後始末屋の特異点   作:緋寺

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 場所は変わって学校、奇襲部隊。調査隊が2組に分かれて学校内を調べている中、島中に響き渡る那珂のシャウトが聞こえたことで、簡易拠点にいる深雪達は何事かと窓の外を確認する。

 当然ながら、正面突破部隊の戦闘をそこから見ることは出来ず、しかしその声の持ち主は那珂ではないかと気付いたことで、歌と踊りで敵を翻弄しているのではないかと想像した。

 深雪としては、あんな絶叫をすることなんてあるだろうかと首を傾げたもののそういうものかと納得する。この場に音響兵器を持ってきているなんて思わないし、そもそもそんな兵器があるとも思っていない。

 

「那珂ちゃん、上陸してんのかな」

「かもしれないのです。陸で戦ってあんな叫び声を上げるとなると……勝ちそうなのか負けそうなのかわからないのです」

「確かにな……負けそうで悲鳴を上げた……とかじゃあ無いと思いたいけど」

 

 余程のピンチになったとしても、ここまで聞こえるほどの絶叫を上げるとは思えない。例え腕や脚を失っても、那珂は笑顔を失わないくらいだろう。ならば、シャウトそのものが必要だから出したと考えるのが正しい。それこそ、それそのものが敵に対しての攻撃か何かと、電は予想した。

 

「ま、大丈夫だ。何かあったら連絡が来るだろうしな」

「なのです。今はもう少しだけ休ませてもらうのです」

 

 深雪と電が拠点に残っているのは、先の戦いでの疲労を取るため。深雪はまだ煙幕くらいだが、電は『迷彩』持ちの子供達の居場所を伝えるために、全神経を集中させて叫び続けたのだ。休めるタイミングがあるのなら、しっかりと休んでおきたいところ。

 

 調査隊の調査の間は、黒井母が守る簡易拠点で全員がひとまずの休息中。遊び疲れた子供達は、フレッチャーの膝枕で眠ってしまった。オドオドしていた護衛棲姫は、部屋の隅に腰掛けてボンヤリとしているくらい。

 

「さ、さっきの叫び声……大丈夫?」

「まぁ不安になるよな。でも大丈夫だ。うちのアイドルが声を高らかに上げただけだから」

「あ、アイドル?」

 

 特に訳のわかっていない杏は少し不安そうではあったが、深雪に説明されてひとまずは納得することにした。

 

 身体も改造されておらず、なんの力も持たない唯一の存在である杏は、この中で唯一、自分の身を守る手段すら持っていない。子供達でも『迷彩』を使えば誰にも見えなくなるため、狙われるようなことは無くなる。しかし、杏は本当に非力な人間。敵に狙われたらひとたまりもない。

 この拠点にいる間は安全であろうが、この場は本当に何があるかわからない場所である。どうにかしてうみどりに保護したいところではあるのだが、それこそここからの移動だって危険だ。安全な場所にいられるなら、無理して危険を冒す必要は無いだろう。

 

「杏は疲れ取れたか?」

「えっ、あ、はい、少しは。お水も貰えたし」

「そりゃあよかった。ここの水は多分飲まない方がいいからな。電がそういうのも完備しててマジで良かったぜ」

「なのです。少しは休めたなら良かったのです」

 

 杏には深雪と電があたっているが、他の者は未だに少し警戒している。特に連れてきた熊野丸と山汐丸、奇襲部隊の神風は、まともな人間がここまで逃げ切れたことを不審に思っていた。

 

「あの子、一応調べたのよね?」

「ああ、うみどりのイリスにも見てもらっているからな。何の改造も受けていない、正しく人間である存在だ。だからこそ、俺は怪しんでいるが」

「そうよね。こんな島で、まともな人間がここまで一人で来れるわけがない」

 

 やはりそこが引っかかる。わざと逃がされたとしか思えない杏が、部隊と合流して保護されたことでどんな影響があるか。

 非情に考えるのならば、今の部隊には明確な()()()()が増えたと言える。自分の身を守ることも出来ない、逃げるにしても常人のそれ、疲労も溜まっている、誰かがついていないとまともに行動すら出来ない。それが、戦場のど真ん中にいると言っても過言ではない。

 うみどりは絶対に見捨てない。故に、そんな人間がそこにいるのならば必ず保護する。そして、命懸けで守るだろう。全員が無事に帰ることが出来るまで。

 

「人数が増えれば増えるほど、行動力は落ちる。俺達の侵攻は遅くなるだろうさ。なら、アレもまた時間稼ぎか何かに思えて仕方ないな」

「私もよ。今でこそ簡易拠点を作って陣取って、調査を進められるくらいはしてるけど、こうしている間も向こうは動けているわけだものね」

「今何をしているかがわからねば何とも言えんが、奴にとって人間の一人や二人くらいは逃がしても痛手にはならんのだろう。まぁ、それだけではない可能性をずっと疑っているがな」

 

 見た目にも彩にも出ない操作がされていることは、見つけてから常に疑い続けている。深雪や電が警戒心もなく接しているのが少々怖いくらい、

 

「そうやって疑わせて気もそぞろにするのが策だと言われたら、陰険にも程があるとは思うけれど」

「違いない。だが、否定も出来ん。聞いている限り、何処までも陰湿で陰険だ。元は提督であったなどと信じたくもない」

 

