後始末屋の特異点   作:緋寺

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親友(とも)との戦い

 グレカーレの手口を見ていたのは、意思と感情、そして言葉すら剥奪された、元秘書艦達の内の1人、熊野だった。そして、『電探』によって絶対に裏切り者ではないと確証が持てる者に対し、()()()()()()()()()()()敵の情報を送信した。その相手が、深雪、電、白雲の3人である。

 

「電、今……」

「なのです。熊野さんの、『電探』の情報が見えているのです」

「これ、阿手の場所が全部わかってるってことだよな。すげぇ情報だ。ありがたく使わせてもらわねぇとな」

 

 眼前の敵の情報、何処にどのようにいるかが手に取るようにわかる。熊野の『電探』は『迷彩』すら貫くため、もし一部の阿手が『迷彩』で隠れていても、その位置は完全に把握出来るモノとなった。

 今のところ、深雪達の目に入る敵は、送られてくる『電探』の情報の通り。常に煙幕を邪魔する『空冷』も、それを守る『ジャミング』も、神風を止めている『装甲』も、全てが見えている。

 

「くそっ、あたし達のところじゃない方にも結構行ってやがる……!」

「空間全部を使ってきているのです!」

 

 送られてくる『電探』の情報のおかげで、深雪と電は視野を拡げることが出来た。目の前の戦いに必死だが、別の場所からの攻撃だってある程度は意識出来るようになる。

 全員が対策を取られて圧倒されているのがわかるのは苦しい。だが、出来るならば自分達だって他の仲間をサポートしたい。それこそ、気を失った仲間を守るために動きたいところ。

 

「白雲が援軍に入ってんだ。グレカーレと組めば、何とかしてくれるはずだ」

「なのです。あの2人は仲がいいですし、きっと連携も……えっ」

 

 チラリとそちらの方を向く。だが、そこの光景に2人は絶句した。

 

 

 

 

「残念です。仲間を黙らせなければならないのは」

「どうせシラクモも仲間になるよ。こっち来なよ、あんな特異点なんかにヘコヘコしないでさ」

「可哀想なグレ様、後々その記憶が残っていないことを祈ります。……お姉様を貶めるのならば、この白雲、例えグレ様であろうと容赦せぬ」

 

 歯を食いしばるような表情の白雲。苛立ちを隠さなくなったグレカーレ。この2人の戦いの開幕は、グレカーレから始まった。

 

「容赦しない? どんな感じにしてくれるのかなぁ!」

 

 剛腕を振りかぶり、突撃。砲撃ではない辺り、やはり洗脳をしてやるという気持ちがかなり強い。砲撃だとダメージを抑えることが出来ず、うっかり殺してしまいかねないが、徒手空拳ならまだ加減が可能。

 

「無論、貴女の知る方法で」

 

 対する白雲は、手に持つ鎖を居合の構えで持つ。

 

「はっ、ただのカミカゼの真似だね。でも、アンタはそれで『凍結』もばら撒く、抜かせやしない!」

 

 グレカーレは白雲と共に神風の下で鍛えてきた、いわば姉妹弟子だ。そこから友情を深め、親友となった。

 だから、白雲が何をやろうとするかはすぐにわかるし、それを教えられた場にいた記憶もある。故に、弱点だって理解している。

 

 グレカーレは剛腕で地面を殴りつけるようにして勢いをつけ、突撃を加速した。白雲が構えたならば、その抜刀──()()と呼んだ方が正しいか──を放つよりも前に、殴りつけてしまえばいい。

 この緊急時に剛腕を更なる腕や脚のように扱う方法は学んでいる。たった今繰り出したのもまさしくそれ。

 

「アンタ、それを抜くまでに時間がかかるもんねぇ。鎖を氷の刃に変えるだなんて、事前に準備、必要っしょ。なら、そんなことさせない」

 

 知り尽くしているからこそ、それを止めることが出来る。

 白雲のその一撃は、抜かれてしまえばグレカーレには回避不能な一撃。触れたところから凍りつき、即座に身動きが取れなくなる。殺さず、しかして確実に戦力として扱われなくなる。『凍結』させられたら最後、それは完全な()()()()となる。

 グレカーレはそれを絶対に避ける。それをされたら、目的が達成出来なくなる。今ならば、白雲を仲間に引き込むことだ。

 

「シラクモ、あたし達はこうやって戦うべきじゃあないと思うよ。うみどりでもさ、仲良くやってきたじゃん」

 

 殴りつけながらも、グレカーレは少し嫌そうに語る。白雲はその攻撃を素早く避けながらも、居合の構えを崩さず、鎖に『凍結』の力を溜め続ける。

 

「あたしはシラクモのこと、友達だって、親友だって思ってるよ。カミカゼに鍛えてもらってさ、一緒に強くなっていくのは本当に楽しかったし。シラクモってばお堅いけれど、あたし達と鍛えるようになってから柔らかくもなったからね。あたし、シラクモのことも、普通に好きなんだよ」

 

 剛腕で地面を殴りながら、本来以上のスピードを出して突撃を繰り返す。海上では出来ない、少々強引ではあるが、確実に相手の集中力を乱していく、複雑な動きを可能にしていた。

 また、自分が白雲にとってどういう存在であるかも熟知しているからこそ、こういう言葉を投げかける。白雲はグレカーレと共に神風を師事したことで、親友を得て、少し雰囲気が軽くなった。カテゴリーWへと至った際にも、グレカーレと衣装を合わせるまでしたくらいに、心許せる相手として見ている。

 

 グレカーレはその情を利用しようとしていた。だから、そんな行為全てが──

 

「能書きはいい。黙って戦えないのか。()()()()()

