後始末屋の特異点   作:緋寺

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それは信頼ではなく

「ひとまずわかったことは、アナタ達は第二次の時に死んだと思われていた元凶を追っているけど未だに見つかっていない。その元凶達はよりによって深海棲艦の改造まで始めてしまい、それを野に放っている。コレで良かったかしら」

Хорошо(素晴らしいね). その通りだよ」

 

 うみどりへと訪れたタシュケントから語られた真相。それは、第二次深海戦争にてカテゴリーBに暗殺されたとされている呪いの元凶の人間は、まだ死んだわけではないということ。そして、タシュケントが属している艦娘のみで構成された秘密組織がその行方を追っているということ。

 第三次深海戦争が始まった今でも元凶の居場所は見つかっておらず、むしろ今でも暗躍しており、改造された深海棲艦もその元凶が生み出したものであることも知らされた。

 

「そして、アタシ達の艦に接触を決めたのは、深雪ちゃんと電ちゃんの存在を、アナタのところのボスが気付いたから。で、二人がこのうみどりで生活している姿で、アタシ達が信用に値するから……」

 

 また、カテゴリーMの説得をするつもりの深雪と電に対して、世界の光であると称した。この世界の特異点となれる才能を持っているから、救ってあげられそうなら救ってあげてほしいとも。

 そこまで煽てられると、深雪と電は逆に緊張してしまう。うみどりの面々だけでなく、カテゴリーBから見ても特別であり、この世界を変える事が出来る特異点となり得るなんて言われてしまうと、嫌でも意識してしまうものである。

 

「さっき、接触を決めた理由はいくつかあるって言ってたわよね。その一番の理由が、深雪ちゃんと電ちゃんだって」

「ああ、言ったね。今から生まれる暴走した純粋種を救ってほしい。それを伝えたかったのが一番だよ」

「他にも理由があるのかしら……いい意味でも悪い意味でもここに来る理由があったのよね」

 

 深雪と電に会うために来たというのが一番の理由なのは、タシュケントの意思もあるかもしれないが、その裏にいるボスからも期待されていることを伝えるために来たというイメージ。

 ならば、それ以外は何か。うみどりのことを信用出来る存在だとわかったから接触したとしても、他にも言いたいことがあるのではないだろうか。

 

「そうだね、その辺はちゃんと話しておかないと。でも、そんなに難しいことじゃないんだ」

「というと?」

「あたし達と一緒に、元凶の行方を調べてほしい」

 

 決着は自分達でつけたいと思っていても、居場所がわからなければ決着も何もない。だが、人間が信用出来ないというのが大きく、ドロップ艦は全員暴走しているため仲間を増やすことも出来ず、人海戦術を取ることが出来ない。しかも、表舞台に立つわけにもいかないため、コソコソと動き回るしかなかった。その結果が、これだけ時間がかかっていることに繋がる。

 その中で改造された深海棲艦なんてものまで現れたのだ。そろそろなりふり構っていられないのではないかというのが秘密組織内の見解。そして、ボスからも信頼出来る人間と接触し、協力を仰ごうと考えたようだった。

 

 深雪と電に会うことよりも重要度が高い内容だろうと内心思ったものの、タシュケントからしてみれば、優先順位の付け方は援軍要請の方が軽かったようである。

 援軍と人間がイコールで結ばれるのならば、頼りたくないと考えてしまうのが今の第二世代。しかし、言い方は悪いが()()()()()()深雪と電ならば信用出来る。

 うみどりを監視していたのは、深雪と電が騙されてこの組織に使われているのではないかという危惧。

 

「……アタシ達の仲間には、調査隊という部隊があるの」

「あの時の、こことは違う大きな艦のことかな」

「ええ。調べてもらうなら、あの子達にも協力してもらう方が早いのだけれど」

「君達にはまだ心が許せる方だけど、その調査隊がいくら善人だとしてもなかなか信用まで持っていけない」

「そう……」

 

 昼目提督が信用出来ないというわけではない。今は人類全てが信用出来ない。その中でも、うみどりだけは信用出来るというだけ。だから、()()()()()()()協力を仰いでいる。

 監視の結果、深雪と電のみならず、ここで後始末の作業をする人間には、自分達が憎む理由がないと判断された。調査隊の面々も同じように監視すれば、信用出来る存在であることに気付けるはずなのだが、深雪と電という監視に値するモノが調査隊にはない。

 

「あたし達も自分達だけでどうにかしたかった。でも、こんなに長い間探し続けても、アイツらはのらりくらりと躱し続けているんだ。だから、もう誰かに頼るしかなくなってきた。そこで現れたのが、君達だ」

 

 再び深雪も電に視線を向ける。タシュケントにとっては、うみどりの中で最も信用出来る相手。自分と同じ純粋種。

 

「正直なところを言うよ。あたしは()()()()()()()()()()()

 

 とんでもないことを言い出すタシュケントに、一瞬緊張が走る。なりふり構っていられないというのはわかるが、それは流石に問題がありすぎる。

 

