後始末屋の特異点   作:緋寺

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怒りの覚醒

 部隊の半数が『舵』により洗脳され、敵対の意思を見せたことで、深雪と電は怒りの限界を超えていた。阿手のやり方があまりにも気に食わない。自分でやるのではなく、他人を使ってひたすらに嫌がらせを続ける。そのせいで傷付く者が沢山いるのに、自分さえ良ければそれでいい、非道で自分勝手な存在。

 

「……そっくりそのまま返してやるよ」

「貴女こそ、生きているだけで罪なのです」

 

 深雪のことを、特異点のことをさんざん詰ってきたその言葉、生きているだけで罪。それは阿手にこそ当てはまる言葉だと、深雪は勿論のこと、電ですらその言葉を言い放った。

 

「貴女に言われる筋合いはありませんよ。戦を呼ぶ特異点に」

「テメェに言われる筋合いはねぇよ、藪蛇ババア。テメェが動けば動くほど、誰かが悲しむんだ。自分の思い通りに洗脳しないと部下すら作れない最底辺のゴミムシが」

「心の底から貴女と共に歩こうとするヒトなんて、もうこの世にいないのです。誑かして、弄くり回して、そんな馬鹿げたことをして作った人形にしか傅いてもらえない、哀れで醜いバケモノなのです」

 

 電がここまで他者を強く罵ることはない。だが、それだけのことを、長い時間をかけてし続けていたのは間違いなく阿手である。電ですらここまでの怒りを持っているのだ。

 

「そう言っていられるのも今のうちでしょう。好きなだけ言っていればよろしい。特異点以外は直に真理に気付く。特異点こそ戦いの発端、存在そのものが罪であると」

「……まぁいいや、好きに言ってろ。お前の中でだけの真理を、その軽い口でベラベラ喋ってろ。今のうちしかそんなこと言ってられないだろうからな」

「……聞いていて虫唾が走りますが、深雪ちゃんの言う通り、そんなことを言っていられるのは今だけなのです。もう、反省なんてしないでしょうから」

 

 深雪と電が繋いだ手からは、煙幕が溢れ出てくる。それを磯風が『空冷』で吹き飛ばそうとしたが、それは風で吹き飛ぶことは無かった。

 

「あの煙……なんだ……っ」

 

 磯風はより強く、両手を翳して全力で風を起こす。煙どころか、炎だって消えそうな勢いの暴風。しかし、その煙幕はそこに在り続ける。

 2人の怒りが篭ったその煙は、2人の思いがカタチを成した、特異点を特異点たらしめる煙。よく見ればそれは、微かに赤黒く染まっていた。

 

 怒りが強すぎて、2人で繋いだ手からは血が滲んでいた。深海棲艦化している深雪からは黒の、艦娘の電からは赤の血が、その煙幕に染み込んでいた。

 

「悪い、電。痛いか」

「大丈夫なのです。深雪ちゃんこそ」

「あたしこそ大丈夫だ。腹が立って痛くも感じねぇ」

「電もなのです。こんなに、こんなに嫌な気分なのは初めてなのです」

 

 赤黒い煙は質量を上げていく。その色合いに勘付いたのは、それを受けたことがある叢雲。

 

「特異点の血が混じった煙よ。普通の煙よりも重い」

「小賢しい真似を。その分何かを起こすとでも言うのか」

 

 現在進行形で普通の煙と違うのは見てわかることである。磯風の『空冷』で飛ばない、重い煙。だが、やりたいことはそれだけでは無い。

 深雪と電の血が、繋いだ手の中で混ざり合う。特異点の血が、補助装置と混じり合う。深雪の目が真紅に輝き、それに呼応するように電の目も赤みを帯びていく。

 

「まずいね。アレは止めた方がいい」

 

 響らすぐさま砲撃を放つ。深雪と電は、放置していられない脅威として、今も尚強く成長している。自分達のせいであると理解も出来ず、だがそれを止めようと一斉に攻撃を開始。

 

「させません!」

「ええ、2人を止めさせない」

 

 フレッチャーと神風がその砲撃の前に立ち塞がる。そして、まずフレッチャーがその砲撃に対して砲撃を返し、空中で直撃させて爆散させた。

 こんな神業的な砲撃も、丹陽の力をコピーしたことによって手に入れた技量を、フレッチャー自身の努力によって乗りこなせるようになったことで、当たり前のように繰り出すことが出来ていた。

