「さぁ、ここでまた選択だ。ここから向かうか、保健室から向かうか」
響から提案された選択肢。今いる配膳室に設置されている小荷物専用昇降機の裏に隠されたエレベーターを使うか、保健室のベッドが地下に降りていったことによって出来上がった直通の大穴を使うか。
どちらにしても、敵からの待ち伏せが考えられる。保健室のリフトは既に下ろしてしまっているため、もしかしたら既に降りてくるのを待ち構えている可能性がある。対する配膳室のエレベーターはまだ動かしていないとはいえ、つい最近この部屋についたであろう艤装の傷が床に残されていた。尚のこと待ち伏せを警戒するべき。
「ああ、そうだ。もう一つ、ここまで入口を見つけたけれど、杏から情報を貰っている。学校の外、森の中に一方通行とはいえ入り口があることは聞いているよ。おそらく、その通路も白雪が開くことが出来るだろうね」
「電子制御なら多分大丈夫です」
表情も変えず言ってのける白雪である。
「とはいえ、私としてはそちらは地下に侵入した後の脱出口として考えた方がいいと思っているけどね。エレベーターもリフトも、出口として使うには難しいからね」
「なら、結局入るのは学校からの方がいいってことかしら」
「私はそう思うね。断言は出来ないけど」
もしかしたら他にもまだまだ出入り口が用意されているかもしれない。だが、そろそろ時間も押してきているだろう。響はその辺りを考慮して、ここで選択肢を提示している。
敵はまだこの島から出ていないかもしれないが、いい加減時間を使わされ過ぎている。逃げないにしても迎撃の用意は充分に出来ているだろうし、それこそもう逃げ果せているのならば、最後の仕上げをされるかもしれない。阻止するためには、早々に前に進むべきである。
「なら、ここから行きましょう」
その決断は、神風がした。保健室には戻らない。この配膳室から地下へと向かう。
「私が勝手に決めちゃってるけど、ここから行くって言った理由もあるわ。ちゃんと説明する」
保健室ではなく配膳室を選んだのは、リフトではなくエレベーターだからである。その構造からして、下に降りやすいのは間違いなくエレベーターだと断言した。
だが、ここでどうしても疑問は出てくるだろう。やることは同じであり、機械任せに降りていけば、結局は待ち構えられる。
「まずは見た方が早いわね。白雪、
「やれると思いますよ」
神風に言われ、白雪が前へ。保健室と違い、小荷物専用昇降機の奥ということで若干狭いものの、それでも白雪1人くらいならギリギリ入れたので、そこからコンソールを探し出して接続し、無理矢理扉だけを開いていく。ここから下がるための操作パネルがあったので、そこから簡単にハッキングしてしまった。
すると、その向こう側にはエレベーターのカゴ部分は存在しておらず、空間の中にロープが鎮座しているのみだった。
扉の向こうは保健室のベッド跡と同じで落とし穴。前進していたら落下というなかなか怖い状況。
「やっぱりそうよね。下に向かったなら、わざわざ上に戻しておくなんてことはしないわよね」
「こちらでまた下ろうと上に呼び出したら、こちらからの侵入がそのままバレてしまうところだったね。そうでなくても、待ち構えているとは思うけど」
「でも、これなら保健室のそれより降りやすいでしょう。だって、そこに掴めるロープがあるんだもの」
そこが保健室の大穴とは全く違う部分である。ただ真下に落ちるしかないリフト降下後と違い、エレベーターはカゴを支えるロールがど真ん中にある。気をつけなければならないが、そのロープを伝っていけば、少なくともカゴの真上、誰かが降りた階層のすぐそこまで行ける。
ロープに通電しているようならば掴むこともままならないが、それはそうなっておらず、また、流石にエレベーターの上部に罠を仕掛けるような面倒なことはしていないようで、スムーズに降りることが出来ると確証を持つことが出来た。
とはいえ、慢心は絶対にしない。変にロープを掴みながら滑り降りると、手のひらがズタズタになってしまう可能性もある。ここでもあくまで慎重に。早急に降りたいからと、滑るように降りることは厳禁。
「ここからなら、保健室よりも確実に侵入しやすいと思ったの。どうかしら」
この光景を見せられたら、誰もが納得する。保健室よりも確実に安全。
「これなら子日もスッと行けるよ。戻ることも簡単そう」
ここで一旦白雪には配膳室に戻ってもらい、代わって子日が前に出て、エレベーターのロープを特機にも調べてもらい、大丈夫である確証を得た。
「私のこちらも使ってください」
「ありがとー。多ければ多いに越したことはないもんね」
白雪は先んじて『増産』の特機を自らに寄生させているため、安全確保のために数体増やして子日に預けた。
「それじゃあまずは主砲を外してっと」
