後始末屋の特異点   作:緋寺

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特異点の攻勢

 グレカーレを筆頭に、洗脳されていた残りの者達も解放されたことで、仲間達は全員取り戻すことが出来た。こうなってしまえば、後は阿手を全員始末するのみ。

 とはいえ、ここにいる阿手達は、最初に現れた不死身の特性を持っているのは見えていた。神風が斬っても血すら出ず、微塵切りにしても再生する。最終的には白雲が凍らせたが、そこまでしないと機能停止に追い込むことが出来ない。

 それをどうにか出来たのが、叢雲の『標準型』。叩き込まれれば、持っている曲解ごと全て無力化され、その不死性すらも失われる。『標準型』を使うと消耗が激しすぎて、そのまま倒れてしまうところだったのだが、『舵』にやられたことで体力回復、そして特異点の新たな煙幕のおかげで消耗を抑え込まれ、あと何回かは使えるという状態に。

 

「やれそうならもう少しやるわ!」

「私が援護いたします。近付ける者がいれば隙を見てどうぞ!」

「ええ、流石にもう後先考えないわ。こいつら絶対許さない!」

 

 右を向いても左を向いても阿手。ターゲットはいくらでもいる。当然一筋縄では行かないが。

 

 その時の記憶は消してもらえていても、何をされたかはおおよそ見当がつく。一度はあちら側だったがこちら側に来た叢雲にとって、またあちら側にされるのは屈辱の極みだった。

 フレッチャーもそうである。彼女の中には改心した米駆逐棲姫の記憶が残っているため、阿手に対して、そして仲間を洗脳するという行為に対して強めの嫌悪感を持っている。

 故に、例え事情があったとしても関係なく、ここにいる全ての阿手を始末するまでは止まらない。後先も考えることなく、疲れ果てて動けなくなるまで始末し続ける。特異点の煙幕により、曲解が大きく弱体化した今、どのような攻撃も当たる。

 

「離島は安全な場所に運んでおく。先にアイツらに行けるか、梅」

「行きますよ。行きますとも! 梅は、もう怒りました! 記憶にないけど2回目なんですからぁ!」

 

 離島棲姫は熊野がこちらに持ってきてくれとハンドサインを送ってきたため、すぐに運ぶことにする。まだ気を失っているため、余計な行動もしないだろう。この離島棲姫なら、正気であれば余計なことはしない。

 深雪に治療されたことで正気を取り戻した梅も、絶賛憤慨中。軍港都市から引き続き二度目の洗脳を受けたとなれば、その怒りはこれまでに感じたことのない程である。それこそ、()()()()()()()()()()()と思える程に。

 

「梅様! こちら『解体』可能でしょうか!」

「やります!」

 

 そこに白雲と金剛が黙らせた『連射』の阿手が凍りついていたのだから、やらない理由がない。ご丁寧にも、艤装だけを凍りつかせ、頭だけは触れられるようにされていた。

 生身には効かない。それが梅の『解体』であるが、今の阿手は限りなく生体艤装に近いと思われる。この梅の『解体』が通用するかで、今後の戦い方が変わると言っても過言ではない。

 

「二度と、立ち上がらないでくださぁい!」

 

 その場から駆け出した梅は、その阿手に向かって拳を振るう。こんな感情になったのも初めてだろうし、梅は徒手空拳が得意というわけでもない。だとしても、それを止められなかった。それだけ鬱憤が溜まっていた。

 言ってしまえばヘロヘロなパンチだった。だが、阿手の顔面にそれがヒットした瞬間、触れた部分から阿手が見事に『解体』されていく。やはり、『量産』された阿手は生体艤装という認識で間違いがない。その結果、無機物しか『解体』出来ない力でも、容易に破壊することが出来た。

 しかも、梅の『解体』では簡単には元に戻らない。驚異的な自己修復能力を持っていようが関係ない。それでも戻ろうとするならば、白雲が凍らせるだけである。

 

「数の差なんてどうということは無いわね。私達は負けないわ。当たれば全部壊せるんだもの」

「にゃっほい! 治っちゃうかもだけど、その都度壊せばいいだけだもんね!」

 

 神風と子日もイキイキと始末をつけていく。自己修復があろうが関係ない。神風は阿手を両断し、子日は的確に頭を爆散させていく。『ジャミング』や『磁力』による邪魔が弱体化しているため、攻撃ももう普通に当たっていた。

 

「『投錨』だけは避けた方が良さそうね。でも、こっちにも仲間がいるのよ!」

 

 指を差された神風は瞬時にそれを回避。すると、その後ろには『投錨』の阿手に手を翳している鈴谷の姿があった。瞬間、稲光のような放電が発生し、阿手を貫く。

 感情も何も無いため、最短距離で最大効率を叩き出す。自由を手に入れたことで特異点を助けるという選択をした者達は、徹頭徹尾容赦などしていない。始末するという目的のために、自分の体力すら考えずに攻撃を繰り返す。

 

 それは元々別の阿手を相手取っていた金剛や比叡も同じこと。特に比叡は、自分と同じ『燃焼』持ちの阿手に対して、さらに高い温度の拳を叩きつけていた。温度に耐性を持っているかもしれないが、それは比叡も同じこと。燃やす者は、燃やされないという点から、触れても問題ないと真正面からぶつかっている。

 阿手もこれには苦い顔をした。ここで圧倒されると、本当に止めなくてはならない者が止められなくなる。そして、比叡が後ろにハンドサインをしたのも確認出来てしまった。

 

