後始末屋の特異点   作:緋寺

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全ての資材

 重巡新棲姫も撃破し、飛行場棲姫も拘束済み。ここまで来れば、残りはついに阿手のみとなる。しかし、直接刻んでいる神風は、目の前にいる集積地棲姫改が阿手ではないと確信を持っていた。ここにいるのは阿手本人ではなく、生体艤装か何か。非常に強力な『修繕』の力でどれだけ刻んでも元に戻ってしまうが、普通に喋るし、砲撃なども繰り出してくる。

 

「埒が明かないわ。白雲、これ凍らせて!」

「かしこまりました。不死だというのならば、氷の牢獄に永劫囚われればよろしい」

 

 自由に動けるようになったことで、白雲もすぐに刻まれた阿手を『凍結』させるために前に出る。念のため磯風も同行。空気をしっかり冷やした後に刻まれた阿手の肉片を凍らせた。

 白雲の『凍結』により、自己修復がまともに機能しなくなるのは、これまでの戦いの中で学んでいる。自爆する出来損ないですら機能停止させる力であるため、これで終わりに出来るはずなのだが、この戦いはまだ終わらない。

 

「阿手の野郎、呆気なく終わったのか……?」

「まだ終わってないわ。これ、多分生体艤装よ。手応えが無さすぎる。本体は別にいるわ」

 

 神風は周囲を常に警戒している。今も確実に隠れてこちらを見ているだろうから。

 

「『迷彩』で隠れてる可能性は高いわ。すぐに探さないと」

「煙幕張るか。身も守れるし」

「その前に電が確認するのです」

 

 電には『迷彩』を見破れる兵装が搭載されているため、この空間中を一旦索敵する。何処かにいるのならば、それで確実に引っ掛かる。

 しかし、電の兵装には何も感知出来なかった。『迷彩』を使って隠れるようなことはしていないということになるか。それとも、これまでの『迷彩』とは違い、本当にあらゆるモノで感知出来なくなっているか。後者である場合、ここから逃げられてもわからない。

 

 深雪達は知らないことだが、この島の海底、逃げられる場所には、出洲が待機している。阿手を逃がさないように。出洲すらも騙して既に逃げているということは考えにくいところでもある。

 

「いないのです……」

「じゃあ、もう逃げちまったってことか……?」

 

 時間稼ぎをしていたことはわかるが、ここで戦闘を始めた時点で既にいなくなっていたというのならば、ここまで悠長に戦わせていたのには疑問が出てくる。ただでさえ水爆を仕掛けるというとんでもないことをしているのに、安全圏にいるのならばもう爆破させてもおかしくはないだろう。ならば、まだ逃げていないと考えるのが妥当。

 

「いや、多分まだいる。何か理由があって逃げ切れてない。もう逃げるのはやめて、確実に深雪にトドメを刺そうとしてるのかもしれないけれど」

 

 常に刀の柄に手を添えて、いつでも刀が抜けるように構えている神風だが、ここまでしっかり隠れているのは逆に感心すると小さく笑みを浮かべていた。目は全く笑っていないが。

 

「……殺気、隠し切れなくなってるわよ。深雪を見てるわね。でも……数が多いわ。最初からこの数を投入してこないのは、私達のことをなめているということかしらね」

 

 ここで見えない場所から殺気を感じるようになっていた。しかし、それが1つ2つではない。明らかに多く、周囲を囲まれているようにすら思えた。

 

「すみませんね。準備に手こずりまして。貴女方を警戒していたものですから、数を揃えないとどうにもならないと思っていたところですよ」

 

 そう言いながら出てきたのは、やはり集積地棲姫改。先程斬り刻んだモノと、全く同じモノが、最初に出てきた通路から歩み出てきた。

 だが、それだけでは終わらない。その横の通路、さらにその横の通路と、次から次へと阿手が現れる。1人2人ではない。10人20人と、それこそ何故これを最初から投入しなかったのだというくらいの人数が取り揃えられていた。

 

「……『量産』ですか」

 

 フレッチャーが嫌そうに口にする。軍港都市での米駆逐棲姫や、特異点Wでの新量産空母棲姫が持っていた『量産』の曲解。それを使った、大量の阿手。それがコレなのだろうとすぐに察した。

 

 米駆逐棲姫の『量産』は他者を自らにする。新量産空母棲姫の『量産』は自らをそのまま増やす。この阿手が繰り出した『量産』は、おそらくそのどちらもを体現している。

 資材から自分を増やし、そして自分の意思すらそこに載せてしまった。この中にホンモノがいるかはわからないが、真の『量産』として、本当に自分を増やすということを実現してしまった。

 

「ぞろぞろと……!」

「貴女達がここを襲うと知った時に、私は撤退しようと思いましたよ。ですが、考えを変えました。せっかくですし、私はここで貴女達を学び、より高次へと至ろうとね」

 

 増え続ける集積地棲姫改は、ついに30人を超えた。

 

「貴女達のために、溜め込んだ資源を全て使おうと言うのです。誇ってください。ここまで増やすのに相応に時間がかかりましたが、私の部下達がいい仕事をしてくれました。おかげで迎撃する準備が出来ましたよ」

