島の地下施設に造られた広い空間。天井には水爆が設置されているという気が気でない場所。
ここがついに行われる阿手との戦いの場所。決戦の場としては相応しくないモノがぶら下がっているものの、設置した阿手ですらその場で爆発させるようなことはないだろう。
「先手必勝だ。あのクソ野郎を、ぶっ飛ばしてやらぁな!」
先制攻撃は深雪。ここまで殆ど使ってこなかった消し飛ばす砲撃を、ここからは惜しみなく使っていく。極端な話、ここで全て出し切ってもいいくらいである。帰る体力さえ残しておけばよく、仲間達がここまで温存させてくれた。
「させるか!」
しかし、すぐさま動いてきたのは阿手の側近である重巡新棲姫。見た目よりも素早く、深雪と阿手の間に割り行ってきた。このままでは砲撃が直撃するだろう。であっても、身を挺して守りに入ったということは、この砲撃をどうにかする算段があるということに他ならない。
重巡新棲姫が手に持つ艦載機の残骸のようなパーツの目がギラリと光った瞬間、深雪の砲撃が急激に逸れた。『ジャミング』のような
深雪の砲撃はあらぬ方向へと飛んでいき、空間の壁に直撃する。空間を破壊するには至らないものの、そこは大きく抉られるだけで終わってしまった。
「逸らした……!?」
「あまりにも急激に曲がったわね……跳ね返されている……?」
その動きに眉を顰め、ならばと神風が居合の構えで突撃する。砲撃が効かない相手には近接戦闘。常套手段であり、敵の能力を割り出すためには必須。
「近付くな、お前だけは前に進ませない!」
再び艦載機の目が輝く。すると、神風の振るおうとした刀が途端に進まなくなった。刀が鞘から抜けない。否、それ以上前に進められない。全力を振り絞っても、重巡新棲姫に向かうことを拒むかのような力を感じる。
スピードなども出せない、ただただ進まない。先程の砲撃を逸らした時とはまた違った力。
「今のうちに撃ちなさい!」
「おうよ! 電!」
「なのです!」
神風が食い止められている間に、深雪と電はさらに砲撃を繰り出した。神風が足止めをして、その間に他で狙いを定める。これもまた常套手段。
しかし、重巡新棲姫の力はそれだけでは終わらない。
「させないと、言っている!」
やはり艦載機の目が光り輝くと、深雪と電の砲撃も先程と同じように逸れた。それだけではない。近くにいた神風すら強い力で突き飛ばされるような感覚を得た。
不意に押されたことで、神風は体勢を崩しかけたが、あえてその力に乗ることで、華麗なバックステップをするように飛び退いた。
「ンだありゃあ……後出しで全部弾けるのか?」
「電達の弾が曲げられたのです……偏向……というには少し違うような……」
敵の力を分析しながらの戦いは難しい。こうしている間に、今度は飛行場棲姫が動き出している。
「特異点を始末すればぁ!」
飛行場棲姫の周囲にドワッと艦載機が現れた。1つ2つではない、20や30、それ以上と、避けられない程に数を増やしていく。一斉に押し寄せられたら回避も難しく、質量だけでもかなり厳しい。艦載機なのだから当然射撃もある。
だが、飛行場棲姫はそれだけの数の艦載機を生み出した後、事もあろうか、それを腕のようなカタチに集約した。それを見た者達は、トーチカとの戦いの巨腕を思い出した。
「諸共、イけぇ!」
そしてその巨腕は振るわれる。射撃だと避けられる可能性を考えた、大質量での一撃必殺。艦載機が纏まっているということもあり、砲撃だけでは崩せない。もしここに夕立がいたとしても、『ダメコン』では意味がなく、衝撃で吹っ飛ばされるか、一部を止めて他が止まらないのがオチである。これを完全に回避出来るのは、妙高の『ジャミング』だけだろう。
それでも、止めなければどうにもならない。凶悪な薙ぎ払いを前に、それを止めるために進んで前に出たのはグレカーレである。
「一瞬止める! シラクモ、イソカゼ、これ凍らせて!」
「かしこまりました。磯風様、出力を最大に」
「ああ、すぐにやってやるさ」
グレカーレに指示され、磯風は両手を前に出して、全力で『空冷』の風を送り込む。グレカーレは一気に寒くなったと感じた。だがそれだけでは止められない。ここに白雲の『凍結』を撃ち込む。
「せーのっ、だりゃあああっ!」
グレカーレの威勢のいい叫びと共に繰り出される拳が、飛行場棲姫の艦載機による剛腕に直撃した瞬間、白雲が完璧にタイミングを合わせた。
「動くな」
磯風により空気を冷やされたことで、白雲の凍結は最大限に効果を発揮する。グレカーレが一瞬でも動きを止めた事で、その巨腕は急激に凍りついた。地面とも繋げられ、それ以上前に進めなくなる。
