後始末屋の特異点   作:緋寺

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一声

 役所を破壊したことで港側からも見えるようになったダウナーな飛行場姫は、数kmはくだらない距離を見事命中させた翔鶴の矢によって肩を貫かれ、さらにはその矢が艦載機に変化したことで腕を完全破壊したことで再起不能へと陥る。

 自己修復はあるだろうが、すぐさま治るような軽傷ではない。そして、痛みによってまともに行動すら出来なくなっている。

 そういうところは、やはり訓練を受けていない元人間であることがわかる。力を得たことで戦えるようになっただけの一般人。高次の存在からは程遠い、覚悟も殆ど出来ていない者であった。

 

「お前ら、よくも……!」

 

 憤慨するもう片方の飛行場姫だが、そんな怒りは一旦無視して、今度はこちらの攻略に専念する。ダウナー飛行場姫は今は動けない。故に、この戦いに乱入してくるようなこともない。あったところで、QE級姉妹の一斉射が即座に邪魔をする。

 

 三隈が考えた策は、役所破壊のどさくさに紛れて、既に那珂には伝わっている。何をすればいいかはわかっているのだが、それをどう行うかというのがネック。

 この策、どうしても飛行場姫に近付かねばならないというのがあった。出来ないことはないが、近付けば近付くほど効果的であるから、出来ればもう触れられる位置にまで行きたい。

 しかし、飛行場姫には『操縦』があるせいで、無闇矢鱈に近付くことは出来ない。そのせいで動きが止めることが最大の難関と化している。

 

「『操縦』は確か、2秒近くは触れておかなければならないはず。逆に言えば、一瞬なら触れられますわね。()()()()()()()()

 

 これは裏切り者鎮守府との戦いの際に、『操縦』を持つ者達から直に聞いている話。三隈はそういうところでも情報収集は欠かしていない。

 その時の者、名取曰く、2秒ほど触れておかねばならない代わりに、それさえ出来てしまえば相手の意思など関係ない。意思まで乗っ取ることは出来ない代わりに、思考はそのままにやりたい放題出来る。という力であることはわかっている。

 

 しかし、飛行場姫の『操縦』がその時のままかどうかはわからない。少しタッチするだけでコントロールを奪われるかもしれないし、意思まで操縦されてしまうかもしれない。曲解自体が強化されている可能性を考えると、迂闊に触れられないというのが現状である。

 それこそ、手に触れるだけでなく、()()()()()()()()ことすらトリガーになってしまっているとも考えられる。そんなことになっていたら、本格的などうすればいいか迷うところだが。

 

「やはり、ああするしかありませんか」

 

 思い立った三隈は、那珂と舞風に加わるように攻撃を開始する。あくまでもアイドルとダンサーの邪魔をしないように。

 狙いは飛行場姫の足下。直接当てたとしても『装甲』によって意味がなく、頑強な中でも頭だけは若干守りきれていない頭部はあちらが優先して守る。ガードまでされれば弾が何処に弾かれるかわかったモノでは無い。

 故に、最も敵が()()()()()()であろう場所を狙う。それが足下。

 

「何処を狙っている!」

「当てても意味がないのですから、いいではないですか。それとも、当ててほしいのですか? あらあら、まさかそんな趣味が」

「こんの……っ!」

 

 飛行場姫的にはまともに狙ってこない三隈を挑発したつもりだったのかもしれないが、返される言葉が鋭利すぎて、逆に心を揺さぶられる結果になる。自らを高次の存在という割には、やはりメンタルは未熟、というか戦闘に向いていない一般人である。

 

 この三隈の砲撃を見たことで、那珂と舞風も何かを察した。飛行場姫自身を狙ったところで意味がない。その上で、既に三隈の作戦は聞いている。それを完遂するために足下を狙うという行為をしているのならば、それ自体が意味ある砲撃。

 故に、那珂と舞風も同じように飛行場姫の足下を狙い始めた。三隈が最も高い火力を持っているが、追加で2人の砲撃が加われば、足下はどんどん抉られていく。

 

「このっ、いい加減にっ」

 

 ここで飛行場姫は3人の意味があるのかないのかわからない行動を止めるために艦載機を嗾ける。元々那珂と舞風を始末するために動かし続けていたが、三隈にも加わられたら余計に厄介なことになったと、若干焦りも見え始めた。

 これまでは攻撃が通らないという点で試行錯誤を繰り返していた。飛行場姫はそれを理解し、ただ接近して触れるだけでいいことも相まって、ただただ近付くことを目標にして戦いを続けていた。

 しかし今、三隈が攻撃に加わったことで、()()()()()()()ということが明確に理解出来た。ならば、それを阻止しなくてはならない。砲撃を止めるためにも、全力で艦載機を嗾け、やりたいことをやらせないようなしなくては。

 

 そう考えていると、また違う部分が疎かになる。

 

「下ばかり見ていて大丈夫ですか? 高高度の監視に目が行かなくなっているのでは?」

「何をっ」

 

 足下ばかり狙っているところに、今度は加賀から発艦された艦載機による爆撃。頭上から降り注ぐ爆弾を避けることが出来ず、『装甲』によって無傷で済ませることが出来るにしても、一撃一撃で視界が封じられるレベル。

 

「動かない方がよろしくてよ」

 

