後始末屋の特異点   作:緋寺

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自動を超えて

 深雪と電、グレカーレ、そして梅の奮闘により、重巡新棲姫の手に持つ艦載機──『磁力』の曲解の源である装備を破壊することに成功した。しかし、最後に放たれた引き離しの力で梅は吹っ飛ばされてしまい、地面を転がされてしまった。

 

「はぁ、はぁ、梅、ちょっとリタイアしますぅ」

 

 ここまでの『解体』で消耗していた上に、深雪達の猛攻を囮に使ってこっそり近付いて破壊という大きすぎる手柄を立てた梅は、この吹っ飛ばしによって消耗がピークに達してしまった。指一本動かせないなんてことはないが、立ち上がるのは困難。完全に地面に手をついて、肩で息をしている程である。

 

「安全なところで待機していてくれ!」

「あとはこっちでなんとかするのです!」

「は、はぁい」

 

 自分で宣言したように、傷はそこまでではないが梅はリタイヤ。動けるギリギリで、戦闘の邪魔にならないようにコソコソと移動した。

 

「『磁力』が無くなりゃ戦いやすくなるだろうよ。でも、侮らねぇぞ」

「なのです。これでみんな動けるようになったようなモノなのです」

 

 飛行場棲姫は力を失い、子日が拘束中。艦載機は飛ばせるようだが、それはすかさず破壊出来るくらいには()()になっている。

 とはいえ、無駄な抵抗はやめてほしいと子日はキュッとワイヤーで締め付けながらお願いをした。貴女を殺すことはしたくない。だから、今は何もせずにじっとしていてと、慈悲を持った言葉を投げかける。

 

「神風、こっちは終わらせる。そのアホを止めておいてくれ」

「ええ、踏ん張らなくてもよくなったから、もっと行けるようになったわよ」

 

 深雪から頼まれた神風だが、既に阿手の身体をサイコロステーキと言える程に刻んでしまっていた。

 そこから阿手の秘密を探るため。これだけやっても死なないのはどう考えてもおかしい。いくら『修繕』の曲解を持っているからと言っても、あの原元元帥とは全く違う反応と言ってもいい。血すら流れないのは何かの間違いかと思えるほど。

 神風の手には、斬った感覚が如実に伝わっている。これだけ刻めば、何かに気付きそうだと。そう、その感触は──()()()()()()()と感じた。

 

 最初はただ首を刎ねるだけ、真っ二つにするだけと、普通に深海棲艦にも仕掛ける一撃を繰り出していたが、ここまですればわかるもの。

 

「これ、()()()()()()()()……」

 

 この集積地棲姫改は、その形状をしているだけの生体艤装であると、神風は勘付く。自分から動いて、話し、殺意すらハッキリと向けてくるというのは滅茶苦茶だと思いながらも、ならば本体は何処にあるのだということにもなる。

 修復していく阿手に意識を向けながらも、神風は周囲を警戒し始めた。一番怪しいのは、『迷彩』で姿を消しながらこちらを見ていること。そうされていると、殺気すら感じられないために、神風としては探すことも困難になる。未だ煙幕は対処され続けていることもあり、今ひっそり近付かれている、もしくは逃げられているとかだとお話にならない。

 既に逃げているのなら水爆を爆破させていてもおかしくはない。先の問答であった通り、死を超越しているのならば、自分がここにいる間にも爆発させて全員生き埋めにしてやればいい話。それをしないということは、何処かに隠れてここを見ているというのが妥当。

 

「深雪に煙幕を撒いてもらわないとわからないわね……今はコレを確実に止めておくしかないか」

 

 何処かでほくそ笑んでいる阿手に苛立ちを覚えつつも、重巡新棲姫を始末することに重点を置いた。

 

 

 

 

 最も厄介な『磁力』の力を破壊したことによって、重巡新棲姫を追い詰める深雪達。『空冷』の力は健在のため、まだまともに煙幕を展開することは出来ないものの、接近して攻撃することが可能になった時点で、先程とは比べ物にならないほど戦いやすくなっている。

 

「お前、『舵』がついてるわけじゃないんだろ。じゃあ、降参することも出来るよな。いい加減こっちも疲れてんだ。白旗揚げろ」

「なのです。貴女がアレについている利なんて、何処にも無いのです」

 

 砲撃は使わず、近接戦闘で立ち向かっている深雪と電。今の段階でも手を繋ぎ続け、互いに煙幕を循環させ、身体強化を常にかけ続けての戦い。

 

「アレは絶対に許さねぇ。でも、お前は騙されてるだけじゃあないのか」

「……知った口を。特異点に何がわかる」

「わからねぇな。だからこうやって聞いてんだ。無駄じゃねぇかとは薄々思ってはいるけど、なぁ!」

 

 艦載機を失ったことで、重巡新棲姫はまともに戦闘をするようになっている。砲撃と体術を織り交ぜた、無理のない動き。2人がかりの攻撃を流れるように避け、反撃の機会を狙っていた。

 その避け方があまりにもスムーズなため、動きだけ見たら間違いなく素人ではない。まるで敵の動きを予測して、身体が勝手に動いているような動き。不意打ちは効くようだが、真正面からの戦いだとこれだけ動ける。

 

「貴女の実力なのです……?」

 

