後始末屋の特異点   作:緋寺

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進軍と後退

 他の部隊との通信を経て、今最も怪しいのは学校であることがわかった。そのため、奇襲部隊の調査班は、話に挙がった保健室と配膳室を重点的に調べることとなる。

 その情報が手に入ったため、奇襲部隊のみでも状況整理のために一旦簡易拠点に集合する方向で進める。保健室と配膳室に向かい、そこから先に行ける道が見つかった場合は、そのまま進軍となることが目に見えているため、改めてここで部隊編成をするためである。

 

「流石に人数が多いなこりゃあ」

 

 20人以上揃ってしまっているため、簡易拠点の中に全員が入ることは出来ない。

 安全を確保するために、戦う力が無い者を優先して教室に入れており、調査隊などは今は廊下で屯しているような状態である。

 

「ここで部隊を分けるのなら都合がいいな。保護した被害者はここにいてもらっても守り切れる自信がない。一度うみどりに運ぶのがいいだろう」

 

 ここで熊野丸の提案。今でこそ休息もあったため簡易拠点を作ったものの、ここからの戦いでずっとここで待機させていても、学校そのものに何かあった時にどうにかすることは難しい。そのため、これを機に一度うみどりに保護してしまおうという。

 黒井母のタコ脚は弱いとは思えない。むしろ非常に強力な防御性能を持っている。しかし、何かあった場合、ここにいる者が全滅する可能性があるのだ。ならば、素人は安全な場所にお引き取り願った方がいい。

 

「大発は俺のモノだ。輸送は俺が先導してやる。誰か護衛をつけてくれ」

「なら逆に、調査に行くメンバーを決めて、そこに入らなかった子を輸送に入れた方がいいわね。それでどう?」

「構わん。どうであれ何人かは欲しい」

 

 輸送が可能なのは今この場では熊野丸だけ。一度うみどりまで運んでからまた戻ってくるとしても、いくらか人選をしなければならない。

 

「それじゃあ、ちょっと決めさせてもらうわね。異議があったら言ってちょうだい」

 

 ここからは神風が中心となり、部隊の選別が始まる。

 

「なんだい、アタシ達はもうここで退場かい」

 

 その流れに黒井母が声を上げる。阿手をぶん殴ってやると意気込んでいたものの、素人が戦場にいること自体が邪魔になることと、こうして子供達を守っている方が性に合っていることは理解している。しかし、最後まで行けないで保護されるというのは、どうしても思うところがあるようだ。

 この部隊の選定の中に、ここで保護された者達の居場所は一つもない。早々にこの戦場から離れてもらう。

 

「当たり前だろうに。おばさんはずっとここに籠城するつもりかい」

「それでもいいと思ったんだがね。むしろ一緒に行きたいくらいだね」

「邪魔なんだよそれじゃあ。僕達の気が散るんだ。君達がいないなら、最悪この学校を壊してもいいのに、ここにいるってだけで戦い方が制限されるんだ」

 

 黒井母には時雨。強い口調で話しているが、これは出会った時からずっとそうなので、黒井母もそれに対しては否定的な意思は見せない。睨むこともないため、時雨の言葉をきちんと噛み締めている。

 

「まぁアタシが素人であることは否定しないよ」

「なら素直に従ってほしいね。ここからは力業だけでどうにかなる相手じゃない。最後は暴力になるかもしれないけれど、そこに行くまでにはそれだとダメだよ」

「うーん、ぐうの音も出ないね」

「それに、他の子供達にもうみどりに向かってもらうんだ。君はそれを守ってくれればいいよ。守るためには強い力が必要なのは、今の状況を見てもわかってることなんだからさ」

 

 大発動艇での輸送だって、絶対安全とはいかないのだ。ならば、子供達を匿うなりなんなりして、より安全にうみどりに向かってもらった方がいい。熊野丸を信用していないわけではないが、子供達を安全に送り届けるためには、この『拡張』されたタコ脚は非常に便利と言えよう。

