後始末屋の特異点   作:緋寺

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エレベーターホールの戦い

 子日の調査と梅の『解体』により、エレベーターのカゴは解き放たれ、数人ならばロープを伝って下に降りて来られるようになった。さらに扉を静かに開くため、白雪に降りてきてもらい、端末をハッキング。そのまま扉を開いていく。

 今は子日の『迷彩』が発揮されているため、その姿は見えない。さらに、初めてこの力を使った戦標船改装棲姫と同様に、ある程度の範囲ならば自分と同じように隠せるため、今は白雪も巻き込んで完全に隠れている状態。

 

「何もないことを祈るけど……っ」

「待ち伏せは覚悟した方がいいですよ」

 

 扉が開き切ったことで、2人の目の前に広がる光景は、少しは予想していたモノだった。

 

「出来損ない……っ」

 

 そこにいたのは、群れとまでは行かないが、そこそこ多めの出来損ない。ぱっと見で6人ほどであり、そのどれもが改造に適応出来ず命を失ったタイプ。それがかなり近い位置に立っていた。それだけでも大声を出してしまいそうなくらいに焦る。

 しかし、素直にエレベーターを使い、かつ『迷彩』が無かった場合、このカゴの中に一斉に押し寄せてきていた。ゾンビパニック物の映画ならば、間違いなく死んでいたシナリオである。それを考えるとゾッとするものである。

 

「よ、よかった……扉が開くの待ちされてると思ったから、『迷彩』もそこまではダメかと思ったよ……」

 

 子日の『迷彩』によって、あちらはエレベーターの扉が開いていることにも気付いていない。自分の周囲の風景、音すら欺瞞するのがこの力の恐ろしいところ。これに気付くことが出来るのは、子日の彩が見えるイリスと、その力をコピーした場合のフレッチャー、あとは目のいい妖精さんくらいである。

 

 また、出来損ないがそこいるだけならまだしも、それを『操縦』する誰かや、そうでなくても監視をしている敵がいてもおかしくない状態である。ただ出来損ないを置いているだけで終わりとは到底思えない。

 そちらの敵が『迷彩』すら看破する力を持っているなら、ここで止まっている時間すら惜しい。前例として、伊26が海中ならば『迷彩』持ちを感知出来る『ソナー』を手に入れているのだ。あちらにそれと似たような力が無いとは限らない。

 

「入れ替わりますか。私より、白雲ちゃんや磯風さんの方がここは戦いやすいでしょう」

「だね……でも、子日も入れてここに3人はちょっと厳しいかも……っ」

 

 決して広くないエレベーターのカゴ。子日と白雪が共にいるだけでかなりの面積を占めてしまっていることを考えると、白雪がここから一度配膳室に戻り、白雲と磯風を同時に参加させるのはかなり厳しいと思われる。

 

 故に、戦術は決まった。

 

「白雪ちゃん、急いで呼んできて。子日が抑え込む」

「……わかりました。すぐに呼んできます」

 

 言うが早いか、白雪はすぐにロープを伝って上に登っていく。『迷彩』の範囲から外れてしまうものの、エレベーターの中であるならば、敵に見つかるようなこともない。

 これで子日が1人残されることになるが、出来損ないはそれに気付いていない。まだ気付かれていないうちに、ここから先へと進んで出来損ない以外の戦力があるかを調査する。

 

 子日の願った力は、自分が先行して仲間の道を切り開く力。この『迷彩』によって、この細い道をこじ開ける。

 

「……よし、気付かれてない」

 

 眼前の出来損ないに触れることも危険と判断した子日は、扉の縁を掴んで身体を支えながら、勢いよく跳んだ。

 エレベーターの扉も艤装を装備した艦娘が通過出来るくらいには大きめに作られており、さらにその向こうはエレベーターホールのように広めな空間だったおかげで、その一跳びで空間の向こう側まで移動することが出来た。

 

 しかし、この移動によってエレベーターの扉にかかっていた『迷彩』が失われ、先程まで閉じていたのに開いているという摩訶不思議な状況が出来てしまう。

 出来損ないにそれが判断出来るかとなると、高性能な電探を積んでいる可能性から出来るというのが解答になる。故に、子日が移動した瞬間から待ち構えていた出来損ないがおかしな挙動を始めた。不要な行動に見えるが、出来損ないがキョロキョロと周囲を見回すようにしていたのだ。

 

「探してる……でも、今は無視させてもらうよ」

 

 あの行動をさせているの自体が、出来損ないを『操縦』している誰かでは無いかと考えた子日は、単独でエレベーターホールから抜け出し、この場が確認出来るような場所に敵が潜んでいないかを探す。

 

 ホールは広く、見晴らしはいい。また、通路も艤装装備の艦娘が2人並んで移動出来るくらいには広く設計されている。学校とは比べ物にならない程に移動がしやすい。ここだけかもしれないが、入り組んでいるようにも見えず、廊下の奥も見通しよく確認出来た。

 その通路の奥、出来損ないがしっかり視界に入るような場所に1人、明らかに不審な深海棲艦──カテゴリーYが座っていた。そして子日はその姿を知っている。

 

「……うわ、久しぶりに見た。軍港の時もそうだったけど、こういうの管理するのってアレでないといけないのかな」

 

