阿手は集積地棲姫改の姿をしており、それから指示をされたことにより、離島棲姫はエレベーターホールで待ち構えていたと言う。そして、この施設は相当広く、横もそうだが縦にも長いことが判明した。
この施設そのものを爆破して、崩落により深雪達を始末することが目的であろうが、未だそれをしていないということは、この施設からの脱出が出来ていないということにもなる。
理由は定かではないが、まだここにいるのなら好都合。すぐにでも追いつき、始末をつけなければならない。
「こっちの道が本命だったのね。ひとまず今のところは何も来ていないわ」
逆サイドを見張っていてくれた叢雲が、何事も無かったと告げる。神風とフレッチャーも、叢雲と共に警戒を強めていたが、敵の影はなく罠も見えなかったと話した。進むには問題なさそうである。
「上からの敵も来ていない。一応ここからも撤退が出来るように冷やすことはやめておいたが」
エレベーターを見張っていた磯風も、白雲と共に何も来ていないと伝えた。今のところは、離島棲姫にこの場所が一任されていたようである。後ろから撃つために挟み撃ちにしようとも考えられていないようだった。
「なら、先に進もう。お前は……本当なら安全な場所に隠れておいてほしいところだけど、多分今は何処にいても危ないよな」
ここで離島棲姫の処遇について考えることになる。地上にいた時は、全員纏めてうみどりに保護というカタチで考えていたが、今からここから向かうのは無理と言ってもいい。誰かに保護してもらうことも難しく、誰かがついていたところで、うみどりに向かうのは不可能。
だからといって、この場に置いていくのも厳しい。深雪達が先に進めたということは、もう不要な人材だ。ここに敵が戻ってくるとは限らないが、もしそうなった場合、まず殺されてしまうだろう。役立たずだと罵られ、洗脳も解けているので生かしておく必要すらない。
ただし、ついてこさせるとしても、足手纏いになることはほぼ確定。戦力として認識出来ないのは、アレだけのことをやったとしても素人であることには変わりない黒井母と同様である。
「道案内も兼ねて、こいつは保護した方がいいと、あたしは思うんだけど、みんなどう思う」
「電は賛成なのです。ここまで来たら、もう安全な場所はないですし、守りながらの戦いは厳しいですが、気にかけながら先に進むのはもっと難しいと思うのです」
これについては難しい問題だが、ここから戻るのが厳しいという点が非常に大きく、どうやっても救うのが難しいなら、道案内というメリットがある同行が最もいいかと考えた。
「そうね、なら私がなるべく守るわ。先頭を歩くつもりだったし」
「ありがとな、神風。お前も道案内頼めるか」
「ええ、大丈夫。それくらいやらせてほしい。ここまで来たら」
「自棄っぱち起こすんじゃねぇぞ。あくまでも、傷つかずに生きて帰るのが第一目標だ。いいな」
離島棲姫の知っている場所までは案内を頼むというカタチで、ひとまず同行させることとなった。最深部までは行けなくとも、少なくともそれなりに深いところまでは行けることだろう。
離島棲姫の案内もあり、そこからはスムーズに下の階層へと降りていくことが出来る。いくつかエレベーターなどもあったが、そんなわかりやすく待ち構えやすい移動手段を使うことはしない。
階段ならいいかと言われれば、それもまた待ち構えることは出来るとは思うが、狭い密室にいるよりは、まだ後退が可能な階段の方が選択の優先度は高い。
今はその階段を下りているところ。そこに向かう前に他にも部屋や通路はあったが、最短距離で下層に向かうため、今はそちらは無視。
方向感覚から、行かなかった方に杏が脱出してきた山間の出口があると予想はしている。位置的に一度また上層に上がってからになるだろうがと付け加えて。
「ちゃんとエレベーターと階段の両方を用意してくれてるのはありがたいわ。一応は非常用のつもりなのかしら」
「白雪のハッキングで電力をカットされたこともあるんだから、その辺りの対策はしてるのかもしれないわ」
神風と叢雲が警戒をしながら先陣を切る。叢雲はいざ敵が出てきたらすぐに後退するのだが。
「作戦は大雑把なのに、変なところは慎重なのよね。これで第二次の時には提督やってたんだもの。部下はとんでもない作戦に駆り出されていたんでしょうね。丹陽のお姉さん……初風みたいに」
「自爆を強要された挙句、それを実際にやっちゃったんだっけ……。それもまた、嫌なことを思い出すわ……」
過去から阿手の策はそういった無茶苦茶な部分が多く見受けられる。力押しが多く、犠牲を何とも思っていない。第三次深海戦争の今ならば、確実に咎められ、提督としての資格を剥奪されるレベル。
それでも何とも言われていなかったのは、その時の元帥が原だったからというのはありそうである。裏で繋がっていたのだから、どんなことをしても何も言われない。好きなように研究を続けて、お咎めなく消費し続けていたことだろう。むしろ、咎めたところで揉み潰されていたとも考えられる。
叢雲にはそのやり方が過去の自分に繋がり、露骨に嫌そうな顔をした。
「提督としては無能なんじゃないかしらね。はっきり言って」
「……アンタ、結構言うわね」
「これだけされてるんだもの。こちらにもそれだけ言う権利はあるわよ。そもそも、うちの司令官が最高最善だから、落差が激しすぎるのよ」
クスリと笑って話す神風だが、階段を下り切る手前で足を止めた。
「警戒。今は見えていなくても、砲撃で狙われているかもしれないわ」
「ええ」
