先行した子日により、エレベーターホールで待ち構えていた敵を一掃することに成功。細かく言うならば、出来損ないを『操縦』していた離島棲姫を、『迷彩』を駆使して一撃の下に下したことで、出来損ない部隊を瓦解、そこに白雲と磯風による凍結をぶつけることで、完全に沈黙させるに至った。
凍りついた出来損ないは、一旦退かしておく方向。破壊したいのは山々だが、現在は地下施設入り口。ここで砲撃などをして壁を破壊し、進路や退路を封じてしまうのは得策ではない。
ガチガチに凍り付かせていることから、出来損ないはそう簡単には動けない。それに『操縦』している離島棲姫の支配からは外れているため、固定しておけば脅威では無くなるだろう。
「よっ、と。電、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、なのです」
各々エレベーターのロープを伝って降りてくることになるが、やはり電はそういったことが苦手そうであり、深雪が少し手伝いながら最後に降り立った。
「全員到着なのです」
「ここを登って帰るのはしんどいな。一方通行って思った方が良さそうだ」
降りた後に上を眺める深雪。配膳室はかなり遠く、またここを登るのは嫌だなというのが素直な感想。
それをついさっき白雪がやったということもあり、すごいなと普通に感心した。体力が有り余っていても、何度もやりたいことではない。
「こうやってみると、それなりに場所はあるんだな」
「なのです。みんなでいても、それなりに空間が残っているのです」
12人の仲間達が集まったが、それでも少しは余裕があるくらいのエレベーターホール。既に数人は離島棲姫のいる通路の方に向かっているが、それでも集団での行動はそこそこしやすそうに思えた。
しかし、それでも真正面から大口径の砲撃なんて喰らおうモノなら、ボウリングか何かのように全員がまともにダメージを受けることになりかねない。
故に基本は慎重に。誰からも見つからないように、曲がり角などは気を遣って。
「逆方向は警戒しておくわ。貴女達はあの敵をどうにかしてちょうだい」
「ああ、頼んだ」
離島棲姫がいる方の通路とは逆にも通路が伸びている。そちらは直線上には敵の姿は見えないが、そこでも何者かが待ち構えているかもしれない。
電は『迷彩』持ちを感知することが出来るが、そちらの通路には何もいないことは証明済み。何者かが向かってくる可能性も考えて、叢雲は神風とフレッチャーに話を持ちかけて、逆側の通路の警戒にあたる。強いところを連れていく辺り、離島棲姫の方には今のところ不安がないと考えた。
「グレカーレ、『羅針盤』使っとくぞ」
「だね。でもその前に、『舵』がくっついてるかは見ておいた方がいいよ」
「それもそうだな。まずは見てみるしかねぇな。梅、また頼めるか?」
「はぁい。なんだか今日は引っ張りだこですね」
離島棲姫の身体に『舵』があった時のことを考えて、梅にもついてきてもらう。解体してしまえば、正気にも戻りやすいだろう。その上で『羅針盤』まであれば、より救いやすくなるはずだ。
「白雲は磯風様と出来損ないを監視しておきます」
「ああ、それがいい。なんなら追加で冷やしておく。他に何か来ても足止めはしよう。今からそこから敵が来る可能性だってあるんだ」
「その通りでございます。どうせ戻らぬならば、先んじて凍らせておいてもよろしいかもしれませぬ」
「それはやめとけ。もしかしたら無理してでもここから戻る可能性もある」
白雲と磯風は凍らせた出来損ないとエレベーターの監視。学校内には敵がいなかったモノの、後から現れる可能性もなくはない。ならば、それが降りてきたところを即座に凍らせることで対策しようという考え。
「よし、じゃあアイツにはあたし達で向かう。頼んだぜ」
「お任せを。お姉様も無理はなさらず。まだまだ序盤戦であります故」
「わかってる。今はみんなを頼りまくるさ」
叢雲の力も切り札と言っているが、深雪と電、2人の特異点はそれ以上に切り札である。ここも当然、温存の方向で進めていく。特に深雪が全力を出すのは、阿手との戦いになるか。
それまでは、仲間を頼り、出来ることを確実にこなしていくのみ。
子日による殴打によって気絶している離島棲姫。敵である限り自己修復はあるようで、既に無傷になっているものの、すぐには目を覚まさなそうだった。この間に何かされているかを確認する。
「あ、やっぱりついてるね、『舵』」
他の者と同じように首筋だろうと、やたらと着込んでいる離島棲姫の服を後ろに引っ張るようにすると、案の定うなじの部分に『舵』が食い込んでいた。
真正面から敵意をぶつけてくるというよりは、ここをおっかなびっくり守っているというイメージだったからか、子日は無理矢理操られているのではと勘繰っていた。敵が見えなかったから暴言などは無かったが、もし見えていたら、いろいろ振り絞って有る事無い事言い放っていたかもしれない。
「『解体』しまぁす」
「お願いねー」
駆けつけた梅により『舵』は解体。軽く叩くだけで崩壊していき、体内の破片は特機がさらっと引き抜く。梅も少しは慣れてきたようで、何の躊躇いもなく行くようになっている。
「グレカーレ、やるぞ」
「あいよー」