手を包み込む主砲ではロープを掴めないので、ちゃんと外して基部にマウント。そこから改めてロープ伝いに降りていく。
増やしに増やして穴に投入するという策も無くは無いのだが、それではあちらに特機の解析を許してしまいかねない。すなわち、特異点の力を向こうに渡してしまう可能性がある。そのため、大量増産は控える方向に落ち着いている。拠点防衛などに使うならその限りでは無いが。
ここでもロープに特機をビッシリと這わせるなんてことはせず、数体を先行させて下に向かわせ、それを子日が追うようなカタチで下へと降りていくことになった。この時、『迷彩』を使って音すら立てずに、なるべく迅速に、しかし慎重に。
「ちょっと深いけど、これなら普通に行けるかな。大体ビル5階分?」
降りながらおおよその深さを計算している子日。そこまで細かいことはわからないが、少なくとも先程学校を壁伝いに登って屋上まで行った時より距離があると感じた。
今は悠々と降りているが、登りは少々キツイかとも考える。エレベーターのロープがあるため、それを伝っていけばまだマシではあるが、そうでなければ壁を蹴りながら登れるのはおそらく子日と神風くらい。運動神経抜群な深雪であっても、これは難儀しそうである。
また、降るのもヒトによってはかなり厳しい。ロープ伝いに降りるのも、それなりの腕が必要だ。そういうところで不安なのは、電辺りになるか。
「よし、到着」
静かにエレベーターのカゴの上に降り立つ子日。『迷彩』のおかげで着地時の音も消され、もしそこに誰かいたとしても気付くことはない。
暗くて見づらいモノの、そこはやはり特機の手腕が発揮される。カゴの上部を特機が弄くり回し、侵入出来る場所、それこそ蓋のようなモノが無いかと探り始めた。
すると、やはり点検用に作られているであろう出入り口らしきモノを発見。しかし、少々都合が悪いことに、その入り口が人1人通れるくらいの大きさしか無く、艤装を装備していると通過が出来ない。細身であってもこれは不可能。艤装を外さない限りは無理。
とはいえ、エレベーターに誰かが乗っているというわけでもなく、『迷彩』さえあれば、ここでの作業も出来ないことは無さそうである。
「2人くらいなら……ギリギリ行けるかな。よし」
ここで子日、今までの行動を逆回しにするようにスルスルとロープを登っていき、もう一度配膳室まで戻ってくる。
「梅ちゃん、お願いしたいことがあるんだけど」
「えっ、も、もしかして」
「カゴだけ『解体』してほしいんだよね」
「やっぱりー!」
梅もこれにはやれるのかと不安になるほど。身体能力が特段高いわけでは無いため、ロープを伝いながら降りていくというのはなかなかに度胸がいる。後始末屋として不要なスキルであるため、梅はそういうことをするのも初めてである。
とはいえ、艤装を装備しているのならばこれくらいは多少無理が利く。握力なども補強されるため、ロープを握って自分がズルズル落ちていくこともないだろう。
ただひたすらに、
「だいじょーぶだいじょーぶ。ロープは簡単には切れないし、しっかり掴んでおけば降りることは出来るからさ」
「え、えぇえ……でも、が、頑張りますぅ」
だが、ここで留まっていては先には進めない。梅も勇気を振り絞って前進。エレベーターのロープを恐る恐る掴んで、そして飛びつく。
「あ、思いの外、支えられますね」
「でしょ? 艤装のアシスト、結構すごい」
本業で無くてもこういうことが出来るのが艦娘。恐怖を乗り越えてしまえば大概やりたいことはやれてしまうこと。
子日のようにスイスイとはいけないモノの、慎重にゆっくりと降りていった。子日のおかげでそれが外に気付かれることもない。自分だけで無く、ある程度至近距離ならば周りにも『迷彩』を施すことが出来るのが強みである。
「と、到着です。じゃあ、やりますね」
「うん、よろしく!」
エレベーターのカゴの天井に辿り着いた梅は、ロープを握り締めながら足下に『解体』を発動。すると、即座に天井からボロボロと崩れ落ちていき、すぐに艤装を装備していても通過出来るくらいの大穴が空いた。
ボロボロと落ちた残骸はカゴの中に落ちていくが、その音すら『迷彩』で掻き消しているところが抜け目ない。
「よーし、じゃあここの扉を開けてもらおう。白雪ちゃん呼んでくるね」
「3人ここに立てますかねぇ……」
「じゃあ、梅ちゃんも一度登ろっか」
「……え゛」
「だーいじょぶだいじょぶ。降りるのも登るのも似たようなモノだから」
結局、梅を先行させて配膳室まで戻し、白雪を改めて降ろして、エレベーターの扉を開くことになる。時間はかかるが、確実に全員で攻め込める状態を作り出すことに成功はした。
「子日が『迷彩』利かせておくから、ちょちょいのちょいでよろしくね」
「はい、すぐに開きます。正面に敵がいたら、よろしくお願いしますね」
端末に接続して、すぐさま扉を開く。その先に待つモノは──