先程の離島棲姫も、セントリーガンでエレベーターホールを狙い撃とうとしていた。それが次の階層でもあるかと考え、一旦ここで確認の作業が入る。
こういう時に便利なのが、やはり子日である。『迷彩』によって姿を消し、神風よりも前に出た。階段はそこまで広いモノでは無かったが、子日は神風を軽々飛び越えて階段の外へと着地。キョロキョロと周囲を確認して、大丈夫そうだとまた姿を現す。
「こういうところだから、クリアリングは丁寧にね」
罠も不意打ちも常套手段。しかも今回は敵の本拠地みたいなモノだ。より濃厚な罠が多く仕掛けられていると考えてもおかしくはない。
戦術家としては三流以下とも言えるが、こと嫌がらせにかけては超一流。選択の全てがこちらの癇に障ることばかりで、あまりにも的確。ならば、罠などもその気質が出てきていてもおかしくはない。
「静かだね。毎階層で襲われてもおかしくないと思っていたけれど」
響の言葉に、半数以上が同意した。足止めをしたいならば、離島棲姫以外にも何人も嗾けてくるのではと思っていたが、階段は割とスムーズに下りていけているし、こうして待ち構えている者もいない。
そういう意味では、最初にああやって見せることで全階層に警戒心を持たせて足を遅くしているだけとも考えられた。ただの足止めではなく、精神的に追い詰め、ストレスを確実に与えながらも、戦力を節約しているようなやり方である。
「一部は自分の護衛に使っているんでしょう。証言が正しいとして、阿手が集積地棲姫改であった場合、おそらく自分の足で海上を移動することは出来ません。それこそ、潜水艇などでの脱出を目論んでいると思います」
「だね。それを確実にするために、阿手も部隊を組んで動いていることだろうさ。で、自分だけ逃げてその部隊の面々をここに置いて、自爆に巻き込むまで読めているよ」
「何人かは連れていくと思いますよ。私の予想では、阿手は潜水艇の操縦も出来ませんから。ふんぞり返って他人に全部やらせるタイプでしょう」
「はは、それは言えてるね。カテゴリーYになって強力な力を手に入れているかもしれないけれど、そういうところは簡単には手に入らない、実力が出るところだからね。ここまでのことを考えると、白雪の予想はドンピシャじゃないかな」
響はともかく、白雪からも毒が出るくらいに阿手のやり方は酷い。故に、顔を合わせたら絶対に正面から言ってやりたいという言葉がいくつも浮かんだ。
進むこと数階層、下に下にと向かって行き、離島棲姫からの案内により自分はここで指示されたという場所まで辿り着く。
そこまでに敵の姿はなく、やたらと静かなのが逆に不気味。出来損ないすら嗾けてこないとなると、やはり誘い込まれていると考えてしまう。
「なるほど、ここに繋がっていたか」
探索中、響が発見したのは保健室に固定されていたベッドが鎮座する少し広めの部屋。ここが島民を改造していた部屋なのだとすぐにわかる。
「……わかりやすい罠だ。保健室からここに降りてきたら、そのまま犠牲になっていたわけだね」
そして、そこにはウジャウジャと忌雷が屯しているのも見えた。気色の悪い光景に、慣れていない離島棲姫は案内はしたものの数歩引いた。
数にして10や20を超えている。それだけの数に一斉に纏わりつかれたら、いくら特機を持っているにしても、その合間に完全に寄生されてしまうだろう。
「深雪、何体かは燻製にしておくかい?」
「ああ、そうしておくのが良さそうだな。2体頼む。あとは始末でいいと思うぜ」
「了解だ」
迅速に特機で2体捕らえ、残りは部屋ごと砲撃で破壊することで事なきを得た。密室に砲撃を放つのはなかなかに勇気が必要な事だが、それだけやってもかなり頑丈に造られていたことで、そのカタチはしっかり残っていた。
忌雷が全滅したところを見計らって、一旦室内に入る。特機にも警戒させ、忌雷がまだいないかを確認しながら。
「ところどころに血がついてるわね。砲撃しても残ってるって相当よ」
「前の鎮守府とはやり方が違うわね……。忌雷を寄生させるだけじゃないって、いやでもわかるわ」
そこは手術室と言ってもいいような場所でもあった。改造に使っていた痕跡が嫌でも確認出来る。
それでも、そのために使ったであろうモノは全て撤去されている辺り、他の地でも同じことをやってやろうと考えていることが丸わかり。
この島は捨てるが、別の場所で同じようなことを繰り返し、また無辜の民を自分の欲のために使おうとしている。それには、光景を見た者全員が怒りを覚えた。
「一応ですが、ここからの脱出は可能ですね。ベッドを上げることは出来そうです」
白雪が部屋を探り、コンソールを発見した。破壊工作をしても残っており、これならばハッキングは余裕であると、少し安心したようである。
ここで深海棲艦に改造された島民が暴走して暴れてもいいように、頑丈に造られていたのだろう。砲撃一発では、その辺りはビクともしていない。ベッドすら骨組みはしっかり残っている始末。
「ここで待ち構える忌雷以外の敵がいなかったわね。とはいえ、あそこからここに飛び降りるのは厳しかったわ。ここから保健室殆ど見えないわよ」
「エレベーターでも深いと思ったけど、ここはもっと深いわけだからね。いくら艦娘でも、ロープやワイヤーが無いなら無理だね」
ならばその高さを昇降出来るこのベッドの仕組みが気になるところだが、そこは今は阿手に繋がらないと考えることをやめておいた。
ここまでは静かだが、ここからが本番。脱出口もある程度は見つけ、本格的に深層へと向かうことになる。