後始末屋の特異点   作:緋寺

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複数の脅威

 最初の1人を始末したかと思えば、裏で自らを大量に『量産』していた阿手。その数30人と非常に多く、どれがホンモノかもわからない。むしろ、ここにホンモノがいるかもわからない状況。

 だが、誰も阿手に対して臆すことはない。数を揃えられ、おそらく厄介な力も各々が持っていると考えられるが、だからといって逃げたいとも思わず、むしろここで全員始末してやるという強い気持ちを持った。

 

 その気持ちを代表するかのように、神風が言い放つ。

 

「全員にサンドバッグが行き渡るでしょ」

 

 これが、開戦の言葉となった。真っ先に動き出したのは、やはり神風。誰よりも速く、誰よりも鋭く、手近な阿手に対して一撃を入れようと駆けた。

 相変わらずのスピードで瞬時に近付き、強烈な一刀を放つ。ついさっきはこれだけで首が飛んでいた。神風の速さについていけず、ガードも何も出来やしない。ただやられるだけだった。

 

 だが、()()()()()と公言しているだけあって、今回の阿手は一味違った。その神風の一撃に対して反応し、腕でガード。そしてそれは『ダメコン』が働き、ほぼ無傷で受け止めてしまう。

 

「斬ることが出来なければ、貴女はその程度です」

「あら、流石に対策してきたみたいね。惨めに散らばるのはもう嫌ってことかしら」

「何を言っているのです。私はあえて、斬らせてあげたんですよ。貴女の太刀筋を学ぶために」

「後からなら何とでも言えるわ。後出しでドヤ顔はカッコ悪いわよ」

 

 刀が通らなかったことで、神風は一旦退きつつ、隣の阿手へと向かう。だが、『ダメコン』の阿手とは違う阿手が、神風に向けて手を翳す。瞬間、その身体が急に()()()()()()

 

「『磁力』!」

「これは貴女に有効であることは見ていますから。近付かせなければいいだけです」

 

 艤装を対象に取られ、自身を中心に引き離し。そのせいで神風は余計に離されることになる。

 

「ンの野郎! 電、今なら煙幕出せるな!」

「なのです! この空間を包み込むのです!」

「無論、それも対策済みです」

 

 深雪と電が煙幕を展開しようとした矢先に、2人の阿手が手を翳した。すると、『空冷』の風が急激に吹き荒れる。

 1人ではなく2人で風を起こしている辺り、煙幕に対しても強く対策を取ろうとしているのがわかる。

 

「邪魔ばかり……っ」

「風を起こす連中を止めるぞ白雲!」

「承知! お姉様の道を荒らす者は、この白雲が!」

 

 2人の『空冷』の阿手を止めるため、白雲と磯風が『凍結』を放とうと目を向ける。

 しかし、さらなる阿手がその前に立っていた。その手にはご丁寧に鎖を持って。

 

「凍らせる鎖対策は万全ですよ。さんざん見せられて来ましたから」

 

 その阿手は白雲の『凍結』の鎖を、自らの鎖で弾き飛ばす。その鎖には『燃焼』の力が込められており、その力を発揮させることを拒んでいるのがよくわかる。

 それでも止められたのは白雲のみ。磯風はフリーだ。ならばと容赦なく主砲を構え、『燃焼』の阿手を始末しようと砲撃を放とうとした。だが、自分の身を守ることに対しては天下一品。ここで更なる阿手が動く。

 

「私を傷つけることは許しません」

 

 磯風の砲撃があらぬ方へと飛んだ。狙いを定めたのに、その狙いがおかしな方向に向かうのは、一つしか知らない。

 

「『ジャミング』か!」

「好きに撃ってくれて構いませんよ。その全てを逸らしてあげましょう」

 

 効果範囲はわからずとも、妙高と同じと見てもいい『ジャミング』を発動。これでは攻撃をまともに当てることも出来ない。

 

「こちらからも行きますよ。ただ受けているだけじゃありませんから」

 

 他の阿手が『ジャミング』で守られていることをいいことに動き出す。『偽装』でその存在を見えなくされている艤装で、激しい砲撃を放ち出したのだ。どんな砲撃でも直撃はそのまま死に繋がる。それに狙われたのは──

 

「そりゃそうよね……私でしょうよ」

 

 フラフラである叢雲である。『標準型』の力を発揮したことによって大きく消耗をしたが、根性で気を失うことだけは耐えているだけ。そんなギリギリの状態の敵を、阿手が狙わないわけがない。

 

「少し我慢してください、強引に行きます」

「悪いわね……今は頼るわ」

 

 それをカバーしているのはフレッチャー。叢雲に肩を貸しつつ、かなり無理矢理な移動を開始した。それでも紙一重くらいにまでしかならないので、いつ完全に巻き込まれてしまうかわからないくらいに危うい状況。

 

「そちらにはそれがいますか。ならば、こちらには?」

 

 もう1人、砲撃担当の阿手が狙いを定めるのは梅。重巡新棲姫の艦載機を破壊したことで消耗しきった梅も、叢雲と同様に避けるのが非常に難しい。気を失いかけているというわけではないので、何とか動いているものの、どうしても疲れが足を引っ張る。

 

「だ、大分キツイ、ですぅっ! あ、あれ『連射』持ってますよぉ!」

 