 

 本当はここまでするつもりはなかった。なのにせざるを得なくなったのは、全て想定外の妨害者、出洲の存在のせいである。

 撤退を妨害され、特異点を始末せずに撤退したら逆に始末すると脅され、それを覆す程の力がないから引き返した。だが、その前に阿手は、自らを『量産』して向かわせようと考えた。そのため、1人増やして側近と共に向かわせ、深雪達と戦わせている間に、さらに『量産』を続けて、今の数まで増やしている。

 その増やしている間、常に出洲の監視があったため、『量産』した自分を置いてさっさと逃げるということは出来なかったようである。

 自らを『量産』させるのは、阿手自身の力。そのため、出洲もそれには否定的な意思は見せなかったようである。これもまた、他人任せではなく、実力で特異点を始末しようとするやり方の1つ。

 

 この真実を、深雪達は今、知る由もない。出洲がすぐそこにいることだって知り得ない。

 

「ここまで、あらゆる情報を見せてもらいました。それを私は敗北を以て学び、そして取り入れてきた。今の戦いも、全て見せてもらった。これならば、もう負けることはない」

「えらく強気じゃねぇか」

「撤退する必要すらもうありません。これまでは常に時間を稼ぎ続けましたが、もういいでしょう。私の手で貴女達を終わらせますとも」

「最初からそうしろよ。これだけ被害を出しておいて、仲間すら雑に扱って、今更になって自分の手でやるとか、普通にダセぇんだよババア」

 

 深雪の口は止まらない。

 

「どうせ今の今まであたし達のことをなめてたんだろ。これだけ用意すりゃあ、何処かで死ぬだろってな。『舵』だってそうだ。自分の手を汚さないように、他の奴を洗脳して手駒にして、それで負けても自分には害が無いもんな。やり方が汚ぇ」

「何とでも言いなさい。特異点を始末するためには、これくらいはしなければいけなかった」

「自分で高次っつってるなら、ちゃんと高みから来いよ。時間稼ぎに捨て駒使うんじゃなくてよ。つーか、まず逃げるってのやめろ。最初からそのつもりで来い。そもそも、このアホみたいにいるテメェだって、資源が何かわかったもんじゃねぇぞ」

 

 深雪の言葉は、それに気付いている言い回しだった。『量産』するにも資源がいる。米駆逐棲姫は相手を変えるという前提があるため、その誰かが必要。新量産空母棲姫も、艦載機のカタチを変えているなど、何も無いところから数を増やすなんてことは出来ていない。

 阿手の場合も、数を増やすために()()を使っている。そして、その()()で見当がつくのは、この島にあるもの──つまり、

 

「この島の人達を使った……」

 

 これが妥当である。電は自分で言って戦慄した。

 

 おそらくは控えさせていた出来損ない。もしくは、実験に使って命を奪った亡骸。この戦場に出すのも難しいモノ。それを、自分の『量産』のための資材として扱い、ここに溜め込んでいた。

 あとは、この島近海に現れた深海棲艦なども資材の内だろう。長年かけて溜め込んだ、ありとあらゆる()()。それを全て使って、これだけの人数を用意したのだろう。

 

 全ての尊厳を自分のために消費する、あまりにも無駄なやり方。最初はそれすら放棄して撤退しようとしていたのだから、今更有効に活用したなんて口走っても、何も感じない。ただ、往生際が悪いとしか思えない。

 

「全部テメェのための時間稼ぎに使って、無駄な戦いを強いられて、結果全部ぶっ壊しちまった。テメェは壊したのはあたし達だって非難するんだろうけどな、そもそもテメェがこんなクソみたいな実験をしなけりゃ、壊れなくていいモンが壊れずに済んだんだよ」

「自分勝手すぎるのです。ここまでしてでも自分が一番上に立ちたいのですか」

 

 何十人もいる阿手は、その言葉を聞いても何も動じない。冷たい、見下すような視線で見ているだけである。

 

「もう、いいですか? いいですね。貴女達の声はもう聞き飽きた」

「こっちのセリフだバカ。口開きゃ自分のことしか考えてねぇことばかり言いやがって。もういい、テメェだけは、救うもクソもねぇんだ」

「……なのです。もう、本当にダメです。人のことを馬鹿にしすぎなのです。自分が偉いとしか考えていない、本当に、本当に、次元の低い話なのです」

 

 深雪どころか、電ですら明確に苛立ちを見せた。

 

「これが最後だ。ここでテメェを、絶対に終わらせる」

「やれるモノならやってみなさい。特異点」

「特異点だけじゃないわよ」

 

 神風が舌打ちをしながら口を挟んだ。

 

「ここにいる子達は、全員貴女に恨み辛みがあるの。だから、逆にこれだけの人数揃えておいてくれてありがたいくらいよ」

「……どういう意味です」

「貴女に言ってもわからないでしょうね。でもちゃんと言ってあげる。これだけいれば──」

 

 鼻で笑うようにしながら、神風は言い放つ。

 

 

 

 

「全員にサンドバッグが行き渡るでしょ」

 

 これが、開戦の言葉となった。

 

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