後始末屋の特異点   作:緋寺

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凡人にあらず

 白雪の策により、放電を繰り出す鈴谷を撃破。白雲の『凍結』により生成された氷を、比叡の『燃焼』によってわざと溶かし、それを鎖と共に巻き付けることによってショートを引き起こし、感電はしないにしても発生する熱によって大ダメージを与えることに成功したのだ。

 

 鈴谷はこれで再起不能。自己修復は始まっているかもしれないが、そう簡単には立ち上がってこない。この間に残りを片付けたいところである。

 

「次、参ります!」

 

 鎖を一部犠牲にすることで勝利した白雲は、その流れをそのままに、次の相手に目を向ける。その視線の先にいるのは──熊野である。

 鈴谷の放電が失われたことで、接近戦などもかなりしやすくなった。比叡は『燃焼』によって未だに近付くのは難しいものの、人数を使えるようになったのは大きい。

 だが、常にこの空間の中を監視され続けているのは厄介極まりない。子日が『迷彩』を使えなくなるのも厳しいといえる。

 

 戦艦を残すのは戦いとして厳しくなりそうだが、それ以上に『電探』での監視が面倒臭い。これさえなくなれば、子日の暗躍が始まるため、優先順位がかなり高めになる。

 

「ただ『電探』で見てるだけかもしれませんが、それだけ視野が広いということでもあります。何をしてくるかわからない以上、あの『電探』は潰すべきです」

 

 白雪の助言もあって、次の狙いはやはり熊野。鈴谷による妨害が無くなった今ならば、容易とは言わずとも攻略は可能だろう。『電探』は位置を確実に把握する力であり、直接的に害を与えてくるような力では無い。深海棲艦に改造されたことで各種性能が飛躍的に上昇していたとしても、人数を使えばそれを打ち負かすことも可能であろう。

 

「なら、すぐに行くよ!」

 

 それを聞いたことで即座に動き出す子日。『迷彩』は今は関係ないため、そのままの姿で迅速に向かう。

 当然ながら、比叡はそれを防ごうとするが、勿論それを許すはずがない。他の者達が一斉に比叡に対して集中砲火を浴びせかける。そこから動くなと言わんばかりに。

 いくら戦艦でも、いくら『燃焼』の力を持っているとしても、砲撃に真正面から突っ込んでくるようなことはない。命を軽んじていても、自爆覚悟の攻撃はまだしてくるようなことはないようである。

 

「止めてる間にお願い!」

「まっかせて!」

 

 そうこうしているうちに、子日は熊野に肉迫していた。場所が完璧に把握されている以外ならば、見た目がアレなだけでスペックの高い重巡ネ級、その改くらいと見なしてもいいくらいだろう。今の子日ならば、それを単独でどうにか出来るくらいの実力はある。

 とはいえ、まだ何か隠している可能性があるため、無鉄砲に突撃を決めるほど浅はかではない。ほぼゼロ距離にまで近付いてはいるが、殴りかかるわけでもなく、確実に砲撃によって始末をつける。

 

「ほいっ」

 

 軽い掛け声と同時に、熊野の腹から生えた艤装の根本に砲撃を放つ。本体にもダメージはあるだろうがお構いなし。死ななきゃ安いと、痛めつけることにも躊躇はない。

 とはいえ、駆逐艦の砲撃によるダメージはそこまで大きいモノではない。いくら本体に近い場所を撃ったとしても、当てた場所は艤装。一撃で破壊出来るような強度ではなく、少しの傷なら自己修復で直ってしまう。

 

「やっぱり硬いねぇっ、でも、何度も何度も当てれば話は変わるんじゃないかなっ」

 

 距離が近いため、熊野は艤装を振るうことで子日から間合いを取ろうとする。しかし、子日の曲芸師のような身軽な回避に翻弄され、傷を負わせることすら出来ない。

 そして、その都度砲撃を艤装に撃ち込んでいく。回避と攻撃を完全に同時に繰り出しているため、『電探』があろうがなかろうが、その動きがまるで追い付かなかった。

 

 熊野は仲間がいてこそ力を強く発揮出来るタイプ。分断してしまえば、守ってくれる者を失ってしまえば、その実力のみで戦わねばならない。こうなると、子日が圧倒的に有利になる。

 

「このまま行くよ! 増援も無いみたいだしね!」

 

 邪魔をされないならば、そのまま押し込む。子日はよりスピードを上げ、熊野に砲撃を放ちながら、さらにはゼロ距離まで近付いて近接戦闘まで繰り出し始めた。足払いで体勢を崩してから、艤装に連射を仕掛けたり、攻撃を回避しながらも主砲に包まれた拳で殴りつけたりと、かなりやりたい放題している。

 

 だが、その様子をチラリと見ながらも、今の言葉に疑問を覚えた白雪。増援がない。この少数で抑え込もうとしているのは、その力を過信しているとしか思えない。ただでさえ今は鈴谷がやられているというのに、助け船すら出してこないのは些か疑問が多すぎる、

 

「あちらは……」

 

 比叡を抑えながらも、その目は別の場所で戦う深雪や神風の方に向ける。深雪には6人ものカテゴリーYが押し寄せているようだが、電との連携で大きく不利になっているようではないため、任せ切ることも可能かと一旦視界の隅へ。

 

 神風の方はと言うと──

 

 

 

 