 梅が勘付いた通り、この砲撃を放ってくる阿手は『連射』持ち。装填要らずでただひたすらに撃ち続けることが出来る、攻撃特化の力。装填の隙に攻撃を返して流れをこちらに持ってこようと思っても、今はターンが返ってこないのだから回避一辺倒にされるのみ。

 

「ああもう、君はちょっとこのままでいてよね!」

 

 これではまともに攻撃も出来ないため、飛行場棲姫を拘束していた子日も流石にまずいと動き出した。片手で主砲に仕込んでいたワイヤーを切断し、飛行場棲姫を拘束したままの状態にして蹴り飛ばす。意識があるからこそ面倒であるため、今は1箇所に集めておいた方がいいと、気を失っている重巡新棲姫に束ねておいた。

 これで自由に動けるようになった子日は、早速『迷彩』によって姿を消す。しかし、こうなる前の阿手からそれを看破する『電探』を持っていたため、あまり意味はないかもしれない。それでも出来ることはやろうと、これで攻撃を開始……しようとするのだが、そもそも一部は『ジャミング』で守られている。

 

「貴女の位置は丸わかりですよ」

 

 案の定、子日の姿は見えておらずとも、1人の阿手がその位置を完全に言い当てている。そして──

 

「っぶなぁい!」

 

 その子日のいる方向へ、突如放電が駆け抜ける。『発電』持ちの阿手が子日に向けて電撃を放ったようである。手を翳した後に少し時間があったから放たれるので、そのモーションさえ見えていれば避けられないことはない。

 とはいえ、掠めただけでも重傷に繋がる攻撃を当たり前のように放たれるのは心臓に悪い。直撃は砲撃と同様、死に直結する。

 

「あれだけでも厄介なのに、こっちも狙うんでしょ? 最悪だよマジで」

 

 グレカーレは深雪達とは違う方へと向かっていた。そちらにいるのは、離島棲姫とそれを守る響と白雪である。これまでの戦いは観察しながらの傍観で何とかなっていたが、阿手の人数が増えたことにより、こちらにも魔の手が伸びようとしていた。

 

「ヒビキ! シラユキ! 大丈夫!?」

「割と分が悪いかな。こちらにも厄介な力を持つ阿手が来てる」

「『装甲』持ちは貫けません。私達の持つのはあくまでも『増産』ですので」

 

 言葉は冷静だが、離島棲姫を守りながらの戦いはかなり厳しいようである。白雪は時間が経過したことで折れた肩が自己修復によりほぼ完治したようだが、それでも厳しいのには変わりない。

 そこに砲撃が全く通用しない『装甲』持ちが仕掛けてきているのだから、今は守ることで精一杯である。

 

「ふざけんなっての! 的確だけどさぁ!」

「理解していただけるのなら幸いですよ。貴女はもう一度こちらに来てみてはどうです? 有能ですし、少しはこちらの崇高さは理解しているでしょう」

「は? なめてんの? 行くわけないでしょクソババア」

 

 グレカーレもその言葉にはカチンと来た。勝ち誇っているだけでなく、プライドを傷つけるような言葉。忌雷を寄生させられた経験があり、一瞬とはいえあちら側に傾倒しかけた経験があるからこそ効く、グレカーレには本当に言ってほしくない言葉。

 このやり方が崇高だったら、この世界はただ破滅するだけである。人を利用するだけ利用することを是とし、自分勝手に振る舞うことを平和と宣う者に、誰がついていくというのか。

 

「他人を洗脳しないと仲良しこよし出来ないようなババアは、孤独死がお似合いだよ。それが怖いから他人の人生を自分の糧にしてるだけ。あー、嫌だ嫌だ、こんな老害。アレでしょ、自分は歳上なんだから歳下は言うこと聞けとか本気で思ってるんでしょ。年の功なんてのは、振り翳すもんじゃないよ。年下のために使ってこそだよ。それもわかんないんだもんなぁ。ただ長く生きてるだけのガキはコレだから」

 

 おちょくるようなグレカーレの言葉にも、阿手は素知らぬ顔。怒りを持っているかはわからないが、少なくとも反応をしないようにはしているようだ。

 

「あ、黙っちゃった? そりゃそうだよね。喋れば喋るほどボロが出るもんね。黙ってた方がいいよ。威厳なんてもう何処にもないけど」

 

 ケラケラ笑いながら、離島棲姫の前に立った。

 

「一般人をここまで連れてこなくちゃいけなかったのはゴメンね。でも、ここ乗り切れば助かるから、もうちょい我慢してよね」

「えっ、あ、ええ……ありがとう。でも……」

 

 少しオドオドしつつも、礼を言う離島棲姫。

 

 

 

 

 しかし──

 

()()()()()()()()()()()()

 

 真後ろから、グレカーレの脇腹に、一本のナイフが刺さっていた。

 

「なっ……アンタ……」

「悪いね、グレカーレ。私達はもう、違うんだ」

「はい、特異点は敵なんですよ、グレカーレさん」

 

 離島棲姫だけではない。響と白雪も、腹を刺されたグレカーレを見下すような目をしていた。

 

「そういうことです。彼女達は、私の下についている。貴女達はずっと部下達と戦っていてくれましたからね。こちらが無防備すぎでした」

 

 そして阿手も、これ見よがしにニヤニヤしていた。策が上手く行ったことで、悦に浸っているような表情。

 

「こういうことだよ」

 

 響が髪を掻き上げる。すると──

 

 

 

 

 首筋に、『舵』が張り付いていた。

 

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