後始末屋の特異点   作:緋寺

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守り神

 正面突破部隊は妨害のために現れる敵部隊を全て殺さずに斃し、港に上陸することに成功。空母隊が奇襲部隊が学校にいることを掴んだため、都合よく攻め込んできた敵──島の子供達が変化させられたカテゴリーYに話を聞こうと考える。

 当然敵であるカテゴリーY達は猛反発するのだが、その中の1人、最初に長門に殴られていた戦艦棲姫が、ここまでの戦いで改心したことで状況は一変。不真面目であったことが洗脳教育の根付きを阻害し、今でこそ力を得たことで調子に乗っていたが、より強い者の存在を知ったことで、こちらの方が正しいのではないかと疑問に思うことが出来ていた。

 

 急激に態度を変えられたことに、トラは驚きを隠さず言葉も無かったが、話してくれるというのならば好都合。それが本当か嘘かは一旦置いておき、元ヤンキーの少年が変えられた戦艦棲姫の話を聞いてみることにした。

 

「わかっているかもしれませんが、オレはこの島の学校の生徒です。必要かはわかりませんが、15歳、今年で卒業の予定でした」

「小中をこの島でしっかり学んだと言うことか。……いや、学んだと言うのは少し違うか」

「はい……オレは()()()()馬鹿だったんで、学校はサボってやりたいことやってたっていうか……」

 

 それが功を奏していたわけである。授業をまともに受けていない。そのおかげで、洗脳が浅い。

 

「でも、たまに行った授業の内容は覚えてます。なんというか……()()()()()()というか……」

 

 これはここにいる者達は知らないが、学校の教室に拠点を置いた奇襲部隊は先んじて気付いていること。授業の内容が妙に宗教のようなモノになっている。

 

「私はここの卒業生だが、そんな授業は無かった。これは断言出来る」

「……姐さん、おいくつなんですか」

「今年で23、卒業してから8年経っている。その間に学校は様変わりしたようだな、全く」

 

 などと言っているが、トラ自身もこの島で人心操作を受けており、特異点こそ悪であるという思想を植え付けられていた経験があるし、それに反する者に対して愚か者と思っていた時期もある。

 それは恥ずべき過去であると受け入れ、今は贖罪の気持ちも込めて、この島を解放するためにも尽力する。まずはこの戦艦棲姫から内情を聞き出すことで、事を進める。

 

「最初は意味がわからなかった……というか、思い返してみれば今だって意味がわからない内容でした。この島は深海棲艦から守られてて、そうしてくれている()()()がいる……みたいな話がされていて」

「守り神、ねぇ。まぁ、私にはわかる。それが阿手だな。自分のことを神だと言っていたのかヤツは」

「でも、確かにこの島は深海棲艦の被害が全然無くて……普通ならこんな島だったら、チラッと見るくらいあってもいいじゃないですか。でもそれも無いから……」

 

 この戦艦棲姫が知る宗教じみた授業というのは、守り神という存在が島を守っており、みんなで讃えよう奉ろうみたいなことから始まったという。そこから少しずつ少しずつ植え付けていったようで、思い返せばおかしいと思えるくらいにはワケのわからない内容だと戦艦棲姫は語る。

 しかし、ついさっきまでは、それが世界の真実なのではと錯覚はさせられていた。だんだんとそうかもしれない、確かにそうかも、と思わせるようにしていたのは間違いない。トラが短期間でもそうなのかと思わされただけあり、人心掌握術は並ではなかった。

 

「オレも、マジのことなんだなって、思っちまって……。他の奴ら程のめり込んではいないと思うけど、でも、うちの島を守ってくれてんのはそうなのかもくらいには思ってて……」

「現実にそうなら、そう思っても仕方ないだろう。……私もその手のやり方で騙されているしな」

 

 最後の方は小声。

 

 真実と嘘を織り交ぜて、信じやすく語る、いや、()()。大人でもこれならば、子供ならもっと引っかかる。その上、こんな力を与えられることを約束されれば、優越感でよりのめり込むのもわからなくもない。

 

「オレの親も守り神がどうのこうの言い出してたし、島全体がそういう空気になっていったんです。授業だけじゃない、ジワジワと、オレ達の日常に入り込んでくるみたいな……そんな感じで……」

「……怖いと思う前に、信じさせられたんだろう。現実にこの島はやたらと被害が少ないようだしな。話を聞いていると、ここまでわかりやすいマッチポンプもないと思うが」

 

 深海棲艦の被害がないのは、阿手が実験のためにその全てを処理しているからだろう。この島に拠点を造り上げる前から目をつけていたとも考えられる。こうなることを予測して、前以て準備し続けていたというのならば、先見の明もあるとは思えるし、弱腰とも思える。

 とはいえ、常に逃げ道を作っておいて、他者を犠牲にしながらでも研究を続けようとするその気概だけは感心した。よくもまぁここまで出来ると。

 

「大人も、ガキも、みんなが守り神守り神言い出して、オレもそういうモンがあるのかもって思ったところに、特異点とかいうのの話が出てきたんです。この島の平和を脅かす危険な存在で、守り神を殺そうとする魔王だなんて言われてました……誰が言い出したか知らないですけど」

