後始末屋の特異点   作:緋寺

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無能な上官

 深雪と電が覚醒したことにより、阿手の数的優位は打ち砕かれていく。曲解を真正面から否定していることで、阿手に有利な状況を丁寧に打ち崩し、不死とも言える自己修復能力も攻略。深雪が否定しながら消し飛ばし、梅が『解体』し、叢雲が()()()()()。それでも漏れたモノは、白雲が確実に『凍結』させることで、ついに焦りを見せ始めた。

 

「この……やってくれますね特異点……!」

「おう、やってやるよクソババア。あたしは、あたし達は、テメェを否定する。何度でも言ってやるよ。この世から消えろ」

 

 まだ阿手は数がいる。確実に打ち倒してはいるが、そろそろ数が同じになるかという程度。厄介な曲解を持つモノから始末をしており、それでもその力が弱体化しているためにもう容易であるとまで言える。

 もう『空冷』すら効かない。風で飛ばない煙幕というもう普通だなんて言っていられないモノが猛威を振るい続けている。味方を有利に、敵を不利に。非常にわかりやすい圧倒的な力。

 

「深雪ちゃん、合流するのです」

「ああ、頼むぜ電」

 

 磯風と共に空間を冷やし続けた電も、敵の『燃焼』がいなくなり、白雲による『凍結』の舞が軌道に乗ったことで、もうお役御免だと深雪の元に戻ってきた。

 手を繋ぐことで、この煙幕は更に力を増す。拡張速度から効果まで、最大限に活かすのがこの2人のタッグ。やろうと思えば空間そのものを煙幕で埋めてしまうことも出来るだろう。

 

「もうここで終わらせるのです。ここから生かして帰しません」

「ああ、もう逃げられるのは御免だしな。いい加減諦めろ」

 

 余裕があるわけではないが、阿手にそう突きつけながら、消し飛ばす砲撃を放ち続けた。電がサポートに入ったことにより、その出力は更に上昇。掠めるだけで抉るどころか、掠めただけで吹き飛ばすほどのとんでもない火力になっていた。

 深雪だけでなく電も見捨て、ここにいる全員から怒りを買い、それでもなお反省の色もなければまだ見下しているような目をしている辺り、もう阿手は色々と取り返しがついていないのだろう。洒落にならない程に壊れている。いや、壊れる以前の問題か。

 

「私はまだ負けていませんよ」

「そうだな。でも、勝ててもいねぇよ」

 

 そう言う阿手は、これまで猛威を振るい続けていた『ダメコン』の阿手の1人。他の自分を守りながら、神風の攻撃すら通らなかった厄介な存在。

 だが、否定の煙幕が撒き散らされたことにより、それもかなり弱体化している。阿手のやり方を否定しているのだから、特に厄介なこの力に対して強く発揮するのは当然のこと。

 

「深雪、私の刀に煙幕乗せられる?」

 

 そんな阿手の発言に苛立ちを覚えたか、神風が深雪に刀を突き出す。ここに煙幕の効果を乗せてくれと、阿手を否定する刃を作りたいと申し出た。

 それに乗らない深雪ではない。いい考えだと、電と共に煙幕を刃にコーティングした。煙なのに、刀に纏わりついて離れない。そしてそこにも当然ながら、阿手を否定する願いが込められている。

 

「これでいいか」

「ええ、充分。ひとまずこれで」

 

 煙幕の刃を軽く振るった瞬間、先程宣った『ダメコン』の阿手の首が飛んだ。その曲解が無力化された今、一切ダメージを負わないという性質が少しでも弱まれば、神風の一刀で即座に始末する。そのまま喋られても鬱陶しいだけなので、飛ばした頭は縦にも斬られ、言葉を封じる。

 刀自体が完全否定をするため、この傷は自己修復が簡単に出来ない。そして、相変わらずその傷口から血が流れることはなかった。

 

「これだから逆に刻みやすいわ。でも、ホンモノは何処に隠れてるのかしらね」

「調査隊が調べに向かってる。あたし達はコイツらを全部片付けるでいいと思うぜ」

「そうね。全部を否定してやらないといけないわ」

 

 深雪がこうしている間にも、複数の阿手達はその悉くを否定され、次から次へと始末されていく。危険視されていた『発電』や『磁力』は徹底的に無力化されており、自己修復もままならない状況に追い込んだところで、鈴谷が放電で黒焦げにしてしまっている。そこに白雲の『凍結』が加われば、完全に再起不能。梅が『解体』までしているため、その身体が元に戻ることすらない。

 

「あと何人だ」

「ぱっと見で残り5人なのです。でも、多分時間の問題なのです」

 

 30人いた阿手も、あれよあれよと片手で数えられる程にまで減っていた。その亡骸は放置されているが、もう自己修復も出来ずに再起不能。阿手もここまで来ると焦りの色が強くなる。

 

「……やってくれましたね特異点、だが……私にはまだ、切り札がある」

 

 そう言いながら、阿手は懐から何かを取り出した。それはどう見てもスイッチみたいなモノ。

 

「貴女達は既に知っていますね。この空間には、島を全て破壊出来る程の爆弾が仕掛けてある。これはその起爆スイッチです」

「おう、で?」

「これを使えば貴女達を皆殺しに出来るということです。ここまで来たら、私ももう逃げようがない。なら、私もここで貴女と死にましょう。それで特異点に一矢報いれるのならばそれでいい」

