後始末屋の特異点   作:緋寺

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因果応報

 特異点の煙幕によって効果を大きく拡げられた『操縦』は、軽巡新棲姫の『操縦』を上から塗り潰すかのように仲間達をコントロールし、『沈没』の沼から全員を助け出すことに成功した。

 その際、ここまでいいように使われていた秘書艦達にも自由を与えたところ、その意思を以て本来の上司である軽巡新棲姫に叛逆することを選択。『操縦』では引き出せない曲解をも使って、元々の上司である提督を攻撃し始める。特に比叡は『燃焼』の力を使って顔面を殴り続ける程であった。

 

「よっぽど恨みがあったのかよ……」

「なのです……でも……」

「あのクソには全く同情出来ねぇ。もっとやっちまえって思っちまう」

 

 砲撃で応戦している軽巡新棲姫だが、煙幕の効果によって前後不覚であるため、比叡から殴り飛ばされてもその位置がうまく把握出来ない。そしてまた殴られる。

 

 比叡は秘書艦ではあるが、どちらかといえば補佐。金剛が秘書艦だったため、それを手伝うカタチでその位置に立っていただけである。金剛が提督のことを好いていたこともあり、悩みながらも姉の幸せのために陰ながら応援していた。

 しかし、その提督がコレである。金剛の心を弄び、洗脳し、改造までしてしまった。金剛のことを尊敬し、愛まで抱いている比叡には、そんなことをした提督が許せるわけがない。殴り殺したいという気持ちもわかる。

 

「深雪、助かったわ。まだまともに身体は動かないけど、アレを始末すれば時間の問題だと思う」

 

 深雪と電、そして離島棲姫は神風達と合流する。煙幕の中でもその位置は完全に把握出来ており、近付けば煙の中でもお互いを認識出来るのは、特異点の煙幕ならではである。

 

「全員が沼から出ることが出来たわ。貴女達は?」

「こっちは襲ってきた連中を全部始末してある。あっちでのびてるよ」

 

 指差す先は煙で何も見えないものの、6人がかりで襲いかかってきたカテゴリーYはしっかりと片付けてある。あちらも簡単には目を覚まさないだろう。

 グレカーレに『羅針盤』を頼みたいところだったが、今はそれどころではない。そのグレカーレも『沈没』にやられず『操縦』にも引っ掛からなかったが、金剛を足場にしてその場から動くことが出来なかったのだ。だが今は、その金剛が一緒に乗っていた響をもまとめて岸に運んでいた。

 金剛も比叡と同様に自由を与えられている。感情を取り払われているため無表情ではあるが、仲間のためにまず動いたというのが金剛らしさである。

 

「ありがと。戦艦はやっぱり力持ちだねぇ」

「スパスィーバ、助かったよ。でも、君はどうするんだい」

 

 グレカーレと響を岸に下ろした金剛は、その足で比叡の方へと向かう。そして、軽巡新棲姫を殴る拳をその手で止めた。

 

「……そういう選択をする奴もいる、よな」

「なのです。電達は自由になってほしいと願ったのです。自由にした結果、あっち側につく人だって……」

 

 比叡の拳を受け止めた金剛は、無表情ながら比叡の目をジッと見た後、小さく頷く。比叡もその目を見つめた後、少しだけ目を伏せて一歩引いた。恨みはまだまだ深いが、金剛の思いの方を優先するのが比叡である。

 軽巡新棲姫を睨みつけながら、金剛の動向を見守るため、拳を握り締めながらも動かずにいた。

 

「よ、よくやった、金剛。流石は、秘書艦だ。特異点に、自由を与えられたのかも、しれないが、その行動は、評価出来る」

 

 ボコボコにされ息も絶え絶えではあるが、自己修復により徐々に治ってきてはいる軽巡新棲姫は、金剛が比叡を止めたことを称賛する。これまでの長い時間を自分を守るために教育し続けてきた甲斐があると、心底安心していることだろう。

 

「まだ、特異点は生きている……まだ時間を稼ぐ必要が……」

 

 自分勝手に命令をする軽巡新棲姫を見る金剛の目の変化に全く気付いていなかった。話せない、感情を表せない金剛でも、これだけはよくわかる。そこにあるのは怒りや悲しみではない。蔑みである。

 

 そして──

 

「金剛……行け、特異点を、止め──」

 

 全て言い終わる前に、金剛の拳が軽巡新棲姫の顔面に叩き込まれた。骨が折れるとか砕けるだとかそういうレベルではない。比叡が『燃焼』を纏って繰り出し続けた拳すらも凌駕する、『ダメコン』を使ってリミッターすら外した完全100%の全力の拳である。

 これが当たったら普通の艦娘ならば首が飛ぶ。衝撃に身体が耐えられない。だが、それをあえて地面に叩きつけるように放ったことで、首が飛ぶようなことはなかった。代わりに、頭から地面に減り込むカタチとなり、半分が凹んだ。

 

「なっ……君達は提督を……」

 

 その光景を見て、もう片方の軽巡新棲姫が金剛を非難する。しようとする。だが、それが全て言えることはなかった。

 軽巡新棲姫の後ろには、鈴谷が立っていた。金剛と同じように、無表情で、無感情で。だが、その目にあるのは、やはり蔑みだった。

 

