自ら煙幕を吸い込むことで、その効果を手に入れた深雪と電。その効果は、相手に効果を及ぼす系統の曲解の無効化。『磁力』による引き寄せも引き離しも効かなくなり、重巡新棲姫へと2人で突撃する。『空冷』で足止めすら出来ない。
すかさず飛行場棲姫が艦載機を発艦することで重巡新棲姫を守ろうとするが、そこは消し飛ばす砲撃により退かされる。破壊は出来ずとも、その衝撃は普通ではなく、艦載機は防衛能力を失って散らされた。
重巡新棲姫への道へ開いた。だが、
「無論、それも対策していますとも」
重巡新棲姫の手には、『舵』が握られていた。『磁力』により引き離すことが出来なくなり、近接戦闘を余儀なくされた場合を考えていた。むしろ、引き寄せた敵に張り付けることも考えていただろう。万が一の近接戦闘も対策していた。
少なくとも、何も知らずにそれをされていたら、問答無用で洗脳されていただろう。どれだけ敵対心を持っていたとしても関係ない。忌雷は対策されていても、『舵』は対策されていないのだから。
「っ……『舵』があるのです!」
それにすぐさま気付いたのは電。重巡新棲姫の手に握られた『舵』の存在が目に入り、このまま攻撃を繰り出すのはまずいと感じた。
あの『舵』が何処まで凶悪かはわかりきっていない。ただとにかく、張り付けられたら終わりという端的な情報しかない。少なくとも子供に渡して鬼ごっこというカタチで尖兵にすることが可能な代物。
故に、この突撃は途端に、敵の術中へと飛び込むことと同義となってしまう。
「つっ……電ちょっと我慢してくれ!」
ここで深雪が重巡新棲姫への突撃を急ブレーキ。本当なら殴り抜けてやりたいくらいだったが、『舵』があると言うのならば、どういうカタチであれ触れることが不可能だ。もしそれで重巡新棲姫を撃破出来たとしても、あちらは自分が喰らってでも『舵』を張り付けてくるだろう。渾身の拳を受け止めながら。
かなり強引なブレーキに、電は反動で前につんのめりそうになる。
それもまた、隙となる。
「喰らえ……っ」
事もあろうか、重巡新棲姫は『舵』を投げてきた。狙いは深雪でも電でもどちらでもいい。ただ当たってくれれば、それはそのまま大惨事を引き起こすのだから。
「っらぁ!」
それを喰らうわけにはいかない。かなり強引にその投げられた『舵』を避けつつ、電にも少し無理をさせて強引に引っ張り、その軌道から避けさせた。
電が少しだけ顔を顰めたが、それで『舵』が避けられたのなら万々歳。いくら煙幕で自らを強化しているとしても、それが張り付いてしまったら、特異点であってもどうなるかわからない。深雪も電も、お互いにそんなことが起きてもらっては困る。
「ありがとうなのです!」
「こっちこそだ! まだ持ってやがるか!?」
「わからないのです! 隠し持ってる可能性が……違う! 皆さん注意してください! 引き寄せ……っ」
確かに今投げられた『舵』は回避出来た。深雪と電には重巡新棲姫の『磁力』は効かない。だが、他の者は今でも効いてしまう。
ならば、
「ひっ!?」
電が叫ぶ前にその声が聞こえた。フレッチャーに指示されて、ターゲットを重巡新棲姫に変えた梅である。重巡新棲姫の持つ艦載機に触れるために接近しようとしたが、その前に『磁力』によって無理矢理引き寄せられ、投げられた『舵』の軌道上に強引に持ってこられたのだ。
だが、それがまだ梅だったからよかった、梅もここまで来ることが出来ている歴戦の艦娘。これまでにいろいろあったが、今や自らカテゴリーWとなる道を選んだ猛者。そしてその力は、この島での戦いで特に活躍している『解体』。
「い、嫌だ!」
出てくる言葉は悲観的なれど、行動は非常に前向きだった。飛んでくる『舵』をはたき落とすようにその手で払った。触れた瞬間に『解体』の力を使ったことで、『舵』は見事破壊されて、地面にぶつかった時にはそのまま木っ端微塵となる。
これが梅で無かったらさらにまずいことになっていた可能性があった。『舵』の対策が出来るのは、今のところ梅だけ。万が一張り付いてしまったとしても、梅ならばそれを破壊可能。
逆を言えば、梅がやられたら詰みに一気に近付く。『舵』を破壊する手段が無くなったら、救う手立てが一気に狭まる。そもそも梅を救うことが難しい。
「なるほど、ではその子を重点的に狙いましょうか」
そして、それを見逃す阿手ではなかった。嫌がらせをさせれば天下一品。敵の痛いところを見抜く力は普通では無かった。弱点を突くとかではない。敵の現状がより悪い方向に行く手段を見つけるのがやたらと上手い。おそらく、性格の問題。
何をするかと思いきや、重巡新棲姫の方へ、何処に持っていたか『舵』をいくつも投げ込んだ。おそらく、今も隠している艤装と同様に見えないようにしていると考えられる。
これに当たるわけにはいかないため、阿手に近付きはしたが、『磁力』に引きつけられている神風は、それをどうにか回避する。子日も同様、当たらないように主砲で弾き飛ばした。
