後始末屋の特異点   作:緋寺

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一射

 2人の飛行場姫との戦い。ガレージ側の飛行場姫は、そこから出てくることなく壁を変形させた主砲をコレでもかというほど放ってくる。対するウォースパイトとヴァリアントは、どうしても防戦一方になっていた。

 海上ならスムーズに避けることが出来るのだが、ここは陸。艤装のアシスト無しで、自らの足で回避することを強要される。故に、真っ先に移動したのは役所の陰。ガレージ自体は海側から見えないようにされているが、表に出てきさえすれば、ガレージからの攻撃は受けることはない。

 

「おいおい……そっちに逃げるのはどうなんだよ……だるいからさっさと死んでくれないかな」

 

 飛行場姫はそうなったところでガレージから出てくることはない。声だけはかけるが、自分が安全である場所から移動することはなかった。

 戦い方としては問題が無いどころか、選択肢としては最善手とも言えるやり方。ただ面倒だから動かないという可能性もあるのだが、とはいえ動かないことは勝てないかもしれないが負けないことにも繋がる。

 ウォースパイトとヴァリアントからしてみれば、あのガレージがそのまま残り続けていることが厄介極まりない。近付くだけで猛攻を受けるのだから、一斉射すら使えない。そうする前に、ガレージに蜂の巣にされる。

 

 しかし、こうしてしまうとあちらがフリーになるのもよろしくない。今でこそ自分達が惹きつけていたからそれで済んでいたが、そうでなくなるともう一人の飛行場姫と合流してしまいかねない。

 ただでさえすぐ近くで戦っているのだ。2人を追わないのだとしたら、今あちらで戦っている那珂と舞風を始末するために動き出してもおかしくない。

 

「これはもう、躊躇っている場合ではないわね」

「ああ、この戦いに勝つには、やるしかないだろう」

 

 姉妹で向かい合い、小さく頷く。

 

「そもそも、建物を壊さないで陸戦は無理だろう。合理的に考えて」

「ええ、私達のAdmiralなら、ある程度は大目に見てくれるでしょう」

「というかむしろ壊せと言うはずさ。仲間を守るためならば、ね」

 

 ガレージの陰は、当然役所がそのまま残っている。内部はどうなっているかわからないが、この建物が身を守ってくれると同時に、敵への攻撃を邪魔している。

 真正面から撃つことが出来ないのならば、裏から撃つ。ただそれだけである。

 

「お二方、役所を破壊してくださいまし!」

 

 そこにさらに三隈からの指示である。まるで今からやろうとしていたことを見透かしたかのような言葉に、2人揃って驚いたが、元より軍師と聞いていたこともあり、この選択が正しいと躊躇も無くなった。

 

「StrategistからのCommandがあるのなら、余計に躊躇なんて必要ないわ。Valiant、行きましょう」

「ああ、任せろ姉貴。Frustrationも溜まっていたところだ!」

 

 ダウナーな飛行場姫が仲間に救援を出す前に、2人は攻撃に出ようと役所から少しだけ離れた。流石に役所に接近したまま砲撃を放つのは自殺行為。爆発による破片が自分に直撃する。

 役所内部まで改造が行き届いているのならば、それはそれで仕方がないこと。まずはガレージの全貌を確認することが先決と考えたようである。今のままでは、ダウナー飛行場姫の巨大な艤装みたいなモノだ。自己修復があるとしても、一度破壊しておかねば戦いは不利なままである。

 

 これで役所全体に『改造』が行き届いているのならば、これでは破壊出来ない。だが、三隈の予想ではそこまで大規模な改造は施されていない。ガレージと、中の一部が改造されている程度だと見越していた。

 最初から全て改造されているのならば、役所の陰に隠れた時点でそこから撃っている。それをしないということは、今2人のいる場所は敵の改造からしてみても死角。

 

 故に、今ここで何をしても妨害はない。

 

「Open fire!」

「Shoot!」

 

 姉妹同時の砲撃、自らの足で陸に立ちながらの一斉射は、本人への負担も相当ではある。だが、ここでやらねば戦艦としてここに立っている理由がない。

 

 凄まじい轟音と共に、目の前の一切を破壊していく砲撃。そこにある建物など紙屑かの如く吹き飛ばし、跡形もなく消し飛ばす。

 陸で扱われるには少々激しすぎる砲撃の嵐。その衝撃は、役所を破壊するだけでは止まらず、戦場となるその一画全てにまで拡がった。

 

「わお! すっごい舞台演出! 舞風ちゃん、踊れる?」

「もっちろん! こんな風くらいでダンスは止まらないよ!」

 

 2人のアイドルはそれでもお構い無し。むしろこれを()()と称して楽しみ始める。何が起きても動じることなく、さらにはそちらに目を向けることなくやるべきことをやる。演者としての矜持が凄まじい。

 だが、飛行場姫としては堪ったモノではない。建物が失われることは元より、この破壊によって撒き散らされる建物の破片に視界は奪われ、意識はそちらにも向かされる。巨大な破片が飛んでこないこともなく、避けるのにも必死になりつつある。

 

「お前ら、何をしてくれる!?」

「そんなの決まってるでしょ? 敵の動きを止めるには、敵の武器を破壊することも必要だよ。あっちの飛行場姫は役所全部が武器なんだから、こうするのは当然じゃないかな」

 