 

「それに、君は自分の子供と早く会ってあげなよ」

 

 そして、これが決め手となった。黒井母の子供、透と蛍は、今もうみどりで母の無事を願っている。なら、姿形は変わってしまったとしても、なるべく早く再会した方がいい。あちらも大きく姿が変わっているのだが、この際それはどうでもいいだろう。

 

「なるほどね、それはそうか。なら、アタシがこの子達の安全を保証しようかね」

「ああ、そうしてよ。そういえば、君は海の上は疾れるのかい?」

「さぁ、それは知らないねぇ。まぁやってみればわかるさね。出来なかったら出来なかった時だよ」

 

 ここで黒井母が撤退を呑んでくれたため、改めて部隊編成を考えることとなった。

 

 

 

 

 調査部隊は襲撃部隊としても成立せねばならないため、精鋭からさらに精鋭を選出するイメージとなる。要所要所で必要になりそうな力をピックアップしていくと、自然と部隊は決まっていくだろう。

 神風がその場で考えつつ、まずはより必要な順に名前を呼び上げていく。

 

「まず深雪と電は絶対ね。煙幕が対策されているとはいえ、ひっくり返すことも必要になるかもしれないもの」

「だよな。煙幕が役に立つなら、どうしても必要になっちまう」

「なのです!」

 

 深雪と電は確定している。狭い室内であっても、煙幕はその全体に満ち溢れることが可能であるため、ある意味全体攻撃にすることも可能。

 

「グレカーレの『羅針盤』も欲しいわ。敵を正気に戻せる可能性はあるならあった方がありがたい」

「ならウメもね。さっきの『舵』が壊せるのは梅だけだし。無理矢理引きちぎってもいいけどねー」

「梅が行きます……流石にそれは怖すぎるのでぇ」

 

 敵を正気に戻すことが出来る手段を持つ2人、グレカーレと梅は必須。

 

「出来損ないが止められる白雲もやっぱり必要ね。『凍結』は何処でも使える万能な力だもの」

「かしこまりました。この白雲、全霊で力を振るいましょう」

「となると、磯風も必然的に採用になるわね」

「範囲を拡げられるからな。任せてもらおう」

 

 白雲の『凍結』は拘束としては最も優秀と言える力だ。出来損ないもそうだし、『舵』が取り付けられていない敵は凍らせてその場に置いておくという選択も可能。

 その範囲を拡げられる磯風も、やはり必須枠となる。風で周囲の温度を下げることは、狭い空間ではさらに有用と言えよう。

 

 この時点で深雪とその周りを取り巻くいつもの面々は確定している。

 

「調査という時点で調査隊には来てもらいたいところね」

「では、響さんと白雪さんを。私は捕虜の護衛にあたらせてもらいます」

「あら、よかった?」

「何人かはそちらに行かねばなりませんから。それに、万が一のことを考えれば、そちらはそちらで重要な立ち位置になります」

 

 調査隊からは神通が自ら一歩引いた。熊野丸の輸送の護衛は必要不可欠であり、単純な調査能力だけで言えば、響と白雪とは少々ベクトルが違うので、こちらにつくことを選択。

 戦闘中の瞬時の判断力、調査隊ならではの観察眼に関しては、他に類を見ない程ではある。それを捕虜に使うことで、()()()()()()()()を常に見張る方向で考えている。

 

 そのため、響と白雪はここで選出された。特に白雪のいつものヤツは、今後も重宝するだろう。戦闘よりもそちら。

 

「狭い空間で戦うことになるし、先陣切って調査をしてもらうことも必要になるわよね」

「だったら子日を連れていきなよ。私は姿を消すことは出来ないからね」

「あら、ならそうしましょうか」

 

 川内からの推薦もあり、子日の参加が決まる。先んじての調査は2人の得意技であるが、子日はそれに加えて『迷彩』がある。姿を消して真正面から調べに向かうことが出来るのはやはり強力。川内には出来ない技。

