後始末屋の特異点   作:緋寺

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連携の力

 煙幕対策に増員された軽巡棲姫2体に対し、温存と言っていられなくなったため、深雪は深海棲艦の姿へと変化。ここからは出力を上げて、速攻を仕掛ける。

 

「テメェがどういう存在で、どうしてここにいるのかはもう聞かねぇぞ。そこにいてもらったら迷惑だからな。早々に退場してもらうぞオラァ!」

 

 煙幕を自分に纏わせつつ、艦娘姿の時とは比べ物にならないスピードで突撃を開始。纏わせたのは足であり、願いは迅速な行動。仲間の元へと駆けつけるため、一般人である離島棲姫を守り切るため、今は速さを求めた。足元に一瞬溢れさせただけのため、風で飛ばされるようなこともない。

 その願いは叶い、深雪は瞬時に片方の軽巡棲姫へと接近。もう手の届く場所にあり、主砲による砲撃も、狙いを定める前に蹴り飛ばす。

 

「くっ……!?」

「お前、どうせ素人なんだろ。ここで風起こせって言われただけの、何の戦いも知らないような。んな奴に、あたし達がっ、負けるわけねぇだろうが!」

 

 蹴りの勢いを殺さず、身体を捻って軽巡棲姫の顔面に拳を叩き込み、もう片方の軽巡棲姫にまで殴り飛ばした。

 まだ仲間意識があったのか、もう片方は深雪が接近した段階で砲撃を放つことが出来ていなかった。仲間諸共特異点を始末するという選択肢が生まれなかったようである。

 

「仲間のことをそう考えられるなら、もう少し、電達のことも考えてほしいのです」

 

 起きあがろうとした軽巡棲姫の足下を、電が牽制のために砲撃。直接当てる気は無いが、動きを一瞬でも止められればいいと、そこは気を遣いながらも容赦なく放つ。

 電はあくまでも離島棲姫の側から離れない。万が一のことを考えて、接近戦は控えている。当てないように砲撃を放つことで、深雪のサポートに徹した。

 

「テメェらは黙ってそこで寝てろ!」

 

 さらに地を蹴り、動きが止まった軽巡棲姫達へと接近。風も起こさなくなっているならば、煙幕を纏って攻撃に転じることが出来る。

 

 しかし、その攻撃は違ったカタチで止められることになる。

 

「まだまだ仲間はいるんですよ」

 

 遠くの方で、軽巡新棲姫が呟いた。その手を上げて、合図を出しながら。

 

 軽巡棲姫を助けるように、更なる増援が飛び込んでくる。以前に海賊船でも見た駆逐水鬼と、同じように剛腕を振るうことが出来る外南洋駆逐棲姫。背部から伸びる腕を振り翳し、突撃する深雪の前に躍り出る。

 外南洋駆逐棲姫を見ると、深雪には嫌な思い出が蘇る。グレカーレに忌雷が寄生させられた、海賊船奥の戦い。あの時はなんだかんだでグレカーレ自身が決着をつけたが、どうしてもそのことを思い出してしまう。

 

「やらせないよ特異点」

「私達の仲間に、手を出すんじゃないよ」

 

 2人揃ってその剛腕を振るって深雪を迎撃する。突撃を仕掛けた深雪は、その拳が当たる前に急ブレーキし、空振りさせることに成功するが、勢いはここで止められる。

 

「っぶねぇなぁオイ!」

「特異点には充分に力を尽くす。ここで確実に始末してやる」

 

 殴り飛ばされた軽巡棲姫も既に立ち上がっており、改めて送風を開始。深雪にとっては向かい風になり、駆逐水鬼達にとっては追い風となる。

 

「ちっ……面倒くせぇことしやがる。ここまで出てこなかった分、全部ここに集まってやがるのか」

「まだ、まだまだ出すよ」

 

 既に4人いるというのに、ここからさらに増える。後ろから追加で2人、同型の駆逐水鬼と外南洋駆逐棲姫が現れた。3種が2人ずつ、合計6人が深雪の前に立ちはだかる。

 軽巡棲姫は送風メインの『空冷』だが、他の4人は剛腕を振るうことがわかっているだけで、何か能力を持っているかもわからない。

 

「マジであたしだけにこれだけ注ぎ込んできやがるのかよ!」

「特異点はそれだけ脅威なんだよ。誇ればいいんじゃないかい」

 

