後始末屋の特異点   作:緋寺

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隠し続けてきた力

 鈴谷に続き、金剛も撃破が完了した。残すところ、敵秘書艦は比叡と熊野のみ。そして、その熊野も時間の問題となっていた。子日が熊野を圧倒し、追い詰めていたからだ。

 駆逐艦であっても、1対1(タイマン)ならば何も問題はない。持ち前の身軽さを活かして、砲撃を軽々避けながら真正面から戦いを挑んでいた。

 

「一応殺さずにそのまま鹵獲出来るようにさせてもらうよ。もしかしたら救えるかもしれないからね」

 

 砲撃を潜り抜け、一気にゼロ距離にまで間合いを詰めた。そして、主砲に包まれた腕でパンチ。そのまま砲撃を撃ったら確実に命を奪ってしまうだろうから、自己修復があることを考慮してもこの主砲パンチが一番妥当な一手である。

 

 その一撃は熊野の胸に直撃。かはっと息が抜けたような反応を見せた。自己修復があったところで、胸を攻撃されれば息が抜ける。そしてまた隙が生まれ、追撃を繰り返す。

 一度入ってしまえば、そこからは子日の独壇場である。一切の容赦なく、しかし命を奪うことのないように、パンチだけでなくキックを織り交ぜながら、熊野を滅多打ちにしていた。

 

「『電探』さえ無くなってくれればいいんだから、さっ」

 

 そして一撃、延髄蹴りが見事、熊野の首筋に入った。いいところに入ったようで、それによって熊野の目はグリンと白眼を剥いた。

 

「ごめんね、どうにかする方法があればいいんだけ、どっ」

 

 さらに追い討ちで腹を蹴り、完全に意識を飛ばした。

 

 相手が普通の深海棲艦なら、ここからさらに追い討ちで砲撃を放ち命を奪うのだが、相手が相手であるため、そこだけは加減した。砲撃ではなく、頭にもう一撃。これでしばらくは目を覚まさないだろうと、安心はしないが一旦置いておける。

 

「『電探』終わり!」

「残りは比叡さんだけですね」

 

 これで残すところは『燃焼』の比叡のみ。ここまで来れば、全員で畳み掛ければ斃すことは可能だろう。いくら『燃焼』によって高熱を発生させていても、ここまでの人数差を覆すことは出来やしない。攻撃しづらいというだけである。

 

 故に、白雪は比叡の方はもう見ていなかった。ここまでずっと動いていない軽巡新棲姫に対して探りを入れる。仲間がやられているというのに、援軍の一つも出さなければ、自分が助けることすらしない。

 そこまで外道なのかと思うところもあるが、むしろ秘書艦に時間を稼がせて、阿手の撤退時間を作るだけでなく、()()()()()()()()()()()もさせているのではないかと考える。だからこそ、ここまで動かないのは何かおかしいのではないかと考えた。

 

「……まさか……っ」

 

 思い当たることがあった。

 

「神風さん! 軽巡新棲姫を攻撃してください!」

 

 白雪が叫ぶように指示する。ここまで秘書艦に妨害され続けていたが、ここまで来れば数人はフリーになる。その中でもトップの戦力である神風は、比叡にぶつけるよりも、いち早く軽巡新棲姫に向かわせた方がいい。

 また、白雪がそこまで強い指示をしたことで、響がまずいと察した。ここまで時間を稼がれたことで、軽巡新棲姫の()()が完成してしまっているかもしれない。

 

「なるほど、なかなかの観察力だ。流石は調査隊と言ったところか」

「では、少し早いですが始めますか。8割は出来ていますから」

 

 白雪に感心したような声を漏らすが、軽巡新棲姫は何か行動を起こすわけではない。

 

 否、()()()()()()()()()()()()である。

 

「軽巡新棲姫は『偽装』を使えます! 今見えている姿も『偽装』です!」

 

 その曲解は『偽装』。フレッチャーも持つ力であり、姿形を一時的に別物に変える力。自らに仲間の力を『量産』するようになったフレッチャーが、その力を使って服装を『量産』してもらった仲間のモノに変えているように、2人の軽巡新棲姫も自分の見た目を変えていた。

 しかし、ただ服を変えるとかではない。自分達が今やっている行動を偽装するために、ただ立っているだけの姿に見せかけていただけ。手を挙げて増援の指示をした時もあったが、それはそれとして実際は別事をやっていたと考えられる。

 

 ならば何をやっていたか。それがわからない。ただ立っているようにしか見えないようにしてまでしていることは何なのか。

 

「その身を、喰い千切れ」

 

 片方の軽巡新棲姫がそう唱えた途端、この広い空間の足下がどんよりと黒く染まった。その範囲はおおよそ、空間の8割。いくつもの戦闘が行えるような場所をそれだけ覆い尽くす程の力。

 端にまで拡がらなかったため、空間の端まで向かっていた深雪と電、そして離島棲姫にまでは届いていなかった。もっと時間を稼がれていたら、空間の全てを覆い尽くしていたかもしれない。

 

「なっ」

 

 直感的に、これに触れていてはまずいと感じる。しかし、範囲が広すぎて回避しようがない。やれそうなことと言えば──

 

「ごめん!」

 

