後始末屋の特異点   作:緋寺

841 / 1163
救われぬ者

 外で起きていることなど露知らず、深雪達は阿手を追うために進もうとする。先程まで戦っていた広い空間の端には、他の場所への通路がいくつか存在しているので、何処を使ってこの施設から脱出しようとしているかを考えなければならないが、伊203達が引き起こした出入り口の爆破音のおかげで、ある程度の場所は把握出来ていた。

 

「こっちね。最後に音がしたのは」

 

 神風が指差す方は、大まかに港とは真逆の方向。もし阿手が脱出出来ていたとしたら、正面突破部隊とぶつかるなんてことは無い。やはり港側に抜けていくようなわかりやすい進路を取ろうとはしない。

 

「爆発音が今無くなったってことは、フーミィ達が阿手と交戦してるかもしれない」

「爆発の音からして、神風が言っているところから時計回りには潰されてるよ」

 

 一部は戦闘中だったが、ここで聞こえてきた音から響が分析し、爆破した順序を割り出した。基準点はわからないが、おおよその破壊されたポイントは見えているようである。

 そこから考えて、次にありそうなのはこっちだと通路を指差す。その通路が真っ直ぐ脱出口に繋がっているかはわからないが、少なくとも最短でそこへ向かえそうなのはそこだと、ひとまずの指針を提示する。

 

「完全に均等に造られているとは限らないから何とも言えないけど、行くならこの道かなとは思うね。幸い、通路もそれなりに広い。私達が3人並んでもお釣りが来るほどだ。この通路なら戦いやすいというのもある」

「それでも出来ればこの広間まで来てもらいたいけれどね」

「万全を期すなら、阿手がここまで来ることはないと思うけどね。何せここには、奴本人が仕掛けた水爆がある。何かの間違いでそれが爆発したら、阿手もタダじゃ済まない。あんなに見苦しく生き残ろうとする奴が、万が一を考えないかな」

 

 こうして広間で話しているものの、ここはいつ水爆が爆発してもおかしくない非常に危険な場所だ。1つでも危険なのに、ここにはそれが複数個仕掛けられている。ダミーがいくつかあったとしても、本物が無いというのはなさそうである。

 

「出来れば私は起爆を阻止したい。もし、うまく阿手を始末することに成功したとしても、どうせ死ぬなら死なば諸共と起爆させる可能性があると思わないかい」

「……すげぇ考えられるなそれ」

「自分の命に起爆のスイッチを仕掛けている可能性すらある。自分を殺したら爆発するぞと脅してね」

 

 全てがありそうだと思える予想。それだけ阿手の見苦しさには信頼がある。生き延びるため、よりこの世界を楽しむ──好き勝手にやりたい放題するために、阿手はあの手この手を使ってこちらに選択を持ちかけてくる。

 

「だが、とにかく場所が悪い。天井に設置されているからね。脚立じゃ届かないし、真横に繋がる通路はあるんだろうが、完全に隠されてる。というか、どうやって設置したのかなアレ。それが見当がつかない」

 

 水爆の設置方法がわからないと話す響だが、響自身もこうなのではないかという手段は実は思いついている。本来なら不可能なことが可能になる、敵の持つ曲解能力である。

 例えば、モノを浮かせることが出来るとか、自分が飛べるようになるとか、本来の常識から逸脱したことを考えれば、大概のことが実行可能となるだろう。爆弾そのものをここから天井に生成した、なんてことすら思いつく。漫画やゲームの世界だねと響は苦笑するが。

 

「ともかく、私はここで戦うことはしないと思うよ。部下を戦わせることがあっても、自分が戦うことは、ね」

「だな。じゃあ、ここから向かう……しか……」

 

 響がそこまで説明したところで、行こうとしていた通路の奥から、カツンカツンと足音が聞こえてきた。ここまで話していて、それが聞こえてきたのだから、阿手ではない足止め役がさらに来たかと身構える。

 だが、ここに向かってきた者の姿を見て、全員が目を見開いた。そして、真っ先に声を出したのは──離島棲姫。

 

「アイツよ! アイツが阿手!」

 

 声を荒げて指を差す先。そこにいたのは、集積地棲姫。深雪達が知る集積地棲姫──手小野と、顔やら何やらはかなり似ている。しかし、着ている服が少し豪華になっていたり、雰囲気からして強者の風格を持っていたりと、改と名付けられているのがわかる存在感を醸し出していた。

 その周りには側近と思われる2人の深海棲艦。重巡新棲姫と飛行場棲姫。前者は深雪としても嫌な思い出がある。忌雷により深海棲艦化させられた妙高の姿──深海重巡棲姫に似ている部分が多々あったからだ。

 

「阿手……まさかここで迎え討つことになるとはな」

「……特異点、同じ空気の中で向かい合うのは初めてですね」

 

 既に苛立ちが隠しきれていない阿手。

 

「脱出口潰されてイライラしてんのか。相変わらずちっせぇ奴だな」

 

 出洲に焚き付けられた挙句、行けと言われてここに来たとは悟られたくなさそうに、苛立ちは見せども冷静に振る舞っている。何故ここに戻ってきたかも勘繰られないようにしていた。

 

 本来ならば何があってもここに来るつもりはなかった、むしろ、阿手はああ言っていたが、まだ脱出口──潜水艇の用意はされている。特異点迎撃に向かうと見せかけて、そちらの通路に向かい、別口から脱出することも考えていた。

 しかし、出洲は念の為と艦載機を1つ、阿手の監視につけていたのだ。戻れと言ったのに戻らない可能性を考慮して。これにより、阿手の目論見は完全に崩れ去り、否が応でも特異点との戦いをせざるを得なくなっていた。