 皮肉を言ってきたのは後から出てきた駆逐水鬼である。強い力を得たからと言って、調子に乗るようなことはせず、何処か落ち着いた雰囲気。冷静に特異点を始末するため、ここぞとばかりに連携に重点を置いた動きを開始する。

 正面からぶつかろうとする者もいれば、回り込んで逃さないようにしようとする者もいる。6人もいれば、進路を完全に妨害することが可能だろう。送風までぶつけて煙幕も封じてしまえば、数的優位で勝ちに繋がる。

 

「んの野郎……っ」

「逃さない。誰とも合流はさせない。このまま始末してやる!」

 

 四方からの攻撃が繰り出される。砲撃では仲間に当たりかねないため、拳を叩き込もうとしてくる辺り、あくまでもチームワークを根幹に置いた6人の部隊である。

 ここで力を得たばかりの素人では無いのかもしれない、と深雪は考えを改めた。艦娘の経験はないかもしれないが、何かそういう経験があるのかもしれない。それを洗脳を受けても失っていないのは、厄介極まりなかった。

 

 だからこそ、深雪は出し惜しみをしなかった。

 

「されるか馬鹿野郎!」

 

 全力で真上に跳びながら、真下に向けて砲撃を放つ。艤装のパワーアシストと、深海棲艦化したことによる脚力の増強も合わせて、四方の拳をヒラリと避け、同時に真下に砲撃を放ったことで真下の地面を爆発させるように破壊。腕を消し飛ばせればよかったのだが、タイミングが少し早かったか、それは出来ず。

 しかし、爆発と同時に弾け飛んだ地面の破片が四方八方に飛び散り、駆逐水鬼達に襲いかかった。破片の大きさもまばらであり、大きなモノもあったことで、目潰しには最適な一撃となる。

 

「んなっ、だけど!」

 

 跳んだことはわかっているのだから、その方へと砲撃を放つ4人の敵。空中なら避けることも出来ないし、角度が違うから仲間に当たることもない。故に、躊躇なく砲撃を実行出来る。

 しかし、深雪は既にそこにはいなかった。空中でもう一発砲撃を放つことで、その反動でその場から即座に退避していたのだ。それを一部始終見ることが出来た軽巡棲姫も、それにはすぐに対応出来なかった。

 

 放たれた二発目の砲撃は、この大きな空間の壁の一部を抉り取る。だからと言って大きく被害があるわけでもない。それだけ頑丈であり、消し飛ばす砲撃であっても完全破壊は出来なかった。壁の奥にも空間があったようだが、既にそこは無人であり、余計な被害は出ていないようであった。

 

「あっぶねぇ……あのチームワーク、トーチカの時の連中と近いぞクソ」

 

 何とか包囲から抜け出すことが出来た深雪だが、それだけではまだ打開出来たとは言えない。敵は6人とも無傷で残り、深雪がその場は抜け出せたことを恨めしく見ている。あの状況を切り抜けるとは、特異点許すまじと、より怒りを募らせているようだった。

 

「電! あのチームワーク、何かありそうじゃないか!?」

「なのです! 撃つタイミングも全く同じだったのです!」

 

 ここまでの動きを、電はしっかり全て見極めていた。深雪が取り囲まれた時、後ろから撃とうともしたが、軽巡棲姫の牽制を受けていたため、離島棲姫を守りながら回避に徹していた。離島棲姫も自分の足で回避を徹底して、何とか出した艦載機を使って身を守っている。

 その際に、後から現れた4人の敵の動きが、驚くほど同時だったことに気付いている。主砲を上げるタイミングから、角度、狙いを定めた位置まで、まるで()()()()()()()()()()()動き。

 

「……連携を絶対に上手く行かせる力……! 『操縦』に近い力だと思うのです!」

「誰か1人に全部乗っかる力ってことか。そりゃあ連携がうまく行くわな。誰かにやってもらってるってわけだ」

 

 電の予想はほぼ正解。駆逐水鬼と外南洋駆逐棲姫、合計4人の力は、全員が同じ力。紐付けた者同士が任意で同じ行動が出来るチームワーク特化の力、『同期』の曲解。

 ここにいる者達が素人集団だとしても、4人がかりであれば特異点を圧倒出来ると考えた結果、『同期』を巧みに使い、華麗な連携で追い詰めることを狙った。今回は深雪の機転で抜け出せたが、次はどうなるかわからない。