 飛行場姫の非難に、舞風が当たり前のように答えた。何もされていない建物をただ単に破壊するのは気が引けるだろうが、この役所はダウナー飛行場姫の改造した兵器の一部だ。そこに人が住んでいようとも、今は何もしてきていなくても、そこにそうあるだけで、いつかそれが危険を生む。ならば、そうならない内に破壊する。

 そもそも、棲家を壊されて憤慨するのならば、これまで鎮守府を制圧し内部から破壊してきたことはどう釈明するのかという話である。ここで敗北したらうみどりだって破壊するつもりだろう。ああだこうだと言い訳はするだろうが、やっていることは同じ。文句を言われる筋合いは無い。

 

「ああもう……滅茶苦茶するな……でも、この改造工廠はその程度では破壊されな……っぶない!?」

 

 ダウナー飛行場姫が急に声を荒げる。確かにガレージはコレだけの一斉射を受けてもカタチは残ったままであり、一部大きく傷は付いているものの、まだまだ耐えられそうなくらいに強固である。

 だが、破壊された建屋の破片はガレージに降りかかることになるだろう。大小様々な瓦礫が頭上から押し寄せてくるモノだから、ダウナー飛行場姫は思わず声を上げてその場から退避した。

 役所は平屋であるため2階があるというわけではない。しかし、()()()()()()()()()()()()()、それは避けざるを得ないだろう。

 

 一斉射を放ちながらも、QE級姉妹はそこを少しだけコントロールしていた。正面より少し下側を狙うことで、壁をメインに破壊しつつ、屋根はなるべく原形を残すようにすることで、ガレージ側に屋根ごと落とす。そうすることで、ガレージそのものを瓦礫の中に埋めてしまおうという作戦でもあった。

 三隈にそうは言われていないため、これは軍師の策ではなく姉妹の策。しかし、今はそれが一番有効だった。

 

「ひ、酷いなコレ……そんなに使わせたくなかった……?」

 

 ガレージが瓦礫の山に埋まることで、イラつきながら表に出てくることになるダウナー飛行場姫。だが、その瓦礫に手をつけると状況は一変する。

 彼女の『工廠』は明石と同じ『改造』主体。等価交換により物質を別物に変える。ここにある瓦礫であっても関係なく、むしろ中にあるガレージまで巻き込んでカタチを弄くり回すことが出来る。

 

「使わせたくはありませんわね。でも、役所を壊してもらった理由はそれだけじゃありません。加賀さん、艦載機は」

「ええ、もう向かったわ。こちらの意思、()()()()()()()()()

 

 伝えた、と聞いて2人の飛行場姫は何をと考えさせられた。そこに辿り着くには、少し時間がかかりすぎた。

 

 

 

 

 突如飛んできた矢に、ダウナー飛行場姫の肩が貫かれた。

 

 

 

 

「んぎいっ!?」

 

 一瞬、何が起きたかわからなかった。だが、その矢は明らかに普通では無い。つい先程、加賀から放たれた空母の矢。頑丈でちょっとやそっとでは壊れない、喰らえば致命的にもなりかねない一撃。

 

「何処から!?」

 

 それを放ったのは、どう考えても加賀では無かった。ならば何処からとアイドルの猛攻を弾きながら周囲を見る。高高度の監視に気を配る余裕すら無かった。

 そこで、ようやく気付いた。()()()()()に。この場所は、ついさっきまで戦場となっていた港がある程度見える場所。トラが鉄拳制裁も交えて子供を説教していることがわかるくらいの場所であることに。

 

 その矢を放ったのは、その港にいる翔鶴である。加賀の艦載機が向かったのは、港で戦っている仲間達の元。そこにいる空母隊の誰かが、今の戦場の状況に気付いてくれればいい。見晴らしのいいそこならば、敵の姿も見えるはずだと睨んで。

 役所を破壊したのは、()である飛行場姫を表に出すため。ガレージと瓦礫で改造を始めるにしても、今この時だけは見晴らしのいい場所に立つことになるはず。

 

「流石は大先輩ね。この距離を完璧に射抜くだなんて、私にも出来ないんじゃないかしら」

 

 加賀がクスリと微笑んだ。翔鶴、祥鳳、そして援軍の鳳翔。そのうちの誰かがやってくれればいいと思っていたが、そこはやはり第二世代かつ正規空母である翔鶴がやってくれた。

 距離にして数kmはくだらない、しかも米粒程の大きさの的。弓道では絶対に考えられない異常な一射。だというのに、この精度である。

 

 この成功には、矢が艦載機であることも意味があった。普通の矢ならまず届かない射程。だが、矢そのものに飛ぶ意思があるのならば話が変わる。艦載機にならずとも、異常な飛距離を見せてもおかしくはない。

 そこに翔鶴自身の、艤装のパワーアシストまで含めた膂力が組み合わされば、それも可能であった。

 

「っあっ、ぐっ、こ、こんなモノ……っ」

 

 肩に突き刺さった矢を掴み、それすらも『改造』しようとするダウナー飛行場姫だが、艦載機の矢はそれすら許さない。

 この矢は艦載機に姿を変える矢。()()()()()()姿()()()()()()()()()()()

 

「あぁあああっ!?」

 

 肩を完全に破壊し、腕を捥ぎ取るように膨張して艦載機へと姿を変えた。黒い血塗れになりながらも、そこから華麗に離陸する艦載機は、そのまま加賀の元へとやってきて着艦した。

 

 

 

 

 非情ではあるが、今を打開する一撃。ここからこの戦いの流れは、完全に三隈達のモノとなる。

 

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