後始末屋の特異点   作:緋寺

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閃きの突破口

 港の役所で現れた飛行場姫。持っている曲解が『操縦』と『装甲』であり、砲撃は無傷で弾き飛ばし、接近したならば接触で身体のコントロールを奪おうとする。遠近共にガードが固く、突破口が簡単には見つからない曲解の組み合わせ。

 強引にでも触れる方向に持っていける辺り、近接戦闘が得意なうみどり勢を対策しているようにも思える。今この場に神風や伊203がいたとしても、この飛行場姫を突破出来るかと言われたら、かなり難しいだろう。いろいろと犠牲にしたら何か出来るかもしれないが。

 

 そしてさらにガレージの奥から現れたのはもう一人の飛行場姫。こちらは役所のガレージを工廠に変えた張本人と思われ、『工廠』の曲解により戦艦であるウォースパイトとヴァリアントの攻撃ですら役所を破壊出来なくしてしまっていた。

 気怠そうな態度をしているが、『工廠』である時点で厄介なのは確実。そもそもガレージが砲撃を放ってきたのだから、接近もかなり難しいと思われる。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 2人の飛行場姫を前に、三隈は考える。その曲解が何かはおおよそ見当がついたとしても、それをどう乗り越えるかはなかなかすぐには思いつかない。

 どちらも厄介だが、特に考えねばならないのが『装甲』と『操縦』の合わせ技である。2つの曲解の短所を補い合うような力の組み合わせに、どうしたものかと頭を悩ませた。

 

「最初の勢いはどうした! 勝つ前提で話していたろうに!」

 

 攻撃が控えめになると、早速調子に乗った発言を始める。そういうところが小物なんだぞと各々が思いながらも、実際勢いよく突撃したらあちらの思うツボ。

 

「三隈、策は任せるわ。こちらで引き出せそうな情報を全て引き出す。いいわね」

「ええ、お願いします。三隈は頭を使うのがお仕事ですもの。必ず、この戦いを勝利に導きますわ」

 

 敵の『装甲』が貫けるとは思っていなくても、まずは何が通用するかを知るためには、今出来ることを全てやってみなくてはいけない。

 故に、加賀は飛行場姫に矢を放つ。刺さればラッキーくらいだが、コレに対してどのような行動を取るかで話が変わってくる。

 

「効かないと言ったぞ」

 

 飛行場姫はその矢に対して、避けるでもなく身体で受けた。刺さることはなく、その場にポトリと落ちるだけ。衝撃自体は少しは受けているようだが、矢の凄まじい威力を殺せているようにも見える。砲撃を弾き飛ばしたことから、それはそうかと思うには充分。

 

 そこから三隈は敵の能力を判断していく。『装甲』はトラや夕立の持つ『ダメコン』とは違い、理由はわからないが衝撃もある程度抑え込む。そういう意味では、肉体に『装甲』が使えることは『ダメコン』の上位互換のようにすら感じる。

 過去、同じように肉体に『装甲』を使ってきているのは、特異点Wに現れた深海伊号水姫。その傷付かないという特性によって、腐食性の体液を完全に無効にしていたと伊203から聞いている。飛行場姫の持つ『装甲』はそちら側。身体には一切傷が付かない。

 

「那珂ちゃんの砲撃は腹に直撃しましたが、衝撃は体内に行っているかどうか。痩せ我慢をしているかもしれませんが、顔色は悪くないですね。深海棲艦の顔色は元々悪いですが」

 

 弾いたとはいえ、腹にモロに砲撃が入ったというのに、平然としている。そうなると、衝撃までもを完全にシャットアウトしているということになる。『ダメコン』の上位互換ではないかと思える程に頑丈。しかもその反応からして痛みすら抑え込んでいるようにすら感じる。

 

「矢も効かないんだ。すごいね☆」

「だったら、体験型イベントにしてみよー!」

 

 すかさず那珂と舞風が飛行場姫を挟むように動き、同時に砲撃を放つ。ここで見えてくるのは、視界に入っている攻撃にのみ反応するか否か。那珂は正面からだが、舞風は後ろに回り込んでいるため、完全に死角からの攻撃になっていた。

 そこにいるとわかり、意識さえ向けてしまえば『装甲』が反応するというのならば、そもそもの攻撃自体がよろしくない。

 

「学習しないのか! その程度の攻撃は効かない!」

 

 ある意味予想通り、死角からの砲撃も弾き飛ばした。飛行場姫には傷一つついていない。

 

「衣装だけということもないようですね。肌にも傷一つない。とにかく自分には傷が付かないということですか」

「それなら……次はここよ」

 

 加賀が畳み掛けるように矢を放つ。先程は胴に狙いを定めたが、今度は頭。むしろ、()を狙った鋭い一射。

 こういう手合いにはよくある、肌はカチカチだが柔らかい部分はあるというタイプ。一寸法師よろしく、腹の中からなら破壊出来るというやり方。それを実現することは不可能だが、少なくとも人体には明確な弱点が見える位置にある。それが眼だ。

 敵の『装甲』が眼球にまで効いているというのならば、内臓までもが全て強固に守られていることになる。

 

「ちっ、流石は魔王の配下だ。狙いが最悪だな」

 

 飛行場姫はその攻撃を()()()。ここから考えられることは、眼球などはわかりやすい弱点として成立してしまっている、もしくは、人間であったことが抜けきれておらず、眼前に飛んでくるモノは無意識に避けようとしてしまう、そのどちらか。

 効かないが効くように見せかけるフェイクという可能性もあるが、この手の輩はそこまで出来ない。力を持っただけの素人に、そこまで高度なことは出来ない。

 

「ならコレでどうかな!?」

 

