阿手とその側近との戦いが開幕。深雪は側近の片方である重巡新棲姫との戦闘中。
その力『磁力』により砲撃どころか神風の刃すら逸らしてしまう挙句、艦娘の艤装を無理矢理引き寄せるようなことまでしてのける。戦闘が非常に難しい相手ではあるが、これを突破しなくては阿手には辿り着けない。
そして、もう片方。飛行場棲姫は、現状艦載機を大量に固めて攻撃をしてくるくらいではあるのだが、その艦載機が破壊出来なかったことから、『装甲』を持っているのではないかと予測されていた。
「やっばいなぁコイツ! 壊せない艦載機ってだけでも相当厳しいよ!」
「進むことが出来ない……!」
筆頭として飛行場棲姫に立ち向かうのは、グレカーレと叢雲。どちらも特定条件下でのみ使える曲解を持つ、戦闘ではどちらかと言えば普通なら力を持つ者。グレカーレは深海棲艦化の名残で艤装に剛腕が接続されているが、それはついさっきの艦載機による巨腕を止めるために一部破損。自己修復を待ちつつも、今は砲撃で牽制している。
その砲撃も艦載機により止められてしまっていた。たった1機すら破壊出来ない。やはり『装甲』と見て良いのだろう。
「壊せないヤツ相手には、本体狙うってのが定石よね」
「だね。でも、ちょっと近付くのが厳しいよ。シラクモ、イソカゼ、本体狙い!」
「存じ上げております。既に手は打っております故」
「空気は冷やしている。だが奴め、腹が立つほど距離を取っている」
艦載機に邪魔をされながらも、白雲と磯風はこの空間の空気を冷やすために動いている。
先程の巨腕による攻撃は、艦載機を凍結させることで止めることが出来たが、それを見たからか、今は纏めて行動させずにバラバラに攻撃を仕掛けてきている。射撃も織り交ぜることで、その場に留まらせない。凍りつかせたとしても、犠牲を1機に絞って、他で攻撃を止めない。
そのせいで、『凍結』は本体を狙う以外に効果的ではないと考えられる。しかし、その本体がかなり遠い位置に立つため、ただでさえ少し切断している鎖は、全く届かない。地面から『凍結』を向かわせても、届く前には回避されているだろう。先程の巨腕とはわけが違う。
そして、この戦場はそれだけでは終わらない。
「え、ちょっ!?」
突如グレカーレは引っ張られるような感覚を覚えた。その場に立っていられない程に強く、グリンと身体を回された挙句、尻餅をついてしまう程に強引に。
それは、重巡新棲姫の『磁力』による引き付け。深雪達と戦いながらも、別の場所に目をやり、対象をその場で決め、その行動を邪魔する。
今回はグレカーレを対象に、引きつける力を発揮。その艤装を無理矢理引っ張ったことにより、グレカーレは艤装を重巡新棲姫に向けさせられることになった上、耐えられず転んでしまった。
敵の『磁力』はそれだけでは終わらない。自分を支えられなくなってしまったグレカーレは、引きずられるように重巡新棲姫の方へと引き寄せられていく。
「ちょっ、ちょっと!? 何これ!」
「グレカーレ! テメェ、視野が広いなクソ!」
それに気付いた深雪が、すかさず重巡新棲姫に砲撃を撃ち込む。引き寄せと引き離しは同時に出来ないと看破しているため、今ならば砲撃が逸れるようなことはない。
重巡新棲姫は舌打ちをしながら引き離しへとスイッチする。グレカーレは急に引き寄せが無くなってその場でひっくり返ることになるが、これ以上引き寄せられていたら、重巡新棲姫の盾にされていた可能性もある。
「ありがとミユキ! そいつ何!?」
「『磁力』で艤装を引っ張ったり引き離したりしやがる!」
「うわ、めんど。というか、やっば……!」
体勢を崩しているグレカーレに、飛行場棲姫の艦載機が押し寄せていた。立ち上がる前に始末すると、射撃による一斉掃射。
「ちょっ、ちょちょちょちょ!?」
グレカーレは剛腕を使ってその場から退避。虫みたいな移動になっていることを嘆きつつも、命には代えられないと不恰好でもすぐさま逃げる。
敵はそういう連携をしてくるようだった。『磁力』で揺さぶり、『装甲』によって破壊されない艦載機を使って始末する。体勢を崩すことに特化した力と、攻撃を妨害されないことに特化した力。組み合わさると相当危険。
しかも、あちらの力はそれだけではないと感じ取れる。特に飛行場棲姫。『装甲』という非常に簡単な力だけを持つ者が、阿手の側近に任命されるとは到底思えない。
「ならば、私が向かいましょう、艦載機を避け、本体に近付けばいいのですから」
ここで急に前に出るならフレッチャーだ。丹陽をコピーした今、身体能力が爆上がりしており、また判断能力も本来のフレッチャーから大幅に上昇している。特殊な力が無い代わりに、フィジカル全特化という逆に清々しいまでの攻撃性能を手に入れている。
「参ります。『磁力』を抑え込んでください!」
フレッチャーが走り始めた。敵艦載機の群れは、フレッチャーを止めるためにあらゆる角度、向きから、射撃と体当たりを繰り出してくる。とにかく前進させない。それが目的のように。
「見える。全て、何処に道があるか、わかる!」
