特異点の力を発揮することで、空間内に現れた阿手は全滅させることに成功した。しかし、その全てから血が出なかったことから、生体艤装を使ったニセモノであろうと推測。梅が『解体』出来ていることからも、やはりこの場にいた者達は全員無機物なのだろうと察する事が出来た。
ならばホンモノは何処にいるのか。現在調査隊が先行しているが、ここまで来てまだ見つからないというのは、流石に逃げに特化しすぎではないかと苛立ちが出てきてしまうというもの。
「まさか、最初からここにいねぇってことはないよな」
「それは大丈夫だと思うけど」
深雪の考えた最悪の事態は、神風が断言出来ないとはいえ否定してくれている。
それが一番起きてほしくない事態。乗り込んだ時点で阿手は撤退し終わっていたというのが考えたくないところ。だが、それならもっと早く水爆を爆発させていた。その辺りの信頼は厚い。自分が巻き込まれる状態では絶対にやらないと確信を持てる。
なら何処に隠れているかになるわけだが、一番困るのが『迷彩』で逃げられていること。今ならそれ自体を無効化出来るため、特異点の煙幕さえあれば見えるようになるだろう。だが、その反応も今は見えない。常に注意を張り巡らしている。
「だとすりゃあ、響と白雪が向かってる、ニセモノ達が出てきた通路の向こう側にまだ隠れてんのか……?」
「それが一番妥当でしょ。こうなったらそれくらいしか選択肢無いわね」
「無駄にデカい施設造りやがって……」
もしかしたら、ここまでに通過した場所に実は隠れ潜んでいたなんてことだってあり得る。それこそ、
「私は正直、離島棲姫だって疑ってるわよ」
「アイツを……?」
「だって、
深雪は神風の言葉にショックを受けそうになるが、言われてみれば確かにそうだと一旦心を落ち着かせる。これまでの深雪には少し理解出来ない性格も実は演技だったとなると、あまりにも演技派だとは思うが。
もし離島棲姫が阿手だったとすれば、いろいろと辻褄が合うこともある。しかし、何度か普通に深雪達を救うような言動もしているため、そこから考えると話は変わる。どうせやるなら足手纏い役をやるだろう。となると、やはり離島棲姫と阿手を紐付けるのは少し難しいか。
「ただね……こうやって落ち着いたから聞けるようになるけど、フレッチャーにも聞いておかないといけないことあるのよ」
「え、私、ですか?」
「貴女の中にある米駆逐棲姫の記憶よ。あの子が確か、私達の中では初めて阿手の名前を出したのよね。その時の阿手の姿を知ってると思うんだけれど」
フレッチャーはあっと声をあげる。自分の中にある米駆逐棲姫の記憶、
「私の中にある記憶では……はい、もうあの姿だったかと思います」
「徹底してるのか、それとも本当にあの姿なのか。少なくとも阿手は、集積地の姿を基本としているのは間違いないのね。今まで矢面に立たせていたのは常にニセモノなんじゃないかと思ってるんだけど」
「わかりません……高次と言いながらも、見ただけで相手がホンモノかニセモノか判断することなんて出来ませんから……。言われたことを鵜呑みにすることしか出来ませんでしたし……」
フレッチャー、というより米駆逐棲姫は直に阿手に会っているが、やはりそれも集積地棲姫改の姿。常にニセモノでのみ仲間達とも意思の疎通を図っているというならば、余程警戒しているのか、もしくは人前に出さないような姿なのか。
「……まずは探すしかないだろうな。電、一回煙幕を薄く広げよう」
「なのです。何かあったらすぐにわかるようにするのです」
深雪と電は、手を繋いで煙幕を拡げていく。先程のような攻撃的なそれではなく、本当に煙として床を這わせるように。触れたらわかる煙幕はすぐに拡がっていき、空間の床を埋め尽くす。ここにいる者ある物は手に取るようにわかるようになり、動いたら敏感に反応出来るようにも仕込んである。
その煙幕は空間だけでなく響と白雪が向かった通路の方にも伸びていく。何があるかはわからずとも、何かあることはわかるだろう。それが動くモノかそうでないかも。
「……ん、多分これは響と白雪だな。2人揃って動いてる反応を見つけた」
「なのです。足並みは揃っているけど、探っているような動きなのです」
「貴女達がいると、電探も要らないわね……」
煙幕が調査隊の動きを察知した。通路からかなり進み、開けられそうな扉は全て開いているようである。不意打ちを喰らう可能性もあるが、『迷彩』の加護を与えられているため、多少は脅威を回避は出来るだろう。しかし、『電探』の曲解の前には無力であるため、当然ながら警戒はしている。
