後始末屋の特異点   作:緋寺

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うみどりの戦力

 小規模の後始末の最中、突如現れたカテゴリーR。そのため、作業は一時中断。まず作業している者達はうみどりへと戻り、その襲撃に備え、大急ぎで戦うための兵装に換装することになる。

 そうしている時も、伊豆提督とイリスは敵の勢力を分析。誰に対処させることが最も効率がいいかを即座に判断した。

 

『放送でごめんなさいね。あちらは水雷戦隊みたい。軽巡の姫……おそらく軽巡棲姫に、厄介な駆逐艦達が5体よ。今から言う子はすぐに出撃準備をして対処をお願い。旗艦は那珂、随伴に神風、子日、秋月、伊26、伊203。嫌な予感がするから、秋月は対空も出来るように両用砲で行くこと』

 

 伊豆提督からの指示で出撃するのは、那珂を旗艦とした水雷戦隊に潜水艦を加えた部隊。夜の海であり、相手が水雷戦隊であるならば、大型艦より夜戦が得意であり、速さを重視した速攻を選択。さらにそこに、夜の潜水艦という回避性能を最大限に活かした死角からの一撃も加えている。

 伊豆提督の嫌な予感というのは、ここ最近の敵の傾向である。今の敵は困ったことに人間の手が加えられている可能性があるのだ。駆逐艦が軽巡洋艦の主砲を装備していたり、本来魚雷を使わない戦艦水鬼が雷撃を放ってきたりと、異常事態が発生するかもしれないのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、秋月に対策を積んでいる。

 

 深雪と電はまだようやくVR訓練を始めたところであり、夜戦に関しては初心者どころではない。ここで仮想ではない()()()()()を経験させるのはまだ早いと判断した。

 

「電、落ち着いて装備だけしておくぞ。あたし達に出番は無いかもしれないけど、戦える準備はしておかなくちゃな」

「……なのです。うみどりを守るために、ですよね」

「ああ。まだまだ弱っちくても、やれることはあるはずだから」

 

 しかし、万が一のことを考えれば兵装の装備は怠ってはいけない。緊急時には援軍として出撃せねばならない。ここから敵が増えるようなことがあれば尚更である。

 うみどりを守れるのは、出撃()()()()()者達だ。勿論、長門や妙高、三隈など、深雪と電よりも練度も高ければ力も持つ仲間ばかり。だが、深雪も電も戦える力自体は持っているのだ。だから準備だけはする。

 

「深雪ちゃん、電ちゃん、無いとは思いたいけど念のため」

 

 準備をするうちに酒匂が睦月と梅を連れて二人の前に。

 

「救護班の子日ちゃんと秋月ちゃんが出撃してるから、万が一のことが起きた場合は救護班の仕事を手伝ってもらえるかな」

 

 その万が一というのは、襲撃してきたカテゴリーRの水雷戦隊に攻撃を受け、仲間が重傷を負ったときだ。うみどりが近場に停泊出来ているとはいえ、大急ぎで運び込まなければ命に関わる怪我を負うかもしれない。そうなった時、酒匂と睦月だけでは手が回らなくなる可能性があった。

 勿論、深雪と電だけではない。梅も駆逐艦の仲間として、救護班の手伝いをするつもりだ。残った駆逐艦は全員で救護班の手伝いをしようということになる。

 やらずに済むならそれでいい。しかし、控えておかなければ何かあった時に余計な被害が発生する。ならば、準備しておくに越したことはない。

 

「いいぜ。素人でも出来るなら」

「そこは大丈夫。怪我人をゆっくりと運ぶだけだから。応急処置は酒匂達でやるから。梅ちゃんには大発を装備してもらってるから、そこにゆっくり乗せてくれればいい。細かいことがあれば説明するからね」

 

 先日見ている救護が必要な重傷者を思い出す深雪と電。最も重傷だった朝霜は脚を失っていた。そんな仲間を運ぶためには、それこそゆっくりと運ぶ必要があるだろう。大発動艇ならそれが可能。

 

「電でもそれくらいなら出来そうなのです。是非やらせてほしいのです」

 

 戦いには抵抗があるが、こういった仲間を救う行動と知れば、電もやる気満々になる。お願いされずとも手伝いたいと、率先して参加を表明。

 

「うん、ありがとう電ちゃん。そうならないことを祈りながら待機、だよ」

 

 そう返しながらも、少々特殊な双眼鏡を使って、工廠から外を確認。戦いの一部始終を直接見ることによって、ダメだと思った時にすぐ向かえるようにしていた。

 その双眼鏡は酒匂だけのものではない。妖精さんが人数分用意しており、一人一人にそれを渡した。

 

「すげぇ、夜なのにハッキリ見えるぜ」

「なのです。これなら何かあった時にすぐに駆けつけることが出来そうなのです」

 

 睦月や梅も同じように、酒匂の見ている方を眺めていた。深雪と電もそれに倣うカタチとなる。

 