 

 その事実を、とうの特異点は知る由もない。故に、言いたい放題出来る。

 

「テメェ、覚悟出来たからここにいるって感じじゃねぇな。こんだけ人様に迷惑かけておいて、まだのうのうと生きるつもりかよ」

「……私の研究は終わるわけにはいきませんから。この世界の平和のために」

「主語が大きすぎるのです。素直に言ったらどうですか。この世界の平和でなく、貴女だけの平和と」

 

 深雪だけでなく、電も明確に悪意を持った言葉をぶつけた。ここまでの行い、無関係な者まで巻き込んだやり方を非難し、私利私欲でやり続けているのにもかかわらず、その罪だけを深雪になすり付けるやり方が本当に気に入らなかった。

 

 電の姿を見て、少し驚いていた。特異点は深雪だけだと思っており、電は所詮補助装置だと高を括っていたのだが、今は深雪と同等ほどの輝きを見せている。やはり実際に見てみないとわからないものだと、小さくほくそ笑んだ。

 

「あたしも会いたかったよ、あの時は滅茶苦茶してくれてありがとう、おばさん」

 

 ニヤニヤ笑いのグレカーレが阿手を睨みつける。口は笑っていても、目は全く笑っていない。

 

「……あの時のグレカーレですか。貴女は私の目指す平和の素晴らしさを知ったと思いますが?」

「ほんの一瞬ね。でもさ、ありゃあ幸せじゃあないね。何を思えば、アンタの言うことを聞くことが平和なのさ。もしかして、アンタが世界の頂点に立って好き勝手人の命を弄りまくるのが平和だとか言ってんの? あっはは、ダッサ。自分勝手が罷り通るのは子供だけだよ。それでも叱られるんだから。いい歳こいてそんなこともわからないの? そりゃあ嫌われるわ」

 

 煽りは健在。おちょくるような語気で阿手に対して言葉をぶつける。メンタルが弱ければそれだけで泣きそうになるくらいに。

 

「……私の中の()()の記憶が、強く、強く反応しています。それに、お姉様から分けていただいたこの力、この感情も、とても、とても」

 

 そう言うのはフレッチャー。胸に手を置き、湧き上がる怒りに耐え、冷静に落ち着こうと深呼吸を繰り返す。頭が冷えた方がいいかと、磯風が『空冷』の風を最小限にして送り込んでいるほど。

 

「貴女はどうせ覚えていないけれど、言わなければ気が済みません。貴女は、貴女は人の人生を潰して手駒を作って、何も感じませんか。感じないから今も繰り返しているのでしょうが」

 

 フレッチャーという存在に何かを感じることもない阿手。その質問に対しては、答える義理もないとだんまり。むしろ、無関係な者が口を挟むなと言わんばかりに嫌悪感を見せてくる。

 だが、何も無関係ではない。フレッチャーには、阿手に対する2つの恨みが内在している。

 

「……わざと落ちこぼれを作り、自分のいいように操り、軍港都市の罪なき人々も巻き込みましたね」

「ああ、そんなこともありましたね。それが貴女に何の関係が?」

「……あの主犯にされた少女の魂が、私の中に在ります。私の人生を壊しやがってと語るようです」

 

 何を言ってるんだという顔をする阿手だが、まだフレッチャーの口は止まらない。

 

「第二次深海戦争の時……初風を洗脳し、自爆で散らせましたね」

「それこそ君には関係ないでしょう。何を言い出すかと思えば」

「私は、あの時の雪風の意志を継いでここにいます……貴女に計り知れない程の怒りと恨みを持ち続けて、今も生きています。何か言うことはないですか」

 

 雪風と初風の名を聞き、ああと阿手は思い出したかのような表情を見せる。そして──

 

「いましたね、そんな艦娘が。提督のやり方を否定するような艦娘、覚えていますよ。だから私が、本当の幸せを教えてあげたに過ぎない」

「幸せ? 何処がですか」

「人のために命を懸けることが、艦娘にとっての至上の悦びでしょう。艦娘という存在を考え、余計なことを取り払い、最期は平和のために散った。ただそれだけでしょう。非難される謂れはありませんが」

 

 本当にそう思っている話し方。取り繕っているわけでもない。自分がやっていることが正しいと思っている。だから否定されることに苛立ちを持っている。正しいのに、何故否定されなければならないのかと。

 これが過去からずっとならば、あまりにも人格が破綻している。そんなものを、上に立たせてはいけない。

 

「もういい。もう沢山だ。クズがどれだけ言葉を並べたところで、クズであることには変わりねぇ。テメェはもう、生きてちゃいけねぇ」

「……もう、この世界に貴女の居場所はないのです。振り返ることもしない、反省もしない、こんなことをしてそれでも自分が正しいと思っている人を……電は許せません」

 

 特異点達の言葉を、阿手は鼻で笑った。

 

「許せない? 誰が許してくれと頼みましたか。反省? 正しい行いをどう省みろと。特異点は存在そのものが罪。反省し、許しを請うのは貴女達の方ですよ特異点。生まれてきてごめんなさいと、ね」

「……本当に救えねぇな、テメェ。最初にテメェみたいな人間と出会ってたら、あたしゃ呪いに苛まれてたかもしれねぇよ。ハルカちゃんに感謝しかねぇ」

 

 これ見よがしに溜息を吐いた。そして、改めて睨みつけた。

 

 

 

 

「もうお前、死ねよ」

「貴女の方が、生きているだけで罪なのです」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。