 

 スイッチを掲げながら話す阿手に、深雪達に緊張が走る──ことはなかった。大きく溜息を吐いて、阿手に向けて非難の目を向ける。

 深雪達の目に、阿手は何処か苛立ちを持ったような表情を見せる。何故ここまでしているのに動揺すらしないのだと。

 

「……お前、本当に無能なんだな」

 

 深雪が戦うことすら止めて、真正面から侮辱。全員が同意するように頷くと、阿手は眉を顰める。

 

「わからないのです? 一緒に死ねばいいって思うなら、そんなことせずスイッチを押すのです。それを脅しの材料にして、まだ逃れようとしているのが見え見えなのです」

「まだ逆転の目があるって思ってるから、そうやって時間を稼いでるのか? それとも、まだあたし達のことをなめ腐ってるのか? そうやりゃビビって攻撃が出来なくなるって思ってんのか? お前、ただただ死にたくないんだろ。そんなこと言いながらよ」

「それに……電達は貴女を絶対に否定するのです。そんなことはさせません。貴女が本当に自暴自棄になったとしても」

 

 深雪と電は上に向けて手を掲げる。すると、猛烈な勢いで煙幕が溢れ出し、膨張を続ける。

 

「おら、時間あるぞ。スイッチ押さねぇのか。あたし達を巻き込んで自殺するんじゃねぇのかよ」

「……本当に押しますよ」

「おう、早く押せよ。ビビってるのはテメェだろうが。無能でビビりの軟弱モンが。これまでデカい声出してれば全員従ってくれたんだろうな。実力もないのに実力行使しかしてこなかったから、いざって時に動けないんだろうな。逃げ足だけは速いのに、それ以外がトロいんじゃ意味無ぇよ。こんな奴が第二次ン時に提督やってたんだろ。お前の部下にされた奴らが可哀想だぜ。自分ばっか大切にしてるような奴のために、命差し出すことになったんだもんな」

 

 怒涛のように溢れ出る罵り。阿手の神経を逆撫でして、それでもスイッチを押さないのだから、やはり自分の命が一番可愛いのだろう。いざ死ぬとなったらコレである。

 これまでさんざん『量産』した自分が死んできているのに、ここで爆弾を爆発させたら、ただ1人も生き残らないのだから、覚悟が必要になる。阿手にはその覚悟がカケラも無かった。

 

「何故押さないのです? 結局のところ、覚悟がないからそうなるのです。他人ばかりに責任を押し付けて、自分は安全なところで見ているだけで、やっと矢面に立ったらコレなのです。この場でも電達の仲間にやらせようとして、自分はコソコソ隠れて。余計なことばかりするから勝てないのです」

 

 電すらもここまで罵倒する。やることをやっておいて、いざ目の前に立つとコレ。電も呆れてオブラートに包むことすらやめてしまっている。

 

「……まぁいい。どうせお前は押せねぇよ。そもそも、もう押したところで意味がねぇ」

 

 2人の煙幕は膨らみ続けて天井まで届いていた。天井に設置された爆弾を覆い尽くす程に。

 阿手の全てを否定する煙幕は、阿手の切り札であろう爆弾に染み込んでいくと、そのシステムを完全に掌握し、無力化していく。構造は知らなくても、特異点には意味がない。ただ単純に、『動くな』と考えるだけで、それはもう動かない。何故なら、阿手の目論見だから、

 

「もういいぞ、それは何の価値も無ぇ、ただの玩具だ。テメェには脅しの材料すら無くなったんだよ」

「誰も傷つけさせません。傷つくのは、貴女だけで結構なのです。次は何をしますか。『舵』も効きません。忌雷も効きません。攻撃はもっと効きません。貴女のやることなすこと、全部、全部否定するのです」

 

 この期に及んでスイッチを押す阿手。しかし、爆弾はやはり爆発しない。何度押しても、何も反応しない。それを地面に叩きつけるように投げ捨てる阿手は、もう本当に無様としか言いようが無かった。

 

「実力だけなら、テメェの部下の方が何倍も強かったぞ。テメェが一番弱ぇ。つーか、小細工無しで来られた方がキツかった。本当に藪蛇ババアだな。余計なことをすればするほど雑魚になりやがる。無い頭捻った結果がこのザマだ。長々ちょっかいかけてきやがってよ」

「面白みも何も無い、ただただ苦しいだけの仕事だったのです。後始末もしたくないと思えるくらいに」

 

 阿手は完全に手詰まりである。これ以上出来ることはないはずだ。目の前の阿手がニセモノだったとしても、少なくとも今ここにいる阿手はどの個体であろうが勝ち目がない。

 

「交渉をしましょう」

 

 言うに事欠いてそれかと、呆れはさらに強くなる。

 

「必要ない。死ね」

 

 もう声を聞くだけでもイラつくと、深雪がその顔面に消し飛ばす砲撃を撃ち込んだ。

 

 

 

 

 残りの阿手も始末されており、これで空間に攻め込んできた全ての阿手が全滅した。しかし、その全ての個体から血が出ることは無かった。やはり、ニセモノのみがここに来ていると考えていいだろう。

 水爆も処理した今、ただ逃がさないように追い詰めるのみである。

 

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