突如来訪した謎の艦娘、タシュケント。今まで後始末の様子を監視し、発見されたら撤退を繰り返していたが、その正体は
「第二世代って……アタシ達の知る歴史では、全員が人類の前から消えたとされているわ。人類に失望して」
「それは間違ってないね。あたしも正直なところ、人間にいい思い出無くなっちゃったから」
表情を変えずに言うタシュケントに、伊豆提督は自分のせいでも無いのに罪悪感が湧いた。
第二世代が人類を失望した理由はとても簡単なことだ。ドロップ艦と協力するのではなく、ただ利用して命すらも搾り尽くし、残ったモノをゴミのように捨てたこと。人類の平和を守るために生まれたというのに、この扱いは何なのだと、人間の
「でもね、あたし達は実際こうやって活動はしてる。失踪扱いにして隠蔽されているのは、ほんの少しだけでもバレる筋が出来ないようにするためかな」
「……そうかもしれないわね。アタシでもそうしてたわ。信用出来る相手にも、その真実は伝えないかも」
だよねと納得し、イリスに淹れてもらったコーヒーに口をつけながら、タシュケントは続ける。
「ご存じの通り、あたし達の時代……今からかなり前になるけど、その時は、あたし達
それはもう、吐き捨てるかのような言い方。当時の怒りを思い出し、小さく舌打ちをしたようにも聞こえた。
ここは伊豆提督でも知っている歴史の裏側である。
タシュケントは、それを
それでも役割として深海棲艦との戦いは避けられないので、自分達の平穏のためにも終戦までは付き合っただけ。終わった直後に縁を切り、二度と人類の前には現れないと決めた。それに賛同してくれる艦娘達は沢山いたため、最終的には全ての艦娘が人前から姿を消したことになる。
「裏切った人間は始末させてもらったけど。それは知ってるよね?」
「ええ。手を取り合ってきた艦娘達の命を弄んだ研究員は、その部下達まで鏖殺されていたと聞いているわ」
「そうそう。あたし達艦娘のことを
この問いかけに、伊豆提督はまさかと思いながら首を縦に振る。それを見たタシュケントはあちゃーと大袈裟な仕草で苦笑した。
「人間達は懲りないねぇ。アレだけのことが起きたのに、それでも真実をひた隠しにするって、よっぽど真実を表に出したくないのかな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あたしは全然追いつけない。どういうことだよ」
ここで深雪が我慢出来ずに口を挟んだ。電は怖くて言葉すら発することが出来なかった。
伊豆提督でも知らない真実がそこにある。第二世代のカテゴリーBだからこそ知る真実が。ここでこの話をするということは、タシュケントの正体──第二世代というだけではない今の艦娘に繋がるエピソードなのだろう。
そんな深雪を目の当たりにして、まあまあ落ち着いてと冷静にさせる。気持ちはわかるが、あまり声を荒げられると話も先に進まない。その時には神風も深雪を落ち着かせるために動いた。肩をポンと叩き、静かにと指を口に当てて。神風だってこの真実は知りたい。だが、先に進めるためには今は何も口出ししないのが一番の近道であることは察している。
とはいえ、タシュケントも順を追って説明しないとわからないだろうと、そこから話し出す。どちらかといえば、伊豆提督より深雪の方に視線を向けて。
「君達が知っている歴史が、捻じ曲げられているってことは察することが出来てるよね?」
「……ああ、ハルカちゃんから聞いてるのとちょっと違うなとは思ってる」
「結論から言えば、
タシュケントが語る歴史は、ほぼ全ての人類に隠蔽されたもの。それを知ってしまったら、戦争が終わったはずなのにまた混迷極めるモノになってしまうため。故に、伊豆提督ですら知らなかった。
その当時に元凶は始末され、二度と過去の凄惨な出来事──艦娘を蔑ろにするような研究が行なわれない。そう信じていた。しかし、それはほぼ全てが虚報だった。
現在、人類の知る第二次深海戦争の結末は、第二世代が悪辣な人類を始末し、そのままひっそりと消えていったということになっている。しかし、始末した人類はその末端に過ぎず、本当の元凶は逃げ果せたという。
形式的には解決した風になっていたが、その実、未だに暗躍しているのだと言い切ったのだ。それに気付かなかった伊豆提督は、自分の落ち度を呪った。
「あたしが何者って質問の答えだけど、まずさっき言った通り第二世代ってのはあるんだけど、もう一つ。その元凶の居場所を秘密裏に突き止めようとしている、
人類には見つからないように、その元凶の行方を探っている秘密組織だと言うタシュケント。それをこんなところで話してもいいのかと不安になるが、いいのいいのとタシュケントは笑って話した。その目は全く笑っていなかったが。
「人類を信用してるわけじゃないけど、決着だけはつけたいからね。そんなバカなことをした人間は、あたし達の手で地獄に落とさなくちゃいけない」
戯けて言っているようにも聞こえるが、心の底から憎んでいることがわかる。
深雪には、その目は一度だけ見たカテゴリーMの駆逐艦の表情にそっくりに見えた。呪いのせいでその顔をさせられているわけではなく、本心からのそれは、同情するものでもあった。
「でも、コソコソしながら探し続けたんだけどなーんにも見つからなかったんだよね。この長い年月が何だったんだって感じ。誰かに隠蔽されてんじゃないかって」
