後始末屋の特異点   作:緋寺

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解放の再戦

 更なる力を得た特異点、深雪と電は、『舵』を張り付けられた仲間達を次々と解放して、余計な記憶を消し飛ばすというケアまでしていた。更には、阿手の魂胆をことごとく無効化し、ありとあらゆる曲解を機能不全に陥らせていく。

 特異点が再現する今の願いは、『阿手の完全否定』。阿手のしでかしたことを、全て()()()()()()()()()。優しい願いと言えるかは定かではないが、この願いは満場一致の願いであり、これを叶えなければ世界に平和が訪れないと確信出来るため、叶えなければならないと特異点は大きく力を使うこととなっている。

 

 そしてその2人は、阿手を仲間達に一旦任せて、手ずから救わねばならない者の元へと向かう、

 それは、『舵』により親友との悲しい戦いを強いられている白雲の救援。そちらには金剛と比叡も加わっているのだが、周りに現れるその他の阿手を対処するのに手一杯。故に、特異点の2人もそちらを救うところから。

 

「グレカーレ、お前を救うぞ」

「グレカーレちゃん、必ず取り戻しますから」

 

 タンと軽く地面を蹴れば、まるで羽が生えたように身体は軽い。だが、見ている先の光景は、非常に気が重い。

 だからこそやらねばならない。白雲は今も苦しみながら抑え込んでくれている。みんなの心も軽くなるように、これ以上の苦しみを味わわないように。

 

「これで終わってくれればいいのですが……!」

 

 近付く前から電は煙幕を弾丸のように放つ。これが当たってくれれば、それで終わり。なのだが、それにいち早く気付いたグレカーレは、白雲との戦闘中であるにもかかわらず、煙幕の弾丸を紙一重で避けた。

 響達に撃ち込んだ時は距離があまり無かったが、今回は少し離れた位置。避けるまでの時間はどうしても出来てしまう。そして何より、相手は察しのいいグレカーレだ。自分が狙われていると思えば、それに素早く反応するのは予想も出来ていた。

 

「……特異点、邪魔しないでくれる?」

 

 明確な敵意をぶつけてくるグレカーレ。深雪はこの目を見て、海賊船の時は本当に演技だったのだと今更ながら理解する。あの時はこんな目をしていなかった。悪意に塗れた、ドロリと濁った瞳。

 

「悪いな、邪魔をしないと先に進めねぇ」

「なのです。本当のグレカーレちゃんに戻ってもらうために」

「はっ、何言ってんの。これがあたしの本当でしょ」

 

 本気でそれを言っているのだからタチが悪い。『舵』により捻じ曲げられた道が、真に自分の道だと思い込まされる。それには『羅針盤』すら抵抗出来ない。

 

「お姉様……電様……その御姿は」

「ああ、みんなの願いを受け取った結果だ。ここで阿手をぶちのめすって願いをな」

「お美しい……電様も見違えました」

「電も、大人になれたのです。だから、これまでよりも出力が上がっているのです!」

 

 白雲が感涙を流しそうになっていたが、今はそんなことをしている暇はない。気を取り直して、グレカーレを見据える。

 

「あたし1人に3人ぶつけようっての? やっぱり特異点は卑怯だね。数で寄ってたかって押し潰そうっていうんだ。きゃー、強姦魔みたーい」

「何言ってんだお前。まぁ、そういう思考にされてんだもんな。仕方ねぇよ」

 

 グレカーレの煽りに大した反応もせず、白雲の奮闘の跡を確認する。

 

 背部の剛腕は一部凍結していたが、動かせないわけではないようで、戦闘力自体はそこまで落ちているわけではない。事実、白雲との戦いはその剛腕を駆使し、接近を許さず、砲撃があったとしても弾き飛ばす。

 白雲の出来ることを全て知り尽くしているからこそ、腕が少し凍結するだけで済んでしまっている。本来ならば動きを止めるくらいまで行っていてもおかしくないというのに。居合による抜鎖も、一度は当てられたがそれ以降は当てることが出来ていない。それだけグレカーレの技術が卓越しているということに他ならない。

