後始末屋の特異点   作:緋寺

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異常者

 下層に向かう中で見た、施設中央部の巨大な空間。そして、そこの天井部分にいくつも仕掛けられた水素爆弾。それを見たことで、本当にこの島を爆破して、特異点を諸共始末しようと企んでいることがわかる。

 そしてその空間に、2体のカテゴリーY、軽巡新棲姫が現れた。深雪達の姿を目にしてもすぐに撃ってくるようなことはなく、こっちに来いと言わんばかりに手招き。誘っているのはわかるが、元々斃すつもりでここに来ているのだから、その誘いに乗ることとなった。

 

「本当にあの2人だけとは思わないことよ。ここはそれだけ広いもの。隠しようはないけれど、そもそもあの2人はあの奥から出てきてるわ」

 

 向かいながらも神風は仲間達に警戒だけは怠らないようにと念を押す。今でこそ敵は2人現れたが、それで終わりとは到底思えない。ここに向かっている間でも出てこないくらいなのだから、最下層で待ち構えていてもおかしくない。罠だってあると思っておいた方がいいだろう。

 

「煙幕、すぐに出せるようにしておくか」

「その方がいいかもしれないわね。でも、阿手もいると考えると、ここで大きく消耗するわけにもいかないわ」

「それなんだよな……全力は絶対に出せねぇよ」

「役割分担は大切ね」

 

 ここで神風はざっくりだが作戦を考えていた。この後に阿手と戦うことになると考え、残しておかねばならないのは誰かを。

 深雪と電は確定だ。特異点の力はどうしても頼らねばならない時が来る。さらに叢雲も必要不可欠。阿手の持つ力を無効化してやれば、戦いやすくなる。叢雲がその時点でリタイヤとなるのはもう仕方ないこと。あとは感情的な話になるがフレッチャーは丹陽の意志を継いでここにいるため、阿手との決戦には向かわせたいというところがある。また、本人以外の満場一致で神風は温存という話になった。

 

 そうなると、残る面々がここでの戦いに参加することになる。特にイキイキと動けそうなのは、グレカーレと子日。子日は結構動き回っているのだが、まだ大丈夫だと笑顔を見せた。

 

「梅は疲れているでしょう。少し休んだ方がいいわよね」

「で、出来ればぁ。まだまだ『解体』しそうですもんねぇ」

「そうなのよねぇ……本当に頼りになるわ」

 

 今回の戦いは、本当に梅がよく頑張っていた。手に入れた『解体』の力は、敵の目論見を突破する際にやたらと必要になることが多い。無機物を問答無用で破壊出来るというのは、それだけでも充分過ぎた。その上、今では『解体』する範囲まで任意で選択出来るまである。

 

「響と白雪は」

「私達も勿論戦うさ。むしろここでやらないで何のためにここに来ているというのかな」

「徹底的な調査と、その知識からの段取り決めかしらね」

「ぐうの音も出ないくらいの正論をありがとう。でも、私達も艦娘だ。ちゃんと武器だって持っている」

 

 2人とも、護身のために兵装を持っているわけではない。ちゃんと戦うための武器である。腕っ節だって相応に強い。

 

「それじゃあ、あとはなるようになれね。温存はするけど、必要なら手を出すからそのつもりで」

「ああ。温存のしすぎで負けちまったら話にならねぇ」

 

 ここからは臨機応変に戦うこと。作戦という作戦はないようなもの。ここは仲間の絆がモノを言う戦い。

 

 

 

 

 結局最下層まで敵は現れず、上からも見えていた巨大な空間の中に入る一行。その中央には、窓からも見えていた2人の軽巡新棲姫が待ち構えていた。

 神風は念のため、刀の柄に手を添える。いつでも抜けるように。深雪も煙幕を意識し始めた。必要ならば出し惜しみはしない。

 

 海上で戦うよりも広く感じるのは、自分の足でここに立っているからと言えよう。艤装の力を借りての移動ではなく、単純な脚力の戦い。それはあちらも同じこと。

 

「阿手は何処行ったんだよ」

 

 声が聞こえるくらいまで近付いた。それまでお互いに攻撃は無し。

 

 深雪の質問に対し、片方の軽巡新棲姫は睨みつけるような目で見据える。

 

「君が聞いたところで関係ないだろうに。どうせここで終わりなのに」

「ええ、特異点をここで足止めし、()()を無事に逃がす。それが我々の目的ですから」

 

 そこは予想通り。阿手を逃がすための時間稼ぎ。自分達が立ちはだかり、ここから先には行かせないと宣言したようなモノ。ただ邪魔をするだけでなく、この場で何事もなく特異点を始末することも視野に入れている。

 だが、気になったのはそこだけではない。軽巡新棲姫は、阿手のことを『先生』と呼んだ。つまり、阿手自身の教え子だったということが考えられる。フレッチャーのように、直々に何かをされていたか、それともまた別か。

 

「晴れて我々は高次に至った。ならば、この力で先生を救うのさ」

「失態を犯した我々に救いの手を伸ばしてくれた先生に、恩を返さなければなりません」

 

 心酔しているような発言に、気持ち悪さを感じつつも、これまでもこうだったなと妙な納得。しかし、ここで少し違う反応を見せたのは──磯風。

 

「……片方、いや、両方か。()()()()()じゃあないか」

 

 強く睨みつける磯風に、軽巡新棲姫の片方が小さく反応。

 

「おや、君は私を逃がすために尽力してくれた磯風ですか。風の力は煙幕を飛ばすのに大いに役立ってくれました。まさかそのまま特異点に洗脳されて敵対するとは……全く嘆かわしい」

 

 明らかにその磯風がわかっている反応。磯風を見て、これ見よがしに溜息を吐いた。

 

