後始末屋の特異点   作:緋寺

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それを見た者

 深雪達の意識を他の阿手が奪いつつ、暗躍するのは洗脳されたグレカーレ。真っ先に梅を味方に引き込み、『解体』による『舵』の破壊を封じたことにより、洗脳を解く手段は知らぬ間に失われてしまった。

 梅は『解体』の使いすぎにより消耗してほとんど動けずにいたが、『舵』を張り付けられたことにより急速に回復。グレカーレと共に暗躍を始めることになる。

 

 勿論、先に『舵』を張り付けられた響と白雪も、『隠遁』を持つ阿手と共に行動している。今でこそ戦闘中を装っているが、その戦闘範囲を少しずつずらしていき、誰かに接近しようとしている。

 近付いたところで『隠遁』を発動し、10秒以内に洗脳してしまえばそれで引き込めてしまう最悪な状況。

 

 

 

 

 そのことを知らず、深雪達は目の前の阿手をどうにかするために四苦八苦していた。押し寄せてくる全く同じ顔。それらが的確に嫌な曲解を持った状態で挑んでくる。

 とにかく厄介なのが、『ダメコン』と『ジャミング』。当ててもノーダメージ、そしてそもそも当たらないが組み合わさると、弱点らしい弱点が失われる。狙うことのない全体攻撃、たまたま当たった攻撃でなければ触れるかも出来ないのに、それがダメージにならないとなると、どうにもならないまである。

 深雪が地面を狙って消し飛ばす砲撃を放ち、そこに電が砲撃を重ねることで、地面の破片が爆散し、ある程度のダメージは期待出来た。しかし、それだけではダメージが足りない。自己修復は全員に完備されており、生半可なダメージでは簡単に修復してしまう。

 

「『ダメコン』は神風に付きっきりだ。それ以外はぶった斬れるからだよな」

「なのです。でも、結局『ジャミング』が全部を邪魔しているのです。白雲ちゃんの『凍結』が使えればまだよかったのですが……」

「『燃焼』のせいで凍らせねぇ。くそっ、煙幕が使えりゃまだどうにか出来るかもしれねぇのに……!」

 

 しかもここからはまた話が変わってくる。深雪が抉り、電がさらに破壊した地面は、別の阿手があっさりと修復してしまった。明らかに『工廠』の曲解である。

 それが出来るということは、この空間そのものが敵の武器になりかねない。明石がうみどりでやったように、床に磔にされる可能性も見えてきた。

 

「その場に止まらない! 動き回って照準合わせられないようにして! 『投錨』までいる!」

 

 指を差した者を進まなくする曲解『投錨』。この乱戦の中で動きを止められるなんて、致命的にも程がある。神風も紙一重で回避したが、それを何度も出来るとは思っていない。

 故に先に始末したかったが、『ダメコン』と『ジャミング』が邪魔をする。守らねばならない敵の近くには、必ず配備されている。最初に見た1人ずつだけではない。少なくとも3人ずつはここにいると、神風は確信した。

 

 それだけ神風は敵視されている。確実に封じ込めるために、人数を多く注ぎ込んでも惜しくないと考えている。神風が封じ込められるならば、大体他の者も封じ込められているのだから。

 

「まだ疲れてないよな、電」

「なのです。まだまだ動けるのです!」

「煙幕が使えるようにするために、まず『空冷』をどうにかするぞ!」

「なのです!」

 

 その『空冷』も、『ジャミング』に守られているため、砲撃は当たらないし、近付こうとしても別の方へと逸らされる。結果的には先にやった地面への攻撃くらいしかやれそうなことはない。

 

 それでも、まだ諦める時間ではない。圧倒的な力というわけではないのだから、絶対に突破口がある。そう思いながら、深雪達は前を向き続ける。

 

 

 

 

 故に、後ろが見えなくなることもある。

 

「白雲! 磯風! そっち危ないよ!」

 

 グレカーレの声が白雲に届く。それが聞こえた時、響と白雪が戦っている阿手の攻撃が白雲も磯風の方へと向かっていた。グレカーレの声が無かったら、不意打ち気味に喰らっていたかもしれない。

 その攻撃を受けたことで、白雲と磯風は間一髪回避。しかし、回避する方向が逆だったため、一時的に分断されてしまう。

 

