後始末屋の特異点   作:緋寺

833 / 1163
残酷だが確実

 金剛の『ダメコン』により、苦戦を強いられる神風達。グレカーレが剛腕を使って何とか抑え込んでいるものの、拮抗とは言えずにジリ貧。神風の斬撃も全てを無効にされるだけでなく、脳を揺さぶろうとした顎への一撃もしっかりガードしてくるだけの余裕を持っている。

 感情が失われているために慢心もなく、的確にその時やらねばならないことを確実にこなしていく相手は、相当に厄介極まりない存在である。神風の技すら通じないのも考えモノである。

 

 だが、そんな相手でもどうにか出来ると、響が策を編み出した。相変わらず帽子の中にいろいろと仕込んでおり、その中からこの状況に適しているアイテムを取り出して、その時が来るまでポケットにしまっている。

 

「じゃあ、やろうか」

 

 自信ありげな響に、神風も続く。大暴れする金剛と、それに何とか耐えているグレカーレだが、響の砲撃──脳天に一発喰らわせる一撃が放たれたことで、新たな段階に入ったことを両者に伝える。

 頭への攻撃はすかさずガードする金剛。そこから考えても、響は脳を揺さぶるような衝撃を耐えることは出来ないのだと理解した。神風に確認を取ったのも、その考えが『ダメコン』を知る者の共通認識であることを確定させるため。

 

「『ダメコン』はあくまでも外傷だけを防ぐのはよくわかったよ。あと戦いながら聞くのはナンセンスかもしれないけど」

「さっき聞いてほしかったわね」

「ああいうのって、五感とかどうなんだい」

 

 うみどりには姫だけでなくイロハ級も所属しているため、深海棲艦の傾向というのは何処の鎮守府よりも理解している。戦闘中のこと以外の、普通ならばあり得ない()()()()の中での話だ。

 ムーサは非常に特殊ではあるが、忌雷の匂いを嗅ぎ分けることが出来る上に、明らかに味覚も備えていることから、人型であれば深海棲艦も人間と同じ五感を持っていると考えられる。実際、副官ル級はセレスの料理を食べて満足げにしたりもしているし、話せないにしても高波の言葉を理解して行動出来ている時点で聴覚もハッキリとしている。そういうところから、イロハ級も同じ。

 

 今の金剛は、艦娘を素体としたイロハ級のような立ち位置だ。洗脳が行き届いているにしても、その在り方は艦娘や深海棲艦と同じ。こちらの声が届かず、あちらの声しか届かないようにされている可能性はあるものの、五感を封じているなんてことはまずあり得ない。

 

 特に戦闘には配慮が殆ど無駄であろう()()は。

 

「五感は普通にあるわ。うちのル級からして」

「上々だ。なら早速いろいろやってみようかな」

 

 そう言いながらポケットから取り出したのは、何やら緑色の玉。ピンポン玉くらいのそれを握り、まずは砲撃を放つ。狙いは当然、先程と同じで頭。

 金剛は勿論、それを防ぐ。頭だけはしっかり守っていく。

 

「グレカーレ、防いでる腕を殴り飛ばしてくれないかい」

「何するかわかんないけど、りょーかい!」

 

 そのガードを打ち崩すかのように、グレカーレが剛腕で殴り飛ばす。腕とは言わず、顔面を殴る勢いで突っ込んだ。

 響の砲撃が加わったことで、戦艦主砲を使うタイミングを与えない戦いが始まっている。ならば今が畳み掛ける時だと、グレカーレも察した。

 

「どっせーい!」

 

 普通ならばその一撃を喰らったら上半身がおさらばしかねない。しかし、やはり金剛の膂力は凄まじく、ガードを崩しに来たということをわかった上で、グレカーレのその拳を片手で止める。『ダメコン』のおかげで手は傷一つなく、膂力のおかげでグレカーレはそれ以上拳を押し込むことが出来ない。

 

「神風、もう片方の手を」

「ええ、わかった。止められるために斬るなんて、何か新鮮ねっ」

 