 子日は謝りながら熊野の上に乗った。踏み潰すことになるが、これに触れているのは間違いなくダメだ。同様に、響とグレカーレは金剛の上に。白雲と磯風は瞬時に足下を凍らせて、その上に乗る。

 しかし、他の者は完全にその黒い空間に足を踏み入れた状態になった。白雪も、神風もである。

 

「何が起きてる!?」

「足が、()()()()!?」

 

 そうなっていることにいち早く気付いたのは、神風だった。触れている面が、そこに硬い地面があるというのに沈んでいた。足首までズブズブと埋められ、まるで泥濘に足を踏み入れてしまったかのような気持ち悪い感覚。

 

 片方の軽巡新棲姫の持つ力は3つ。1つ目はこれまでの行動を見せないようにする『偽装』、2つ目は自らの力を大きく拡げる『拡張』、そして3つ目。()()()という一点に特化した曲解。それが、『沈没』の曲解。

 海上で仕掛けることが出来れば最強かつ最凶の部類の力であるが、条件が非常に難しく、自分から拡がった黒い空間に足を踏み入れた者が、数分間その場所に入り続けていることが大前提。海上でそんなことをやっている余裕なんて何処にもなく、気付かれて避けられたらカウントもリセット。海上移動は自らの足で移動するより格段に速いため、回避されることも普通。そもそも、ジャンプされてもカウントがリセットする程のお粗末な力になっている。

 だが、『拡張』の曲解と組み合わせ、その範囲をただひたすらに大きくした上に、海上どころか陸上でも同じように使えるカタチになっているため、途端に恐ろしい能力へと変貌している。

 

 その結果が、陸上であっても沈める。足が勝手に沈んでいき、まるで足を喰い千切るように埋まって見えなくなってしまった。それ以上沈まないのは陸だからという理由はあるだろうが、足首まで沈んでいたら普通ならばもう動くことなんて出来ない。海上なら溺死であっても、陸ならばこの程度で終わってしまう。

 

「足、抜けない……っ」

「『解体』します!」

 

 沈められた梅は、自分の足下を『解体』。黒い空間は拡がっているが、そこが未だに空間の床であることは変わらない。触れれば周辺が『解体』され、何とかギリギリ足を抜くことが出来るようになっている。

 

「その身を悔い、契れ」

 

 だが、それだけで終わらない。軽巡新棲姫は2人いる。

 

 その足が沈む黒い空間の内部から、糸のようなものが飛び出してくる。その糸が沈んでいる者達の手足に巻きつき拘束すると、足だけでなく身体も動かなくされる。

 

 もう片方の軽巡新棲姫の持つ力も3つ。1つ目と2つ目は同様に『偽装』と『拡張』。しかし3つ目は、これまでにも驚異としてうみどりに襲いかかっていた、既に知っている曲解である『操縦』である。

 本来の『操縦』は動かしたい相手に触れて2秒ほど維持することが前提になる。それさえクリアしてしまえば、相手の意思は関係なく、いのままに操ることが出来るようになるわけだが、戦闘中にそんな余裕があるわけがなく、誰かに羽交締めにさせた後に悠々と触れるくらいでしか力を発揮するタイミングなんてない。

 しかし、それを『拡張』したことで話が変わっていた。超広範囲に操るための糸が発生し、それを絡み付かせることで条件をクリアするように変質していた。とはいえこの糸を空間全体に、気付かれないように拡げることは不可能に近かった。当然時間もかかる。

 

 それを全てカバーしたのが、『沈没』の曲解との併用である。糸を沈ませ、空間が拡がるのと合わせて漂わせ、頃合いを見て地上に解き放つ。絡み付かせる相手が『沈没』で固定されていることもあり、ほぼ確実に術中にハメることが出来ると言っても過言ではない。

 

「咄嗟に回避するのも流石ですね。ですが、半数は捕らえた」

「特異点には届かなかったみたいだが、仕方ないか」

 

 ここまで来たら『偽装』は不要であると、本来の姿が見える。軽巡新棲姫はその場でしゃがみ込んでおり、ずっと床に手を当てていた。空間を拡げるのにも、糸を伸ばすのにも、そこに手を当てておく必要があったようだ。

 

「やられた……ただ動かないのは疑問でしたが……」

「これまでのアイツらのやり方からして、部下にやらせて自分達はのうのうと見てるってこともザラだったんだもの」

 

 白雪が歯痒そうに顔を顰めた。これまでの行い、慢心から部下に何でもやらせ続ける傲慢さを逆手に取られたような感覚。その間にここまでの準備をされていたことは、白雪でも予想が出来ていなかった。

 そんな白雪を慰めるように神風は語る。これまでのことを考えるならば、そこまで綿密にこの策を考えているような敵はいなかった。勿論、ここにいる者は何をされても対応出来るようにと事前に幾つも敵の手段を想定していた。しかし、陸でここまで大規模な力を発揮されることは、考えの少し外にあったと言ってもいい。

 

 うみどりは慢心していない。今回ばかりは、その上を行かれた。あの裏切り者鎮守府制圧を逃げ切った提督だからこそ、余計に頭が回ったと、神風も嫌そうな顔をした。

 

 

 

 

「……おい、ありゃあ……なんだ!?」

 

 その異常な光景に、敵を斃した深雪達も気付いた。

 

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