「でも、思い止まった。それはあたし達が憎いアイツらとやってることが同じなんじゃないかってね。意思を無視して自分の思い通りにするなんてダメだって気付けたよ」

 

 だが、強行したくなるほど切羽詰まっているというのはわかる。秘密組織を結成してからこれまで、相当長い時間が経過しているのに、何の成果も無いとなれば、いくらまだ余力があるとしても焦りは見えてくるというものである。

 とはいえ、まだ純粋種の誇りというものは失われていない。むしろ、それを失ったらカテゴリーMと同じになってしまうだろう。感情に任せて手段を選ばず、ただ怒りと憎しみのままに行動する。それは暴走以外の何モノでもない。

 

「だからしばらく監視を続けたんだ。その結果がコレだよ。協力を依頼出来ると確信した」

 

 タシュケントとしては複雑な感情を持っているのだろう。真実を知ったばかりの電の時のような人類への不信感を、今までの長い年月抱え続けてきたようなモノなのだから。

 それでも世界の光が生まれ、それが一縷の望みとなり得るなら、それに縋りたい。

 

「一方的に話し続けちゃったけど、君達はどう考えてくれてるのかな。この世界にまだ悪はいる。それをどうにかしないと、艦娘の暴走は終わらない。それだけのことをしでかしてる。あたし達はそれを止めたいと思っているんだ。力は足りないけどね……」

 

 ここで決断を深雪と電に促すタシュケント。あくまでも伊豆提督ではなく、カテゴリーWの二人の答えを求めている。それはまるで、人間の答えは必要なく、純粋種の答えで全てを決めると言っているようなもの。

 

 混乱しながらもずっと聞きに徹していた深雪だが、これはすぐに答えが出なかった。

 

 呪いを生み出した人間は未だに活動を止めておらず、むしろ深海棲艦すらも材料として世界を混乱に陥れている。実際にそれで被害が出ていることもあり、元凶のやり方は過去以上に許し難いモノになっていることは間違いない。

 勿論、深雪としても、そんな輩は今すぐにでもいなくなってもらいたい。艦娘を私利私欲で利用したという事実があるのだから、殺してやりたいという気持ちだってそのままだ。過去に命を搾り取られた艦娘達の無念を晴らすには、その命を以て償ってもらわなくてはもう割に合わない。

 

 しかし、それは後始末屋としてやるべきことなのか。元凶が目の前に現れたら、容赦なく手を下すだろう。だが、協力するということは、この仕事とはかけ離れた仕事もしなくてはならなくなるだろう。

 そして何より、深雪は自分の力がまだこの世界の平和を取り戻すには全く足りていないことに気付いている。今日の午後からも説得が出来るくらいに強くなるために訓練をする予定なのだ。

 

「弱気な発言になるかもしれないけど、それは本当にあたし達に出来ることなのか? ぶっちゃけ、あたし達はまだ生まれて間もないから、戦うことすら儘ならないんだ」

 

 深雪は嘘偽りない本心を語る。

 

「お前、協力してくれって言ってるけど、あたし達に何をしてもらいたいんだ」

「それは勿論、元凶探しさ。何処にいるかわからないから、手分けして探したいんだよ。あたし達に出来る範囲は海の上だからね」

「つまり、自分達の手が届かない場所をお願いしたいってことか」

「有体に言えばそうだね。それこそ、陸はあたし達は近付けないから」

 

 この言葉に訝しげな表情を浮かべる深雪。本当に怒りや憎しみがあり、元凶をすぐにでも見つけて潰したいというのなら、陸に上がってもいいはずだ。だが、それは出来ないと言い切っている。

 

「なんで陸に近付けないんだ。その理由が聞けないと、あたしはお前が信用出来ない」

 

 ここはあえて強く出る。タシュケントの気持ちも当然理解出来る。同じ純粋種として、悪辣な人間のやらかしたことは怒りに繋がっているのだから、元凶を始末したい気持ちは深雪にもある。

 だが、今の言い方を聞いていると、元凶は陸におり、それにうみどりをぶつけようとしているようにも聞こえた。人間が信用出来ないから陸に上がりたくないというだけにも聞こえる。

 

「まさか、人間の顔を見たくないから陸に上がりたくないだなんてことじゃないよな。そんなに元凶を始末したいなら、なりふり構わず陸に上がって探し回ってもいいはずだろ。あたしだったらそうする。海で見つけられそうにないなら、陸に上がる。でも、それが出来ない理由があるんだろ。あたしも知らないあたし達の身体の秘密だとか」

 

 問い詰めるような言い方をされたことで、タシュケントは少し驚いてしまっていた。世界の光と称された深雪が、思った以上に敵対的に接してきたため、予想外だったようである。

 これを()()()()()()()からと考えることは無い。自分の言い方が悪かったと反省はした。秘密組織だからこそ、秘匿しておかねばならないことが非常に多く、信用していると言っても全てを明かすことはなかったため、深雪には伝わってほしいことが伝わっていなかった。