「梅、狙われてる!」
「ですよねぇっ! でも、梅も艦娘っ、簡単には、負けませぇん!」
最も重要な梅は、向かってくる『舵』を回避しながらも触れて『解体』を繰り返す。はたき落としたモノであっても、入念に破壊する。
梅ですら敵の狙いはわかっている。これだけ多くの『舵』をばら撒いており、かつそこに重巡新棲姫がいるのならば、やろうとすることは読めた。避けたと思った『舵』を『磁力』で引き寄せ、後ろから張り付ける。もしくは避けられたと思った『舵』を『磁力』で引き離し、軌道を急に変える。『舵』も金属で出来ているのなら可能であり、内部に金属製の針や爪が仕込まれていることは事前に調べがついている。
「『解体』ですか。厄介な力をお持ちで。ですが──」
重巡新棲姫が持つ力は『磁力』だけではない。『空冷』の風まで使って『舵』の軌道を不規則なモノへと変えてくる。
「ンの野郎っ、止めろ!」
これではジリ貧だ。重巡新棲姫を止めない限り、『舵』の脅威も乗り越えられない。
それは電も思っていたことだが、焦るわけにもいかない。冷静に現状を視界に入れて、何処から何が来てもいいように神経を張り巡らせる。
「深雪ちゃん、後ろからも来るのです。慎重に、全部の方向を見るのです」
「おう、ありがとな。電がいなかったら、突っ込んでたかもしれねぇ」
変則的な『磁力』と『空冷』。その中に『舵』まで入れられたコトで、前に進むのも途端に困難になるが、深雪と電はそれでも重巡新棲姫を止めるために動き続ける。
これでは本当にやられかねないため、深雪は手段としてはあまり使いたくなかった選択を考えた。重巡新棲姫自体を始末するコト。消し飛ばす砲撃が『ジャム』により止められない今ならば、それも可能である。
「『舵』も消すぞ。全部吹っ飛ばさねぇと安心出来ねぇ」
「なのです。的は小さいですけど、狙えないわけではないのです!」
重巡新棲姫に近付こうとしながらも、仲間が危険に晒される可能性があるため、『舵』の破壊にも乗り出す。今唯一砲撃が使えることもあり、敵の攻撃の破壊は最優先。
だが、相変わらずそれを妨害するために飛行場棲姫が艦載機を飛ばし続けていた。2人の砲撃をことごとく防いでおり、『舵』をなるべく長くその場所に置こうという算段である。
飛行場棲姫にも当然、仲間達は向かっているが、とにかく艦載機が厄介極まりない。『装甲』だけでなく『燃焼』すらも持っているため、破壊出来ない上に射撃で牽制、うまく避けたところで艦載機そのものが体当たりを仕掛けてくるという、本当に厄介な状況に陥っている。
「ああもう! 本当に邪魔だなぁ!」
「『凍結』で止められないとなれば、真正面から向かうしかないのですが」
「我々ではアレを破壊することは出来ん!」
フレッチャーのように少し強引にでも乗り越えたところで、『ジャム』により砲撃が不能となってしまうため、急に近接戦闘を余儀なくされる。そこまで完全に近付くことを、艦載機が徹底して妨害してくるため、グレカーレの剛腕すら届かない。少し時間が経ったことで、剛腕のヒビは自己修復で直りはしたが、それでも『燃焼』によるダメージも積み重なってきていた。
磯風が『空冷』を続けているため、まだマシではあるのだが、それが無ければこの戦場は温度すらガンガン上がる。それではまともにいられない。ひたすらに体力を削られていく一方である。
さらに、飛行場棲姫を止めようとする者達に更なる脅威が迫る。重巡新棲姫が舞い散らず『舵』がそちらにも飛んでいっているのだ。それにも注意を払わなければならない。
「危ない危ない!」
「そちらは私が見ている。絶対に近付かせん!」
その『舵』に対しては、磯風が『空冷』で吹き飛ばすようにしている。完全な安全は手に入っていないものの、それでも少しは戦いやすくはなるだろう。しかし、その手は届かない。
「……私がアレの力を消すわ。阿手に使いたかったけど、そんなこと言ってられない」
ここで叢雲が決意を固める。これまで温存し続けていた『標準型』の曲解を、ここで使うしかないと。どうにか近付き、飛行場棲姫に触れることさえ出来ればいい。ワンタッチである程度は消せる。少しでも無効化出来れば、間違いなく畳み込める。
だが、そうすると叢雲が再起不能になるデメリット付き。トーチカ相手にやった時ほど負担が大きくはないかもしれないが、あの時に気を失ったことを考えると、ただでは済まないだろう。
「……仕方ありません。ならば私達が叢雲さんの道を開きます。絶対に成功させますから」
フレッチャーも叢雲の意思を汲み、それを成功させるために動こうとしていた。
戦いは常にジリ貧。だが、それでも前は向き続けている。どれだけ、何をされようとも、折れることはない。
いくら阿手が嫌がらせをしようとも、その程度で折れるような者達ではないのだ。