「ありがとう存じます、グレ様!」

「すまん、グレカーレ!」

「どういたしまして! 分かれちゃったついでだけど、シラクモちょっとこっち来て! 離島とウメの両方守るの結構厳しい!」

 

 グレカーレの方にも阿手はいる。元々梅を狙っていた『連射』の阿手だ。消耗した梅と気を失っている離島棲姫がいるため、そのどちらもを守るのは至難の業だと白雲に見せつけ、一緒に守ってほしいと要求した。

 梅は消耗しつつもまだ自力で動けるが、離島棲姫は動けない。そこからして、グレカーレ1人ではかなりキツいというのは誰の目から見ても明らか。

 

「磯風様! 一旦彼方の始末をつけて参ります!」

「こちらは響と白雪を援護しよう! 合流が難しい!」

 

 分断された白雲磯風コンビは阿手に合流を阻まれ、また集うのは厳しい状況に置かれている。ならば、近くの仲間と合流して、阿手を各個撃破していくのが得策だろう。白雲と磯風はそう考えた。

 2人で組んでいても、『燃焼』のせいで力を全く発揮出来ないのならば、一度『燃焼』から離れて、力を発揮出来る敵に挑んだ方がいい。それによって仲間を守ることが出来るのならば尚更だ。

 

「グレ様、白雲が参ります!」

「よろしく! ちょっと離れちゃってるけど!」

「お姉様! あちらを守ります!」

「頼む! あたし達はこっちで手一杯だ!」

 

 グレカーレの戦っている場所は、少し深雪達からは離れている場所。なるべく乱戦から離れて休ませるようにしていると白雲は理解し、深雪に声をかけてから防衛に走る。

 

 表情には出さなかったが、グレカーレは白雲のその言動に、余計なことをするなと苛立ちを覚えていたのは言うまでも無い。

 

「グレ様、すぐにでも彼奴を始末いたしましょう」

「あいよー! 2人でやれば、余裕っしょ!」

 

 内心ニヤニヤしているグレカーレ。白雲がこちらに来てしまえばこちらのモノ。うまく隠しながら、梅と同じように『舵』をくれてやればいい。それだけで特異点の心にダメージが与えられる。より苦痛を味わわせることが出来る。

 

 そう考えている矢先のことだった。

 

 

 

 

 グレカーレの真横に、拳を振りかぶった血塗れの金剛が立っていた。

 

 

 

 

「えっ、ちょ!?」

 

 グレカーレは咄嗟に剛腕でその拳をガードする。だが、『ダメコン』を使いながらの全力パンチは、とてつもない威力を持っており、その一撃だけで体勢を崩す程のモノだった。

 

「金剛様、何を!?」

 

 当然白雲は驚くだろう。ついさっき、深雪に自由を与えられた結果、自分達が仕えていた提督を殴り殺すに至った金剛は、その手は血塗れでも、今は仲間のように話が通じる相手であるのだが、突如として仲間に対して攻撃をし出したのだ。仲間だと思っていたのに、いきなり裏切られた気分である。

 白雲の言葉を聞いた金剛は、無表情無感情ではあるものの、白雲の方に目を向けた後、徐に自分の首筋をトントンと指で差し示した。

 

「どういうことですか! やはり我々の敵だったのですか貴女は!」

 

 白雲は金剛に向けて『凍結』の鎖を振るう。だが、それは軽々とバックステップで避けられた。

 

「痛た……何さいきなり! さっきは言うこと聞いてくれたのに!」

 

 グレカーレも憤慨する。だが、何故攻撃してきたのだと頭をフル回転させていた。仲間であるのなら、阿手を止めるために阿手を攻撃するだろう。やはり敵だというのなら、グレカーレもそうだが、その後に白雲にも攻撃していただろう。

 なのに今は明確にグレカーレ()()を狙った。この中での唯一の敵と言わんばかりに。そして、白雲に見せたジェスチャーだ。首筋を指差す、つまり、『舵』のことを見ていた。そこに繋がった。