しかし、衝撃が全て殺せているかと言われればそうではない。グレカーレの剛腕はその一撃だけでヒビが入り、そもそも自分の身体が支えられるわけでもなく、見事に吹っ飛ばされてしまう。それでも瞬間的な『凍結』のおかげでまともに薙ぎ払われることはなく、ダメージは最小限に抑えることが出来ていた。
「グレちゃん流ダメコンってね、でも多用は出来ないなぁ! タイミングもギリギリだったし!」
吹っ飛ばされた先で綺麗な着地をすると、痛みで顔を顰めていた。骨までは行っていないが、打ち身としては大きめのダメージ。むしろ薙ぎ払いをその程度で止められたこと自体が奇跡とは言わずとも、相当運が良かったと思われる。
「自己修復あるから大丈夫! 攻めて攻めて!」
「あの艦載機、邪魔ね!」
足を止めている暇などない。阿手にその手を届かせるためには、さらに攻撃を繰り出さねばならない。
ならばと、叢雲が飛行場棲姫に向けて砲撃を放つ。重巡新棲姫に対してだと曲げられるが、飛行場棲姫にはどうか。
「所詮、子供の砲撃よ」
だがそれも、巧みに操られる艦載機によって食い止められる。3つほどが盾のように集まり、その威力を完全に相殺していた。多少は傷つくかと思われたが、そんなこともない。完全な無傷。
「艦載機に『装甲』使ってる……?」
「あり得ますね……だったら梅が『解体』を……って、数が多すぎて無理ですねっ!?」
梅の『解体』は触れたモノを破壊するが、あくまでも1つだけである。艦載機の集合体という攻撃方法にはまったく通じない。1つ破壊したところで、あといくつあるのだという状況である。
「近付けるか?」
「ダメだね。子日も押し返されちゃう。なんか前に見えなくて柔らかい壁があるような感じ。でも、子日の身体に当たってるわけじゃないっていうか」
素早く近付こうとしても、やはり近付くことが出来ないでいた。子日ですらどうにもならないとなると、いよいよもって敵の力の解明が必須となる。
単純に近付けないのではなく、
「『ジャミング』ではないわ。後出しは出来ないから」
「当たってないから『ダメコン』や『装甲』でもないよな。つーか、それなら近付けないは無ぇ」
「壁……とかではないとしても、これは……」
悩んでいるところに、響がアドバイスを送る。
「これならどうだい」
それは先の戦いでも見せたワサビ玉。正攻法が届かないならば、搦め手はどうかと繰り出した。離島棲姫を守りながらも、そういったサポートだけは確実にこなしていくのが、響の真骨頂。
そのワサビ玉は、なんと砲撃などとは違って逸れることはなく、真っ直ぐ重巡新棲姫へと向かっていった。念のためか、重巡新棲姫はそれを回避するまでした。手に持つ艦載機の目が光ることすらなかった。
これにより、傷を負いながらも戦場を観察していた白雪が、その力を看破する。
「『磁力』です! 金属同士を反発させてます!」
重巡新棲姫の曲解は『磁力』。金属に対して磁石で出来ることを全て可能とすること。同じ極として跳ね返していたということだ。
深雪の放った弾丸にも金属は含まれている。神風の持つ刀にも、そして当然、艤装にもだ。そのせいで、全ての攻撃は跳ね返される。前に進めなくなるのも、艤装に磁力を反応させていたにすぎない。響のワサビ玉には金属が含まれていなかったため、何事もなく向かったということになる。
そのキモとなるのが、あの手に持っている艦載機だろう。あの金属と反発させることが、重巡新棲姫の力と言える。
「待って、『磁力』ってことは……」
「当然、こういうことも可能ということだ」
重巡新棲姫の持つ艦載機の目が光り輝いた瞬間、電の身体が急激に吸い寄せられるようになる。
「えっ、だ、だめっ」
「電!」
深雪がすぐに電の手を取り、引き寄せられるのをどうにか堪えた。しかし、その力はかなり強い。全力で支えていないと、すぐに引き寄せられてしまう。
そして、そうされるということは、狙い撃ちに遭うということに他ならない。だが逆に、今の状態ならばこちらの砲撃は当たる。しかも、おかしな方向に撃ってもだ。
「ふざけるなよテメェ!」
それを無意識的に察したか、深雪はすかさず砲撃を放つ、が、やはりそれは『磁力』の反発によって逸らされた。それでも引き寄せられる力が急激に失われたため、電は磁力から解放される。
「あ、危なかったのです……ありがとう深雪ちゃん」
「無茶苦茶なことしてきやがる。あたしは引き寄せられなかったってことは、今、電だけに引っ張る力使ったってことだよな」
「無差別じゃなさそうなのです。跳ね返すのは全体かもですけど、引き寄せるのは1つだけとか出来そうなのです。でも、跳ね返すのと引き寄せるのは、同時に出来なそうなのです」
「だな。そこからどうにかするしかねぇ……!」
難敵、『磁力』の曲解持ちの重巡新棲姫。さらにはまだ明確な力が見えていない飛行場棲姫も控えている。この2人を乗り越えなければ、阿手には手が届かない。