「アタシ達では力になれそうにないわね……。何せ、今までアナタ達の存在すら知らなかったんだもの。ごめんなさいね」
「いいよいいよ。でも、もう無関係とは言えないよね。君ならそろそろ気付いてるんじゃないかな」
タシュケントに言われ、伊豆提督はコクリと首を縦に振る。
「あの改造された深海棲艦が、アナタ達の追っている元凶の成果なのよね」
「ご名答!」
艦娘を弄くり回すだけでは飽き足らず、深海棲艦にすら手を出し始めている。それだけでも苛立ちが溢れてくるようだった。
「君達ともう一人大きな艦を使って活動している人間達がいたけど、正直なことを言うと、あちらよりは君達の方が信用出来るなって思って、こちらに来たって話。まぁ、あたし達のことを全く知らないのは予想外だったけど」
「ああ……なるほど」
昼目提督のあの当たり方は、タシュケントにはお気に召さなかったということなのだろう。それに加えて、後始末の作業を見ている限り信用出来ると感じたから、まずは後始末屋に接触した。
それについては妙に納得出来てしまった面々。昼目提督に警戒するのは、わからなくもなかった。あの押しの強さは、調査隊としてはいいことなのかもしれないが、人類を信用出来ないカテゴリーBからしてみれば、信用には繋がらない。
「あんな良いことしてるのに隠されてるなんて、用心なのか大概なのか。でも、ここはあたしは信用出来る。あたし達の組織でも満場一致。うちの
組織だというのなら、当然それを統治する者がいるだろう。艦娘のみで構成された組織だというのなら、このボスというのも艦娘。
「戦いの後始末をして、それに真摯に向き合っている姿は、あたし達にも届いたってことだよ。誇っていい。逆に、人類は君達くらいしか信用は出来ないけどね」
「信用に値しているというのなら嬉しいことね。でも、アタシ達は人類に対して怒りと憎しみを持つ艦娘を沈めてしまっているわ。それでも本当にいいの?」
ここは嘘偽りなく話す。カテゴリーMは平和を脅かす存在になってしまっているのは間違いない。説得に応じてもらえず、こちらに対して攻撃の意思があるのならば、対処せざるを得ない。それはタシュケント達にとっては期待を裏切る行為ではないかと、伊豆提督は語る。
タシュケントがいう純粋種の命を奪っているのだ。この時点で信用は失われ、これまでの話は無かったことにされても何も文句は言えない。タシュケントの組織がやはり敵対すると言っても、わかりましたとしか言えない。
「うん、まぁ、それは仕方ないんじゃないかな。あたし達も暴走してる同胞はどうにも出来ないんだ。ただ、あたし達が始末したいのは元凶の人間だけだから、申し訳ないけど放置させてもらってる。その結果で、君達が沈めることになってしまったなら、どうにも出来ないあたし達にも原因はあるよ。……ってのが、ボスの見解」
カテゴリーMを止める手段は、今のところカテゴリーBでもわからないという。説得しても聞く耳を持ってもらえなかったため、仕方なく追っ払ったというのがあちらのやり方。
沈めることには、今は対策が無いのだから仕方ない。そうしなければ、自分達の安全も守れないのなら、それを咎めることは出来ない。あちら側の組織としても、そこは妥協せざるを得なかった。
「あれは艦娘のカタチをした深海棲艦みたいなものだからなぁ。そうなってしまったのは全部元凶の人間のせいだから、君達は悪くない。少なくともあたし達はそう思ってる」
「そう言ってもらえると、少しは安心出来るわ。でも、なるべくならばアタシ達も戦いたくはない」
「だから、あたしと電が説得する。それでどうにかなってくれるって信じてる」
ここでも抑えられずに深雪が口を挟んだ。この意志だけはタシュケントに知ってほしいと。
「うん、もしかしたら君なら出来るかもしれないね。
タシュケントも深雪の特異性は気付いているようで、もしかしたら出来るかもしれないと淡い期待を持っている。
「質問されていないけど、先に伝えておくよ。あたしがこの艦に接触を決めた理由はいくつかあるけど、一番の理由は君だよ」
深雪に向けて言い放ったタシュケント。伊豆提督やイリスは、それに対してだろうなという気持ちしかなかった。
「うちのボスがね、君が生まれたことに気付いたんだ。それと、君も」
深雪に続いて電にも視線を向ける。カテゴリーWが生まれた瞬間を、あちら側のトップにいる艦娘は気付いたと語る。
その艦娘が何者かはわからないが、イリスのような何か特殊な力を持っているとしか思えない。
「少し恥ずかしい言い回しになるかもしれないけど、君はボスに言わせてみれば
世界の光。そんな表現をされて深雪は途端に恥ずかしくなってきたものの、カテゴリーMが救えるかもしれないという可能性を他の者からも見出だされているというのなら、自信も湧いてくるというものだ。
「救ってあげられるなら救ってあげてほしい。それを伝えたい。だからここに来た。これが理由だ。そんな世界の光がここを居心地がいいと思っているのなら、この艦は信用に値する」
この時のタシュケントの笑顔は、ちゃんと目も笑っていた。深雪にだけは、絶対的な信頼を寄せているような、そんな雰囲気が見えていた。
深雪はまだ混乱が大きい。それを受け入れるために必死だった。