後始末屋の特異点   作:緋寺

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役所で待つモノ

 戦艦棲姫の案内で港を進む三隈一行。辿り着いた先にあるのは、組合の役所という何やら少し大きめな建物。内部構造は外観からわかるわけではないが、戦艦棲姫はここで生体艤装を装備させられたと証言しているところから、この中は見た目とはそぐわない()()があると考えられる。

 

「ここでオレはコイツを貰ったんです。で、姐さん達をぶっ殺せって命令されて……まぁ、知ってる通りです」

「なるほど、大丈夫ですわ。貴女のような境遇の方は他に沢山知っていますもの。貴女を責めることはありませんので、どうかお気になさらず」

 

 少しシュンとする戦艦棲姫。元ヤンキーとは思えないくらいしおらしく見えるが、改心したからこそ、まともな感性を持っていると思えば、こうなるのも仕方ないというもの。

 

 三隈だって嫌な思い出がある。思い返したくもない、軍港都市での戦い。強制的に洗脳をされ、今考えても頭の悪い作戦を嬉々として実行していたこと、仲間達を虐げることに悦びを覚えていたことが、忌々しくて堪らない。

 戦艦棲姫はその時の自分に近いようなものだと、少しだけ親近感を覚えていた。故に、蔑ろになんてしないし、過去がどうであれ寄り添いたくなるとすら思えた。

 

「今も誰かいますか?」

「ちょっとわからないです。オレ達が出て行った時はまだいたんですけど……」

 

 誰かいるなら戦いになるだろう。誰もいないなら徹底的な調査が必要。

 遠目で見ていては、いるかいないかは判断出来ない。物音は今のところ聞こえない。しかし、海での戦いの様子は監視されていたとしてもおかしくはない。少し高台にあるこの場所からは、港の様子が広く見える。トラを筆頭とした港に残った者達が、こらしめた子供達に鉄拳も含めた説教をまだ繰り広げているのがここからでもわかるほど。

 

「三隈達の行動もおそらく見られていたでしょう。ただでさえ、高高度から監視されていました。ならば、ここで迎撃の構えを取るか、早々に逃げ果せてもぬけの殻かのどちらかでしょう。逃げていてくれれば楽ではありますが」

 

 周囲を警戒しながら役所に近付く。そこに何がいてもおかしくないのだから、那珂と舞風は主砲も準備するほどである。

 戦艦棲姫は戦力に入れないとしても、こちらには戦艦が2人。戦いになった時にはまだマシな方である。だが、それは建物を破壊してもいい状況下ならば、となる。この役所をどうするかはまだ決まっていない。最悪の場合は破壊も考慮する。

 

「この艤装を装備させて出撃させるくらいですし、怪しいのはガレージですわ。表からは少し見づらいですが……ふむ、やはり」

 

 近付いてわかる、その異様な光景。ここで暮らしていた者達には、これが異常と思えないようにされていたと思うと、少々気持ち悪さも感じる。

 

 そこはぱっと見はガレージ。組合というだけあり、トラックやらが並んでいてもおかしくは無いくらいに広い場所。しかし、建物と併設されているとはいえ、中がほとんど工廠みたいになっているのは普通ではあり得ない。それが海側から見えないようにされているのが実に小癪。

 知らない者が見れば、そこは車などの整備場に見えるのかもしれないが、艦娘にはそうは見えない。そこに何もなくても、ここでやられていたのは艤装の整備などだと。

 

「ここで装備を?」

「そ、そうです。ここでコレ貰って、ここから真っ直ぐ海に……っ危ねぇ!」

 

 説明をしている最中に目を見開く戦艦棲姫。説明をしているところでガレージから現れたのは、複数体の出来損ない。どう見ても島民の成れの果て。ここにいるという時点で役所はクロであり、これを庇うことは何処にも無い。

 

「ありがとうございます。そうやって声を上げてくれたのなら、貴女は本心から改心してくれているのですね」

 

 戦艦棲姫がそう叫んでくれたことを喜びながら、三隈は少しだけ身を引いた。その瞬間、出来損ないの脳天を加賀が放った矢が貫いた。艦載機を発艦させる程のそれは勢いが凄まじく、その一矢は頭をもぎ取り、向こう側の壁に磔にする。

 頭を失った出来損ないは、それでも三隈に襲い掛かろうとしたが、それをすかさず舞風が対処。踊るように蹴り飛ばすと、その衝撃だけで出来損ないの身体が浮いた。

 

 出来損ないは複数いるが、それを全て同じように対処していく。加賀は速射で全ての出来損ないの頭を射ち抜き、軽々と捥いでいく。それでもどうにもならない身体の方は、舞風と那珂が蹴り飛ばして、動かなくなるまで叩きのめした。

 

「見た目はこの島の御老人でしょうか……命を弄ぶのも大概になされた方がいいですわね」

 

 三隈は破壊された出来損ないを見ながら吐き捨てるように呟く。子供の未来を奪うことも気に入らないが、穏やかに天寿を全うする老人を使い捨てるようなことも気に入らない。島民全てを人間ではなく()()としてしか見ていないところが、こういうところからも丸わかり。

 

「出てきてくださらないかしら。こんなモノで、三隈達が止められるとは思っていないのでしょう?」

 