 軽巡新棲姫は、裏切り者の提督の2人。鎮守府から逃げ果せた結果、この島に辿り着き、そしてカテゴリーYとなる改造を受けてここに立っている。ついには人間を辞め、最後まで阿手にいいように使われる道を選んだ。つまり、()()()()()

 それがわかった時点で、グレカーレはその2人に『羅針盤』を使おうと思わなくなっている。何をやっても変わらない。むしろ、反省されても困る。何を言ってもボコボコにしてやると、やる気が漲っていた。

 

「ならば、ついでに連れていった艦娘も今はそちら側と考えていいな」

「当然でしょう。彼女達は私と一蓮托生ですから。来なさい」

 

 その発言と共に、空間の奥から何者かが現れる。だが、その姿は明らかに艦娘ではなかった。

 

「改造済み、ということか」

 

 そこにいるのは、これまで発見された深海棲艦の姫とは合致しない、艦娘の特徴をそのままに深海棲艦と化した者達。姫の力を植え付けられたというよりは、ただ深海棲艦にされたというイメージが強い。

 

「……私のいた鎮守府の艦娘だ。あれは、鈴谷と熊野……だな」

 

 磯風の顔見知りである、元司令の秘書艦。それが鈴谷と熊野であるが、今は外見はほぼ変わらずにそのまま深海棲艦化。髪も肌も白く染まり、艤装も明らかに深海棲艦のモノである。腹から生えるように伸びた重巡ネ級の艤装が、異形感を醸し出していた。

 服装も元にされた重巡ネ級のような、身体に密着した超ミニのワンピース姿。明らかに艦娘から逸脱しているのだと見せつけてきているかのようにしか見えない。

 完全に深海棲艦と化したことで無言を貫いており、青白く輝いた瞳が虚ながらも殺意を全く隠していない。小さく息を漏らしながら、戦いを今か今かと待ち構えているかのよう。

 

「あちらはもう片方の秘書艦かしら……金剛と比叡ね」

 

 こちらは神風がすぐに看破。もう片方の提督の秘書艦であろう金剛と比叡。こちらも鈴谷と熊野と同様に、外見はほぼ変わらずに深海棲艦化。真っ白に染まった2人は、背部から伸びる艤装と主砲は戦艦タ級のモノ。それを撫でながら、全く敵意を隠さずに見下すような睨み顔を見せつける。

 やはり服装も元になっている戦艦タ級に準じており、セーラー服とビキニショーツのみという大胆な姿が、本来の2人とはまるで違うことを強調していた。

 

「……お前ら司令官だったんだろ。自分トコの艦娘が深海棲艦に、戦ってきた敵の姿になって、何も思わねぇのか」

 

 深雪は止められずに思ったことを即座に口にした。だが、そう聞かれるのではないかと予想してきたかのように、軽巡新棲姫は返答する。

 

「彼女らも高次へと至っただけさ。その姿は確かにこれまで戦ってきたモノだろう。だが、それが本当に敵であるとは限らないとよくわかった。先生のおかげさ」

「真の平和は共存でしょう。ですが、それを拒んできたのもまた深海棲艦。我々と違う思想を持つモノが、我々の敵です。姿形は関係ないのですよ」

 

 真っ当なことを言っているのに、間違いなく歪んでいる。深雪はそう思った。

 

 共存が平和の道なのはわかる。うみどりはそれを体現していると言っても過言ではない。七色の艦隊を自称出来る、全てのカテゴリーの者達が仲良く生きていく。それが真の平和だと、深雪も確信している。

 だが、敵は同じような共存を謳っているが、その内容が明らかに違う。共存と言いながらも強制し、自分達の思い通りにすることを平和と宣っているのだ。そんなモノ、共存なわけがない。

 

「お前らのそれは共存なんて言わねぇ。支配だ。自分の思い通りにならなかったら癇癪起こすガキだろ」

「それは君達も同じではないかい?」

「何だと?」

 

 軽巡新棲姫は飄々とした態度で返す。

 

「自分と同じではないから攻撃する。我々がそうしていると言うのなら、君達もそうではないかと言っているんだよ」

「……お前、マジで言ってんのか」

「君達は我々を受け入れられないからこうしているのでしょう。嫌だ嫌だと駄々を捏ねているだけの子供なのは君達では?」

 

 話にならないと深雪は呆れた。ここまで自分の都合のいいように考えられるのは、精神に異常をきたしているとしか思えない。

 

「はぁ……話にならないわ」

 

 ここで神風が深雪を下がらせる。軽巡新棲姫との会話は、全てを否定したとしても精神的に疲労が大きすぎる。そのため、これ以上の会話を打ち切った。

 

「私達が何を言ったところで貴女達の信念が変わらないように、貴女達が何を言ったところで私達は何も変わらない。こちらは聞く耳を持っていたから今の話も()()()()聞いていたけれど、やっぱりダメだわ。そもそも貴女達の理論は破綻しているんだもの。聞いても無駄」

「へぇ、何処が破綻していると?」

「共存を謳っているのに、話し合いもせずにいきなり攻撃を仕掛けてきたこと。まずは交渉のテーブルに着きなさいよ。自分の意思を伝えるために強制するのは、もう平和でも何もないわ。独りよがりな正義感で相手を屈服させて悦に浸ってる異常者よ」

 

 鼻で笑うように言い放ち、しかし顔は一切笑っておらず、スラリと刀を抜いた。

 

「貴女達がテーブルを壊したんじゃない。なら、こちらも相応に対応するしかない。先に言っておくし、何度でも言っておくわ。この理論はあまり好きじゃないけど、ここぞとばかりに使わせてもらうわね」

 

 そして刀を突きつける。

 

 

 

 

「先に手を出してきたのは、そちらよ」

 

 これが、開戦の合図だった。

 

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