後始末屋の特異点   作:緋寺

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今の姿は

「阿手……そうだ、阿手! 私は阿手を逃すためにここで時間稼ぎを頼まれたのよ!」

 

 洗脳から解放した離島棲姫が、阿手の名前を聞いたことで叫んだ。それは、深雪達には最も有意義な情報。阿手の目論見がここでついに露見したのだ。

 

 ここまでの時間稼ぎは、未だにこの島にいる阿手がまんまと逃げ果せるために行われていること。神風が予想していたことが大正解だったのではとも考えられる。

 その辺りも踏まえて、離島棲姫にはよく話を聞かなくてはならないと腰を据える。急がなければならないことはわかっているものの、ここで手に入る情報は、余す所なく手に入れておきたい。

 

「あたし達を足止めしろって言われてたってことだな」

「そうよ。さっきまではそうしないといけないって思ってたけど、今考えたら私、ここで死ねって言われたのと同じなのよね。素性も知らない女のために」

 

 話しているうちに苛立ちが増してきたか、語気が荒くなってきていた。

 

「そもそもなんでこんな姿に変えられなくちゃいけないわけ。そりゃあまあ思った以上に可愛くて、不謹慎だけどちょっと気に入っちゃってるのはあるけど、問答無用でやられた挙句、なんか首筋に埋め込まれたらさっきのアレよ? 命を懸けてまで誰かを逃すとか意味がわかんないわ。しかも、私は誰も助けてくれなかったわけだし。死ぬ前提で戦うとか、私が逃げたいわよこんなところから」

 

 プリプリ怒りながら、思いの丈を吐き出している。我慢出来ないくらいに理不尽なことなのは同意出来た。ちょくちょく呑気な言葉が聞こえるものの、それでも離島棲姫の気持ちは痛いほどわかる。

 

「一回落ち着こうな」

 

 苦笑する深雪が離島棲姫の口を一旦止める。早口になっていたことに気付き、離島棲姫は恥ずかしそうにごめんなさいと呟いた。

 

「で、だ。阿手の奴からここで足止めしろって言われたんだよな」

「ええ、首のをやられてからね。言われたら言いつけを守らないとって気持ちがいっぱいになった」

「ならお前、()()()()()()()()()()()()()?」

 

 深雪の鋭い指摘。離島棲姫はそうだけどと少しだけ目を逸らす。やはり眩しいらしい。

 

「どんな奴だった。あたし達、阿手がクソであることしか知らなくて、今どんな見た目なのかもわからねぇんだよ」

「えっ、そうなの? 振り回されてるのね……」

 

 ここで失礼と話に割り込んでくる白雪。操作しているタブレットを見せながら離島棲姫に話しかける。

 

「ここに今のところ軍が発見している深海棲艦の個体が全て写真で掲載されています。そのどれに該当するか、教えてもらえますか」

「あ、そうか、あたしだって名前聞いただけじゃどんな奴かもわからないし、それで教えてもらえるのが一番手っ取り早いな」

「一般人は名前も知らないですからね。見た目がわかるなら見た目で見てもらった方が話が早いです」

 

 白雪からタブレットを借り、操作しながら写真を眺める離島棲姫。チラリと白雪を見て、深雪と似てるなぁとか思っていると、それを察したのか響が姉妹だよと補足説明を加えた。ちなみに自分は電と姉妹だとも。

 離島棲姫ははーんとかほーんとか何処か納得するような違う事を考えているような仕草をしつつ、本来の目的を優先する。

 

「該当しない可能性もあるからね。そこは100%を求めてはいないよ」

「そんなモンか」

「ああ、だって出洲達Kの連中は、本来の深海棲艦の姿から少し違うくらいだからね。阿手もその類の可能性はある」

 

 陸上施設型の姿をしているのに海上歩行をしてきた出洲から始まり、黒い艦娘のような姿で三本目の腕が生えた中柄、レ級や北方水姫を混ぜ合わせたような姿をしている小柄と、カテゴリーKはこれまでに見たことのない姿の敵である。

 阿手もそれに該当する可能性は大いにあった。自分の力を誇示するためにも、()()()()()姿()というところで差を出してくる可能性。

 

「まぁ、自分にそこまで出来ないというのも考えられるけどね。これまでの行動からして、自分が本当に大切のようだから」

「そう、だな。そうじゃなきゃ、部下に守らせて自分は逃げるってのをこんなに何度もしねぇよ」

「極端な改造は部下にやって、確実に成功する改造だけは自分にやるってところかな。自分の命は最優先、他の命は蔑ろ、阿手は徹底してそういう動きをしてる」

 

 部下で時間を稼いで、諸共爆破して特異点を殺そうとしている時点でその辺りはわかりやすい。情報収集のために部下の命を使うのも当たり前。自分が一番という考え方から、他は自分の糧になることも当然と思っている。本人に会わなくてもそれは誰でもわかることだった。

 

「あ、これ」

 

 ここで離島棲姫の手が止まった。

 

「どうした?」

「阿手、この写真のに似てると思うわ」

 

 その言葉に近くにいる者達がこぞってそれを見るために身を乗り出した。特に深雪は最初から近い位置にいたため、身を乗り出すと離島棲姫と触れ合うくらいに。離島棲姫としては、後光で眩しい上に、推せると漏らしたこともあってそれだけ近いと小さく息を呑むような声まで上げる。

 