 ここで舞風、加賀から放たれ、飛行場姫が避けた矢をその場でキャッチしてしまった。凄まじい勢いであるにもかかわらず、キャッチボールでもしているかのように。

 しかも、ただキャッチするだけではない。その勢いを殆ど殺すことなく、自分を軸にグルンと振り回して、矢の進む方向を綺麗にUターンさせてしまった。避けたはずの矢は舞風の手によってもう一度飛行場姫の頭へと向かった。

 

 那珂のバックダンサーとして鍛えている舞風は、反射神経、瞬発力がピカイチ。そして、アドリブが出来ることで瞬時の判断力も相当高い。

 ここでこの行動をするのは、矢を放った加賀はおろか、三隈ですら予想外だった。唯一那珂だけはやるだろうなと何処か思っていたようで、笑顔を絶やさずその行動を見守る。

 

「んなぁっ!?」

 

 流石の飛行場姫も舞風のそれには驚きを隠せず、その矢を眼ではなく顔面で受けることになった。

 腹に受けてもびくともしなかった飛行場姫だが、頭に受けたらふらつく。咄嗟に額で受けるように頭を動かしたようだが、その衝撃は消し切れていないようで、グラリと揺れる。

 

 これで三隈は一つの確信を得る。飛行場姫の『装甲』は、肌が傷付かなくなり、それに合わせて強固な耐久力を得る。そして身体の中にまでそれは至るようだが、それでも()()()()()()()()()()()()()()()()

 よくよく考えれば、中まで傷付かないようにしていたら、五感に支障が出かねない。弾き飛ばす時に痛みを感じていないところからして、いくつかの感覚は切っているとも考えられる。それを頭にまで施すと、最悪思考すら出来なくなる。そうでなくても、見えなくなったり聞こえなくなったりすることもあるだろう。

 

「ふむ、なら突破方法はありますね」

 

 三隈は小さく呟いた。

 

 

 

 

 一方、ウォースパイトとヴァリアントが相手をするもう1人の飛行場姫は、気怠そうに2人の前に現れると、これ見よがしに溜息を吐きながら、ガレージに手をつけた。

 瞬間、壁が変形して生成された主砲から、これでもかというほど激しい砲撃が始まる。不意打ち気味ならば避けるのも難しいが、来るとわかっているのならばまだ避けられる。

 

「陸では勝手が悪いな!」

「ええ、本当に!」

 

 紙一重で避けていくQE級姉妹だが、敵の砲撃が激しすぎて、嫌でも擦り傷が増えていく。清楚で煌びやかなドレス状の衣装は、ところどころが焦げ、ほつれ、破れていき、美しい肌にも生々しい傷が増えていった。

 戦艦の艤装は相応に大きいため、直撃は無くてもどうしても掠る。その都度体勢が崩されるため、避けるのもだんだんと難しくされる。

 

「だる……さっさとやられてくんない……?」

 

 頭を掻きながら眠そうに欠伸まで見せる飛行場姫。しかし砲撃は止まるところを知らず。むしろ、再装填の時間すら見当たらない。ただひたすらに連射してきていた。

 一斉射でもここまで長続きはしない。連続で数発撃っても、途中で装填のタイミングが出てくる。それなのに、飛行場姫のガレージは、常に一定間隔で放ち続けてきた。

 

「『連射』も持っている……? いや、だとしてもあの連射性能は少し違うでしょう。なら、常にガレージを改造し続けている、でしょうか。『工廠』ならそれも出来るはず。なら弾薬は何処から」

 

 こちらの飛行場姫に対しても探りを入れている三隈。QE級姉妹が猛攻を仕掛けてくれているおかげで、三隈には攻撃が届かない。その間に分析を続ける。

 

 近しい能力である明石の『工廠』は、改造を施すにしても材料が必要。床を壁にする際には、床が薄くなると話している。つまりは、何かを何かに変えるためには等価交換となる。故に、基本は兵装に変えることはしない。したとしても水鉄砲。海の上からほぼ無限に扱える水を使う。

 だが、この飛行場姫は明確に砲撃で弾を飛ばしてきている。それだって有限な物質だ。役所をそのまま飛ばしてきている可能性もあるが、だとしても勢いが激しすぎる。

 そこから考えられるのは、役所の土台、つまりは土。使っている当人が理解しているかはさておき、放てば放つ程に、土台は脆くなる。

 

 そう考えたが、もう一つ嫌な予感も過ぎる。

 

「……()()()()()()()()()()()()可能性もありますか。だとしたら、なんて残酷なことをしているのでしょう」

 

 放たれたそれが見えないのだから、何が原材料かなんてわかりやしない。しかし、あらゆる可能性を考えると、そういうこともあり得るということ。

 先程は出来損ない自体が、襲いかかった方が数体いるということは、他にいてもおかしくはない。それを有効活用しようと改造して弾にしているなんてことがあれば、あまりにも残酷。

 

「弾は無限ではありませんが、限界は遠そうですね。あちらのことも考えなければ。近付く方法、不可能ではありませんが、大分強いることになりますね……だったら」

 

 ここでも三隈は一つ閃いた、今でこそ2人の飛行場姫は眼前の敵に囚われてくれており、協力しながら戦うようなことはしていない。

 合流を難しくしているのは、那珂と舞風。『装甲』『操縦』持ちを離れさせている戦い方が、それを可能にしている。

 ならばそのうちに各個撃破を狙いたい。そして、それが不可能ではないと気付いている。

 

「加賀さん、忙しいでしょうが、お願いしたいことがあります」

 

 今は攻撃的な装備編成であるため、艦載機を搭載していない三隈は、加賀にそれを願い出る。それが通れば、ガレージ側の飛行場姫も何とか出来そうだと。

 

 

 

 

 難敵ではあるが、三隈の閃きによって突破口は見つけられた。後は、それがうまく行くか。

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