでも大丈夫だかりね」
眠そうな潜水新棲姫を納得させるようにあやして、伊26は2人を清霜に預ける。安全に送り届けるからと、清霜も得意げにサムズアップした。
ここでの戦いはこれで終わり。改めて、海中の怪しい場所から、この島に蔓延る施設へと侵入が可能になるだろう。