後始末屋の特異点   作:緋寺

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何を選ぶか

 前以て情報を手に入れていた保健室を調査したところ、固定されたベッドが地下へと繋がるリフトになっていることを確認。流石にそれに乗って不用意に地下に降りていくことはしなかったものの、上から覗くとそれなりに深いことが確認出来た。

 

「さて、ここが1つ道であることがわかったけれど、もうここから降りていくかい? それとも、もう一つの情報である配膳室に行ってみるかい?」

 

 情報では保健室から地下に向かえそうであるということ以外にもう一つ、薬を仕込んだ給食が用意されていたであろう配膳室が存在している。

 こちらも地下に通じていそうな場所であり、島を今のカタチに貶めた物的証拠も見つかりそうなモノ。そこに向かうことも視野に入れてもいい。

 

 その理由に、この地下に繋がるルートの深さがある。当たり前だが梯子などは存在せず、真っ直ぐ降りるだけの穴がそこにあるだけ。この穴にダイブするのは流石に選択出来ない。いくら艤装のアシストがあるからと言っても、高度から飛び降りるのはただ怪我をするだけの可能性が高い。

 その上で、降りた先に何が待ち構えているかもわからないと来た。着地した瞬間に忌雷や『舵』があることも考えられるし、単純に敵が待ち構えて着地狩りを狙ってきていることも考えられる。この状況で空のベッドが降りてきている時点で警戒しない理由がないし、そもそも外での情報は筒抜けでもあるだろう。

 

「配膳室ならここよりも地下に向かいやすい道があるかもしれない。ただ、当然だけど今から時間をかけることになる。あちらの狙いがわからない以上、時間をかけるのは惜しいというのはあるね。でも、こんな危険な穴に飛び降りるのもなかなか難しい話さ」

 

 どちらを選ぶにもメリットとデメリットがある。どちらが重いかを選ぶのもそれなりに考えさせられる。

 

「もしこの下に敵が待ち構えているのならば、この白雲と磯風様で先んじて冷やしておくということは可能ですね」

「ああ、それである程度蹴散らせるなら、やっておきたいところだ。密室ならば冷やすのも早い」

 

 敵が待ち構えているのならば、白雲と磯風の連携で穴の下まで凍結させてしまうというのも考えられる。だが、響がそれを止めた。

 

「私達が降りれなくなるよ。降りれたとしても登れなくなるね」

「……壁まで凍り付いたら、滑って手も付けられませぬか」

「そういうことだね。君の鎖でも苦しいだろう?」

「長さが足りませぬ。ぱっと見でも」

 

 凍りつかせたら、この穴が逆に危険になるだろう。どうにか手をついて降りることが出来るかなど考えることが出来なくなる。身軽な子日ですら滑って足場に使えなくなる程に。

 行くだけでなく、戻ることも考えなければならない。攻撃として考えるなら効率がいいが、全体に視野を拡げるとやらない方がいい。自分達が損をする。

 

「私は一度配膳室に向かうことを提案させてもらうよ。あちらに時間を与えるのは気に入らないけれど、調べ尽くした後に降りる手段を考えた方がいいと思うからね」

 

 リフトになっているのだから、もう一度上げて、数人乗り込んで降りていくということも出来るかもしれないが、今ここにいる面々は艤装を装備した艦娘だ。重量オーバーになる可能性は普通にある。

 そもそも、あのヤンキーの証言から考えると、ここで改造された生徒達は艤装も与えられずに深海棲艦にされ、いざ戦うとなった時に港の役所で受け取ったというくらいなのだ。最初からここで渡さないのは、場所の広さなどもあるだろうが、重量も関係するだろう。特に戦艦棲姫の生体艤装なんて、目の前にある穴では通らないだろうし、重すぎて上げてくることも出来そうにない。

 

 結果、これ以上のこの穴を安全に降りる手段を誰も思いついていないからだ。

 

「配膳室にも地下に行ける道があることを願っているよ」

 

 響の提案に全員が乗るカタチでここでの議論は終了する。安全第一はうみどりでも基本。入り口が穴となれば、避けられるならば避けた方がいい。

 

 

 

 

 一行は続いて配膳室に到着。教室と同じくらいかそれ以上の大きさの部屋に、給食を持ち運びするカートなどが置かれていることを確認した。

 

「ここはあまり片付いていないのね。持っていくようなモノなんてないけれど」

 

 まだ部屋の中には入らず、扉から中を軽く眺めているだけだが、他の部屋よりはモノが多く見えた。ここにあるモノが見られたところで、何も痛いことはないということなのだろう。

 事実、見ただけではここでやられていたことなんてわかることがない。配膳されていた給食が残っているわけでもなし、配膳していた者がそこに居座っているわけでもなし、証拠と言えるモノが何一つとして残っていない。

 

 残っていないのだが、そこからでも目敏く見つけるのが調査隊である。

 

「足跡だ。ついさっきまでここを使っていたという証拠さ。給食の配膳をするだけの部屋が綺麗だなんて、おかしいと思わないかい」

 

 深雪達にはその足跡が見えなかった。だが、響にはそれがハッキリ見えているという。しかも、その足跡は他のところでも見ていると話す。

 

「あたし達にはわからねぇんだけど……」

「学校にはありえない傷がついていたんだ。微かにだけどね」

「ありえない傷?」

()()()()()()()()()()()。鎮守府にもついていることが多いね」

 