 グレカーレの逆方向から、神風が居合の構えで突撃。左右同時とはいかずとも、片手を潰した状態で、もう片方に向かうのは定石といえば定石。

 

「しっ……っ」

 

 強く踏み込んで、首を斬り飛ばす程の居合抜き。反応出来なければ即死。だが、『ダメコン』はその一撃すら受け止める。神風の本気であっても、()()()()()こと一点に特化している曲解であるが故に、それすらもしっかりと受け止める。

 神風の剣撃が軽いわけではないのに、それを受けても少し踏ん張るだけでその場から動かないのは異常とも言える。だが、そうなってしまっているのだから仕方ないと、神風はまずこの現状を良しとする。

 

「両手が開いたね。なら、これが効くだろう」

 

 そして主砲を向ける響。片方はグレカーレを、もう片方の神風を止めるために使っているのだから、3人目は止められないだろう。

 だが、金剛はそれすらも止めようと、ぐっと力を入れていた。そうしたのが見えたことで、響は察する。ここで砲撃を放っても、それはおそらく()()()()()()()。腕がダメなら脚でと、咄嗟に考えられるくらいに賢い。

 

 だからこそ、その策が通じる。

 

「残念。砲撃じゃあ無いんだ」

 

 響は砲撃を放つことなく、謎の緑色の玉を投げていた。そこそこの速球で飛んでいったそれは、金剛の蹴りによって即座に破壊される。

 だが、それは破壊された途端、緑色の煙となって金剛に襲いかかる。神風とグレカーレにもその余波が流れてきたが、少しだけそれが鼻に入ったことで、これは近くにいてはダメだと察することが出来た。

 

 毒を放ったわけではない。ただし、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「深海棲艦でも、まともに受けたら苦しいんじゃないかい。その()()()()は」

 

 中に入っていたのは、粉末のワサビ。目に入れば染みて涙が止まらなくなり、鼻に入れば激痛に、口に入れば辛いという味覚への攻撃になる。顔面に喰らったら悶絶必至の搦め手。『ダメコン』では防ぐことが出来ない、反射的なダメージ。

 

 深海棲艦となり無表情無感情の金剛であっても、反射的に、無意識に、その顔を顰めた。そして深海棲艦であっても目には涙が溢れ始め、鼻がツンと痛み始めたか、それまでは防御にしか使ってこなかった手で鼻を擦る。小さく咳き込んだようにも見えた。

 

「人型ならその反応はするだろうね。人間らしさが残ってくれていて嬉しいよ」

 

 涙目になったことで視界が濁る。だが、今は熊野の『電探』による位置把握がタイムラグ無しで常に通信され続けているため、目を瞑っていても何処から敵が近付いてくるかはわかる状態。

 響と目が合わせられなくても、排除するために主砲を向ける。無感情ながらも、響が絶対的に排除しなくてはならない敵であると認識したような仕草。

 

「私を狙ってくるだろうね。こんなことをされたんだ。でも、私だけに気を遣っている余裕なんてないんだ」

 

 砲撃を放たれる前に、神風が再び膝の裏側を強く斬る。ダメージはなくても、またもや膝カックンと同じ効果を発揮し、その場で体勢を崩す。敵の位置が見えていたところで、ワサビ玉により直に見ることが出来なくなっているため、神風の位置はわかっても、神風が何をしようとしているのかはわからなかった。

 砲撃が来るかもしれないとガードだけはするが、そうすれば足元がお留守になるため、神風はすかさずそこを狙って攻撃に転じる。

 

「へ〜、場所しかわからなくなってるんだぁ。なら、こういうのは、どう!」

 

 膝から崩れ落ちたのを見計らって、グレカーレが背後に回る。主砲は正面にしか向いておらず、身体をある程度動かさなければ背後に攻撃は出来ない。

 ついさっきまでは、それにも即座に反応していたが、目がまともに使えない状況となると話が大きく変わる。移動先で何をしようとしているかがわからないとなれば、あらゆる状況から考えて、選択肢はたった1つになる。

 

「だろうね。そこから逃げる以外の選択肢が無くなる」

 