 鈴谷もどちらかといえば提督を好いていた。だからこそ秘書艦という役職に就けた時に大喜びをした。熊野もそれを祝福してくれた。

 だが、蓋を開けてみればコレだ。ただ利用するために、身体を改造され、心すら壊され、もう人ではなくされている。洗脳されている時ならばそれも受け入れていただろう。だが、今は特異点により自由を得られた。

 

「す、ずや……まさか……君も……」

 

 バチンと、激しい音と光が放たれた。軽巡新棲姫に対して、ゼロ距離で放電をしたのである。ルーティンがわかっていても避けられる距離ではない。

 

「かっ……っ」

 

 一瞬で黒焦げになった軽巡新棲姫は、その場に倒れ伏した。そして、空間全体に拡がっていた沼は消滅していった。

 

 これで、この時間稼ぎの戦いは終わる。

 

 

 

 

 深雪の煙幕が消えていくと、そこの大惨事が嫌と言うほどわかった。幸いにも投げ捨てられた神風の刀は、『沈没』が解除された時点で浮上していたようで、地面に埋まってもう取れないなんてことにはなっていなかった。神風もこれには一安心である。

 

「コイツら何なんだよ。この状態でも生きてるのか」

 

 金剛に殴り飛ばされた軽巡新棲姫も、鈴谷に感電させられた軽巡新棲姫も、恐ろしいことにまだ息があった。即死で無かったからか、自己修復によってその状態で維持され、置いておけば回復もしそうだった。絶対に死んだだろうと思っていたが、僅かにでも息があったため、深雪は驚きを隠せなかった。

 金剛と鈴谷がトドメを刺そうともう一度力を振るおうとする。それを止めようとする者はいなかった。だが、ちょっと待ってと響が何かを思い付いたような顔をする。

 

「この2人のために犠牲になった艦娘といるんだよね、当然」

「それは、そうですね。私達のように魂を貸してもらっているのとは少し違うでしょう」

「それなら、その犠牲になった艦娘を救ってみないかい」

 

 響が何を言っているのかわからなかったが、それにすぐに気付ける者もいる。それは、フレッチャーだ。

 

「……私と同じように、ひっくり返すことで艦娘とする、ということでしょうか」

 

 苦い顔をするフレッチャー。それもそのはずである。フレッチャーは自分の元になった者の記憶を全て引き継ぎ、その罪悪感なども何もかもを受け継いでいる。この人間がどうなろうと知ったことではないが、その記憶を持たされて生まれる艦娘が可哀想だという見解。

 フレッチャーだけでなく、処置をする深雪と電も同意見である。別に軽巡新棲姫が死ぬのは全く以て構わない。むしろこのまま死ねばいいとすら思っている。電ですらだ。だが、ここまでのことをやらかしている人間の記憶は、おそらく壊れるほどの苦しみになってしまうだろう。それがどれだけ明るい艦娘であっても。

 

「記憶を消してひっくり返すことが出来るかはわからねぇよ。フレッチャーの時は、死んでほしくないって願いながらやっただけだ」

「その結果が、フレッチャーさんの苦しみだったのです……身に覚えがないのに、身に覚えがある悪いことの記憶に苛まれるのです……」

「罪悪感だけがたっぷり残るんだ。生まれたばかりでな。そんなの、流石に……可哀想だろ」

 

 フレッチャーの中にある米駆逐棲姫の魂は、最後に改心したからこそこの程度で済んでいる。だが、この軽巡新棲姫達は改心などしているはずがない。ここで目を覚ましたら、まだまだ特異点のことを罵倒し続けるだろう。ないことばかりで罪を押し付けてくることは一目瞭然である。

 下手をしたらその艦娘が新たな敵になりかねない。改心していないということは、それが正しいと信じてしまうことになる。誰になるかはわからずとも、それが艦娘として敵対してくるのは見たくない。

 それに、そんなことに深雪と電の力を消耗させたくないという気持ちもある。挟んでひっくり返すのも、それなりに消耗がある。米駆逐棲姫に処置をした時より大きく成長しているとはいえ、あまり多用はしたくないところ。

 

「……そうだね、それが一番か。すまない、私の言ったことは忘れてくれ」

「いや、そういう考え方もあるのかって、参考になった。コイツらが改心していたらやってたかもしれねぇ」

「改心してるなら逆にやりにくくなりそうではあるけどね」

「違いねぇや」

 

 ここにいる者で考えたが、やはり軽巡新棲姫達の処遇は簡単なことで終わることになった。

 このまま生かしておいたところで、この2人は何も変わらない。反省もしないし、改心もしない。更生の余地もない。

 

 ならば、もうやることは決まっている。

 

「もう止めやしない。好きにしてくれ」

 

 秘書艦達に、もういいよとストッパーを外した。途端に動き出し、軽巡新棲姫達に攻撃を再開する。今度こそ息の根を止めるために。気絶では終わらせないために。

 

「……最悪な気分だ。なんでこんなことになっちまうんだろうな」

「なのです……救えない人を知ってしまったのです……ならこの先にいる人も……」

「コイツらより、もっと酷ぇよ。覚悟はしておこうぜ」

 

 

 

 

 そこには、肉塊と血溜まりと化した軽巡新棲姫が残された。元は仲間だった者の手で、終わりを迎えさせられた。

 

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