改心し、離叛を考えた戦艦棲姫から得られた証言。それは、長い時間をかけて行われた子供達への洗脳教育の実態と、特異点という存在を知ってからの処置。学校では子供達を支配下に置くための様々なことが行われており、トドメが身体改造である。
保健室で薬物を注射されたら、気付けば今の身体になっていたという話から、学校の保健室には何か痕跡があるのではと考えられる。また、給食に薬が入れられていると睨んだ三隈は、配膳室にも何か痕跡があるかもしれないと考えている。
「両親はいつからその守り神を信仰するようになった、とかはどうでしょう」
「あー……そんな授業やってんなってわかって少ししてからです。授業でもやってることなんだから、親も知ってておかしくはないとは思いますけどね」
「子供のように、親に洗脳教育を施すのは難しいと思いませんか。学校のように纏まって行動をしてくれるわけでもなし、給食のような共通のモノを食べてくれるわけでもなし」
子供はわかったが、親はどうしたという疑問は残る。洗脳をより効果的にする薬を使うのも難しさはあるため、何処で上手く進めていったかは気になるところ。
子供である戦艦棲姫にはピンと来るモノはなかなか無い。日常で何か変わったかと言われても、それこそ学校の授業がおかしくなっていったというくらいしか思いつかない。
だが、話している内に勘ぐることは出来る。
「……やはり薬を食事に混ぜるというのはあったと思うのです。ただ、それだけではここまでにはならない。誰かが発端になって噂を流し始めて、それに真実味を与えていった……ということはあるでしょう」
「ふむ……ならば、やはり港町から調査をするしかないか」
「本業ではない三隈達で何処まで出来るかはわかりませんが、調べない理由はありませんね。それに、まだまだ気になることはあります」
洗脳手段を知ったところで、現状を覆すことには繋がらない。必要なのは、この島で阿手は何処にいるか。予想では地下施設なのだが、それすらも陽動だったら困る。既に逃げ果せているだなんてことがあったら、余計に面倒臭いことになる。
「貴女達はこの戦いに入る際に何処からどのようにここまで来たのですか? 特に貴女、先陣を切ってきましたよね。待機していた場所は」
「元は普通に家にいましたよ。でも、そろそろ特異点の配下が乗り込んでくるって言われて、コイツ繋げられて港に」
「それを繋げられたのは何処で?」
「港の真ん中にある組合の役所ですよ」
わかりやすく怪しい存在が示唆された。それがどれだけの大きさなのかはわからないが、少なくとも戦艦棲姫の艤装が出てくるような場所だ。見た目通りとは思えない。
「では、そこに向かってみましょう。そこから敵の深部に繋がるところがあると思いますので」
「ああ、だが誰が行く。すまないが私は陸に上がるには難しい艤装だ。生身で上がるのも苦しいだろう」
上陸して敵の根幹に繋がる場所に向かうことになるのだが、トラ──近代化戦艦棲姫の艤装では少々厳しい。這いずり回るように進めないことは無いのだが、横幅がかなり大きく、道が狭かった場合は通れる感じはしない。戦艦棲姫の生体艤装が移動出来るくらいの広さはあるかもしれないが、それでも難しそうという見解。
それに、この戦艦棲姫は道案内をしてもらえそうだが、他のカテゴリーYはまだまだ反抗的だ。それを御する必要もあるため、トラはここに残ることになる。
そうなると、誰がそこに向かうかということになるわけだが、そこは割とすんなり決まった。
「小回りが利く方々にお願いしましょう。那珂ちゃんと舞風さんは確定ですね。それと──」
「私達も連れていってもらえるかしら。いい仕事、させてもらいます」
「ああ、火力がいることもあるだろう。ナガートがいない以上、僕らも主戦力さ」
ここで名乗りあげてきたのは、有栖提督から派遣されてきたウォースパイトとヴァリアントである。戦艦であるが故に艤装は相当大きく、小回りという言葉からはかけ離れていると思うのだが、それでもいい仕事をすると自信満々に言ってくる程なので、こういう仕事には自信があるようである。
ヴァリアントが言うことも一理ある。陸に乗り込むとしても、戦艦の火力が必要になることはあるだろう。そこから敵の施設に乗り込むようなことがあるのならば尚更だ。
正面突破組はカテゴリーWとして動いている者が極端に少なく、敵部隊の陽動をしつつ奇襲部隊に調査をしてもらうことが目的。全員がある程度鍛えているとしても、どうしても足りない部分は出てくる。それを埋めてくれる者の存在はありがたい。
「わかりました。では、三隈と那珂ちゃん、舞風さん、そしてウォースパイトさんとヴァリアントさん、これで行きましょう。あとは空母隊から誰かしらを」
「私が行くわ。万が一の近接戦闘も不可能ではないし」
「そうですね、では加賀さんよろしくお願いします」
加賀を加えた6人の突入部隊を急遽編成。部隊のバランスとしては非常にいいのだが、これからやるのは陸戦である。海上とは勝手が違う戦いということもあり、不安要素は多い。
だが、誰も後ろを向くようなことはない。この部隊ならば港町の謎を解くのも不可能ではないと確信を持っている。
「翔鶴、祥鳳、ここの制空権、任せます」
「はい、加賀さん、お任せください!」
「無事に戻ってきてください!」
「……私の方が後輩だと何度も言ってるんですがね……」
