後始末屋の特異点   作:緋寺

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足止め

 海中から阿手の逃げ道を潰し続けている潜水艦隊。出入り口を魚雷で木っ端微塵にし、退路を断っていく。

 その出入り口には、潜水艇が配備されていた。阿手はこれを使って脱出をしようと考えていたのだろうが、伊203達が破壊していく出入り口全てに配備されたままであるため、未だに施設内にいるということになる。

 明らかに行動が遅いと考えた伊203はその理由を考え、一つの結論に辿り着いた。自分達以外の干渉による妨害。しかし、今いる部隊の者達以外に阿手のことを知る者がいるか。

 

「出洲……!?」

 

 いた。伊203は嫌な結論に辿り着いた後、まさかそんなと思ってはいた。しかし、海底に本人がいたのならば、こんな珍しい声も上げてしまうもの。

 次の海底の出入り口の前、その3人は立っていた。カテゴリーKである出洲とその仲間達。小柄も中柄も勢揃いである。

 

 咄嗟に伊203は構えるが、出洲は少々冷ややかな目をしつつも、()()()()()()()()()を示すように小さく手を上げていた。

 

「私達は君達と戦うつもりはない。いや、いずれ戦うことになるだろうが、今ではない」

 

 そんなことを言われたところで、信じられるかと伊203は警戒を解くことはない。他の者もこんな場所に出洲が現れてはどうしたものかと困惑気味だ。スキャンプはお構い無しに突っ込もうと考えたが、何かあった時にここで戦えないのは海防艦だと気付いた時、潜水艇は守ってやらなくてはならないと動けずにいる。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。ボク達は今日は()()()()()()()()()に来ただけなんだから。メインイベントをやる前に、収集率100%にしたいんだよね」

 

 ゲーム脳な小柄がケラケラ笑いながら話し出す。それを出洲も中柄も止めようとしない辺り、本当に()()()()が行き届いているようである。

 

「収集率って……相変わらず……」

 

 ここには小柄と言い合った子日はいないが、同じように小柄の物言いを非難するように呟く伊26。噂には聞いていたがここまでとはと、少し呆れている程である。

 

「足手纏いになる味方を斃すことで、勇者のステータスがアップするんだ。これをやっておかないと、メインイベントの時に割り込みが入るし、ラスボスのステータスが上がるかもだから、ちゃんとやっておかないとだよね」

「……あのクソガキは何を言ってやがるんだ。あたいには理解出来ねぇ」

「しなくていい。時間の無駄」

 

 小柄が何を言おうと、それを深く考えるのは意味がない。とにかく今は敵対しないと真正面から言ってきているのだから、信じる他ない。ここで戦闘することも時間の無駄。伊203はここで割り切ることにした。

 しかし、小柄が言うように、足手纏いになる味方を始末しに来たということは、出洲達の狙いは阿手であろう。それでもこの場所にいるというのは何か理由があるのか。その疑問を解消するために、伊203は出洲に質問をしようと試みる。が、やはりこの戦いで待ち受ける最大の敵を前に、躊躇いもあった。

 

 その様子を察したのか、出洲は伊203を一瞥し、あまり感情を見せない表情で語り始める。

 

「先程も言ったが、我々は今、君達と争うつもりはない。特異点も今は見逃そう」

「信じられると思う?」

「特異点よりも優先順位が高いモノがいるだけさ。それがたまたま、君達と共通しているだけの話。共闘しようだなんて思ってはいないが、邪魔をしてやろうとも思っていない。安心してくれたまえ」

 

 信じられるか信じられないかを問うているのに、安心しろというのは何処かまともにこちらのことを見ていないように思えるのだが、出洲の言うことはやけに信憑性があるように感じた。特異点を見逃すというのも、本当にそうするのではないかと思えるほど。

 

「私の狙いは、特異点と同じく、いや、特異点以上にこの世界の平和を乱す存在の排除だ。しかし、それはつい最近まで同胞として長く共に歩いてきた者でね。縁もあるし、恩もある。だから、我々はここで直接手を下さないことを考えた」

 

 小柄はそうなの? と少し驚いているようだったが、中柄が頭を撫でながらボソボソと何かを伝えると、そっかーと納得した様子。おそらく、攻略チャート的にこれが一番確実で楽なルートだとでも言ったのだろう。

 経験値は逃すが、今後のストーリーへの影響を考慮して、この世界(ゲーム)を楽しませるために、うまくコントロールしている。親子としての関係なのかも疑わしく感じる関係だが、中柄の小柄への愛情はホンモノである。カテゴリーKと化した際に、全員少なからず壊れているようだが。

 

「だからここで、彼女を逃がさないようにしているということさ。平和を目指していると言うから私は力を貸したのだがね。だが、彼女は自己の平和……いや、自己の欲を優先している。それは私の求めるモノとは違う。それならば……ここで終わった方がいい。特異点と相打つのならばそれでいいさ。特異点を始末出来るのならばそれでもいい。だが、どうあっても彼女には生きていてもらっては困る」

 

 阿手のことを完全に見限ったような発言。中柄は目を伏せており、小柄もノリノリでここにいる。

 

「魔王は1人じゃないもんね。信じてた人が裏切るなんてよくあるイベントだし。でも、魔王同士の潰し合いをさせるっていう攻略の仕方はボクやったことなかったや。アレかな、RTAってヤツの時短方法かな」

 

 相変わらずゲームで例えているが、やはり否定はしない。RTAではないものの、効率よく共倒れしてくれるなら都合がいいというのは出洲も思っているようである。

 平和を担うつもりがない者ならば、たとえ恩があろうと切り捨てる。容赦はないかもしれないが、阿手はやりすぎた。出洲から見てももうダメである。

 