 

「深雪ちゃん、白雲ちゃん、電にやらせてもらっていいですか」

 

 ここで電が突如、1人でグレカーレとやると言い出した。3人でやれば確実なのはわかっている。何を言われたところで気にしないし、ズルイだの卑怯だの言われる筋合いがないことをこれまでされているのだから、それに関しては鏡見ろで済む話。

 だが、ここであえて単騎で行こうとしているのはワケがある。

 

「深雪ちゃん、梅ちゃんと……あとあの離島さん、そちらにも『舵』が付けられているのです」

「ああ、梅は知ってたけど、離島もか。だよな……気は失ってるけど、やられててもおかしくねぇよ」

「それに、金剛さんの方が押され始めているのです。『ダメコン』だけじゃ、負けないかもですが、勝ちにも持っていけないみたいなのです」

「……白雲を守ってくださっている金剛様……恩を返さねばなりませぬ」

 

 梅は比叡にコテンパンにされていたため、今はただ倒れている状態。比叡が見張り、余計なことをしないように押さえ込んでいる。離島棲姫は引き続き気絶したまま。何かする様子も無いが、目を覚まされたら面倒なことになりかねない。

 金剛は『連射』の阿手と直接対決をしているが、困ったことにその阿手が増えていた。何処から現れたか、追加でもう1人、しかも『連射』がもう1人という厄介極まりない状況。2人がかりで撃ち込まれていたら、いくら『ダメコン』を持っていても、前には進めない。

 

「よし、あたしが梅と離島をどうにかしておく。白雲、比叡さんと一緒に金剛さんを援護してやってくれ。あっちも阿手が増えてやがる」

「かしこまりました。電様、グレ様をお願いいたします」

「なのです。必ず救いますから。すぐに終わります」

 

 この策で進めるため、深雪と白雲は一度散らばった。グレカーレの前には電のみが残る。

 

「……何、大人になれたからって調子に乗ってるわけ? あたしになら1人で勝てるって、なめてんの?」

「はい、なめているのです。今のグレカーレちゃんに3人も使うほど、こちらは暇では無いのです。良かったですね、強姦されなくて」

 

 グレカーレの悪態に対して、電は相応に返した。非常に珍しい電の煽り返しに、グレカーレは若干イラついたように目を細める。

 

「逆に、グレカーレちゃんは電1人なら勝てるとでも?」

「当たり前でしょ。特異点の腰巾着に、優しいだけが取り柄のクソザコに、あたしが負けるわけないでしょ」

「一度負けているのに? しかもその時、降参した後に不意打ちでもう一度攻撃しようとするくらいズルイことをしても負けたのに?」

 

 初めて顔を合わせた時の戦いを引き合いに出し、お前には負けないと真正面からぶつける電。

 むしろ、ここでグレカーレと単騎でやろうとしているのは、その時のことがあったから。一度1対1(タイマン)でやりあい、勝利しているからこそ、その時の焼き直しをするように、解放するための再戦を望んだ。

 

 ここまで攻撃的な電はこれまでに無かった。深海棲艦化しているため、淡々と告げるその表情は非常に冷たく、見下しているようにも見えた。

 

「はっ、あの時とは違うんだよ。今のあたしには艤装もある。アンタみたいに掴まないと何も出来ないような奴に、負ける理由がないね。ちょっと力を付けたくらいでいい気になってるなんて、高が知れてるね」

「……そんなハリボテの艤装で何が出来るというのです。直接攻撃してこないで仲間を陥れることばかり考えてる輩が、強いわけないでしょう。特異点が怖くて怖くて仕方ないから、無理矢理にでも賛同者を作らないと、群れでないと強気にもなれない。それが強いと?」

 

 電の瞳が赤く輝く。その瞬間、

 