 そこにいたのは、離島棲姫。軍港都市の地下施設でもいた陸上施設型。あの時は無謀な攻撃を繰り返し続けたことで自ら崩落を引き起こしてしまい、その瓦礫に潰されて自滅という悲惨かつ哀れな最期を遂げたが、こちらの個体はそれとは違いそうである。

 出来損ないに戦わせて、自分は比較的安全な場所で敵の動きを警戒する。砲撃が出来るように、セントリーガンのような設置型の主砲まで用意している程である。

 

 侵入者に対しての対応としては悪くは無い。同じ離島棲姫の失態からキチンと学び、自分の安全、施設の安全、そして敵の淘汰をちゃんと考えた作戦でもあるだろう。

 ここでエレベーターを先んじて破壊しておくという考えにならないのは、侵入をわざと許しているように見えてしまうものだが。逃がさないように奥まで誘き寄せているというのも、真実味を帯びてきている。

 

「悪いけど、何もさせないよ」

 

 見えているようには思えないが、何をされるかわからないため、警戒に警戒を重ねて、設置型主砲の射線上には絶対に立たないようにしながら、少し広めの通路の壁を蹴りながら前進。

 その時の音は『迷彩』によって失われているが、子日が進めば進むほど、その範囲から壁を蹴った跡が外に外れていく。

 

「なっ、何かいる!?」

 

 つまり、既に通った後の足跡が離島棲姫の目に入るようになるのである。音がなくても痕跡が急に現れるのだから、素人には怖くて仕方ないことだろう。

 突然エレベーターの扉が開いていたこともあり、流石に敵が侵入したと考えるだろうが、こちらに近付いてきているとは簡単には思わない。その力を持つ者がいるとわかっていても、である。

 

「と、透明な敵ね、知ってる、知ってるわよそういうのがいるって。特異点の仲間にもそういうのがいることは聞いてるわ!」

 

 だが、離島棲姫は思ったよりも勘が鋭かった。この現場から『迷彩』持ちが来ていることに辿り着いた。子供達が姿を消して鬼ごっこをしていることくらいは知っており、子日が自分の姿を消す瞬間の情報も何処からか聞いているようである。

 

 そんな敵が来た場合はどうするか。それは事前に考えていたのか、非常にわかりやすい手段で進行を食い止めようとした。

 

「これだけ出せば!」

 

 艦載機を発艦させ、自分に繋がる通路に張り巡らせる。射撃はせず、設置型主砲も無闇矢鱈に撃つことはない。通路を傷つけたら、余計にわからなくなるとわかっている。それに、無駄撃ちしたら崩落しててんやわんやになる可能性すらある。この状況でも、比較的冷静に対処しようと心掛けている。

 

 子日は思った。これは軍港都市の地下施設にいたアレとは違う、考えることが出来る敵だと。

 故に、ここで全力を惜しむようなことはしない。艦載機による壁を突破するため、マウントしていた主砲を再装備し、なるべく引きつけてから破壊した。

 

「きっ、来てるっ!」

 

 壁としての艦載機が破壊されたことで、その存在を確実なモノとした離島棲姫は、今破壊された艦載機がいるところに対して射撃を繰り出そうとする。だが、瞬時に思い直した。今壊されたのなら、既にそこには敵はいない。だったら、逆方向だと考えた。

 こんな考え方が出来るだけでも、他の雑多なカテゴリーYより確実に頭がいい。戦闘力というよりは判断力。恐怖を感じながらもその脅威を取り払おうとする力は、これまでとは違う。

 

 拠点防衛に使われるだけあり、島外で戦わされている者よりは数段上の個体がいると考えられる。

 だが、そんな部下でも自分を守るために使い捨てにしているようにしか思えなかった。あくまでも時間稼ぎ。そのために置かれた1人。

 

「ごめんね、利用されてるのか自分からやってるのかは知らないけど、今は斃されて」

 

 見えないが、聞こえる声。離島棲姫はその声が何処から発せられたかがすぐにわからなかった。故に、狙い澄ました方向──破壊された艦載機とは逆方向に向けて射撃を放つ。また、破壊されたところには追加の艦載機を発艦させてすぐに隙を埋めた。

 

 が、それはもう遅い。子日はその間にはもう潜った後。

 

「殺さないから安心して。でも、痛いのは諦めて」

 

 主砲に包まれた手で、離島棲姫の側頭部を思い切り殴りつけた。

 

 子日のすばしっこさは普通では無い。アレだけの隙があれば、艦載機の壁をすり抜けることくらい造作もないこと。

 それに、艦載機の壁を破壊した際、その時にはもう艦載機を押し除けて壁の向こうに入っていたのだ。壁を補修したところでもう遅い。

 

「がっ……!?」

 

 その一撃で離島棲姫は白目を剥いた。見えないところからの一撃は、普通なら避けようがない。それが出来るうみどりの面々が普通では無いだけ。

 

 

 

 

 離島棲姫が気を失ったことで、『操縦』の効果が切れる。エレベーター前を占拠していた出来損ないの動きが途端にぎこちなくなった。

 

「子日様がやってくれたのでしょう。素晴らしい戦果です」

「ああ、本当にな。我々には難しいことだ」

 

 その時には、白雲と磯風が降りてきており、出来損ないの凍結を進めていた。『空冷』の風で進行を遮り、『凍結』の鎖で身体を凍らせ、最終的には完全に機能停止させた。

 ホールは寒くなってしまったモノの、作戦通りの大成功。これで奇襲部隊は全員が地下施設へと入ることが可能になった。

 

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