 

「人間の顔が見たくないというのはあるけど、流石にそれだけで陸に上がらないことはないよ。元凶を始末するためなら、それくらいは我慢出来る。でも、致命的な理由があるんだ」

「それを教えろって言ってるんだよ。こちらのことばかり調べて全部知っていて、そちらのことは全部秘密で調べることも拒まれたら、流石にお前達の方が信用出来ないぞ。まだお前達の信用していない調査隊の方が信用出来る」

 

 ガンガン攻める深雪。秘密組織かもしれないが、協力してもらいたいなら秘密にするなと、かなり強気に。

 

「いいか、あたしはハッキリ言ってバカだ。ちゃんと言ってもらわないとわからねぇんだよ」

 

 そんな深雪を見て、電はハラハラしていた。ここに電しかいなかったら、流されてタシュケントに何かを言うまでもなく協力すると言ってしまいそうだった。

 電だけではない。伊豆提督やイリス、神風も、深雪がここまでタシュケントに対して強く出るのは予想していなかった。

 

「秘密なのはわかるが、それを教えてこないってことは、お前らはあたし達のことを信用してないってことだろ。だったら協力は出来ねぇ」

 

 協力は互いの信頼の下に成り立つ。なのに、一方的に意思をぶつけられて自分達のことを隠し続けるのは、信頼とは程遠い。

 故に、深雪はタシュケントのことを完全に信用していない。うみどりの仲間達の方が開けっぴろげな分、信用が出来る。調査隊の面々の方が、嘘偽りない飾ることすらない態度で接してくれるため、信用が出来る。

 

「そもそも、協力してほしいならそのボスってヤツを出せよ。これまであたしが会ってきた人間は、そこの頭を張ってる人間が話をしてくれたぞ。それはあたしのことを知っている上で、信用してだ。なのに、そっちは出張ってくるのはお前だけかよ。おかしくないか」

 

 ここまで言われて、タシュケントはうっと苦い顔をした。深雪の言う通り、自分達の言うことは一方的すぎた。心の奥では、なるべく自分達の素性を隠したまま、深雪達を仲間に引き込めたらという気持ちもあった。

 だが、それももうダメだ。最も信用に値する深雪からここまで言われてしまったら、出来ることは二つしかない。交渉決裂か、全てを語るか。

 

「ハルカちゃん、あたしが勝手に言っちゃってるけど、良かったかな。感情的になりすぎてると思うけど、ダメだったら言ってくれ」

「ううん、今はそのままでいいわ。思うところを言ってみてちょうだい」

 

 伊豆提督は深雪の思うがままに対応させる方針。タシュケントの気持ちもわかるし、自分達のことを信用出来ない気持ちもわかるが、深雪が言う通り非常に一方的。

 それに、伊豆提督が文句を言ったところで()()()()()()()であるため、タシュケントには届かないだろう。ならば、深雪に話してもらった方が届く。そして、深雪が間違ったことを言っていないので、伊豆提督は止めることは無い。

 

「ありがとう。じゃあこのまま行く。タシュケント、何度でも言うけど、あたしはこっちのことばかり知っていて自分のことを隠し続ける奴は信用しないぞ」

 

 突きつけられて、タシュケントは押し黙りつつも考える。話していいものかどうか。

 

「……一つ約束してほしい」

「なんだよ」

「今から話すことは、この艦の中だけで留めてほしい。この秘密だけは、絶対に他の人間に知られるわけにはいかない」

 

 ここまで言うのだから、余程のことなのだろう。タシュケント側としても、信用を得るために話しはするが、それが口外されることを恐れている。

 

「そもそも、お前達とこうやって話してることも外に出さない方がいいだろ。調査隊にも話さない方が」

「うん、そうしてもらえると助かる。何処からこの情報が漏れるかわからない」

「あたしはそれでもいいと思ってる。確かに、他の人間が知ったら、何処から話が漏れるかわからないからな。ハルカちゃんなら黙っていてくれる。それくらい信用出来る人間だ。あたしが保証する」

 

 伊豆提督も少し苦しそうではあったが頷いた。

 

「……じゃあ、話すよ。確かに何も言わずに協力してくれっていうのは虫が良すぎる。信用信頼と言いながら一方的なのは、協力じゃなく従属だね」

「わかってくれてありがてぇ」

「一蓮托生になるんだから、ちゃんと話そう。何度も言うけど、口外だけは絶対にしないでね」

 

 小さく息を吐き、タシュケントはゆっくりと語り出す。

 

「陸に上がれない理由は、ボスがそういう身体だからだよ」

「それはどういう意味でだ」

「身体が限界に近いんだ。今は、あたし達の拠点からなるべく動かないようにしてる」

 

 そして、最後にとんでもない爆弾を仕掛けてきた。

 

 

 

 

「あたし達のボスは……()()()()なんだ」

 

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