 だが、その動きこそ電は疑問に思った。明らかに本来の力を超えた動きをしているようにしか思えない。さらりと避けて、砲撃を放ち、そしてそれだけやっても体勢が全く崩れない。そのように()()()()()()()()()()()()ような雰囲気まで漂う。

 

「自動的に避けるようになってるとか。『ジャミング』ではないですけど、何をしても敵を意識していれば身体が勝手に避けてくれる、みたいな」

 

 重巡新棲姫の表情が小さく歪んだ。そんな表情を浮かべた時点で、その通りですと言っているようなモノである。

 

 重巡新棲姫第三の曲解、『操舵』。他者の身体を操る『操縦』と似ているが、操るのは他者ではなく自分。その特性は、()()()()である。

 電が看破した通り、敵の存在を意識していれば、その攻撃を身体が勝手に避けてくれるオートパイロット機能を搭載している。

 これもまた神風対策の一環である。近接戦闘に持ち込まれたとしても、身体が勝手に動いてその攻撃を避けてくれるのだから、敵が達人であってもその攻撃が当たらず、その間に主砲を一発入れてしまえばいい。徹底した達人対策である。

 

「面倒くせぇ力だな相変わらず。でもな、こっちはあたしと電だけじゃあねぇんだ」

「はいどーも! グレちゃんだよ!」

 

 2人に加え、グレカーレも攻撃に参加。たった1人の敵を、3人で囲んでの攻撃となる。

 同時に攻撃しても避けるというオートパイロットのとんでもない性能を見せつけてくるが、囲んでしまえば回避方向がかなり固定化出来る。そして、ただ避けているだけでは、それこそジリ貧だ。

 

「よってたかって……っ」

「テメェらには絶対に言われたくないな。そもそもあたしはさっき6人に囲まれたぞ。半分だ半分、泣き言言ってんじゃねぇ」

 

 ここでオートパイロットが間に合わなくなってきていた。『空冷』まで織り交ぜて目を潰しながらの戦いを繰り広げているが、グレカーレが加わったことで大きく変わる。

 

「後ろからの攻撃は簡単には避けられないみたいだねぇ。そいっ!」

 

 背後に回り込んで剛腕での攻撃。それにすぐに意識を向けて身体を動かす。グレカーレのそれは範囲が大きいため、その分回避も大きくしなければならない。だが、移動方向に既に深雪と電が待ち構えているのだから、回避に次ぐ回避を余儀無くされる。

 身体は勝手に動いてくれるだろうが、本人の精神がそれに耐えられるかという問題。今や重巡新棲姫も冷や汗のようなモノを額に滲ませていた。

 

「卑怯とは言わせねぇぞ。お前らがやってきたことをそのままやってるだけだ」

「申し訳なさはあるのです。でも、容赦はしないのです」

 

 回避が甘くなっているわけではない。だが、回避の方向が予測しやすくなっているのは間違いない。自動操舵は最善の位置に向かおうとする力のようだが、()()()()()()()()()()()を意識してしまえさえすれば、何処に回避するかなんてすぐにわかる。

 予想外の回避がない。それが『操舵』の弱点であり、電にはそれが今この時に見ただけでも看破出来た。

 

「ごめんなさい。降参の意思、ないですよね」

 

 深雪の攻撃を避け、グレカーレの攻撃も避け、というところで電の足払いが炸裂。重みがなくても、重心移動の瞬間を狙ったことで見事に体勢を崩すことに成功。

 

「なら、今はここで眠っていてほしいのです」

 

 体勢を崩した瞬間、電は地面を蹴り、その脚を重巡新棲姫の首に引っ掛けた。そして、身体を回転させながら投げ飛ばす。ヘッドシザーズ・ホイップをこの場で華麗に決めてしまった。

 そこからは電の独壇場である。体勢を崩した重巡新棲姫に対し、追撃の首四の字。完全に首を絞め落とすつもりで、一切の加減無く、全力で絞め上げた。それこそ、()()()()()()

 

「かっ……はっ!?」

「ごめんなさい。でも、これくらいしないと止まってくれないのです」

「悪いな。あたしも一撃入れさせてもらうぜ」

 

 首を絞められている重巡新棲姫に、深雪は追撃の膝。胸に一撃を喰らわしたことによって、肺の中の空気を一気に抜いた。首が絞まっている状態でのそれは、呼吸が出来なくなりそのまま意識が飛んでいく。

 

 そして、重巡新棲姫は最後、白目を剥いて気絶した。死んではいない。だが、今はこれで再起不能。電の脚を引き剥がそうとした手も、最後はダランと崩れ落ちた。

 

「ヒューッ、やっぱりイナヅマの絞め技は効くねぇ! あたしがその威力保証しちゃう!」

「深雪ちゃんとグレカーレちゃんがいてくれたから、ここまで綺麗に極めることが出来たのです」

 

 電が離れると、重巡新棲姫はその場で倒れ伏す。しばらくは目を覚まさないだろう。

 

 

 

 

「さぁ、これで残ってんのは……!」

 

 飛行場棲姫、重巡新棲姫と撃破し、残すところはあと1人。阿手だけとなる。

 だが、その阿手はというと、神風の手により斬り刻まれていた。

 

「何処よ……何処に本体がいる……!」

 

 神風はずっと阿手の本体がいると確信して戦場を見回していた。集積地棲姫改を刻みながらも、何処に隠れているのだと。

 

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