「馬鹿馬鹿しいのです」

 

 その名の通り、稲妻のような速さでグレカーレに近付き、煙幕を纏った手でその首を捉えようと手を伸ばしていた。

 

「なっ……っ!?」

「洗脳されると弱くなるの、やっぱりあるのですね。そのタネもわかりました。そのままの力で自分の思惑通りに動く駒にすればいいのに、そうしない理由。本当に、本当にくだらないのです」

 

 グレカーレが剛腕を振りかぶって電を殴り飛ばそうとしたが、剛腕では間に合わないと考えたか、腕より先に足を出した。

 しかし、電はそれだけでは終わらない。蹴り上げられたグレカーレの足を軽く掴むと、それを抱えるようにして身体ごと回転する。深雪がスキャンプにも仕掛けた飛龍竜巻投げ、ドラゴンスクリュー。艤装を装備しているため、少し変形した投げになるが、グレカーレの身体は遠心力で完全に浮く。

 

「ちょっ、うそっ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですね。もしくは、叛逆を恐れて自分よりも弱くした。つまり、阿手はそもそもが誰よりも弱いというだけなのです」

 

 グレカーレは剛腕を地面について体勢を整えようとする。だが、そうしていることこそが大きな隙。電は再び稲妻のような速さを発揮して、グレカーレの上を取っていた。

 

「自分の程度まで落とさないと、お人形遊びすら出来ないだなんて、ただただ可哀想なのです。そんなのに捕まったグレカーレちゃんも、本当に可哀想なのです。だから今、ちゃんと解放するのです」

「誰がそんなこと頼んだ! あたしは、あたしの意思でっ」

「その意思が曲げられているのですから、何を言っても無駄なのです。グレカーレちゃん、帰ってきてください」

 

 倒れかけのグレカーレの首を掴み、そして地面へと叩きつける。その時に煙幕を発生させ、阿手の完全否定。首筋に張り付けられた『舵』はそのまま霧散した。

 

 地面についていたグレカーレの剛腕は、力を失ったようにカクンと折れる。自分の艤装に押し潰されかけたことで、「ぐえっ」と悲鳴もあげた。

 

「……あ、あれ、あたし……何してたんだっけ……」

「お帰りなさい、グレカーレちゃん。どうにか出来てよかったのです」

「……え、ええっ!? ちょっとイナヅマ!? 何それ大人になったの!? ってうわ、おっぱいデカっ、うちの国のちっこい戦艦みたい! えーっ、その瞬間見たかったんだけど!?」

 

 嫌味のある言葉は失われ、純粋に電のことを好いているような、()()()()グレカーレに戻っている。『舵』を付けられていた時の記憶も一緒に霧散し、元のテンションを見せてくれているだけで、よかったと安心出来た。

 

「あっ、あーっ、そうだ! 離島! 離島が『舵』を!」

「そちらは大丈夫なのです。深雪ちゃんが」

 

 電が指を差す方では、深雪が既に煙幕を使って梅と離島棲姫を解放していた。比叡はすぐに金剛を援護するために移動している。

 

「……マジ? ミユキ、前よりもっと変わってんじゃん……なんでその瞬間が見えなかったかなぁ! あーくそっ、これもアデのヤツの仕業かーっ!」

 

 ぷんすかと怒りを露わにするグレカーレに、電は苦笑しながらも手を差し伸べる。

 

「さぁ、行きましょう。戦いはまだ終わっていません」

「だね。もしかしてあたし、みんなに迷惑かけちゃったかな。なら、罪滅ぼしもしなくちゃね」

「罪は阿手しか持ってないのです。だから、グレカーレちゃんはいつものように、電達と一緒に」

「……おっけー、じゃあいつものように、あのクソザコをぶちのめしてやっかー!」

 

 

 

 

 グレカーレも戻り、梅と離島棲姫も解放された。『舵』を受けた者達は、特異点により全員解放され、改めて最後の戦いへと挑む。

 

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