後始末屋の特異点   作:緋寺

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堕とされた艦娘

「先に手を出してきたのは、そちらよ」

 

 神風のこの言葉が、開戦の合図となった。刀を向けたことに反応をしたか、深海棲艦へと改造された4人の艦娘が、軽巡新棲姫を守るかのように立ち塞がり、凶悪な主砲を構えていた。

 ここは室内、しかしかなり広い空間。そして、砲撃くらいならば余裕で耐えてしまう。そのため、さも当然のように砲撃を放ってくるだろう。

 

 ならば、相応に戦うのみ。

 

「回避!」

 

 神風がさらに叫び、全員が一斉に散らばった。一番の素人である離島棲姫には、身を守ることに最も長けている深雪が、電と共に煙幕を展開。絶対に砲撃が当たらないように、手を引いてでも回避させた。

 

「お前はあたし達が守るからな。ここはマジで危ねぇから!」

「え、ええ、よろしくお願い。私にも何か出来ることは」

「ごめんなさい、無いのです! 電達が絶対に死なせません!」

 

 余計なことをしたら、ここでの戦いで確実に足手纏いになる。それをわかっているからこそ、深雪と電は心を鬼にしてでも、何もしないでくれと伝えた。

 自分が素人であることを理解している離島棲姫は、2人の思いのこもった言葉を受け、素直に従う。自分が強いわけでは無い。あくまでも、守られる側であるただの一般人。いくら何かあったとしても、余計なことはしない。

 

「な、なんか私、王子様に守られてるお姫様みたいな」

「まぁ深海棲艦の姫のカタチにゃあなってるけどな!」

 

 冗談言ってる暇は、ココからは無いからなと、深雪は左手を突き出す。電はすぐにそこに手を添えて、離島棲姫を守るために願いを込める。こんなことで仲間を失いたくないんだと、全員の無事を願った煙幕を解き放った。

 抑え気味に使うため、自分達を守る強固な壁となるだけなのだが、これで離島棲姫の無事を確保しようというのが一番の狙い。最低限のやりたいことがコレで出来ているので、過信はせずともまずはこれで耐える。

 

 ここからは温存、故にここも仲間に頼る。まだ本気の煙幕も使わない。

 

「それじゃあ、まずはどんなもんか見せてもらおうかなぁ!」

 

 この回避の時、ただ散るだけでなく前に出ていたのはグレカーレである。狙いは勿論、艦娘達ではなくそれを指揮している軽巡新棲姫2人。

 今の姿になっているのならば、何かしらの力を持っていることだろう。まずはそれを導き出さねばならない。そのためにも、回避も必要だが前進も必要だと巨腕を振り被り突撃。

 

 しかし、それを妨害するのは深海棲艦化させられている艦娘の1人、金剛。無表情でグレカーレを見据えたかと思えば、すぐさまその進路に躍り出て主砲を向けた。

 

「はっ、そりゃあそうだろうね。アンタ達のご主人様を守らなくちゃいけないんだもんね。でも、ちょっと容赦出来ないよ」

 

 勢いは止まらず、しかしステップを踏むことで砲撃の狙いを定めさせず、グレカーレは金剛へと接近。拳が届く範囲にまで近付いたことで、一切躊躇することなくその巨腕を思い切り振るった。

 グレカーレのそれは、深海棲艦化の名残、外南洋駆逐棲姫の艤装と同様の、強靭かつ堅牢な腕。本来この速度で殴り飛ばされたら、主砲が直撃することと同じくらいの衝撃を受ける。

 

 しかし、

 

「わお、そんなこと出来ちゃうんだ」

 

 金剛は、グレカーレの拳に自らの拳をぶつけることで相殺してしまった。逆に腕が壊れてしまいそうなモノなのだが、そんなこともない。だが、目敏いグレカーレは、一瞬だが金剛の腕に亀裂が走ったのを見逃さなかった。だが、それもすぐさま修復されてしまう。

 ここから、金剛が持つ力は『ダメコン』と判断した。本来衝撃に対しては影響を与えないのだが、そこに戦艦であり深海棲艦である膂力を掛け合わせることで、今の相殺を可能にしていた。

 

「『ダメコン』持ちいるよ!」

「ならば凍らせて固めてしまいましょうか」

 

 グレカーレはすぐにその情報を大声で展開。仲間に2人もいる心強い曲解だが、敵対されると厄介極まりない。トラの時に、深雪の消し飛ばす砲撃を弾き飛ばすまでしてのけたことも忘れてはいない。

 故に、厄介な敵は白雲と磯風の連携で『凍結』をぶつけるのが最も有効である。いくら膂力があろうとも、全身を凍らせてしまえば簡単には動くことが出来なくなる。

 

 だがやはり、この凍結の力は強く警戒されていた。ここで白雲に向かったのは比叡である。白雲が鎖を振り回そうとする瞬間を狙って、砲撃を放ってきていた。

 

「流石に邪魔をされますか。しかし、磯風様!」

「ああ、ここも連携で行く!」

 

 磯風の『空冷』による突風。砲撃を止められるほどの勢いがあるわけでは無いのだが、この空間を急激に冷やす風は、ぶつけられた側にも影響を与える。冷えて冷えて、筋肉の動きが阻害されていく。

 

 はずだった。

 

()()……か?」

 

 風をぶつけられた比叡の身体から、煙幕のような煙が立ち上ってきていた。冷却効果がまるで効いておらず、動きは硬くなるどころか、より速くなっているようにすら感じた。

 ならばと、狙われながらも白雲は鎖を振るい、比叡を直接凍らせるために『凍結』の力をぶつける。だが、ここで違和感に気付いた。

 