 

「1人の目が開いていれば、残りの3人は目を瞑っていても当ててくるのです。しかも風が吹いてるから煙幕も大きく出せないのです……!」

「……じゃあ、4人の目を同時に塞げばいいのかしら」

「なのです。でも、深雪ちゃんと電では、それが出来るのなら煙幕なのです」

 

 離島棲姫も必死に回避しながらその手段を考えていた。素人考えを持ち出すのは迷惑かもしれないけれど、少しでも助けになれたらと。電もそんな離島棲姫の思いを無下にはしない。回避が疎かになるのならそちらに集中してもらうが、そうでないならむしろ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、自分とは違う視点の考え方を持つ者の思いつきを期待した。

 

「逃がさないよ特異点!」

「大人しくここで死になよ!」

「何を馬鹿なこと言ってんだテメェら!」

 

 改めて向かってくる4人の敵に、煙幕をぶつけようと左手を向ける。しかし、それを読んでいたかのように軽巡棲姫が煙幕を散らそうと突風を吹かせる。

 

「あれ、風を起こしてるのよね」

「なのです」

「もしかして、アレを向けた方向にしか風が出ないの?」

 

 これは磯風の『空冷』でも同じこと。手を向けた方にしか風を起こすことが出来ない。軽巡棲姫に関しては、左腕を包み込むゴテゴテな艤装を向けなければ起こせないように見えた。

 ならば、風の向きをコントロールすることは出来る。電にはそれだけの技術力がある。

 

「やってみるのです。ついてきてください」

「えっ?」

「深雪ちゃん! あの風を止めるのです!」

 

 それは、わかってしまえばすぐに可能なこと。軽巡棲姫は風を起こすために他の4人より一歩後ろにいる。今ならば砲撃も控えて、煙幕対策に特化している。故に、狙いやすい場所にいると言っても過言ではない。

 

 電はすぐさま行動を開始した。深雪の目から見れば、軽巡棲姫は4人の陰から風だけ送ってきているようにしか見えず、狙い撃とうと思っても、4人が邪魔で主砲を構えることも出来ない。

 だが電はその団体から外れたところにいる。動き回ることも自由。

 

「深雪ちゃんの真似をして……っ」

 

 電とて今は特異点。足に煙幕を纏わせ、身体能力の増強も不可能ではない。

 軽く地を蹴るだけで、電は思っていた以上に移動が出来た。少し驚きつつも、すぐに順応し、軽巡棲姫に目を向ける。

 今は深雪が煙幕を出そうとしているため、そちらに風を送ることに集中している。電が特異点の補助装置であることはわかっているだろうが、深雪ほどの脅威ではないとも考えていそうである。

 だから、腕だけ深雪に向けて、目を電に向けるなんてことが出来ない。そこはどうしても素人感が出てしまうところである。

 

「見えた……ここなのです!」

 

 4人の敵から引いた位置、深雪に向かって艤装を構えている姿。その艤装は、電にとっては動かない的のようなもの。

 

「向きさえ変えてしまえばいいのです!」

 

 電の放った砲撃は、真っ直ぐ軽巡棲姫の艤装、その先端に直撃するコースで飛んでいき、見事に命中する。

 2人目の軽巡棲姫にもそれは影響があった。体勢を無理矢理崩された片方は、勢いよくもう片方に倒れ込むカタチになった。

 

 無論、電はそれを狙った。軽巡棲姫2人が直線上に並んだ位置から、一発でどちらも撃ち抜けるように。

 本体を狙ったわけでもないため、殺意もなく、すぐにそうされたとは感じづらい。これが命を奪う一撃ならばまた話が変わっていたかもしれない、

 

「っ!?」

 

 風が吹く方向がその瞬間に変わる。深雪の煙幕には影響を与えなくなる。

 

「流石だぜ電! テメェらが怖がってる煙幕だ、喰らえ!」

 

 お膳立ては出来た。瞬間、深雪の左手からは一気に煙幕が溢れ出た。炭酸ガスが噴出するかのようにばら撒かれた煙幕は、あっという間に4人の敵を包み込んだ。

 

 

 

 

 煙幕が出せてしまえばこちらのもの。深雪達は勝利に一歩近付く。

 だが、戦闘はここだけではない。堕とされた艦娘達と戦う仲間達は、嫌な戦いを強いられているのだから。

 

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