戦場は一度、正面突破組へと移る。
潜水艦隊の窮地を救うため妙高達が抜けたのだが、戦況自体は圧倒的に有利な状況に持っていけていた。
現れるカテゴリーYは、自らの力に振り回されているだけの素人。そのくせ、気持ちだけは一人前であり、正々堂々と戦ううみどりの艦娘達に負けるとインチキをしていると罵るただの子供。
そんな子供達を罰するように、全員に鉄拳制裁を叩き込んで黙らせたのは、長門達がいなくても問題なく戦えるトラを筆頭とした火力特化組。何をされたところで『ダメコン』により弾き飛ばしてしまうのは特に強力であり、カテゴリーYと化した子供達には、ただただズルいとしか思えなかったようだ。
「反省したかクソガキども。自分が負けたらズルだのなんだの、負け惜しみはただダサいだけだぞ。素直に敗北を認め、次に活かそうと思わないのか」
と、本当に説教しているのはトラである。ひとまず現れたカテゴリーYは、正面突破組の力を合わせて、一網打尽にしてしまっている。
そもそも、トラはこの敵達と同じような境遇の存在。トラがズルいのならば、自分達もズルいと言っているようなモノ。それもわからない程の子供である。
敵はというと、トラからの説教を素直に聞いていた。いや、本来は反発していたのだが、あまりにも実力差が開いていたため、何も出来ずに項垂れるしかなかった。当然ながら、全員が鉄拳制裁を喰らっており、自己修復中ではあるものの、何処かしらに拳の痕がついている。
「力を得ただけでいい気になっている時点で、お前達はただの雑魚だ。高次の存在だの何だの言われているようだが、こんなことで何が高次だ。本当の高みは、今この段階から自分の足で更に鍛えて初めて辿り着けるんだ。まさか努力を面倒だとなんて思っていないだろうな」
子供達に努力とは何ぞやを説いていくトラに、他の者達は苦笑しながらも、島の港に足を踏み入れていった。
あれで後悔と反省をし、今この場で改心してくれればどれほど楽だろうか。しかも、よりによって自分が一番と考えるタイプの子供ばかりと来たものである。
説教と暴力で心を折りに行っているようなので、そちらはもう任せることにしたようである。
正面突破の第一段階が成功したと言ってもいいだろう。襲いかかってくる敵防衛隊を完膚なきまでに打ち破って、まさに正面から防衛線を突破した。
ここから敵がさらにやってくることはいくらでも考えられるため、常々警戒は怠らないでいる。それこそ、『迷彩』持ちがここにも現れる可能性もある。
「さて、あちらの敵はトラさんにお任せするとして、我々は目的通り、正面から中央部へ向かいましょうか」
長門達が一時抜けているため、仮のリーダーとして三隈が陣頭指揮。うみどりの仲間達は勿論のこと、増援のウォースパイトとヴァリアントもその言葉をしっかりと聞いている。
こういう敵を相手にするスペシャリストは、どう考えてもうみどりの艦娘。その中でも、自ら先陣を切るタイプは、それだけこういう戦いに自信がある証拠、ならば、まだ素人である自分達はそれについていくのがベストだと割り切っている。
「三隈、こちらで艦載機を飛ばしているから、一度情報を共有するわ」
「加賀さん、助かりますわ。今日の三隈は少々攻撃的なシフトですので、空母隊には加われませんからね」
空母隊も今は前進中。近くに来られたら困るタイプの敵は一掃出来ているので、港で一度落ち着いて情報を展開することも出来る。
正面突破をするにあたり、必要なのはその道のりを空から探ることが出来る空母隊は、この戦いでは非常に重要。これまでは厳しかった島の全貌の確認も、今ならば可能だと実践中である。
そこで、奇襲部隊が乗り込んでいる学校のことも確認出来ていた。屋上で何かしているグレカーレが艦載機の姿を見つけ、手を振っているのまで確認出来た。
「なるほど、学校ですか。確かにそこは拠点にしやすいでしょうし、内部の改造もしやすいでしょうね。都合のいいことに、そこに通っていたような子供が沢山ここにいますから、ここでいろいろ聞いてみましょうか」
カテゴリーYを任せていたトラにもその件を話すと、なるほどと一旦説教を止める。
「あの学校は私も知っている。私とて元々はここの出身だ」
うみどりに強く馴染んでいる上に、自ら考えることが出来るだけの理性も持っており、力を手に入れても慢心することなく鍛えていたという、カテゴリーYとしては非常に珍しい性格をしていたこともあり、この島からやってきていることを三隈でもすっかり忘れてしまっていたくらいである。
そもそも、黒井母の件も知っていたくらいなのだから、学校の存在だって知っていてもおかしくはない。中で何をされていたかもだ。
「とはいえ、つい最近まで通っていたのはこのクソガキ共だろう。コイツらに聞いた方が早いかもしれないな。私と情報が食い違う可能性もある」
ここは慎重に、自分よりも知っているであろう敵に尋問するカタチで学校の話を聞くことにした。トラも長らくこの島から離れているため、その間に何かされているかもしれない。それこそ、奇襲部隊が予想している島ごと爆破する計画も何か知っている可能性がある。
