後始末屋の特異点   作:緋寺

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海底での疑問

 島の地下施設に大きく開いた空間での戦いは、軽巡新棲姫と化した裏切り者提督達が自分達の連れてきた秘書艦に嬲り殺されるカタチで決着がついた。そこに残った殆ど残骸、肉塊と血溜まりは、置いておくのも気分が悪いのだが、触れたくもないため、今はそこに放置しておくこととなった。幸いにも空間が広すぎるくらいなので、遠回りくらいは出来る。

 

「それじゃあ、この4人はどうするよ」

 

 提督を自ら始末したことで、その動きを止めた4人の元艦娘達。金剛の拳には軽巡新棲姫の流した黒い血液がこれでもかというほど付着しており、それを洗い流すことも出来ないため、そのままにしている。比叡も同様だが、『燃焼』を纏った拳だったからか、焦げ付いているような見た目になっていた。

 鈴谷は『発電』による放電で黒焦げにしたため、返り血のようなモノは飛んできていない。熊野に至っては『電探』でのサポートに徹していたため、最後の戦闘では何も起きていないほど。

 

「今はここにおいていくしかないのです?」

「流石に連れて行くのはちょいと厳しい。ほら、あいつらも見張っておいてもらいたいしさ」

 

 深雪が指差す方にいるのは、6人がかりで深雪を始末しようと仕掛けてきた、駆逐水鬼を筆頭とするカテゴリーY達。今は全員が気を失っている状態であり、この空間の端に寄せられているのだが、目を覚ましてまだ戦う意思がある場合、ここから阿手を終わらせに行く時に挟み撃ちになりかねない。

 それならば、この秘書艦4人に見張っていてもらうというのもアリだろう。一緒についてきてもらってもいいが、やはりそこは適材適所。阿手との戦闘では、あちらに改造されている上に意思も剥奪されている者達は危険である。

 

「あのさ、あいつらがまた悪さしないように見張っててもらっていいか?」

「あちらは命は取らないでほしいのです。ソレとは違って、利用されているだけなのです」

 

 深雪と電が秘書艦4人の代表のように見えた金剛に話す。金剛はチラリと深雪を見た。その目にはもう感情らしきモノはほとんど見えない。自分を裏切った提督をその拳で始末したことで、自由となった感情も全て霧散してしまったかのようだった。

 金剛は小さく頷き、他の3人を率いて駆逐水鬼達の元へと向かう。深雪の要望に応えてくれたということだ。

 

「よかった、話通じたぜ」

「よろしくお願いするのですー」

 

 電の言葉にも反応して、金剛は血まみれの手ではあるが小さく手を上げた。任せろと言うように。

 

「さて、それじゃあ最後の作戦会議に……って、そういえば物凄く馴染んじゃってるけれど、貴女そういえば素人も素人よね」

「はーい……私は素人よー……」

「貴女のおかげで勝てた戦いでもあるから、素人感が全然無かったわ」

 

 気を取り直してと神風が話をしようとするが、守るためにここまで連れてきていた離島棲姫について決める事を優先した。

 自分の力で戦うことは出来ない離島棲姫は、そのまま一人で脱出させることも難しく、とはいえここに置いて行くことも難しいというなかなか難儀な立ち位置となってしまっている。その上で、軽巡新棲姫との戦いでは離島棲姫がいなければ勝てなかったと言える程の活躍──実際はその力を持っている者がそこにいてくれたおかげ──を見せている。

 そんな離島棲姫をここからどうするかは決めなくてはならない。ここからは殊更に厳しい戦い、ラスボス戦へと移行していく。その中で守り切れるかどうかはわからない。しかし、この空間は高い天井の其処彼処に水爆が設置されているという非常に危険な場所だ。そんなところに置いていかれるのも不安で仕方ないだろう。

 

「……顔色悪くない?」

「私は素人だってわかってて言ってる? あんなもの見せられて、まともでいられるわけないでしょ」

 

 そちらの方を見ないで話すが、そちらにあるのはさっきまで生きていた敵の肉塊と血溜まりである。いくら洗脳されてここに配備されたとはいえ、本当に人が死ぬ様を見るのは当然初めてだし、その死に方が殴り殺されるのと感電死というのは残酷すぎた。後始末屋はこういうモノに慣れているが、本来の反応はこれである。離島棲姫は口に手を当てて、「上がってきそう」と嘔吐感をどうにか耐えている程である。

 

「そういう意味でも、ここに置いていくのは酷ね」

「勘弁して……死体と一緒に待てるほど私の神経図太くないわ……」

「いや充分図太いわよ。貴女の神経どうなってるのよ全く」

 

 離島棲姫はもう少しだけ一緒に来てもらう方針となった。危険度の問題ではあるのだが、やはり命の危機が最も遠ざけられるのは、部隊と共に行動すること。どうしても守りに人員を割かねばならなくなるが、次は自分が彼女を守ると白雪が挙手している。