 そんなものあるのかと深雪は廊下を凝視するものの、ぱっと見では全くわからない。舐められる程目を近付ければわかるかもしれないが、それでも本当に微かな傷である。

 響は非常に目がいい。そういうモノもすぐさま発見する。だからこそ、調査隊として常に抜擢されている程である。

 

「つまり、艤装を装備したままここにいたという動かぬ証拠さ。そしてその足跡は、こちらに続いている」

 

 響が指差す方向は、配膳室にはよくある小型エレベーター。いわゆる小荷物専用昇降機というもので、上階へと給食を運ぶために設置されたモノである。ここのモノは、カートをそのまま移動させるくらいのサイズ。

 極端なことを言えば、人1人くらいなら入れるが、艤装を装備した艦娘や深海棲艦がここに入るのはかなりギリギリかというほど。

 しかし、足跡はそちらに繋がっているというのだから、何かしらあると思ってもいいだろう。

 

「この昇降機が偽装で、他に何かある可能性もある。少し調べさせてくれないかい」

「ええ、お願い。そういうのは貴女達が一番よ。私達がとやかく言うことはないし、出来ないわ」

 

 神風からも許可が出たため、響と白雪が昇降機を調べ始める。

 そうしている間は何が出来るわけでもないため、周囲を警戒しながら何事もなくそれが終わるのを待つことになるのだが──

 

「浮かない顔ね、叢雲」

 

 この調査中に、神風が少々複雑な表情をしている叢雲に声をかける。

 今の部隊の切り札たる力を持つ叢雲だが、その力を発揮するまではどちらかと言えば非常に()()なスペックであり、戦闘ではどうしても後れを取るようなことも多い。今も槍を握りしめながら周辺警戒に精を出しているモノの、一歩引いて行動しているのは誰の目から見ても明らか。

 

「……どうしても思い出しちゃうのよ」

「思い出す? ああ、そういうこと」

 

 この場所は、何の罪もない島民の子供達を自らの手駒とするべく、薬入りの給食を配膳するために作られたモノ。そしてそれは、叢雲が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 海の平和を守るために艦娘となった者達を、悪である義父と共に陥れていたことを嫌でも思い出してしまう。こうして人生を壊してしまった艦娘が何人いるだろうかと、こうして警戒しながらも頭を駆け巡る。

 

「気にするなとは言えないけれど、貴女はそれが悪いことだと理解もしてるし、ちゃんと反省してるから、私は充分だと思うわ。ここでそれを思い出してしまうのも、貴女がわかっている証拠じゃない。苦しいとは思うけれど、だからこそ」

「だからこそ、私は私の足で前に進むわ。こんなことをする奴を許しちゃおけない。私も含めてね」

 

 今はそれでいいと神風は微笑んで頭を撫でた。この戦場で後ろ向きになるのではなく、それを力に変えることが出来るのならば、その背を押してやる。

 

「それに、私がやらされてきたこと、ここがある意味原点みたいなモノでしょ。だから、苦しい気持ちもあるけど、気分が悪いのも結構大きいの。これが無ければ、私は違った道を歩けていたかもしれないと思うと」

「……そうね。今から向かうのは、何人もの人生を滅茶苦茶にしておきながら、自分のことしか考えていない最悪な敵よ。その怒りを、その馬鹿にぶつけてやりなさい」

「ええ。私が出来るのは、高次とか言ってる力を消し飛ばしてやることくらいだけどね」

 

 フッと小さく笑い、叢雲は今出来ることを自覚して、全力を尽くすと宣言する。この島で行なわれていた悪虐非道な行いを許すことなく、自分にも厳しく、しっかり前を向いていた。

 

 そんな叢雲を遠巻きに見て、深雪は声をかけることはなかったが大いに喜んだ。開き直っているわけでもなく、しかし後ろを向かず、今自分に出来ることを全力でやろうとしている妹を、祝福しない理由はない。

 心の中で頑張れと応援する。これには願いも何も必要ない。叶えるならば、叢雲自身の力で叶える。特異点の力なんて必要ない。

 

「見つけたよ。相変わらず大人数ではいけないけれど」

 

 そんな話をしている間に、響と白雪が調査を終える。

 

「昇降機に見せかけて、地下に繋がるエレベーターがあった。全く、用意周到すぎる。ここまで隠すのは、疾しい気持ちがあるってことに他ならないだろうに」

 

 響が他の者に見せたのは、昇降機のさらに奥。普通なら見ないような場所。エレベーターの奥にさらにエレベーターがあるような造り。

 昇降機の扉を閉めず、リフトだけ上に移動させたら現れる新たな通用路。その奥にある昇降機よりも大きな扉。その動作も、普通なら出来ないように細工されており、白雪だからこそそれをこの場で再現出来た。

 

「カラクリ屋敷かよ。それとも、島の連中にはこの先には来させたくないから隠してるってか?」

「まぁ、島民に余計なことをされたくないから隠しているというのはあるだろうね。選ばれた者だけが先に行けるとでもしているんじゃないかな」

 

 おそらくほぼ全ての島民が学校にこんな仕掛けがされているなんてことは知らない。この島出身であるトラや居相姉妹も、この辺りは知らなかっただろう。

 

 

 

 

「さぁ、ここでまた選択だ。ここから向かうか、保健室から向かうか」

 

 入り口がさらに見つかったが、ここからどうするかはここで決めねばならない。学校はこうだが、他にも道があることは既に示されている。この選択は、天国か地獄かの分かれ道になるだろう。

 

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