 この攻撃には、飛行場姫に動くなと忠告しているようなモノ。接近を許さないと、攻撃を以て伝えている。

 飛行場姫にとっても、それは願ってもないことだろう。飛行場姫には攻撃が通らない。どれだけ撃っても、これだけの爆撃を受けても、未だ無傷を貫いているのだから。

 しかし、少し考えればわかる、明らかな策。三隈が面と向かってそれを伝えてくること自体がおかしな話。そうしてくださいと言ってくるということは、そうすることで三隈の思い通りになるということ。この無敵の身体の突破口を見つけたからこそ、ここまでのことをやってきているのだと考えた。

 

 ついさっき、とんでもない一撃で仲間のダウナー飛行場姫がやられている。超長距離の射撃。この飛行場姫にはそれも通用しないが、むしろそうやって遠方からされる何かが危険。直接の攻撃ではなく、間接的に何かをしてくるのならば、ここにいない敵のことを考えるべきだろう。

 

「だから、足を掬われるのです」

 

 などと考えていることを見透かしたような発言と共に、飛行場姫の足下がぐらついた。

 

「なっ……」

「このような島にいるのならば、農業とかもおわかりでしょうに。これだけ掘り返せば、しっかり耕せましてよ」

 

 何度も何度も爆散し、再び降り積もり、踏み固められていない地面となれば、そこに足を取られて蹴躓く。注意していても滑ることだってあるだろう。

 

「今です!」

「オッケー! まっかせて!」

 

 足を取られた瞬間、舞風がその足下を重点的に砲撃。脚に傷つくことはないが、土だけは掘り返され、その都度脚が埋まっていく。

 

「なっ、なにっ」

 

 片脚が膝まで埋まった時点で、飛行場姫はその場から動けなくなる。まだふかふかの土ではあるが、それでもその重さは簡単には脱出出来ないくらいの拘束に。

 これでは触れに行くことも出来ない。だが、動かないならば動かないでどうにも出来ない。どうにか力業でここから抜け出そうと、よりによって自分の真上に艦載機を発艦し、自らに爆撃を放つことで土を掘り返そうとし始めた。

 

 だが、それを実行に移す前に、真の策を実行に移す。

 

「那珂ちゃん、今です!」

「はーい! ライブも大詰め、たった一人に、那珂ちゃんの声援を聞かせちゃうぞ☆」

 

 何を思ったか、那珂は脚が固定された飛行場姫に触れられるほどにまで近付いた。このままでは『操縦』の餌食になってしまうだろうという距離まで。そうでなくても爆撃を受ける。そうなってしまえば、飛行場姫は無傷であっても、那珂はひとたまりもない。

 

「音量MAX! マイクチェック、OK! は、別の艦娘(ヒト)の言葉だね。でも、準備万端、最後の一声、受け止めてね☆」

 

 普段から持ち歩いているマイク型探照灯。それを間近で飛行場姫の顔面に放つ。完全な目潰しは、『装甲』など関係なく、あまりの眩しさに昼であっても目が眩む。

 

「っあっ!?」

 

 目を瞑り、身を捩った。那珂に触れようという気持ちが一瞬だけ失われた。その瞬間を見逃さない。

 この探照灯、()()()()()()()()()使()()()上に、スピーカーはそれそのもの。今から放つ言葉は、ダイレクトに拡張される。

 

「せーのっ」

 

 身を捩ったことで、那珂の前には飛行場姫の耳。

 

「Ahhhhhhh!」

 

 那珂の渾身のシャウトが、飛行場姫の耳に直撃。拡張された音声は周囲に響き渡り、空気を揺らす程の大音量となって飛行場姫に襲いかかった。

 触れていないため『装甲』は関係ない。五感が集約されている頭部でも、特に守ることが出来ない耳、三半規管。それを強烈に揺らす。

 鼓膜は『装甲』で守られていなかった。体内、かつ基本は傷付かず、そこに当たり前のようにある()()()()()()()()。内臓の揺さぶりには耐えられたが、これには耐えられなかった。

 

「かっ……!?」

 

 その一声の直撃で、飛行場姫の鼓膜は破れた。そして、脳も揺さぶられたことで意識を完全に飛ばされた。そうなってしまえば、もう立っていることすら出来ない。

 那珂のシャウトは、傷付けることが出来ない飛行場姫に大きなダメージを与え、そしてそのまま斃すに至った。

 

 残された飛行場姫の艦載機は、爆撃をする間も与えられずに消滅。飛行場姫は完全に沈黙した。

 

「や、やはりこれが一番効くでしょうね。でも、ちょっと諸刃の剣すぎましたか……」

「っは……こ、これはやるならやると事前に言っておいて……」

 

 那珂のシャウトは、当然周りの者達にも影響を与える。最も近くにいた舞風も目を回しかけており、三隈もやると思った時に耳を塞いだが、それでも貫通するほどの音量。加賀は弓を構えたまま一瞬意識が飛ぶほどだった。

 

 

 

 

 

「ふぃー☆ こういうの初めてだったけど、結構いいかも☆ 新曲はシャウトとかも入れてみる? ロック系も気になってるんだよね☆」

「あ、あはは、こんなに音量大きくなかったら、新境地でいいかも」

 

 アイドルは御満悦。喉を壊すことなく、笑顔でピースサインを出していた。

 

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