「……なるほど、この白雲と反対の力……『燃焼』ですか」

 

 かつて、深海千島棲姫が使っていた曲解、『燃焼』。白雲の『凍結』と対を成す、ボイラーを根幹にした力。

 その効果は単純明快。白雲が冷やすこと、凍らせることが出来るように、今の比叡は、温めること、燃やすことが出来る力を持っている。故に、磯風の『空冷』が通用しない。冷やされようとも、その熱でお構いなしに行動をしてくる。

 

 まさに、白雲対策。これまでも『凍結』により動きを止められ続けたことに対しての、明確な対応。

 

「こちらは不得手です。相手を変える必要があるでしょう」

「ああ、だが、そう簡単には逃がしちゃくれないようだ」

 

 比叡は完全に白雲と磯風に狙いを定めていた。戦艦の膂力はそのままに、砲撃を放ちながら接近までしてくる。基本は白雲を視界に入れながらも、肉弾戦まで仕掛けられるから厄介極まりない。

 白雲も鎖を振るうことで応戦するものの、深海棲艦の強靭な肉体、かつ『燃焼』を自らの身体に使うことで凍結すら防いでいるせいで、まともな戦いが出来ずに、苦戦を強いられる。

 

「これはっ、結構大変かも!」

 

 一方、子日は鈴谷と熊野に襲われていた。姿を消すことが出来るのは、あちらにも完全にバレているが、それ以上に姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。完全に姿を消しているのにもかかわらず、その視線は自分から外れず、消えていないかのように戦闘が継続される。

 子日はそこからすぐに敵の力がわかった。『迷彩』を看破出来る力なんて、大体見当が付く。

 

「多分、片方は『電探』! 『迷彩』使っても場所がバレてる!」

 

 実際、熊野の持つ力が『電探』である。『迷彩』によって姿を消す敵への対策だけでなく、この空間全体を手中に置き、敵全体の場所を把握して、いち早く仲間にその情報を伝える。

 本来ならばそれだけのことを瞬時に繰り出すのは難しいのだが、そこはやはり深海棲艦化の影響で、迅速に事を成す程の処理速度を獲得している。無言ではあるが、ここにいる仲間全員と繋がっており、熊野自身がサーバ扱いとなっていた。

 

「子日さん、援護します。『迷彩』を解除してください!」

「りょーかい! 意味ないなら姿消しとく必要ないからね!」

 

 そこに援護に入るフレッチャー。子日も『迷彩』を解除して、実力勝負に打って出る。

 フレッチャーも『量産』で丹陽の力を得ているため、言ってしまえば特別な力を持たない実力勝負タイプ。特殊な力を使った搦手なんてなく、正面からの戦いを仕掛ける。

 

 しかし、そうなると今度は鈴谷が立ちはだかる。『電探』の熊野を守るために手に入れている力が、正面から戦うタイプには非常に厄介なモノだった。

 

「っぶない!」

 

 その力は『発電』。海賊船の駆逐水鬼、裏切り者鎮守府攻略でのとある鎮守府、そしてここでも現れた、放電による攻撃を可能にする力。単純明快だが、直撃が死に繋がりかねない非常に危険な力であり、突破がかなり厳しい。なによりその速度。放たれた後に回避するのは至難の業である。

 

「ちょっとでも近付いたら電気ビリビリで、離れたら砲撃バカスカ撃ってくるとか、結構厳しいんだけど!」

「ですが、突破しなければ時間を稼がれ続けます。あちらは時間を稼ぐことに重点を置いているのではないでしょうか」

「だよね。それ見え見えだよ。こっちを攻撃するより、自分達を守る力の方が多いもん」

 

 金剛の『ダメコン』は自分と仲間を守るため。比叡の『燃焼』は『凍結』による突破を防ぐため。熊野の『電探』はその動きを完全に把握するため。鈴谷の『発電』は近付かせないようにするため。全てが時間稼ぎであり、勝つのではなく負けない戦いを優先するようなシフトである。

 

 その目的は一目瞭然。阿手の撤退を助けるため。自らの命を賭してでも、この戦いの上に立つ者を守るため。

 

「4人だけでも結構大変だってのに、まだアイツらの力が見えてないんだよなぁ!」

 

 金剛との肉弾戦を可能にしているグレカーレだが、やはり駆逐艦と戦艦の膂力の差は歴然。金剛は素手だというのに、グレカーレの艤装と対等に戦えている時点でも苦しいのに、さらにこの超至近距離で砲撃まで放ってくる。

 紙一重で避けてはいるものの、グレカーレが1人で相手をするには荷が重すぎるくらいだった。そのため、すぐにでも援軍を求める。

 

「温存とか無理無理無理! ある程度手伝って!」

「そうなるわよね……普通の海域でもそうなんだもの。じゃあ、みんなで行くしかないわ!」

 

 いの一番に動き出したのは、やはり神風である。温存を語る中で自分を勘定に入れていない時点で、この戦闘には参加するつもりでいたのだろう。

 それくらいしなければ勝つことは出来ない。むしろ、勝ったその後の戦いに挑むことすら出来ない。ボス前撤退なんて許されないのだ。

 

「深雪、電、その子を守っておいて! 深雪は最悪、あっち側になってもいいわ!」

「ああ、わかった! 厳しいなら変わる!」

「え、変わるって何」

「その時までは温存なのです!」

 

 まだ深海棲艦の姿になるには時期尚早。耐えられるならばまだならない方がいい。力を使いすぎたら、阿手のために残しておく力が無くなる。

 

 

 

 

 まずはここで勝てなければ話にならない。そのためには、ここで出し惜しみは出来ない。

 

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