 深雪達には絶対に見せないように、ギリギリまで配慮して、梅を洗脳している。だが、今は駆逐水鬼達を見張っていた4人の秘書艦達は、絶妙に角度が違う。剛腕の隙間などから見えていてもおかしくない。そう思った時、グレカーレは自分の浅はかさを呪った。何故そこまで見えていなかったのだと。

 

 それが洗脳されたことによる慢心が呼び起こしたことだと、自分では気付けない。

 

「面倒臭いことになったね……」

 

 演技か本心か、グレカーレからそんな言葉が溢れた。目の前に金剛がいたら、白雲に『舵』を張り付けることなんて出来やしないだろう。何と言っても、神風ですら苦戦する『ダメコン』持ちなのだ。どれだけ撃っても、どれだけ殴っても、この金剛は倒れない。

 

 だが、グレカーレは考える。白雲はまだ自分の状態に気付いていない。ならば、仲間として金剛を処理し、その後ゆっくりと洗脳してしまえばいいと。

 言動からして、白雲は金剛を疑っている。『凍結』の鎖を振るったのもその証拠。今ならばまだ、金剛だけを敵として振る舞える。

 

「シラクモ、一回コンゴーを黙らせよう。このままじゃ、あたし達……シラクモ?」

 

 しかし、ここでもグレカーレは目先の敵だけしか見えていない。白雲には今、別のモノが見えていた。急に金剛に向ける攻撃が止まる。

 

「……グレ様、貴女には今、何が見えていますか」

「何って、そんなの決まってるでしょ。荒ぶるコンゴーと、向かってくるアデだよ。ウメと離島を守んなきゃ」

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 白雲の目が鋭くなる。

 

「今の白雲には、あちらの熊野様から『電探』の情報が送られてきています。おそらくお姉様達もでしょう。その反応からして、()()()()()()()()()()()送ってきてくれています」

 

 阿手の位置を正確に知るための情報。深雪達の位置はなく、敵の位置だけが常にわかる『電探』の情報。意思も感情も奪われたが、自由にしていいという特異点の願いにより、『電探』の扱い方にも自由度が増していた。

 その敵の反応は、基本的に阿手だけが反応するだろう。強いて言うならば、まだ倒れている駆逐水鬼達6人のカテゴリーYの場所も見えている。

 

 だが、その反応の中に、()()()()()()()()()()()()()()()()ことで、白雲は現状を察した。金剛のジェスチャーの意味も理解した。

 

 グレカーレが梅を洗脳するところを見ていたのは、この熊野である。金剛も、比叡も、鈴谷も、それには気付いていなかった。そこまでは隠しきれていた。この熊野だけが、グレカーレの行動を見ていたことにより、洗脳を看破していた。

 だが、言葉も使えなくされている熊野には、それを伝える術がない。敵を斃すにも、熊野が持つ力は『電探』、サポート役の力。意思も感情もなく、しかし淡々と敵だけを伝えたい。

 そこで熊野は、味方と認識する者に、敵の位置を送信した。極少数に。実際、この熊野の『電探』の情報が送られているのは、うみどりの面々で言えば、深雪と電、そして目の前の白雲の3人だけである。確実に仲間だと確定している者にのみだ。

 

「いつされたか気付けなかったのは申し訳ございません。ですが、今のグレ様は、特異点の敵であると伝えられました。弁解出来ますか」

 

 鎖をギュッと握り締めて、グレカーレと相対する道を選ぶ白雲。金剛もその白雲を守るように立ち、『連射』の阿手からの攻撃を防いでくれていた。

 

「……はぁ、アイツか。アイツに見られてたんだ。それは……気付かなかったなぁ。『電探』持ちは厄介だね、まったく」

 

 髪を掻き上げるように諦めたような息を吐く。その時、白雲にも見えた。グレカーレの首筋に、しっかり『舵』が張り付いているのを。

 

 

 

 

「残念です。仲間を黙らせなければならないのは」

「どうせシラクモも仲間になるよ。こっち来なよ、あんな特異点なんかにヘコヘコしないでさ」

「可哀想なグレ様、後々その記憶が残っていないことを祈ります。……お姉様を貶めるのならば、この白雲、例えグレ様であろうと容赦せぬ」

 

 歯を食いしばるような表情の白雲。苛立ちを隠さなくなったグレカーレ。親友だった2人の戦いが、始まってしまう。

 

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