「さてと、誰から聞こうか?」
滅多打ちにされた挙句、逆らうことも出来ずに正座させられているカテゴリーY達を一瞥するトラ。
この辺りの子供達は、力を持って調子に乗っているだけ。そして洗脳教育を真に受けている、学も足りているかわからない連中である。見た目は姫でも、中身はトラの言う通りクソガキ。自分の思い通りにならなければ癇癪を起こし、思い通りになればさらに調子に乗り相手を侮辱する。そして、そんなことをしておきながら、自分が正しいと信じて疑わないとまで来た。
だからこそ、トラは心を鬼にして、実力行使でお前達が間違っていると叩き込んだ。体罰上等、何せあちらはこちらの命まで狙ってきている。どれほど間違っているかを身体に教え込んでいるようなもの。
その結果、数人は自分の考え方が本当に合っているのか疑問に思うようになっていた。トラとしては、そう考えられるだけでも他の連中よりは上だと言い切れるくらい。
「自らこの島に反旗を翻す覚悟がある者はいるか。そうすれば、
腕を組み、見下すような視線で姫達を見据えるトラ。洗脳教育は根深く、こんなことを言われても言うことを聞くようなことはない。それどころか、ブーイングの嵐である。
自分は強いのだから、言うことを聞く必要なんてない。この敗北はズルのせい。実力では負けていない。選ばれし者なのだ。そんな虚妄に囚われている者が大半。
しかし──
「おや、お前は」
「自分、話します……」
最初に長門にぶん殴られた戦艦棲姫。その後も戯言ばかりを吐いていたが、その都度殴られ、長門が増援に向かってからはトラが代わり、鉄槌教育を叩き込んでいる。
その結果、歪みに歪んだ心がある程度は真っ直ぐになったのか、もしくは歪むどころかポッキリ折れてしまったか、トラに頭を垂れるように膝をついて挙手をした。
そんなことをしたことで、周りからは特大の非難を受ける。ここで全容を話すということは、絶対にやってはいけない裏切り行為である。それなのに、ここでそんなことをしようと考えたのには理由がある。
「……殴られて気付きました……もしかして、オレ達のやってることって、それくらい酷いことなんじゃないかって……」
「そうだぞ。私も前には似たようなことを考えてしまっていたが、お前達のやっていることはそれくらい酷いことだ。理解出来たか?」
「……はい……」
中にはこういう者もいると思うと、まだ安心出来る。だが、警戒は怠っていない。こうやって近付きながらも、攻撃の隙を探っている可能性もある。
相手が子供であっても、いや、むしろ子供であるから、嘘をついてでも刺そうとしてくるだろう。勝てば官軍、最後に立っていた者が勝者であり正しい。そのやり方がどうであれ、である。
それが杞憂であるならそれで構わない。そして、そう思っていたからといって悪気もない。本当に信用出来るとは限らないし、これまでの行いからそう思われても仕方ないだろう。
「で? お前が話せることは?」
「学校の中のこと、あと島のこと、です……」
その戦艦棲姫、どうやら改造される前はここの学校の男子生徒だったようだが、この島の中ではどちらかといえば悪童側、海賊船にいた人間に近いような、いわゆるヤンキーである。
それが力を持ったことで余計に調子に乗ったようだが、真面目ではないところから逆に洗脳教育が甘かった可能性が出てきた。
そして、そんな人間だったからこそ、自分よりも強い相手にボコボコにされたことで、真に従うべき相手というのがわかってくるというもの。
身近な例で言うならば、伊豆提督と昼目提督のような立ち位置。勿論、トラが伊豆提督サイドである。
「なら全て話してもらおうか」
「はい……あ、その……何も持っていないこと証明するので……」
両手を上げて隠している武器などもないことを見せる。本当に服従の姿勢。これは完全に心が折れていると言えよう。隙を見て刺そうとも思っていないようである。問題は背部にある生体艤装の方ではあるのだが。これは接続を外すと身を守れないどころか海上に立っていることすらままならなくなるので、動かした時点でその頭を潰すと脅しをかけることで一旦はそのままに。
「ん、これでいいか。なら、知っていることを全部吐け。高が知れているかもしれないが」
「はい、よろしくお願いします
「あ、姐さん!? そ、それは長門の方に言え。私はそういう立ち位置じゃあない」
「オレ、姐さん達にぶん殴られて改心しました。ここのやり方が間違ってる、そうわかったんです。痛くないと本当にダメなことはわかんないんですね……これまでのオレはマジでクズでした……」
急な態度の違いに言葉もないが、素直に情報を語ってくれるなら好都合である。
ここから情報を手に入れて、これからの襲撃に備えることが出来る。戦いやすくなるのならばちょうどいい。島からの離叛者は、多ければ多い方が戦いやすくなるだろう。
「オレの知ってることは高が知れているかもしれないですけど、まずは話させてください」
思い直した戦艦棲姫により、生徒として知っていることが全て語られる。深いところではなくても、何かわかるだけでも変わることがあるはずだ。