「さて、それだけ語らせてもらったけど、理解していただけたかな、阿手さん?」

 

 不意に中柄が海底に向けて刀を振るった。瞬間、そこにあるはずの出入り口が爆散する。海中だというのに、その鋭さは陸と寸分違わない。凄まじい威力に出入り口程度では耐えられず、その奥にある潜水艇すら一刀両断された。

 

 その奥。潜水艇に乗り込む前で止まっている者の姿が確認出来た。海水が流れ込む出入り口、さらに濡れないほどに奥まで引っ込んでいた者。

 集積地棲姫改。そこにいたのが阿手である。

 

「……出洲君、どういうつもりですか」

 

 苦い顔を見せる集積地棲姫改──阿手に、出洲は全く悪気のない顔で語る。

 

「今全て話したでしょう。貴女の平和は、私の目指す平和とは違う。私の研究を利用し、悪用し、私利私欲のためにここまでの被害を出した。私をも騙して、無辜の民にすら手にかけさせた。貴女は安全圏でただ見ているだけ。そして貴女はこう言うでしょう。全ては出洲のせいであり、私は利用されていた、とね。都合の悪いことは全て他者になすり付けるようで。私も最近知ったことなのが恥ずかしい限りだが」

 

 薄目で見据える出洲は、その顔が見えていない伊203であっても緊張を患ってしまうほどだった。これまで徹底的に敵を殲滅していた伊203が、隙がないと断言出来る。

 

 これが、本当の高次の存在。勝たねばならない、絶対的な敵。

 

「私は手を出さない。だが、ここから逃がさない。さぁ、戻って特異点と戦ってきてもらえるかな。貴女は特異点を始末するために、この島の平和を壊してまで対策したんだ。ここまでして逃げようだなんて、プライドのないことが出来るのかな」

「……君は……私への恩を」

「忘れていないから手にかけないと言っている」

 

 明確に敵意をぶつけた。阿手の隣にいた側近達──2人のカテゴリーYである重巡新棲姫と飛行場棲姫が、それだけで怯んでしまう。

 

「ここから逃げるというのなら、その命は我々が奪おう。敵前逃亡は士道不覚悟で切腹、だったかな。かつて読んだ本に書かれていたよ。撤退が悪いことではないが、阿手さんはもうそれをしていい段階にいないことを自覚してもらいたい」

 

 拳を握り締める阿手。出洲の近くでその光景を見ている伊203達潜水艦隊の姿を見て、冷静に努めつつも声を上げる。

 

「そこの特異点の仲間は見逃そうと?」

「ああ、彼女らを傷付ける道理が今の我々にはない。こうして阿手さんを前にしても攻撃していないだろう。ならば尚更さ。怒りを孕んでいるのに自制出来ている。特異点の仲間とはいえ、この振る舞いには敬意を示そう。戦うのは、今ではない。貴女のことが済んでからだ。それに──」

 

 出洲はクスリと笑うように表情を柔らかくする。しかし、目は一切笑っていない。

 

「私の敵は特異点だけ。その仲間は、抵抗しない限り傷つけやしない。特異点は平和を乱すが、特異点でなければ救うに値する存在だ。理解出来ないのならば、仕方がないがこの手で葬らせてもらうさ。だが、先も言ったが今は違う」

「いいから早く戻って特異点と戦ってきてよおばさん」

 

 痺れを切らして小柄も口を出し始めた。おばさんと呼ばれたことで、阿手は顔を顰めている。敬意がないとでも思ったか。

 

「特異点と戦うためにここにいるのに、特異点から逃げるってちょっと雑魚すぎない? おばさん、そんなに経験値持ってるの? ボクにはそんな感じには見えないなぁ。道端で会う雑魚敵ではないかもしれないけど、ぽっと出のイベント戦闘のボスって感じ」

「……躾のなってない子供が……」

 

 小柄のゲーム脳な物言いが、初めて笑いに繋がりかけた。スキャンプは見えないようにクツクツと笑い始めていた。

 

「さぁ、早く。戻って特異点と戦うんだ。私も恩のある阿手さんをこの手で始末はしたくない。覚悟を決めて……早く戻れ」

 

 最後の言葉は心臓を貫きそうな程鋭く低い声だった。阿手の握り締めた拳がさらに強くなる。

 

「……行きますよ。特異点を始末します」

 

 側近の2人が苦しそうに頷き、踵を返した。

 

「……出洲君、後から覚えていなさい」

「何をかな。貴女がこの私に何をしようと?」

「え、後から戦う? それじゃあボクがやるよ! 裏ボスくらいの実力あるのかな。楽しみ!」

 

 小柄の狂気的な発言に、阿手は舌打ちをして戻っていった。

 

 

 

 

「君達はどうするつもりだい。特異点を助けに向かうのなら、すまないが食い止めさせてもらう。屈するというのなら、受け入れよう」

「面白くない冗談は好きじゃない、時間の無駄」

 

 嫌悪感を見せる伊203。だが、そこから動くことは出来なかった。自分だけでなく、ここには潜水艇の海防艦もいる。余計なことは出来ない。

 

「深雪達なら、あんなの斃せるから、ここで託す」

「懸命だ。ならば我々も、ここから動かない。特異点が阿手さんを始末したとしても、手を出さず見逃すことを誓おう」

 

 潜水艦隊はここで足止めを喰らうことになる。援軍として向かうことは、不可能。

 

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