 最も被害が少なくなる場所を判断して、その場から離れるというのが最善。時間を稼ぐならば尚更だ。勝つことより負けないことを優先するのならば、いくら『ダメコン』があるにしても、無闇矢鱈に突っ込むこともしない。

 

 妙に冷静で、最善を常に選択するということは、その時の最善がわかっていれば行動も読めるということ。

 響がそれに気付いたように、神風もそれには勘付いていた。グレカーレが背後を取ろうとしたことで、その場から移動することも。故に、神風は回避方向に既に歩み出ていた。

 

「動かない」

 

 三度目の膝カックン。ダメージが無いとかそういうことは言っていられないくらいに攻撃を当てており、またもや膝から崩れ落ちる。

 

「なるほどねー。こうなると追い詰められるんだ。目が頼りだったのは変わんないねぇ」

 

 その瞬間にもうグレカーレが畳み掛けていた。立ち上がらせないように顔面を殴ろうと突撃。撃つわけではない。それはそれで、金剛の選択肢を狭めることになる。

 近付いてくるということは、近接戦闘を仕掛けるということ。立ち上がるのに少しだけ時間がかかることを考慮して、今からならば避けるより受けた方が安全と判断。

 

「これでいいかな、ヒビキ!」

「グッジョブだ。この止まる瞬間を待っていた」

 

 グレカーレの突撃が一番の懸念点となった今、同様に近付く響の方は後回しにしていた。グレカーレよりも接近が遅く、グレカーレを防御した後でも動ける、最悪『ダメコン』でどうにか出来ると高を括っていた。

 だからこそ、この一手は読めない、熊野の『電探』ですら、そこにそれがあると認識できなかった。

 

「見映えが悪いからあまり使いたくないんだけどね。これが一番、簡単に終わらせることが出来る最後の一手さ」

 

 響の手には、もう一つのアイテム……強化繊維のテグスが握られていた。

 

 本来ならば、艦娘を拘束するために持っていたモノ。今の戦いのように、洗脳された艦娘をなるべく無傷に捕えるために持っていたアイテムだが、金剛に対しては非情に出る。

 

「『ダメコン』で傷はつかないだろうけど、人型で器官も同じなら、()()()()()()()()()()()()

 

 そのテグスは、金剛の首に巻き付いていた。グレカーレをガードするために腕がそちらに向いていたこともあり、気付いた時にはテグスは首に食い込んでいた。

 思い切り引けば、首を切り落とすことも可能だったかもしれない。だが、それは『ダメコン』で出来なくされている。代わりに、普通以上に器官を拘束し、金剛の呼吸を完全に止める。

 

 深海棲艦の一部は、海中を自由に泳ぐことが出来るというのは、既に情報として手に入れていた。だが、それは呼吸無しで生きていけるというわけではない。海上と海中、そのどちらでも適した呼吸が出来ているに過ぎない。

 結果、()()()()()()()()()()()()()()()()ということに他ならない。むしろ、これでないとこの金剛は止められなかったまである。

 

「すまないね。割と残酷なことをさせてもらう。そのまま『ダメコン』を使っていてくれ。そうでなければ、殺してしまうからね」

 

 それがなければテグスが首を飛ばす。それがあれば首が絞まり続ける。金剛の取るべき最善は、終わる前に響を始末することだが──

 

「こらこら、暴れちゃダメでしょ」

 

 ニッコニコのグレカーレが、響の方に身体が向けられないように剛腕で押さえていた。主砲も向けられないような至近距離。響に気を向けている間に、しっかり接近することが出来ていたのだ。

 

「残酷だけれど、これがベストなんでしょうね。斬ることが出来ないんだもの。仕方ないわ」

 

 神風も不審な動きをしたら刀で殴るつもりで構えていた。

 

 

 

 

 だが、もうその心配は不要となる。首を絞められ続けたことで、金剛は白目を剥いて倒れた。命に別状はない。ただ、絞め落としたというだけである。

 首筋にはテグスによってついた小さな痕が、ハッキリと見えていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。