「硬すぎなんだけど!?」

「『ダメコン』はそういうモノでしょ。夕立やトラだって同じじゃない」

「そうだけどさぁ!」

 

 グレカーレの愚痴を聞きながらも、神風はこの厳しい戦いをどう乗り越えようか考えているところだった。

 渾身の斬撃も通用しない。どれだけ速く、どれだけ力強く刀を振るっても、『ダメコン』によりダメージは最小限に抑え込まれてしまう。

 

 刃に毒でも塗ってあれば話は変わるかなどと思い、内心苦笑しながらも、衝撃だけは身体に刻みつけることが出来ることを考慮して、何をすべきかを試行錯誤。

 弱点らしい弱点を狙っても、金剛はそこだけは絶対に守ろうと行動する。神風が真っ先に狙ったのは顎だったが、それを受けるために両腕を使ってしっかりガードされた。

 脳を揺さぶってやれば気を失うというのは、深海棲艦にされたとしても変わらない。見た目は違っても人型であるのならば人間と同じように弱点がある。

 

「神風、私の予想なんだけど、いくら『ダメコン』があったとしても、衝撃は受けるんだったね」

 

 ここで牽制しながらも響が神風に問う。事前にある程度全員の力などは聞いて回っているが、細かい認識違いがあってはいけないと、改めてそれを聞く。

 

「ええ、それは間違いない。夕立で()()()()

「試したのかい。なら100%だね」

 

 試すといっても、やっているのはVR空間でのトレーニング中である。

 

「じゃあ、『ダメコン』は傷に対しては無類の強さを誇るというだけでいいんだね」

「あの金剛は深海棲艦の膂力も相まって、グレカーレの拳すら受け止めちゃってるけど、概ねそれで正解よ」

 

 グレカーレの剛腕による一撃も、金剛は『ダメコン』と膂力で完全に止めてしまっている。普通ならば衝撃で吹っ飛ばされてもおかしくないのに、未だにその足を崩したことはない。

 夕立だったら同じようにノーダメージで止められただろうが、その勢いを殺すことが出来ず吹っ飛ばされていただろう。トラならば戦艦であることもあって衝撃を食い止めることは出来るかもしれないが、身体がブレるくらいはしそうである。

 だが、あの金剛は『ダメコン』だけでは説明がつかないレベルで動じない。()()()()()()()としか判断は出来ないが、何処を狙ってもまるで壁のようにそこに立ち続ける。その壁が砲撃まで放ってくるのが厄介ではあるが。

 

「神風、君は関節を狙ってみてくれないかな。逆から叩き折ろうというわけじゃない。無理矢理曲げてやれば、そうだな、膝カックンをしてやるということなんだけど」

「一度体勢を崩すということね。どうせ傷はつかないだろうけど、やってみましょうか」

 

 グレカーレが真正面から対峙してくれているおかげで、神風は割と自由に動けるところはある。そのままにしていたら押し潰される可能性があるため、放っておくことは出来ないが。

 

「膝、ね!」

 

 グレカーレが拳を振るい、それに拳を返した瞬間を狙い、神風は一気に飛び込んだ。グレカーレの横をすり抜け、かなり低い体勢になったかと思いきや、居合を金剛の膝、その裏側に直撃させる。

 普通ならばこれだけで脚なんて無くなっている。だが、『ダメコン』が全身に施されているため、これでも傷がほんの少しついただけで終わった。

 

 ここからは響の予想。攻撃に対して攻撃をぶつければ、衝撃は相殺される。ならば、相殺出来ないような場所ならばどうなるか。

 答えは──

 

「崩れた!」

 

 膝カックンと同じようなことになる。これまでグレカーレを完全に抑え込み、むしろ圧倒していた金剛が、初めて膝をついた。

 これがやられるとわかっている状態には相殺が可能であっても、不意打ちならばそうはならない。

 

 とはいえ、()()()()()()()()()というだけなので、それで斃せるわけではない。膝をついたからといって、金剛は無傷を貫いている。

 

「なるほど、そこはやっぱりって感じだ。なら、私が思いついた方法で斃せるよ。ただまぁ、あまり見栄えが良いモノではないけれどね」

「いけそうなの?」

「ああ。傷をつけなくても、敵は斃せるからね。最終的に傷になるかもしれないけど。まぁ、アレが人型だから可能というだけさ。バケモノだったら私でもお手上げだよ」

 

 小さく微笑み、帽子の中をゴソゴソ探し出した。相変わらず何処に何を隠してるんだと呆れるモノの、響の秘密道具は思った以上に有用であることはよく聞いている。

 

「うん、あったあった。これを使えばなんとかなるかな」

 

 さっと取り出して、それをポケットに入れた。なるべく悟られないようにするために、ギリギリまで隠しておくようである。

 

「それじゃあ、また何度か体勢を崩してくれるかな。隙を見て私がどうにかする」

「任せていいのね?」

「大船に乗ったつもりでいてくれればいい。でも、私だけの力じゃ無理だ。熟練者が動きを止めてくれないと、凡人な私が近付くことも出来ないからね」

「凡人て。貴女、普通じゃないじゃない」

「普通さ。少なくとも、君達には劣る」

 

 苦笑しながら、改めて金剛を見据える。

 

 

 

 

「さぁ、やろうか」

 

 自信ありげの響に、神風も続く。

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