「っと、悪い悪い。髪が当たっちまったか」

「だ、だだ、大丈夫大丈夫。百合の間に挟まったら殺されるなーとかいろいろ考えちゃっただけだから。うん、大丈夫」

「よくわかんねぇけど、とりあえずどれだ?」

 

 離島棲姫の思いなど露知らず、深雪はどれが阿手だと尋ねる。気を取り直して離島棲姫はこれだと指差した。

 

「……マジで?」

「大マジよ。いや、私がこれに指示されたってれだけで、実は阿手じゃないと言われたら何も否定出来ないけど」

「阿手を名乗っている別人、影武者の可能性もあるからね。でも、敵にそれがいるということがわかったのは結構大きいんじゃないかな」

 

 指差した写真に掲載されていたのは、深雪も知っている姿の深海棲艦。集積地棲姫だった。

 

 集積地棲姫といえば、うみどりでは保護したカテゴリーY、手小野の姿として慣れ親しんでいる存在。彼女は少々オドオドした言動で、引っ込み思案、だが平瀬と共にうみどりの雑務を担当し、大人であることもあって行動力はある頼れる人間。今もおそらくうみどりで動き回っている事だろう。

 その手小野と同じ姿をしているというところから、深雪としては戦いにくいなと嫌な顔をした。接点はそこまで多くなくても、仲間として日々を過ごした者なのだ。それに攻撃を加えるのには若干抵抗がある。

 

「集積地棲姫は沢山の種類がいるんです。うみどりの手小野さんは、おそらくですが最も弱い個体、いわゆる()()()集積地棲姫だと思います。でも、阿手は……こちらじゃないかなと」

 

 白雪がタブレットを操作すると、集積地棲姫だけでズラリと写真が並んでいた。顔は同じだが、個体としてのスペックがまるで違うらしい。大本営もその個体の変化、いや、成長は目を見張るモノがあると危険視しており、強化される毎にⅡ、Ⅲとバージョンアップさせて登録している。

 そこから白雪が示したのは、その中でも下の方にある、集積地棲姫の中では随分と変化した個体。数字で管理されていたモノとは別になっている、集積地棲姫()と称された個体。服装も違うが、顔も何処かシュッとした出立になっており、完全な上位互換にも見えた。

 

「……ごめんなさいね、私には差があまりわからないわ」

「大丈夫です。艦娘にも少しわかりにくいので。これまでで10種類近く現れているような個体ですから。夏には水着まで着て出てきましたからね。しかもそれが別個体認定です」

「深海棲艦ってそんな性質してるの!?」

 

 機密なので口外しないでくださいねと白雪が笑顔で伝える。離島棲姫は自分自身がもう機密の塊みたいなモノであることを自覚してるので、そこは任せてと胸を張った。

 

「相手が集積地であることがわかっていれば、大本営にあの人を派遣してもらう方向で進めたんですが、これは仕方ないですね」

「あの人?」

「はい、集積地棲姫を始末することでは、右に出る者がいないスペシャリストがいるんです。阿手にそれが通用するかはわかりませんが」

 

 深雪には少しわからない話ではあるのだが、今はここにいる戦力でどうにかしなくてはならない。

 

「阿手についてはこれでいい。見た目がわかっただけで充分だ。で、お前はそれに指示されてここを守ってたんだよな」

「ええ」

「何処で指示されたよ。最初からここにいたわけじゃないだろ」

「そうね。この施設の奥の方になるわ。貴女達が降りてきたエレベーターはあそこで打ち止め。ここから逆側に下に向かう通路があるわ」

 

 今は叢雲達が警戒している反対の通路が正解の道だと離島棲姫は語る。こちら側は他の部屋があるだけで下には向かえない。その部屋というのも、どちらかといえば学校に対して洗脳教育を施すための道具を保管しておく場所ばかりであるとのこと。例えば給食に混ぜる薬剤。

 

「どれくらいの広さかわかるか」

「そうね……私は隅々まで歩いたわけじゃないから、どれだけと言われるの何とも言えないんだけれど、正直かなりの規模だと思う。地下にあるとは思えないくらい設備が充実してるし」

 

 表現として伝わるかはわからないが、某ドームが縦にいくつか入っているのではと思えるくらいだと話す。ただの研究施設をどれだけの規模で造っているのだと呆れるほどに。

 だが、それだけ広いのにも理由があるようで、研究結果を試すための場所みたいな大きな空間がど真ん中にあるらしい。大掛かりなことをしても影響がないくらいのである。

 

 響と白雪はそれを聞き、阿手の狙いがわかった。

 

「私達をここまで誘い込んで、施設ごと爆破して島を崩落させるのが目的、かな。それだけ大きな空間があるなら、それくらいしかねない」

 

 それが実現したら、確かに島はただでは済まない。そこにいる者達は全員酷いことになるだろう。死は免れないし、その時生き残れたとしても、そこから脱出することも難しくなり、最終的には終わりを迎える。

 

「だが、まだそれを実行していない。これはまだ理由あって脱出出来ていないということになる。崩落に巻き込まれたら、阿手もおしまいだからね」

「その理由ってのがわからねぇけど、その間に捕まえてぶっ倒せってことだな」

「ああ、それが私達のやらなければならないことだ。そもそも、それがやれなければ脱出もままならないしね」

 

 

 

 

 ここでの行動が決まった。これからは迅速に阿手の行方を捜索しなくてはならない。

 

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