「ふむ……それはつい最近の話だな。私もそれに乗ってしまったわけだから、時期はおおよそわかる」

 

 洗脳教育が行き届いた子供達ならば、そういえば島を守るために全力を尽くすだろう。島の平和は現実として存在し、守り神だなんて言われているモノがあるから成立していると、ハッキリ理解出来なくても刻みつけられているのだから。

 

「お前のような人体改造は、学校の方ではどう受け入れられていたんだ」

()()()()使()()()()()()……みたいな感じですかね……。特異点がどうこう言われる前から、ちょいちょい改造されてるヤツがいたみたいなんで。んなモンになったって、結果はコレなんですけど。今考えてみたら、オレ達って捨て駒にされてます?」

「ああ、まさにな。お前は自分の意思で改造を受けたのか?」

「……恥ずかしながら。嫌だって気持ちは無かったし……力が手に入るなんて言われたら、その、惹かれちまって……」

 

 子供心を完全に掌握したやり方だと言えよう。

 

「で、でも、こんなねーちゃんな身体になるってのは知らなくて! 改造を受けたってヤツ、帰ってこないから、本当に守り神の使徒になって島を守ってんだって話にもなったし、どんな姿になるかなんて聞いてなかったんですよ!」

「わかったから胸を鷲掴みにするな。思春期の男子には刺激的かもしれないが、体裁を考えろ体裁を」

 

 この辺りも考えるところ。改造を受けることに対して否定的なところが全くなく、しかし改造を受けた者の姿を見た者はいない。守り神の使徒となった者は、島民に知られることなく密かにその平和を守っていると思い込まされていたようだが、その実態は3パターン。出来損ないと化して表に出せなくなったか、そもそも命を落としてそのまま廃棄されたか。あとは本当に改造に成功したことで、阿手の忠実な部下として裏で活動を続けていたか。

 特異点による島襲撃の恐れが出てきたことで、島民全員にこの処置を施そうとしたわけだが、全員守り神の使徒になれると言われても喜んだのかどうかは定かではない。しかし、島の平和を脅かす者がいるのなら、全員の力を合わせなければと妙に士気が上がってしまっていてもおかしくはない。

 

 その結果が現状。否定する意見は同調圧力で押し潰され、誰も嫌だと言うことが出来ず、そのまま改造されていった。ある程度知恵がある子供は、この戦艦棲姫のように正面突破部隊にぶつけ、ほぼ捨て駒として使い捨てられる。それ以下の子供は、まともな洗脳も施すことなく遊び感覚で襲わせる最も厄介な尖兵に。そして、それ以上の大人はしっかり洗脳を施す、もしくは『舵』を使って強制(矯正)する。

 それもこれも、阿手がこの拠点から身を引くための時間稼ぎと言えよう。島全てを使い捨ててでも、自分の安全を作り上げて、更なる実験を続けようとする。これを下衆と言わずして何と言おうか。

 

「三隈、ここまで聞いて何か思うところはあるか」

 

 ここでトラがずっと話を聞いていた三隈に振る。戦艦棲姫の証言を掻い摘んで把握し、そこからこの島の全容、ここにいる者達ですら知ることが無さそうな島の情報を割り出していった。

 

「そうですわね、1つちゃんと聞いておかなければならないことがありますわ。その改造、何処でされたのです? 学校の奥とか、そんな簡単なところでは無いと思うのですけれど」

 

 トラではなく三隈に質問されたが、戦艦棲姫はトラの仲間、それも頼りにしているタイプの相手ということで、敬意を払ったかのように答える。

 

「オレは保健室に連れて行かれたんです。で、そこで寝かされて、注射を打たれたら……気付いたらもうこの身体でした」

「徹底していますわねぇ。でも、保健室ですか。そこから運び出すところを、誰か見ているというわけでもないのでは?」

 

 まだ反抗心がまるで消えていないカテゴリーY達に話を振ったところで、返答などない。誰が教えてやるものかと、喧嘩腰のままである。

 

「まぁ、答えなど期待はしていませんので大丈夫です。ただ、注射は麻酔であることは間違いないでしょうね。で、そこからわざわざ運び出して改造を施すなんて手間がかかることはしないでしょう。少なくとも、学校からその場所に繋がっているのは、保健室であると見て良さそうです」

 

 それこそ、ベッドがそのまま地下に降りていくような改造が施されていたりするかもしれない。秘密基地のような改造は、少年の心を擽るには充分すぎるが。

 

「人心掌握は、時には薬か何かも使っていたでしょう。給食くらいはあったのでしょう?」

「あ、それは、はい。なんか給食費もタダになったとかで、学校サボっても飯だけは食いに行ってたくらいで」

「食には抗えませんから、そこに仕込むのは常套手段でしょう。薬の恐ろしさは三隈がよくわかっていますので。出来れば配膳室辺りの調査はしておきたいですがね。憶測で語るのはよろしくないですけど」

 

 子供達への処置は全て学校でやっていたと考えても良さそうだと、三隈は小さく納得した。

 

 

 

 

 少しずつ紐解かれる島の全容。少なくとも、子供達への洗脳教育の過程は読めたも同然だった。

 

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