その艦載機からの攻撃の中、フレッチャーは非常に細いが確実に安全な道を見つけ、それを瞬時に判断して選択、真正面から突撃を仕掛ける。
壁のような艦載機を集めても、それを避けるどころか跳んで乗り越えるまでした。丹陽──雪風ならば、そのような動きで敵を翻弄するというのを、今ここで体現している。
「ここ!」
そして、より進まないようにするために艦載機がフレッチャーの視界を全て覆い尽くす程に固まるが、それが固まり終わる直前、壁の隙間から飛行場棲姫が見えた一瞬のタイミングを見計らって、針の穴を通すような砲撃を放つ。
自分に艦載機が全て集まったこのタイミングなら、他の艦載機に邪魔をされることはない。これが一番当てやすい一撃。
しかし、フレッチャーの砲撃は、
「えっ、そ、そんな……っ」
フレッチャーは確かにトリガーを引いている。それなのに、弾が出ない。弾切れを起こしているわけでもないのにだ。
そこに、フレッチャーのサポート妖精さんが袖を引っ張り、身振り手振りで現状を伝える。
「装填が、出来ない……!?」
局所的な異常が突如発生したと妖精さんが伝えた。
「……なるほど、貴女の力は、『ジャム』ですか」
フレッチャーがそこで気付く。飛行場棲姫のもう一つの曲解に。
1つは『装甲』である。艦載機にそれを施し、破壊されない攻防一体の武器とする。射ってよし、守ってよし、そして体当たりまで可能な万能兵器へと変えてしまう。それでも、複数人からの一斉攻撃や、今のフレッチャーのように身体能力で艦載機を無理矢理乗り越えられる可能性も大いにあること。
それを補うように与えられているのが、2つ目の曲解である『ジャム』。飛行場棲姫に砲を向けた者のそれを詰まらせる、単純にして完全な防御。撃たれなければ、脅威はない。
阿手を守るために与えられた能力と言えよう。身を守るためには、そもそも撃たせない。
「ある程度近付くと、砲撃が不可能になります!」
「でも、遠ければ無敵の艦載機に全部止められるってことね。かぁーっ、くっそめんどくさいなぁ!」
重巡新棲姫の『磁力』は近接戦闘を、飛行場棲姫の『ジャム』は遠距離戦闘を抑え込む。2人揃えば、全ての攻撃に対応が可能になるという算段だろう。
そしてその全てが、
「そもそも近付けない。近付けたとしても刀が抜けない。抜けたとしても艦載機は破壊出来ない。砲撃は以ての外。なるほど、完全に私をどうにかしようってことか」
距離を取り、刀に手を添えて呟く神風。それに気付いたことで、小さな苛立ちを見せた。しかし、笑みも浮かべている。ここまで徹底されると、逆に笑えてくるようである。余裕があるとは思えないが。
「私のことを脅威と思ってくれてるなら、どうもありがとう。なんかわかったわ。負けたとはいえ、あのカテゴリーKの刀持ちと対等に渡り合えたこと、貴女は警戒しているのね」
最も後ろでその戦いを見ている阿手に、それこそ当てつけのように言葉をぶつける。
「貴女、出洲とその仲間のこと、相当危険視してるでしょ。自分が手懐けているかと思ったら、自分より大きな力をつけているから。頂点に立ちたい、みたいなわかりやすいクズな考えを持つ人間なら、子飼いにしている科学者が、自分よりも強いなんて許せないわよね」
「……何を言いたいのです」
「言葉通りよ。だから貴女は、我欲を通すために他人を生贄にして研究を続けて、ここまでの力を得た。でも、貴女はそれでもカテゴリーKとの絶対的な差が埋められないとわかってる。だから、それと拮抗出来る私達を恐れているのよね」
阿手の眉がピクリと動く。腹立たしいと、表情からして伝わってくる。
「万全の対策を以て、上から踏み潰すことが、貴女にとってはとても快感なのでしょう。人の生き方を壊して、自分の手中に収めることが、貴女にとっては悦びなのでしょう。でもそれって、自分に自信が無いんじゃないかしらね」
フッと鼻で笑ったような表情を見せる神風。
「人様を蹴落として、それでも勝てないから、出し抜いてやろうって算段がバレバレ。しかも、今のままだと特異点にも勝てなくなってる。一番になりたいのに、二番、三番、それより下に転がり落ちてる。下手なプライドがあるから、それも許せない。だからますます他人を使い捨てる。自分が一番、他は自分のためにあるモノ。すごい考え方よね。ホント、反吐が出るわ」
阿手は無言。しかし、苛立ちを隠していない。
「しかも今、貴女はただ守られているだけ。自分から手も出さない。本当は逃げようともしてたわよね。よっぽど自信が無いとみたわ。戦っても勝てないから、勝てるようになるまで逃げようってことかしら。逃がさないわよ。なんで今回戻ってきたのかは知らないけど、ここに水爆仕掛けてまで自分より上の奴を殺そうとするくらいだし、本当はただの怖がりなんでしょうね」
「……能書きはそれでおしまいですか」
「違うでしょ。もう言わないでくださいでしょ。本当のことを言われたら、怒ってしまうものね」
冷ややかな目で、神風は阿手を見据えた。
「いい加減、この世界をなめてんじゃないわよ」
ダンと踏み込んだ瞬間、神風は阿手の間近にまで移動していた。