 

 

 

 うみどりから離れた海域。準備をしている間に、深海棲艦の水雷戦隊には既にうみどりが射程圏内に入っていた。

 

 深海棲艦が真っ先に繰り出したのは、魚雷。いわゆる先制雷撃。軽巡棲姫の外、引き連れてきている駆逐艦からも一斉に放ってきた。

 先制雷撃は艦娘でも深海棲艦でも上級な技術ではあるのだが、上位種になると、イロハ級であっても当たり前のように扱える。それは艦娘達にとっては戦いの開幕にやってくる脅威である。

 

「こんな海域にそこまでのが来るなんて、どういうことなのかな。それじゃあみんなぁ、一斉回避ーっ!」

 

 だが、先制雷撃を脅威とは思っていても、恐怖には繋がらない。先陣を切る那珂の合図と同時に、海上にいる全員がステップを踏むように魚雷の隙間を縫っていく。接触による誘爆を防ぐために多少なり隙間があるのだから、そこに足を置けばいい。

 それはまるで、センターで歌って踊るアイドルと、それに合わせて踊るバックダンサー。アイドル活動によって身体に刻まれたステップは、雷撃回避に活かされる。

 

「子日ちゃん、お願ーい!」

「やっほーい! うみどりに当たっちゃうもんね!」

 

 さらには、子日による追撃。ステップを踏みながら振り返ると、通り過ぎた魚雷に向けて両手を包み込む形状の主砲を連射。突発的に狙いを定めたとしても、あまりにも照準が合いすぎており、一発一発が的確に魚雷を撃ち抜いていく。

 そのまま進んでいたらうみどりに直撃していた魚雷も、子日の砲撃によって全てが爆散。爆発は誘爆を生み出すため、この先制雷撃は悉く破壊され、誰にも被害を出すことは無かった。

 

 逆に、敵深海棲艦の5体いる駆逐艦のうち2体が突如爆散。那珂達は攻撃すらしていないため、その理由は海上には無いもの──潜水艦による一撃。

 

「驚いちゃったかな? 魚雷はそちらの専売特許じゃないもんね♪」

 

 潜水艦の武器は魚雷しかないと言っても過言ではない。その分、ある程度の練度があれば先制雷撃もお手のもの。伊26も伊203も、トップクラスの練度を誇るため、この辺は当たり前のように繰り出せる。

 そして、その精度も並ではない。その一撃は確殺に近い。姫が狙えなかったのは、海中に接している部分が小さいために狙いにくかったから。まず随伴艦を減らすことで、仲間達の戦いを楽にする。

 

「クチオシヤ……ニクラシヤ……」

 

 ここで、軽巡棲姫の声が聞こえるようになる。その声には怒りと憎しみが乗り、空気を振るわせるような威圧感を含んでいた。

 しかし、那珂はまるで意に介さない。いつもの微笑みを携えたまま、手に持つマイク……のような形状に加工された探照灯を向け、その姿を照らし出す。

 

 照らし出された軽巡棲姫は、見た目からして殆ど人間。顔の半分を隠す黒い仮面が異形感を出しているものの、それ以外は人間であると言われても騙されてしまいそうなほど。

 上位種になればなるほどヒトのカタチを取る傾向にある深海棲艦。この姫は、やはり実力は上の方と言えるだろう。

 

「うーん、その仮面が無かったら、いい線行くと思うんだけどなぁ。みんなで歌って踊って楽しく過ごすってことは出来ないかなぁ?」

 

 そんな相手であっても、ヒトのカタチをしている存在なのだから、話が通じるかも知れないと一応声をかける那珂であったが、深海棲艦はどこまで行っても深海棲艦。理性などなく本能のままに行動する。左腕を大きく包み込む主砲を那珂に向けて構えた。

 その先端には青白い探照灯。夜戦に特化したような艤装を持つ軽巡棲姫は、その灯りを那珂に向けて照射する。

 

「スポットライトは嬉しいけど、それって周りの子が見えなくなっちゃうのが良くないよね。主役は那珂ちゃんかもしれないけど、本当に気をつけなくちゃいけないのは那珂ちゃんじゃないよ?」

 

 その瞬間、軽巡棲姫を守るべく存在している随伴艦が、何かをする暇すら与えられずに断末魔の叫びを上げた。今度は魚雷ではなく、単純な砲撃が眉間を貫いており、それによって絶命。そのカタチを崩すことなく終わっていた。

 

「悪いけれど、視線から外されたらすぐに終わらせるわ」

 

 それを放ったのは神風。拳銃のような特殊な主砲を構え、暗がりでも照準を狂わせることすら無い。本来なら両手で構えてブレを無くすのだろうが、それすらせずに狙い撃つ様は、()()()()()()()ことを示していた。

 また、あえてカタチを残していたのは()()()()()()()()()()()()。なりふり構っていられないほど強い敵ではないと言っているようなものである。

 