「何を狙っているのか、手に取るようにわかりますよ。せっかくの高次の力を、私への叛逆に使うだなんて、言語道断──」

 

 その言葉すら聞き飽きたと、比叡は顔面に拳を叩き込み歯を全て折ると、阿手に掴み掛かり、真後ろに放り投げた。

 

「ありがと、そいつを普通にしてやればいいのね!」

 

 比叡は振り向くことなく親指を上げた。阿手が投げられた先には叢雲。まだまだやれると言っただけあり、再び『標準型』を叩き込む。

 

「いい加減に()()()()()! 邪魔なのよアンタのそれは!」

 

 叢雲の一撃により、普通になった『燃焼』の阿手は、もう空気を温めることも出来ない。

 そうなればここからは、磯風の出番である。

 

「一気に冷やす!」

「磯風ちゃん、電も手伝うのです。手を握ってください」

「おおっ、電! お前もそういうことが出来るんだな。よし、頼む!」

 

 深海棲艦化した電は、特異点としての領域を上げている。深雪が出来たことは、今の電なら可能だ。

 磯風と手を繋ぐと、磯風の力の増幅、そしてその効果を自らで実行が可能になる。深雪がグレカーレの『羅針盤』を拡張するのと同じことだ。あの時は電もサポートとして深雪と共に煙幕を扱っていたが、もうその必要すらない。1人で全てが可能。

 

「行きますよ!」

「ああ、最大出力だ!」

 

 2人がかりの『空冷』。磯風もさることながら、電の煙幕の出力が普通ではなく、空間に急激に風が吹き込み、周囲をどんどん冷やしていく。

 

「白雲! 舞台は整えたぞ!」

「白雲ちゃん、これでいくらでも凍らせられます!」

「承知いたしました。磯風様、そして電様、白雲のための舞台を用意していただけて、恐悦至極にございます。では、参りましょうか」

 

 鎖を握り、小さく笑みを浮かべ、白雲は舞う準備を整えた。

 

「あたしも手伝うよ、シラクモ」

「グレ様……はい、やはり貴女はそうでなくては」

「迷惑かけちゃったんだよね。でも、今は一回置いとくよ。後から謝るから」

「謝罪など必要ありませぬ。罪を持つのは彼奴等のみ。ならばすることは一つ」

「あいよ、アイツらを、ぶちのめす!」

 

 白雲が舞い、『凍結』を振り撒き、それを邪魔する阿手をグレカーレが剛腕で叩きのめす。白雲を知り尽くしているから、その舞の邪魔にならないところを熟知し、何処を狙われたくないかを理解して、的確な立ち位置をキープし続ける。

 本当の信頼とはこういうもの。利用するためのものでは無い。

 

「私達も迷惑をかけてしまったようだからね。足手纏いにはなりたくないさ」

「でも、私達が出来ることは道を開くこと。戦力としては普通も普通ですよ」

「いや、まだまだやれることはあるさ」

 

 響と白雪は、戦力だけで言うならば下から数えた方が早い。持っている曲解は『増産』。敵の忌雷を回避するために念のため寄生させているというだけであり、ここにいるのも調査と解錠。だから離島棲姫を守るために一歩引いた位置をキープしていた。

 戦闘では正直、表立って行動は出来ない。だからこそ、今やらねばならないのは、調査隊としての仕事。

 

「ホンモノの阿手がここではない何処かにいる可能性がある。それを探すんだ」

「足で稼ぐということですか。それこそ危険では?」

「勿論、そんなことはわかっているよ。でも、私達の出来ることはそれくらいさ。あの阿手達は仲間達に任せよう」

 

 ここで響が深雪に軽く合図を送る。阿手達が出てきた通路などを先んじて調査するよと。

 深雪は小さく頷いた後、誰かを手招きする。その後、その手を銃のようにして煙幕を放ち、響と白雪に纏わせた。

 

「子日の『迷彩』をそちらにも渡した! ある程度は調査しやすくなるはずだ!」

「子日達はこっちでどうにかしておくから、調べてきて!」

「……すごいね覚醒した特異点は。なら、その信頼を背負って、私達は調査に向かうよ」

「頼む!」

「ああ、任せてほしい。罪滅ぼし……いや、その言葉を使うのはやめよう。調査隊として、務めを全うさせてもらう」

 

 響と白雪は戦場から離脱。阿手を探すために、通路を進むことに。

 

「これで心配事は無くなったな。じゃあ改めて、テメェら全員、ぶちのめす!」

 

 深雪が拳を握りしめると、赤黒い煙幕が両腕に纏わり付いた。風でも吹き飛ばない煙幕は、主砲の方へと集約する。

 煙幕の力まで取り込んだ主砲は、その力を最大限に発揮することになるだろう。深雪もそのつもりで放つ。生かしておく必要もない。完膚なきまでに始末するため、消し飛ばす砲撃を確実に撃ち込む。

 流石の阿手も、これは回避しなくてはならないと危機感を覚えたようだが、時すでに遅し。掠めるだけでも抉り取るそれは、『装甲』も『ダメコン』も否定して、確実なダメージとなる。『阿手の完全否定』の願いが篭った砲撃は、相手が阿手であれば全てを消し飛ばす。

 

 

 

 次から次へと始末されていく阿手。こうなると、余裕なんて持っていられなくなる。どの阿手も、既に必死だった。

 

「この……やってくれますね特異点……!」

「おう、やってやるよクソババア。あたしは、あたし達は、テメェを否定する。何度でも言ってやるよ。この世から消えろ」

 

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