 

 そしてその爆炎の中、真正面を突っ切るのは神風。鋭い眼光が流星のように流れ、自分が火傷しそうなことも二の次に、たった今砲撃を放った響に肉迫していた。

 

「……私を斬ろうというのかい」

「あからさまに挑発してんじゃないわよ」

 

 刀を返して、峰打ちによる居合抜き。並ではない速さにより、響の腕を叩き折る。

 

「ぎっ……!?」

「斬られないだけありがたいと思いなさい。自分の立場に感謝するといいわ。あと、響を囮に私も取り込もうとは考えないことよ」

 

 響を斬り捨てた神風は、その動きを止めることなく身体を捻って後ろに刀を振るう。そこには神風の首筋を狙う白雪がいた。隙を他者に作らせて、こっそりと目的を達成しようとする抜け目なさを、神風は感心しながらも心の底から嫌悪した。

 刀は白雪を薙ぎ倒し、手から離れた『舵』も即座に真っ二つになった。神風とて警戒していないわけではない。

 

「一旦引いた方がいい!」

「だが特異点が調子付くぞ! あの煙、風で吹き飛ばん!」

「別にいいでしょう、調子付いても。それも貴女達のためになるのですから」

 

 そんなことを言い出した磯風に対し、猛烈な砲撃が放たれる。特異点の邪魔はさせないと、フレッチャーが一切の容赦なく攻撃を開始していたのだ。しかも、()()()()()

 

 本来ならばここに『ジャミング』がいてもおかしくはないのだが、その範囲が届いていないところからして、今ここにいる全ての『ジャミング』は、鈴谷がありったけの放電で足止め出来ていた。

 また、その放電の中、『迷彩』を使いながら撹乱している子日もいい仕事をしている。深雪達が何かしようとしていることを遠目に確認し、この辛い状況でも動揺せず、自分の出来ることを続けている。

 姿を消しているため表情は見えないが、言葉もなく淡々と仕事を続けているところからして、歯を食いしばりながら今を耐えていることが窺える。

 

「私達のため? 誰も頼んでないわよ」

「そうですね。頼まれてはいません。でも、ついさっきまでの貴女に託されましたから」

「アンタを救わなきゃよかったわ。これまでの私がどれだけ愚かか理解出来たわ」

「今の貴女の方がもっと愚かですよ。在り方を利用することしかやることが無いのですから」

「……口も達者なのね」

「お互い様でしょう」

 

 叢雲の悪態もフレッチャーはさらりと受け流し、前進を止めるための砲撃を繰り返す。磯風にも避けられてしまっているが、深雪達への送風は止めざるを得ない状況に持っていかせた。

 

「相変わらず、邪魔ばかりしますね貴女達は」

「ええ、貴女が後始末の邪魔ばかりするからね。今は黙って見てなさいよ。高次って宣うなら、特異点の力くらい乗り越えてみせなさい」

 

 神風の一刀。だが、腕は折られたが動けないわけではない響が盾になるように躍り出たことで、それは直前で止められる。そのまま振り抜いていたら、響は今頃、上半身と下半身がお別れしていた。

 

「やはり情くらいはあるようですね。それが貴女達の弱さですよ」

「切り捨てることを強さって言うなら、私は弱い方を取るわよ。それに、貴女はヒトを利用しないと自分の身一つも守れないだけじゃない。全部は自分のため。特異点とは大違いね」

 

 神風はチラリと深雪達の方を見る。そこは、血混じりの赤黒い煙幕が立ち昇る違う空間となっていた。その中で何が起きているかはわからない。だが、空間全体を煙幕で包み込むのはかなり難しいと見た。

 血が混じっていることにより風で飛ばされなくなったが、代わりに拡がるのが遅くなっている。いや、むしろ深雪と電はその煙幕を拡げようとしていない。なら何をしようとしているか──

 

「電、軍港都市で梅がやられた時のこと、覚えてるか」

「勿論なのです。あの時、電は深雪ちゃんの煙幕を吸って、正式に特異点になったのです」

「状況、あの時と似てるよな」

「なのです。電もそう思ってました」

「なら、あたしは()()()()()()だと思う。電、多分この状況をひっくり返すためには、電の出力も上げなくちゃいけねぇ」

「はい、だから、深雪ちゃん、電も……」

「頼むぜ、電。今こそ、その時だ!」

 