 こうなっては、本能のままに行動する深海棲艦は、半狂乱になってもおかしくない。チームワークも無く、怒りと恐怖に呑み込まれて、その暴力的な力を余すところ無く吐き出す。

 軽巡棲姫は那珂に狙いを定め突撃。随伴艦の駆逐艦も暴れ回るように主砲を乱射し始める。普通ならばその乱射は近付くことも一苦労させられる密度の攻撃だ。

 

「それ、隙だらけなのよね。狙いも定めていないんだもの」

 

 しかし、神風にはまるで気にならない攻撃である。背中に携える身体に対して大きな艤装にすら掠らせることなく回避して、主砲を片手で流れるように砲撃。またもやその砲撃が駆逐艦の眉間を貫く。

 

 残りの随伴艦が既に1体となったことに焦りを見せ始めたか、軽巡棲姫は那珂を確実に始末するために驚異的なスピードを発揮して急接近。深海棲艦でこの速力は普通ならあり得ないとわかり、那珂は()()()()()()()()()()と判断した。

 ならば、スピードだけでは終わらないかもしれない。雷撃を放つ戦艦水鬼の件もあるが、()()()()()()()()()()とは限らないのだから。

 

「那珂ちゃん、少し離れてください!」

 

 叫んだのは秋月。この接近から何かに勘付いたのか、装備した両用砲を軽巡棲姫に構える。

 

「おっとっと、これってもしかして」

 

 言うが早いか、軽巡棲姫の左腕から砲撃が放たれると同時に、()()()()()()()()()。本来ならばあり得ない攻撃。いくら深海棲艦だとしても、軽巡洋艦であるこの姫が、航空巡洋艦の真似事をするなんてデータは何処にもない。

 いち早く気付いていた秋月は、発艦した艦載機を的確に撃墜する。それが高い位置で無くても、艦載機なのだから、防空駆逐艦の本領を発揮した。

 

 その艦種故に、艦載機の気配には人一倍敏感。本来の軽巡棲姫とは違う挙動をした上に、艤装の一部に改造されているような部分が見えたことから、直感的に行動をしている。

 それが間違いなかったのは、秋月のこれまでの経験則があってのこと。また、伊豆提督が前以て予測していたこともあったため、そこに警戒していたというのもこれが出来た理由となった。

 

「うーん、わかり合えないかなぁ。歌はみんなを救えると思うんだけど」

「ニクラシヤ……」

「もう何が憎いかもわかってないんだよね。理性が無いもんね。じゃあ……ごめんね、ファンになってもらいたかったんだけど」

 

 少し離れて砲撃を回避したかと思いきや、今度は逆にステップを踏み一気にゼロ距離まで詰めてしまった。砲雷撃戦では、イロハ級ならまだしも、姫の強固な艤装を貫くことは難しい。特に軽巡棲姫の左腕の艤装は並ではない強固さを誇っている。

 それ故に、確実に当たる距離まで当たり前のように近付く。那珂はこれを()()()()()()()と称していた。

 

「アイドルらしいダンスじゃないけれ、どっ!」

 

 そして撃つわけではなく、左腕の艤装を()()()()()。やっているのは、魅せるためのダンスでは無い。

 その蹴りは見た目からは考えられないほどに強烈であり、狙いを定めていたはずのそれがかち上げられた。

 

「ナニッ……!?」

「物騒なモノはぁ、アイドルに向けちゃあダメなんだよ♪」

 

 そして、艤装に接続された主砲により、そのまま砲撃を放つ。狙った場所は、艤装では無く、素肌が見えている脇。そこに直撃したということは、

 

「グッ、アァアアアッ!?」

 

 当たり前のように()()()()()。それで軽巡棲姫は殆ど攻撃するための武装を失ったようなモノ。右腕にも機銃が備え付けられているものの、左腕を失ったことで、半狂乱になっていた。

 

「ごめんね。でも、那珂ちゃん達も死ぬわけにはいかないの。海の平和を乱すなら、こうなっちゃっても仕方ないよね。だって、そちらも那珂ちゃん達を同じようにしようとしてるんだもん」

 

 深海棲艦の黒い血をモロに被ってしまうが、那珂は気にすることなくその身体をトンと押す。

 瞬間、那珂の後ろから跳んできた子日が心臓に一撃入れた。胸が抉られたことによって、軽巡棲姫は即死した。

 

「随伴艦もおしまい。なるべくバラバラにならないようにしておいたわ」

 

 残っていた駆逐艦も、神風が終わらせていたため、襲撃者はこれで全滅。うみどりは守られたことになった。

 

 

 

 

 この一部始終を見ていた深雪と電は、そのあまりの強さに口が開いたままになっていた。

 




那珂ちゃんも相当な実力者であることがわかる回となりました。ダンスって言ってもいっぱい種類がある。
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