阿手はこれまでの情報から、他者の曲解を手元に集め、それを別の者に与えることも可能である。言うなれば、全ての曲解を全て1人で使えると考えてもいい。どういうカタチであれ、これまでの脅威を団体ではなく個人からやられると思うと、それはそれで非常に面倒臭い。
「あたし達も向かうか。何かあったらヤバい」
「2人だけだと怖いことがあるかもなのです」
ここからはさらに人数を分ける。通路がそこまで広くないこと、向かった後に別の通路から敵が現れる可能性も考え、調査隊が向かった道には少数精鋭、深雪と電、フレッチャー、そして神風が進む。なるべく少なくして、後ろを固める作戦。
「最悪、ここまで誘き出しましょ。その場でやれるとは思ってないから」
「だな。動いてくれるかはわからねぇけどな」
最後の戦いだと思っていた戦いは前哨戦に格下げされ、ここからが本当に最後の戦いとなる。
深雪達4人は、煙幕を拡げながら通路を進む。通路はそこまで狭いというわけではないが、突然何かされる可能性もなくはないため、なるべく固まって行動を続ける。
神風は常に刀に手を添え、フレッチャーもいつでも撃てるように周囲を警戒。深雪と電は煙幕によってさらに広い範囲を見ている。
「静かなモンだけど、何処かに潜んでるかもしれねぇんだよな」
「今も見られてるかもしれないのです」
「本当なら天井をぶち壊しながら進んでるくらいだ」
深雪は海賊船の時のことを思い出していた。あの最後の戦いの空間では、天井に幾つかの隠しカメラがあり、最後は海賊船が破壊される前に全て破壊してきた。
今回のこの施設にも、同じように隠しカメラは点在していると考えられる。巧妙に隠されているだろうが。
「合間合間に扉が開かれていますね」
「白雪が開いてるんでしょう。中には何もないようだけれど」
通路の途中、扉が開いた部屋が見える。中は倉庫のようになっており、今はもぬけの殻。元々何かが入っていたかもしれないが、今はその痕跡は何一つとしてない。
あるとしたら、集めた深海棲艦の艤装などだろうか。『量産』の材料にしたというのならば、全てが失われているのは納得が出来る。
「お、やっぱりいたな。響、白雪、合流するぞ」
そして、先行していた調査隊と合流。白雪がちょちょいのちょいをしている最中であり、その扉が開いたところでやはり中には何も無い。
「早かったね。私達は全部の部屋を調べていたから遅くなってしまった」
「ああ、あの後さっさと終わらした。最後までクソだったぜ」
「でしょうね。でも、ニセモノだったでしょう」
「なのです。全員が生体艤装みたいな感じだったのです」
部屋の調査もそこそこに、話しながら次の場所へと向かう。注意深く観察し、通路をメモしながら、何処に繋がっているかも計算して。
「……ん?」
そう探していると、その通路の先に深海棲艦の艦載機が飛んでいた。それは深雪達の姿を捉えると、攻撃することもなく、じっと見てきていた。
「なんだ、ありゃ。阿手の艦載機……ってわけじゃあ、ないよな」
「……深雪ちゃん、なんかあの艦載機、見たことが……」
「電もか。全然ピンと来ねぇ……何処で見たよアレ……」
考えているうちに、その艦載機はふいっと別の通路に飛んでいく。それはまるで、ついてこいと言わんばかりである。
「……罠か?」
「わからないわね。でも、行かない理由は無いかしらね」
「だよな。追うぞ」
艦載機を追う一行。響はその艦載機が向かっている方向から、まさかと感じていた。予想している阿手の居場所はこちらではと思っていた方向だからだ。
「……案内してくれているようだね。誰だか知らないけど」
「ありがてぇけど、マジで誰だよ。会えたら礼くらいは言わねぇとな」
そして、艦載機が行き着いた先は、何も無い行き止まりのように見えた。それを見て、白雪はすぐに隠し扉の存在に気付く。
「開けますね。これなら、ハッキング出来ます」
タブレットを操作してシステムをハッキング。扉が重そうに開き始めた。白雪がいなければ、ここは砲撃で無理矢理破壊するしかなかったが、それをしたら戦闘もしづらかったかもしれない。
「……ここまで来ますか……」
その奥にいたのは、ホンモノの阿手。しかし──
「……マジか。それがテメェの、阿手の本当の姿かよ」
「表に出ることは、出来ないですね。そんな姿は……」
その姿に、一同は驚くことしか出来なかった。何故なら、
「PT小鬼群……かよ」
あまりにも貧弱な姿だったのだから。