 ガレージの奥に語りかけるように誘い出す。すると、その奥からヌルリと出てくる影が1つ。

 

「……あの人です。オレ達にいろいろくれたのは」

 

 戦艦棲姫の証言から、役所を管轄しているのがそれであることが確定する。あからさまに深海棲艦の姿をしているのだが、それに違和感すら抱かないのだから、この島はやはり何処かおかしくされていた。

 というのも、その深海棲艦はどちらかといえば見た目からして人間に近い部分が多かったからである。

 

 艦娘達ならばわかるそれは、飛行場姫。だが、眼鏡をかけて制服のような衣装を着込んでいるタイプは、哨戒機配備タイプの個体である。装備している艦載機が少ない代わりに、対潜哨戒まで可能な器用な個体であることは判明している部分。

 しかし、ここにいるということは、ただの陸上施設型の深海棲艦の力を得たというだけでは無いのだろう。他の仲間に艤装を装備させるなどしているということは、工作艦のような力を持っていてもおかしくはない。

 

「お前、我々を裏切ったのか」

 

 飛行場姫の第一声は、三隈達ではなく戦艦棲姫に向けられたモノ。特異点とその仲間達を始末しに向かっているはずの島民がここで敵と共に立っているのだから、そう思うのも無理はない。それに、離反したことは事実なのだから否定は出来ない。

 

「オレはわかったんだよ。この島、絶対おかしいだろ」

「平和を守られているのは間違いないだろう。現にこの島は深海棲艦被害が出ていないじゃないか。それをその特異点の仲間達は脅かそうとしているんだぞ。守り神様を滅ぼし、この島の平和を完全に失わせようとしてるんだ」

「だとしても、島の奴らに何してもいいとか普通じゃねぇだろ! ふざけてんのかクソが!」

 

 戦艦棲姫が声を荒げる。こういうところからも、ヤンキーであったことが頷ける。だが、それくらい言ってもいいくらいのおかしさ。そこを理解したことで、力強く反発する。

 

「お前もその身体になって力を手に入れた時に喜んでいただろう。高次の存在になれたというのに」

「先にこうなるって言わねぇで問答無用だったじゃねぇか! 拒否権なしで改造しやがって!」

 

 喜んでいたのは否定はしない。実際、この戦艦棲姫は自分でも力を手に入れることが出来ることに惹かれたと話している。今ではそれを後悔しているようだが。

 喜んだのならば、それ相応に働けと吐き捨てる飛行場姫。それに加えて、役立たずとまで言い出す始末。

 

「せっかくの力を無駄にするどころか敵に与するとは、愚かがすぎるぞ。なら、お前もここで死んでもらうしかないな」

「テメェ……ふざけやがって……っ」

「まあまあ、抑えてくださいまし」

 

 拳を握りしめて今にも突撃しようとしている戦艦棲姫を嗜めるようにする三隈。その前に立ち塞がり、笑顔で落ち着いたと身体を撫でる。

 飛行場姫に背を向けているという非常に無防備な姿だが、それでも攻撃は飛んでこなかった。ここにいるのは三隈だけではない。加賀が飛行場姫に弓を向け、ウォースパイトとヴァリアントすら主砲を構えている。役所を壊してもいいと思うほどに。

 

「貴女の気持ちはよくわかります。ですが、自分でもよくわかっているでしょう。貴女は戦えない。戦っちゃいけない。ここは、慣れた三隈達に任せてくださいまし」

「あ、姐さん……」

「不慣れな貴女は危険ですから。自分のその子で身を守りながら、少し退いていてくださいね。自分の命を守ることを最優先にするんです。出来ますね?」

 

 戦艦棲姫は小さく頷き、深呼吸して落ち着いた後に、三隈に言われた通り戦場から退く。自分を守るように生体艤装に抱き抱えさせ、すぐに逃げられるようにもしておいた。

 その辺りの使い方だけは慣れてくれているのは運が良かった。力任せに撃つだけだとしても、それが出来るということは自衛くらいは出来る。完全に無力というわけではないのなら、気持ちを戦闘に全て向けることが可能になる。

 

「さて、では戦いましょうか。この役所を調べさせていただきたいので」

「特異点の仲間……魔王の配下か。ここで始末させてもらう」

「そんなこと言わずに、ここは仲良く出来ないかなぁ?」

 

 三隈も臨戦態勢だったが、そこに少々違う意思を見せた那珂。やれるのならば、まずは話し合い。争いごとは互いに痛いことになるのだから、それは避けないかと相談する。

 だが、飛行場姫はやはり聞く耳を持たない。那珂のその言葉を鼻で笑い、何を言うのやらと呆れる始末。

 

「お前達が屈するだけで済む話だ。簡単だろう。自分達の間違いも理解出来ないのだから」

「うーん、残念。那珂ちゃん、あんまり乱暴なことしたくないんだけどなぁ」

 

 笑顔を絶やさない那珂だが、ここは早々に諦めた。あちらの信念もちゃんと理解した上で、相入れないとわかったのだから、ここからはもう戦いだ。残念ながら、話し合いから殺し合いに移行。

 

「出来れば死んでほしくないの。だから、降参は早くしてね☆」

「勝つ前提で話を進めるな!」

 

 

 

 

 飛行場姫との戦い。陸での戦いは普通では無いのだが、ここで負けていては先に進めない。

 

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