そしてすぐさま『羅針盤』。これで洗脳されていても正気に戻せているはずである。
とはいえ一応は敵。『羅針盤』を使ったことで真に特異点は敵であると認識してしまう可能性もある。それが離島棲姫の正気であることも考えられるのだ。そのため、絶対に警戒は怠らない。
「装備も『解体』しておきますねぇ」
「暴れられても困るもんな。そういうの大事だ」
「はい、大事大事、ですよ」
セントリーガンのような主砲もしっかり『解体』することで、離島棲姫から攻撃の手段を極力奪った。艦載機だけはどうにも出来ないため、発艦しようとしたらまたぶん殴るしかない。
目を覚まして敵意を持つなら、今は救えないということになる。その上で『操縦』持ちだ。不意に触れられてその気があるなら、身体のコントロールを奪われてしまう。
「いつでも拘束出来るようにした方がいいな。ひとまずは煙幕出せる準備だけしておく」
「気を失っているうちに動けないようにしておくよ」
ここで響がいつものように隠しアイテムを持ち出す。海賊船の時にも持っていた結束バンドだ。それで離島棲姫の手の小指同士を結んだことで、簡単には解けない拘束にした。これなら少しは安心出来る。
「じゃあ、情報を聞き出したいからね。起こすよ」
そしてそのまま軽く頰を叩く。子日の一撃は重かったが、ここまでやっているなら意識を取り戻すはず。
「……ん、んんぅ……あ、頭痛ぁ……」
自己修復をしたとしても、痛みはまだ残っていたらしい。寝起きだからか少し呑気な口調で、うっすらと目を開けた。
目の前には、特異点含む艦娘達。正気に戻っていようが戻っていまいが、急激に目が覚めるような光景である。
「えっ、あ、ちょ、私っ、て、何これ手がっ」
「落ち着け落ち着け。取って食おうってわけじゃあ無ぇよ」
深雪にそんなことを言われても、混乱はしてしまうモノである。離島棲姫はジタバタともがいて後退るが、手が拘束されているせいでうまく動けず、ずりずりと足を滑らせながら少々無様にたじろぐだけ。
頭の部分は剥がしているが、相変わらずフリフリなゴスロリと見紛うような服装であることもあり、深雪はそういう生き物が蠢いているようにしか見えなかった。
「正気に戻ったのなら、あたし達はお前を助けに来たんだ。あたしの事を敵だと思ってんなら、相応に対応する。もう一度ぶっ飛ばすことになる。そうでなければ拘束も解くぜ」
「えっ、と、特異点……!?」
カテゴリーYであるため、話しかけてきているのが特異点であることはわかっていた。故に余計に後退り。ついさっきまで敵であると認識していた存在が目の前にいるのだから、洗脳にかかっていようが解けていようが、その存在に驚き恐れるのは仕方ないことである。
「おう、特異点だ。さっきも言ったが、助けに来たんだ。普通に話をしてくれるなら、もう危害は加えない。拘束も解くし、お前のことも守ってやる。ここに1人置いていくなんてことは出来ねぇしな」
しゃがみ込みつつも笑顔で話す深雪に、離島棲姫は恐怖心が薄れていった。警戒はしているものの、先程まであった敵意は、『舵』が破壊されたことで完全に無くなっており、『羅針盤』まで使われているおかげで洗脳から解き放たれている。
「落ち着くために、深呼吸をするといいのです。何もしないから安心してほしいのです」
電からも言われ、離島棲姫はどうにか息を整えていった。数回の深呼吸によって多少は落ち着いたか、恐る恐る深雪と電の方に目を向ける。
カテゴリーYであるおかげで、特異点は後光が差しているように見え、存在そのものが煌びやかに見えた。深雪だけでなく電も今や第二の特異点。深雪ほどでは無いが光を持っており、離島棲姫には2人でキラキラと輝いているようにしか見えない。
「えっ……何この神々しいカップル……推せる……」
何を口走ったか深雪と電はわからなかったが、とにかく洗脳は失われていることはわかった。
「響、こいつの拘束解いてやってくれねぇかな」
「構わないけど、いいのかい?」
「流石に大丈夫だろ。さっきと目が違ぇよ」
敵意も無ければ恐れもない。どちらかといえば、少し遠目からその存在を目に入れておきたい、みたいな視線。近すぎると眩しいと言いたいように目を細めている程。
深雪がそう言うならと、響は結束バンドをすぐに切って拘束を解いた。手が自由に動くようになったことで、離島棲姫は飛び上がるように立ち上がり、深々と頭を下げた。
「ご、ごめんなさい、私、ついさっきまで普通じゃなかったようで」
「戦ってないあたしは何も言えねぇけど、どういうことになっていたかはわかってる。洗脳された上に、身体も改造されちまったんだろ。だから救いに来たんだ」
「……素直に受け入れた方がいいのよね。じゃあ、うん、ありがとうございます」
気を取り直したか、下げていた頭を上げ、まだその時の記憶のせいで気分が悪そうながらも、正気を取り戻したことで前を向く。
「話、聞かせてもらってもいいか。あたし達は、この施設で阿手っていうヤベェ奴を探さなくちゃいけねぇんだ」
阿手という名前を聞いたことで、離島棲姫は目を見開いた。
「阿手……そうだ、阿手! 私は阿手を逃すためにここで時間稼ぎを頼まれたのよ!」
最も有意義な情報が離島棲姫の口から語られた。予想通りと言える、撤退のための捨て駒であった。