 繋いだ手から溢れる煙を、怒りと願いが篭った煙を、深雪と電はその身に取り込んだ。先程までそれで敵からの攻撃を無効化したが、その時とはまた違う、互いの血が混じった煙による最大限の強化。願いを──この場をどうにかする願いを叶えるため、怒りの覚醒の時。

 

「っ……深雪、ちゃん、電……行けると思うのです。深雪ちゃんと一緒に、特異点としての力を使うための()()に……!」

「ああ、あたしが吹雪にされたように、電にはあたしがやる。電もあたしと同じようになってほしいって、心の底から願う。それが、この戦いを終わらせるための力になるからな!」

 

 吹き飛ばない煙幕は、深雪の逆の手からも溢れ出す。それを繋いだ手にさらに重ねた。

 

 電の身体が跳ねる。煙幕を取り込み、その強い力が身体の中で暴れ回る。今の身体では耐えられない。深雪もそうして身体を成長させて、今の大人の深海棲艦の身体となった。電にも、それが訪れる。

 

「っく、あ、あぁああっ……深雪ちゃんの力、特異点の力、電にも……!」

「ああ、これからもあたしと一緒に戦ってくれ。耐えられないなら、耐えられる身体になればいいんだ」

 

 深雪の身体も小さく跳ねる。既に成長している身体が、より雄々しく成長する。今の身体でも耐えられないなら、より成長すればいい。

 

「行くぞ、電。戦いを終わらせるぞ」

「なのです! 取り込まれた仲間を救うため」

「苦しみを終わらせるため!」

 

 その願いは叶えられる。優しい願いは、必ず。

 

 煙幕が弾けるようにばら撒かれる。その中央には、これまでとは違う特異点が立っていた。

 

「……何が起きた」

 

 阿手の1人が呟いた。その一言がきっかけとなり、次々とその場に目が集まる。

 

「……生まれ変わったみたいなのです。すごく力が漲る……深雪ちゃんのおかげなのです」

 

 そこに立つ電は、もうかつての電では無かった。その身体は、深海棲艦と化していた。

 

 髪を留めていたバレッタが消滅し、長い髪は下ろされていたが、その色は真っ白に染まっていた。深海棲艦化したことで頭には捩くれた2本の角が生え、その目は爛々と赤く輝いている。

 制服もセーラー服は無くなり、代わりに着ていたのは黒いオフショルダーのワンピースドレス。深雪に合わせるように、足には黒いガーターストッキングが出来上がっていた。

 そして身体。駆逐艦の身体ではその力には耐えられないため、相応のサイズに成長していた。深雪と同様に戦艦の身体、しかし少々身長は低く、その分成長が胸に偏っている。今で比較すれば、深雪よりも大きく豊かに育っていた。

 

「……これが、深雪ちゃんの見ていた景色なのですね」

「ああ、電の願いも、あたしを成長させてくれた。今なら行けるぞ」

 

 深雪の方も、その覚醒により変化していた。力が抑えきれないのか、着ていたジャケットやショートパンツは消滅し、インナーのみの姿に。額から生えた吹雪を模した角からは、赤い焔のように煙幕が揺らめいている。

 

 より深海棲艦らしくなった姿で電と向き合うと、ニカッと何も変わらない笑みを浮かべた。電も、姿は変わっても中身は変わっていないことを示すように、穏やかな笑みを返す。

 

 

 

 

 そして、改めて敵の姿をその目で捉える。

 

「阿手、テメェはもうこの世界にはいらねぇ」

「みんなのために、世界のために、ここからいなくなってもらいます」

「それがあたし達の、ここにいるみんなの願いだ!」

 

 戦いは最終ラウンドへ。深雪だけでなく電も深海棲艦化したことで、流れは一気に引き寄せられた。

 




深雪はこれまで南方棲姫っぽいとしていましたが、今回で南方棲戦姫っぽくなりました。流石に胸丸出しは無理。深雪は髪が短いから、毛ブラが出来ないので。
電は地中海弩級棲姫のアレンジ。あの子生脚だからね。あと、本家は胸が大きくないんですが、艦娘側がすごいことになってるので、電はその要素も取り込んでいます。
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