後始末屋の特異点   作:緋寺

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手がかりはあれど

 2人の飛行場姫をどうにか斃すことに成功した三隈達。『工廠』の飛行場姫は、QE級姉妹による一斉射により役所を破壊されて、表に出てきたところを港からの超長距離射撃を喰らったことで再起不能に。『装甲』の飛行場姫は傷は負わないが頭部の守りが甘かったおかげで、那珂による耳を破壊するシャウトを超至近距離で受けたことによって鼓膜を破られて気絶した。

 

 とはいえ、まだ『工廠』飛行場姫は気を失っているわけではなく、片腕は失ったがもう片方は残っている。触れたモノを『改造』出来るのならば、まだ完全に終わったわけではない。

 と思っていたのだが、最後の那珂のシャウトの衝撃をまともに受けてしまっていたことにより、白目を剥いていた。近くにいた三隈や舞風ですらふらつく程の大音量。ダメージを上乗せされたことで限界が来たようである。元々のダメージが大きかったこともその要因。

 

 つまり、ここでの戦いはこれで終わりとなる。

 

「まだクラクラしますわ……那珂ちゃんの声量、正直侮っていました」

「改造してもらったマイクのおかげかも。これ、明石さんに音響兵器に出来るくらいの出力出せるように改造してもらったんだよね。いや、那珂ちゃんはそこまでしろとは言ってないんだよ?」

 

 このマイクの爆音は、なんでも明石の仕業らしい。というよりは、こういうことに使うかもしれないと考えた丹陽のアドバイスにより、MAXでは凶悪な出力になると前以て聞いていたらしい。

 ある意味、三隈がこういう策を立てざるを得ない状況、それこそ傷をつけられない敵が現れた時のことを考えた策。戦場に出ていなくても、予測によって準備していた第一世代に、三隈は感服していた。

 

「皆様、大丈夫ですか?」

「ええ、こちらもどうにか。耳が少しキンキン言っているけれど」

「とんでもないことをしたものだな。だが、助かったよ」

 

 QE級姉妹も頭を押さえながらだが無事だった様子。

 となると、最後の1人が心配である。何せそちらは()()()なのだから。

 

「……だ、大丈夫でして?」

 

 那珂のシャウトは事前に何も伝えられていない。艦娘だからこそ、この至近距離で受けても何とかなる。

 元ヤンキーの戦艦棲姫は意識を失いかけていた。少なくとも、三隈の声は今届いていないようである。

 

 全員調子を取り戻すまで僅か数分とはいえ時間がかかったが、その間に2人の飛行場姫が目を覚ますことはなかった。

 

 

 

 

 ここからはこの場所の調査になるわけだが、気を失っているとはいえ、この2人の飛行場姫が邪魔ではある。片方は触れられたら『操縦』によりコントロールを奪われ、もう片方は触れれば『改造』が出来てしまう。前者より後者の方が厄介で、もし鎖か何かで拘束したとしても、それそのものを『改造』してしまう。つまり、拘束が出来ないということになる。

 

 その解決方法は、奇しくも別の戦場で行われたモノと同じことになった。

 

「まぁ……これしかないわよね」

「はい、見た目は悪いですが、そういう力を持っているのですから、これ以外に選択肢は無いかなと」

 

 加賀も呆れて溜息を吐いたが、それも仕方ないこと。2人の飛行場姫は気を失ったまま、先程の戦いで掘り返された土に埋められ、ほとんど胸像のようになっていたのだから。

 

 潜水艦隊の戦いで『劣化』の潜水鮫棲姫をどうにかするために埋めたのと全く同じ。手をフリーにすること自体がよろしくないため、それを土の中に埋めておくのがベストだと三隈が発案した。

 拘束不可能な敵はこうせざるを得ない。土すらも改造して脱出しかねないのが面倒なところではあるのたが。

 ちなみに、それを手伝ったのは何とか復調した戦艦棲姫。大型の生体艤装はそういった作業に非常に向いており、手で土を掬ってかけるだけでもショベルカーの如く働くことが出来ている。

 

「さて、ではこの辺りを調査いたしましょう」

「じゃあ、オレが瓦礫退かしますよ」

「あら、それではお願いしてよろしいかしら。最初に心を入れ替えてくれて、本当に助かります」

「いや、それくらいしか罪滅ぼし出来ないんで」

 

 ここでもまた戦艦棲姫がその力を発揮する。生体艤装を縦横無尽に操り、邪魔な瓦礫を退かし、ガレージを表に出してくれた。本人も那珂のシャウトでふらついていたのだが、そこはやはり戦艦の身体。また、直撃ではなく余波を受けただけなので、少し休めば動くことくらいは出来るようであった。

 

「こんなもんでどうですかね」

「本当にありがとうございます。三隈達だけではここまで効率よく出来ませんでしたわ」

 

 三隈から褒められると、戦艦棲姫は照れくさそうに頭を掻いた。戦艦棲姫がそういう仕草、表情を見せることは普通は無いため、非常に新鮮な気持ちになれる。同じ戦艦棲姫であるセレスも料理人として活動しているものの、ここまで表情豊かでは無い、お姉さんタイプ。2人並べたら性格正反対な双子の姉妹か何かに見えそうである。勿論、この元ヤンキーが妹として。

 