 熊野丸が鼻で笑い、神風は苦笑した。悪人である一点に限れば、阿手は非常に信用出来る。

 

 

 

 

 ここで別の部隊からの連絡が来たことで拠点にも緊張感が高まる。連絡相手は、正面突破部隊である三隈。そこから襲撃を仕掛けている全部隊に対して通信が行われた。

 

「三隈さんなのです。みんなにも聞こえるようにしますね」

 

 拠点に残った者の通信担当は電。マルチツールのそれを弄り、自分だけでは無く周りの仲間達にも聞こえるようにスピーカーモードに切り替える。

 

『こちら、正面突破部隊の三隈ですわ。皆様、()()()()聞こえておりますでしょうか』

 

 ここで強くまともにと言ったのは、ここでも通信妨害が無いかを確認するため。一度起きたことは二度も三度もやってくる可能性があるため、事前にちゃんと確認する。

 電を筆頭に、調査隊として別に動いている子日と暁、そして潜水艦隊から伊26がその通信に応答した。他にはいない。声もしない。傍受されているかを確認し、横から入ってくるようなことも無いことを確認出来た。

 この通信機自体も、明石謹製の最新型。決められた周波数でしか通信出来ないどころか、横からそこに侵入することも出来ないように幾重にも防御網を張り巡らせた対策品。それでも過信はしておらず、傍受されれば反応するようなシステムにもしてある。ここまでしてもまだまだ安心していない。

 

『現状を把握するため、また、今手に入れた情報を展開するために連絡させていただきました。他の部隊も、知っておいた方がいい情報をお持ちかもしれませんので』

「最初に、さっきの那珂ちゃんさんの声のこと教えてほしいのです」

『ああ、アレはああでもしないと斃せない敵が現れただけです。驚かせてしまったならご安心を』

 

 正面突破部隊が展開したい情報というのは、勿論戦艦棲姫から貰った学校での処置の話。保健室に連れて行かれた後に意識を失い、そのまま今の姿にされていたという証言。また、給食に薬を入れられていた可能性も示唆。

 現在動き回っている調査隊にはこれは朗報である。いろいろと見つけた部屋を探し回っているが、明確な部屋の名前が出てくれたことで、少しだけ迅速に動けるようになったと言えるだろう。

 

 続けて潜水艦隊。敵に襲撃された後、海底に侵入経路を発見したことを伝え、今はそれを調査しているのだと語る。魚雷で爆破することも考えているとも。

 海底とはいえ、堂々と真正面から突撃するのはなかなかに怖いところではあるのだが、それくらいの力業でも問題なさそうというのもある。今も阿手を筆頭にした敵達は島から脱出しようと企てているのではと考えられるため、その経路を潰せるのならばその方がいいとすら思える。

 

 奇襲部隊からの報告は、保護した人数が少し増えてきたこと、現在は学校の教室を簡易拠点として休憩しながら調査していることなど。そして非常に危険な『舵』について。

 保護した中では、黒井母と護衛棲姫に張り付けられており、それは梅の『解体』で破壊可能であることも伝えられた。

 

『あ、こっちでも見つけたよ。首にくっついてた』

 

 伊26が話すのは、潜水鰆水姫の首に張り付いていた『舵』のこと。やはり危険物だったと苦笑。

 

『今見てみたら、こちらにも張り付いているようですわね。2人ともで無く、片方だけのようですが』

 

 正面突破部隊の方も『舵』を発見。2人の飛行場姫の片方、ダウナーな方の首筋にしっかりと張り付いていた。

 彼女達は髪が長く、なるべく触れないように埋めたため、三隈でも全身を確認するようなことは出来ていなかったようである。言われて調べたらちゃんとあった。

 

「張り付いていない方は、洗脳ではなく自分の意思で従っているようなのです。逆に張り付いている方は、壊してしまえば正気に戻ってくれたのです」

『なるほど、ですが破壊する手段が梅さんしかいらっしゃらないと。仕方ありませんね。今は埋めたままにしておきましょう』

「う、埋める!?」

 

 その敵が今どうなっているかは音声だけからは伝わってこない。潜水艦隊はそっちもそうしたんだと共感していたが、奇襲部隊側は『舵』が破壊出来ることもあり、埋めるなんてことはする必要がない。張り付いておらずに敵対する者がいたならば、白雲が凍らせるだけである。埋めるより確実であり、埋めるより苦痛を与えることだろう。

 

 気を取り直し、報告会はもう少し続く。奇襲部隊では今、保護した者達の中にまともな人間がいるということを伝える。

 流石にそれには三隈も息を呑んだ。この場で何もされていない人間がいるとは考えられなかったからである。

 

『なるほど、どうしても怪しさは拭えませんね。その方には申し訳ありませんが、監視は怠らぬよう。考えられるのは、()()()()()()()ですので』

 

 そう言われると、杏も何も出来ない。反論の余地もなく、この艦娘達がそれだけのことを何度もやられているということが嫌でもわかった。

 

『奇襲部隊、その調査隊の皆様、よろしくお願いいたします。危険ですが、こちらも別口を調べながら進みますので』

 

 報告会はこれで一旦終了。長々と話していても危険である。

 

 

 

 

 ここからはより深くまで入り込む調査に。今は学校が一番怪しい施設であるため、ここを重点的に探す。得られた情報から、まずは保健室と配膳室だ。

 

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