 

 完全な拒絶へと繋がる。仲の良い相手、仲間であれば必ず『様』をつけるほどに丁寧な言葉を使う白雲が、敬語はそのままであっても、グレカーレに対してそれをやめた。ついさっきまで仲間であったことを差し引いても、この拒絶は当然の結果だった。

 

 白雲とて、グレカーレのことは熟知とまでは言わずとも理解している。短い期間かもしれないが、共に成長して、共に歩んできて、その心を深雪ほどに許している相手。

 だからこそ、今のこの言動には怒りしかない。グレカーレは、自分の立場を悪用し、他者を貶めるようなことは絶対にしない。ポーズはあれど、本心からはしない。

 故に、白雲から見た今のグレカーレは、あまりにも醜悪で、見ていることも悍ましい、決して許すことが出来ない()である。

 

「……友達を見捨てる気?」

「白雲の友であるグレ様は、そのような事は言わぬ」

 

 回避しながら地面に両足がついた瞬間、白雲の鎖を握る手に、強く力が入る。ギュッと握る音が聞こえるほどに。

 

「殺しはしない。お姉様が悲しむ。ならば、その時が来るまで、凍りついていろ」

 

 ギラリと眼光が鋭くなり、ギリッと奥歯を噛み締める。構えは、整った。

 

「いや、その必要はないね。だって」

 

 グレカーレが下卑た笑みを浮かべた。その視線は、白雲の方を向いていなかった。

 

「あたしにも、仲間がいるんだから」

 

 構えた白雲の後ろ。そこには、既に回復して動けるようになった梅がいた。白雲に飛びつき、その動きを拘束し、『舵』を張り付けようと、気配を殺して忍び寄っていたのだ。

 動きを止めたその瞬間こそ、それをする大きなチャンス。グレカーレも殴りつけながら梅の方へと誘導し、視線を自分に向けさせることで意識を梅から外させ、その時を待っていた。

 

「知っている。だから白雲にも、仲間がいるのだ」

 

 だがしかし、白雲にしか見えていない仲間もいる。グレカーレには、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 白雲は振り向きもしない。後ろから梅が近づいてきていても関係ない。何故ならそれは──

 

「えっ……っ!?」

 

 そこに、仲間がいるから。先程の金剛と同様に、いきなり視覚外からすっ飛んできたのは比叡である。『燃焼』の力を纏った蹴りが、梅の脇腹を抉り、白雲への攻撃を完全に中断させた。

 

 金剛が動き出したのだから、他の者も動かない理由がない。熊野が駆逐水鬼達を見張り、砲撃をすぐに放てるという状況を作りつつ『電探』のデータを送信し続け、残りの3人はもう見張ることすらせずに阿手殲滅に参加を始めている。

 金剛は白雲を守るために、『連射』の阿手と一騎打ち中。『ダメコン』を駆使し、その砲撃を弾き飛ばしながら真正面から突っ込み、その拳を叩き込んでいた。

 鈴谷は既に近くにはいない。駆け出し、『発電』の力を使って阿手に放電をばら撒いている。これが後に、攻略の鍵となる。

 

 そして比叡は、明確に敵として認識されるようになった梅に対して、殺さずとも黙らせるくらいの攻撃を仕掛けた。脇腹に入った一撃は、梅の内臓を揺さぶり、大きなダメージを与える。

 

「何を余所見している。貴様に仲間がいるのならば、白雲にも仲間がいて当然であろう」

 

 白雲の抜鎖。『凍結』の力が込められた一撃が振り抜かれ、グレカーレに襲いかかる。

 

「ちっ……」

 

 その一撃は、急ブレーキをかけつつも剛腕で無理矢理弾き返し、ギリギリで回避。だが、触れたことには変わりなく、剛腕はそこから一気に凍結する。

 

「グレ様ならば、これくらいの敵の動きは読めたでしょう。彼の方は視野が広いですから。だが、何だその体たらくは。ただ力を振り回し、他者を陥れることに終始し、戦いに目も向けられぬ」

 

 冷ややかな目でグレカーレを見る白雲。その目には、蔑みも含まれており、そしてそれ以上に激しい怒りがあった。

 親友が、敵の魔の手によりここまで狂わされているのは、見ていて苦痛であり、阿手に対して強い殺意を芽生えさせる。

 

「まともに戦えぬのなら、黙って見ていろ、愚か者。自分の存在が我々の枷になるとわかっているからこそ、そのように振る舞っているのだろうが、それはただ怒りを呼ぶだけだとわからぬか。いや、わかっていて逆撫でし、本来の力を発揮させないようにしたか。ありきたりで、低脳の考えることだ。グレ様ならば、あえてこう言うだろうな。ざーこ」

 

 逆にグレカーレの神経を逆撫でするように、鼻で笑いながら突きつけた。

 

「……言いたいことはそれだけ?」

「他にもあるが、これくらいで勘弁してやろう。貴様が泣いてしまいかねない。まさか、卑怯だの姑息だの言わないだろうな。自分でやっていることを棚に上げて。まさか聡明なグレ様が自分のことを理解せず他者を非難することなど」

「黙れ」

「この程度の煽りでそれか。やはり阿手の洗脳はされた者を愚かにする。なんと嘆かわしい」

「黙れ!」

 

 グレカーレはさらに突撃を開始した。白雲はこれ見よがしに溜息を吐き、それを迎え討つ。

 

 

 

 

「……グレカーレ……『舵』が付けられちまったのか」

「酷いのです……許せないのです……なんでこんなことを……」

 

 それを知った深雪と電は、怒りを募らせる。それは、これまで以上の力の発現の兆しとなり得る。

 

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