頼られ任されたことで、士気が爆上げされた翔鶴と祥鳳に呆れながらも苦笑し、加賀は部隊の1人として港へと足を踏み入れた。
残された者達の実力は充分すぎると語りながら、三隈は戦艦棲姫の案内の下、港町の奥へと進んでいく。役所は海の近くには作られていないようで、進めば進むほど海から離れていく。
「オレが言うのもなんですが……そちらのお姫さん方は大丈夫ですかね」
戦艦棲姫が心配するのは、ウォースパイトとヴァリアントの進行。艤装は戦艦棲姫の生体艤装よりは少し小さいくらいなのだが、案の定道の横幅の大半を占めるくらいの大きさ。生体艤装もギリギリではあるのだが、こちらは自ら動くことが出来るため、勝手は大きく変わる。
「No problem. 問題ありません」
「心配はいらないさ。まぁ、咄嗟に戦闘に入ったらどうなるかはわからないが」
「あんまり建物は壊さないでくださいましね。そこに付け入ってくるのが敵ですので」
ヴァリアントはまだしも、ウォースパイトは玉座を折り畳んだ形状の艤装だ。どうしても大きさに拍車をかけており、それを背負って普通に歩いてくるのもなかなかに危うさを感じる。
しかし、王女の名を冠する艦娘なだけあり、その歩みは非常に優雅。重たそうな艤装であってもそれを感じさせない程に軽やかである。
「……あ、少々お待ちを。気になるモノが見つかりました」
だがここで三隈が歩みを止める。戦艦棲姫は頭にはてなマークを浮かべながら何かあったかと振り向いた。
「ここ、このお店はいつからここに建っていますか?」
三隈がそういう店は、島ならばよくある個人経営の販売店。スーパーとまでは行かないが、食料品や雑貨などか売られている場所である。
今は戦場となることを見越して閉店中でシャッターも閉まっているが、三隈はここに何かしらの怪しさを感じた。
「この店は……あー……そうだな、7年前くらい、だったんじゃないかと思います。オレ、ここで駄菓子とか買ってたし」
「7年前ですか。トラさんが島を出た後と。学校の授業がおかしくなり始めた頃とも考えられますね」
やれるのならばシャッターをこじ開けて中を調べたいところではあるのだが、それは今回は控えておく。だが、予想はいくらでも立てられる。念のためシャッターが開けられるかを確認したが、艤装のパワーアシストを使ったら無理矢理破壊してこじ開けてしまいそうだったため、それ以上はやめておいた。
「上から覗いてみようか?」
「可能ならばお願いしていいですか?」
「はーい、ちょっと行ってくるね」
などと言いながら軽業師のように店の2階にまで壁を跳んでいくのは舞風である。ダンスをやっているだけあって非常に身軽。那珂がやると軽巡洋艦であることが祟って壁などを蹴り壊してしまいそうだったが、駆逐艦であることが功を奏して、とんとん拍子に登っていった。
窓から中を見てみると、そこは見た目は普通な住居。外観上は完全に普通と判断出来る。
「ただのお店だったー」
「ふむ、ならば何処かからココに仕入れる際に混入させることはあったでしょうね。ここは役所にも近い場所でしょう。駄菓子を買っていたと言いますが、ここでは他にもいろいろ売っていたのではないですか? 例えば、惣菜とか」
戦艦棲姫はうんうんと強く頷いた。ここで予想は確証に。
「学校給食と同じように、この店で売られていた惣菜などに薬が含まれていたと考えることは出来ますね。子供には強めに効きますし、大人にもキチンと効きます。自炊する者に対しても、例えば調味料に混入させるとか」
「うわっ、すっごくあり得そう!」
そんな三隈の話すことに那珂も同調。艦娘になる前は自炊経験もあるようで、そういう薬を入れられそうな調味料はいくつも予想が出来たようである。
市販品ではなく自家製みたいなモノならば余計に怪しい。それに、そもそも飲用水などにだっていくらでも混ぜ込むことは出来る。
「街中に入り込み、少しずつ悪意を染み込ませていく。なんとわかりやすいやり方でしょうか。でも、身近であればあるほど、それは疑わない」
「かもしれないねぇ。那珂ちゃんもお弁当屋さんが実は毒入れてましたーなんて言われても最初は疑わないもん」
「普通は疑いません。それこそ、実害が出てから初めておかしいと思うくらいでしょう」
疑い出したらキリがない。しっかり調査をしなければ証拠もない。なので、今はコレくらいにして先を急ぐ。
戦艦棲姫は、三隈のこの考え方に何処か感心していた。トラの仲間というところでこの人も凄いんだろうなぁくらいだったが、ほんの少しの手掛かりから疑問の提起をいくつもやっていく。自分ではそんなこと絶対に思わないようなことまで。
「この人、いつもこんな感じなんですか?」
近くにいた加賀に質問する戦艦棲姫。加賀は小さく頷いた。
「頼れる仲間よ。私達の中では、そうね、軍師と言っても差し支えないわ」
「ぐ、軍師……すげぇ……」
「それをすごいと思えるのなら、貴女はまだまともな方ね。よかったわ、話がわかる子があちら側にいてくれて」
この戦艦棲姫はまだ信用出来る方。しかし、警戒だけは怠っていない。
そして、また進み始めた一行に、戦艦棲姫は説明する。
「あそこです。あそこが組合の役所です」
少しだけ高台にある、少し大きめな建物。そこが今回の目的地。内部構造は外観だけではわからない。しかし、戦艦棲姫の生体艤装を装備させられるような場所だ。何があるかわかったものではない。