 その白雪は今、肩の骨が折られている状態。事前に特機を寄生させておいてよかったと、痛みを堪えて自己修復を待っている。今の白雪は戦線には参加出来そうにない為、一旦離島棲姫を守ることに専念すると話す。

 それなら私もと、響も一歩後ろに下がることを選んだ。2人で守れば少なくとも今は問題ないだろうと。

 

 そもそも連れていくことに問題がありそうなのだが、行くも戻るも厳しいならば、最も安全な場所にいてもらう他ない。

 

「それじゃあ改めて、作戦会議を──って!?」

 

 離島棲姫の処遇も決まったところで、改めて……と話そうとした瞬間、今度は突然の爆発音で話が止まる。

 

「これ、もしかして……」

「フーミィ達が暴れてるわね。ここまで時間を稼がれても、阿手は脱出出来ていないのよ。理由はわからないけれど」

 

 神風の予想は大正解だった。

 

 

 

 

 場面は変わり、島付近の海中。伊26が見つけ出した海底の侵入口へと向かった潜水艦隊は、その場所に容赦なく魚雷を撃ち込んでいた。

 

「テメェ本当に躊躇わねぇな」

「時間の無駄。中に入るならこれが一番速い」

 

 内側に空間があるとわかっているため、破壊した先にはどんどん海水が流れ込む。爆破して気付けることもあり、そこには潜水艇も用意されていた。

 

「阿手は泳げると思う?」

 

 そんな伊203の質問に、伊26はどうだろうと頭を捻る。深海棲艦の一部は、海上艦であっても潜水艦のように海中を自由に泳ぐことが出来るというのは情報として持っている。阿手もその力を持っているのならば、それで撤退していてもおかしくはない。

 だが、ここには潜水艇が置かれている。つまりは、中にいる者がそれを使う機会があるということである。

 

『泳げないと思いまっすー』

 

 伊203の質問に答えたのは、第四号海防艦。スキャンプは少しギョッとした表情を見せるものの、どうしてそう思ったのかと問うと、第四号海防艦だけでなく、第二十二号海防艦や第三十号海防艦も口を揃えて説明し始めた。

 

『ここの出入り口、使った感じがするから、何かするときはここから出てったんじゃない?』

『壊れてますけど、潜水艇も動かした跡がありました。そこそこ頻繁に使ってるのかなって、思います』

『だから、それを使って外に出てるんだと思いまっす。泳げるなら、潜水艇なんていりませぇん』

 

 今は魚雷を撃ち込まれて破壊された潜水艇だが、それを見ただけでそこまで分析出来ていた。見た目とは裏腹に、調査隊としては相当な()()()だと思わされる。

 しかし、実際本当にそうなのだから素晴らしい。伊203もうんうんと頷いていた。阿手がどのような姿をしているのかは潜水艦隊にはまだ知られていないが、海上艦であるとしても海上をのこのこ逃げるなんてことは考えにくい。

 

『だとすると、他にも出入り口あると思うんだよねー』

「ん、私もそう思う。だったら、片っ端から全部壊した方が速い」

『りょーかいでっすー♪ ニムのあねごぉ、他にもいっぱいあると思うので、探してくださぁい』

「うん、わかった。それじゃあ、大急ぎで全部見つけよう」

 

 ここからは伊26の手に入れた『ソナー』の曲解が大きく役に立つ。高速で動き回りながらも、空間があるところを見つけ出すとすぐに指示を出し、そこへと魚雷を撃ち込んでいく。そしてそこにも潜水艇が用意されていたことを知ると、思った以上に()()()()()()()()()()()()用意周到だなと苦笑する。

 

 島は広く、出入り口はいくつも用意されていたが、見つけるたびにそれを破壊し、逃げ道を封じる。まだ中にいるかはわからないが、その全てに潜水艇があるのならば、そこからは逃げていないと確証が持てる。

 

「どんだけ用意してんだよあの野郎。そんなに自分の身が可愛いかよ」

「これまでのやり方からして、そうだと思う。でも遅い。なんでこんなに逃げられなかった?」

 

 伊203はそこがどうしても不思議だった。これだけ脱出経路を用意しているのに、どれもこれも使われていない。こちらもそれなりに時間がかかっているのだから、もう逃げ出していてもおかしくないだろう。

 それなのに、まだこの施設内部に残っている。どう考えてもおかしい。まるで既に()()()()()()()()()()()()()()()こと。

 

「……まさか、嘘でしょ」

 

 伊203がそれを察した。だが、どうしても信じられなかった。

 

「フーミィちゃん、どうしたの? 何かわかった?」

「……阿手が脱出出来ていないのって……脱出させないようにしてる誰かがいるってこと……だと思う。でも、ここに阿手がいることを知っているのなんて、物凄く少ない。でも、いる。私達だけじゃない、阿手を知ってる存在……っ」

 

 ここは海底である。それなのに、それはいた。恐ろしいことに、それは伊203達に攻撃の意思を持っていなかった。

 そこにいたのは、3人。そしてその3人を、伊203達は知っている。

 

 

 

 

「出洲……!?」

 

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