 更地になったというわけではないが、本来役所のあった場所は一斉射を受けたことで大きな空き地となっている。ガレージだけがポツンと残り、そこだけは高度な機械が張り巡らされているようになっているものの、それが場違いであると思える程に。

 

「おそらくここから地下に向かえる通路があるでしょう。それも、生体艤装が運び出せるくらいに大きな」

「こういうところかな?」

 

 その地下通路を探そうとする三隈の横で、何かに気付いた那珂が瓦礫の撤去された役所の床だった部分をトントンとステップを踏むように蹴る。

 すると、そこだけ音が違うことがすぐにわかった。中が土やら何やらで埋まっているわけではない、()()()()()()()()音。それ以上に、蹴った那珂の方がそこの違和感に強く気付くことが出来た。

 

「うん、この辺だけちょっと違うね。ステージの奈落みたいな感じかなぁ?」

「奈落……ああ、下から迫り上がってくる舞台のようなモノですね」

「そう! だからここ、床に見えて実は下に降りられるエレベーターみたいになってるんじゃないかなって」

 

 だとしたら、ここから敵の施設に侵入出来そうだと考える。が、ここをどう降りるかというのもある。

 

「電力と思われるモノは通っていませんね……この設備のコントロールは表ではなく裏で管轄しているのかも」

「つまり?」

「今、ここは鍵を掛けられているのと同然ということではないかと。こちらからは入れないけれど、あちらからは自由に出られるということでは」

 

 この三隈の予想、大当たりである。ここに空洞はあるものの、外側からどうにかすることは出来ない。

 艤装を内側から外側へ運ぶことはするが、()()()()()()()()()()()()造りである。

 

「戦艦での破壊……も難しそうですわ。そうされないように作ってありますもの。おそらく、その『工廠』の力を持つ飛行場姫辺りが強固にしているでしょう」

 

 那珂が蹴った時の音から、三隈はそこまで分析している。先程の一斉射でガレージ自体が原形を残しているくらいだ。この床を破壊することは厳しい。それが出来るのは、深雪の消し飛ばす砲撃か、梅の『解体』くらいでは無いかと予想している。

 

「ここで手をこまねいているくらいなら、別の入り口を探す方が良いでしょう。ここはそういうことをやっていたとわかっただけでも良しです」

「そうね。別の場所なら自由に行き来出来たかもしれないし。ここは艤装の運び出しをしていたからここまでされているということなんでしょう」

「はい。それに、港から向かえばすぐにここに辿り着ける。逃げを選択した島民を中に入れないようにもしているでしょうし」

 

 それを聞いた戦艦棲姫は、やはり自分達は捨て駒にされているんだなと改めて自覚した。出撃させて、撤退は許さない。そんなやり方で表に出されている面々が、とても惨めに思える。

 だが、この戦艦棲姫は気付くことが出来たが、他の者はそうとは思わないのだろう。撤退なんて考えない。死ぬまで戦い続ける。敵は自分より弱いのだから、逃げる必要も無い。そんな傲慢なことを考えながら。

 

「やっぱオレ達って、いいように使われてたんですね」

「……有体に言えば、そうなりますわね」

「んな連中、ぶっ飛ばしてやらねぇと気が済まねぇ……」

 

 拳をギリギリと握り締めながら怒りを露わにする戦艦棲姫。だが、そんな彼を落ち着かせようと前に出たのは那珂。

 

「気持ちはわかるけど、一回落ち着こうか。それでは一曲」

「は?」

「まあまあ、今は戦いの最中ではありますが、休憩が良くないわけではありません。心を休めて、ここからも万全に戦うことも必要なことですから」

 

 素っ頓狂な声を上げた戦艦棲姫だが、那珂の歌声を聴いたことで心が落ち着いていった。流石にマイクのボリュームは下げているが、それはこの場にしっかりと響き渡り、熱くなっていた心が少しでも冷えていくのがわかった。

 どんなことがあっても、戦いは冷静に。足を掬われることなく、周りを見ながら最善を選択し続ける。そのためには、心を落ち着かせなければならない。那珂も自分の心を落ち着かせるため、ここで歌う。

 

「……やべぇ……なんか、すげぇ感動した……。歌なんてまともに聴いたことも無かったかもだけど、こんないいモンなんですね」

 

 ここでわかる、この島の在り方。歌をまともに聴いていないということからして、文化的な部分も取り払われていると考えられる。学校の音楽室が改造されていたことからも、そういった嗜好の部分は与えられず、阿手の配下としての洗脳教育が徹底されていたのではないかと。

 生活に必要なモノは与えられるが、娯楽に関するモノは何処にもない。そうやって、一から十までを教育に使われている。そこに違和感がないのは、やはり薬などを使われていたからか。

 

「オレ、姐さんのファンになっちまったかも……!」

「ファンが増えることは万々歳! あと、姐さんだとちょっと可愛くないから、那珂ちゃんって呼んでね☆」

「うす、那珂ちゃん!」

 

 こんなところでファンが増えるという事態が起きるものの、この戦いの空気はこれで弛緩した。

 

 

 

 

 手がかりはあれど、先には進めず。正面突破部隊はここで一旦、別部隊と連絡を取るために動き出す。

 

 本命はやはり、学校を拠点にしている奇襲部隊。

 

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