 

「あとは切り札か。叢雲、大丈夫かしら?」

「ええ……ただ施設の奥で再起不能になる可能性があるけどいいの?」

「それだけ貴方の力は強いんだもの。頼りにしてるわ」

 

 叢雲の『標準型』も、切り札としては置いておきたい力である。触れるだけで敵の曲解が全て無効化されるのだから、阿手にだってそれがうまく行けば撃滅に一歩近付ける。

 

「あとは……」

「すみません、感情論になりますが、私も参加させてもらえませんでしょうか」

 

 ここで自ら名乗りを上げたのはフレッチャーである。

 今のフレッチャーは阿手に深すぎる程の恨みを抱いている丹陽の力をコピーしている。戦場に出られない丹陽に代わって、その力で復讐をするため。聞こえは悪いものの、仇討ちの代役を買って出ているようなモノ。ここで撤退してしまったら、丹陽の想いを果たすことが出来なくなる。故に、感情論。

 

「実際、戦闘面に関して不安は無いわ。それに、貴女にだって恨みはあるものね」

「……私の感情は置いておいてください。私でなく、私の中にいる彼女の感情ですから。でも、丹陽お姉様のそれは、私以上に深い」

「……少し危険ではあるけれど。いざという時は、丹陽でなく別の力をコピーしてもらうかもしれないわ。いいかしら」

「はい、構いません。それが勝ちに繋がるのならば、お姉様も納得してくださるでしょう」

 

 これでフレッチャーの参加も決定する。不安が無いかと言われれば100%の肯定は出来ないものの、フレッチャーは思慮深いところもあるので、身の振る舞いも考えられるはず。

 

「こんなところかしら。時雨、貴女は」

「おばさんが突然何言い出すかわからないからね。こちらにつくよ。夕立、君もこちらでいいかな」

「ぽい。夕立はおばさんよりも時雨の方が心配っぽい」

 

 何が心配なんだと不満を表情に出すが、いつものことなのでそれ以上は言わず。

 

「睦月は武器が無くなるから護衛の方がいいにゃし」

「俺の大発を武器と言うのはお前くらいだ」

 

 睦月はこうなると途端に非力となるため、護衛の方が性に合っているようである。

 

「暁と綾波も護衛につくわ。でも、連れて帰ったらまたこちらに戻ってくるでいいかしら」

「ええ、それでいいわ。暁は通信機器も持っているわよね。何かあったらすぐに連絡してちょうだい」

「勿論。綾波、進みたいのはわかるけど、暁達はどちらかといえばサポーターよ。そこは理解してよね」

「わかってますよぉ。残念ですけど、一般人を守るのも艦娘のお仕事、軍港の市民を守るのと同じですからねぇ」

 

 綾波だけは少し残念そうだが、熊野丸の護衛には強い面々がどうしても必要となる。何かあった時に頼れる者は、進軍する者よりも強くしておきたい。

 

「そして自分は熊野丸殿と共に。地下に入ってしまったら、艦載機も使いようがありませんので」

「ええ、よろしくね山汐丸」

「お任せを。常に艦載機も発艦させるのであります」

 

 山汐丸の護衛加入が決まり、これで部隊編成は終了──と思いきや、最後に1つ。深雪からの発言。

 

「神風はあたし達と一緒で良かったか?」

「……そうだったわ。私自身を決めてなかったわ。ええ、私も前に出る」

 

 神風は進軍側に加わって、これで本当に部隊編成は終了した。

 

 

 

 

 ここからは更に少数精鋭となった部隊になり戦う。まずは保健室に向かうことになるだろう。

 




進軍組
深雪、電、グレカーレ、梅、白雲、磯風、叢雲、子日、響、白雪、フレッチャー、神風

護衛組
熊野丸、時雨、夕立、川内、神通、睦月、暁、綾波、山汐丸
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