施設通路を調査し、
「……マジか。それがテメェの、阿手の本当の姿かよ」
「表に出ることは、出来ないですね。そんな姿は……」
「PT小鬼群……かよ」
あまりにも貧弱な姿となった阿手であった。
これまで現れた敵、それこそ最初に現れたカテゴリーY達ですら、何らかの姫級だった。徹底して艦娘よりも高い戦闘力と身体能力を持つ個体ばかりだった。
上陸した際に小鬼群も現れているため、そういうカタチのカテゴリーYがあるというのも知っている。出来損ないよりはマシかという程度で、しかし自分の力で考えることが出来るのだから、高次の存在と言われればそうかもしれないと思えるが、実際姫級との実力差は考えるまでも無い。
その小鬼群が、阿手の正体。戦う力が無いとは言わないが、少なくともこれまでの敵と比べると、やはりどうしても
「……侮るでしょうね。私がこの姿であることに」
「侮らねぇよ。テメェがどんな姿でも」
「今までやってきたことからして、大きさとか関係ないのです」
阿手の姿が小さなモノであっても、やることは変わらない。ここまで追い詰めて、見た目がコレだから見逃すなんてことも絶対にしない。それに、ここまで他人を利用し、自分勝手に振る舞ってきた者を許すことは出来ない。
「あの集積地は、テメェの影武者ってところか」
「ええ、その通りです。私がこの姿に
阿手が顎で視線を向けさせると、そこには抜け殻のようになり座っている集積地棲姫改の姿があった。生気を感じない、それこそ人形のような姿。ついさっきまで戦っていた集積地棲姫改とはまるで違う。
「私の艤装ですよ」
「……趣味が悪いな」
「理解してもらおうとは思っていませんから」
この状況に置かれても、まだ余裕を持っているような振る舞い方。
実際、集積地棲姫改は阿手の艤装扱い、生体艤装である。小鬼群と化した阿手が、自分のサイズを誤魔化すために造り上げた兵装とも言える。『工廠』の力があれば、それくらいも可能なのだろう。
「さっきまで私達と戦っていたのは、これを『量産』していたってわけ?」
「ええ、私の人形を資源の限り増やし続けました。そこに高次の力を与え、私と同等の意思を持たせた。人形かもしれませんが、皆、私の現し身ですよ。全てを始末してくれたようですが」
抜け殻の集積地棲姫改は、『量産』のためにそこに置かれているというのもわかる。特異点Wの時の量産空母のように、自らを『量産』することが出来ないようである。集積地棲姫改が艤装扱いされているから、それを資源を使って増やしたにすぎない。
ただの『量産』だけでなく、生体艤装を『工廠』か『船渠』を使って建造し、そこに『量産』を使って集積地棲姫改の姿をコピー、更に元元帥である原とほぼ同等な『修繕』を乗せ、更に更に個別に厄介な力を乗せ、そして最後に自分の意思を分け与える。
最後の一手は洗脳の一種かとは思われるが、コレまでにない。意思の『量産』とも言えるが、それは単純に洗脳と同じと言えよう。
「……テメェの現し身っていう集積地が、水爆を爆発させようとしやがったぞ。テメェがここにいるのにだ。それでもよかったのか?」
「よくはありませんね。ただし、私の意思を得たことでその選択をしたということは、私がそこにいたら同じ選択をしたんじゃないですか?」
「テメェにそんな覚悟は無ぇよ。結局そいつも押せなかったしな。脅しにしか使えねぇ。結局、その程度なんだよテメェは」
阿手は面と向かって罵倒されると流石に眉を顰める。
「人様に迷惑をかけまくって、自分は安全な場所で逃げ回って、その上自分で戦う覚悟すらねぇ。人形遊びと、洗脳した犠牲者ばかりに自分の責任を押し付けてな。上に立ちたいなら、自分が前に立てよ。人形にやらせるんじゃなくてよ」
「自分の手を汚さずに戦って、それで勝てれば自分の手柄、それで負ければ実行犯に罪をなすり付けるんですよね。狡いですし、深雪ちゃんのいう通り覚悟も何もかもが足りないのです。それで司令官をやっていたんですよね」
「話にならねぇよ。だからそんなちっちぇえ姿になるんだ。お似合いじゃねぇか、テメェの小ささに。心の小ささが外見に出たな」
深雪と電の罵倒を受けて、阿手はこれ見よがしに溜息を吐く。
「それでも私は深海戦争を人類の勝利に導いた。勝てば官軍、つまり私が正しいんですよ」
「人を犠牲にしてかよ」
「最終的な勝利が人類の未来に繋がるんですから。命を落とした者達も、平和に貢献出来てさぞ喜んでいることでしょう」
「……それを本気で言ってるんだよな。何十年と生きてきた、いい大人が。あたし達よりも一般常識知っててもおかしくないような奴が」
今度は深雪が溜息を吐く番だった。
「もういい。もう聞きたくねぇ。どうしてそこまで自分を正当化出来るのか、本当に理解が出来ねぇ」
「貴女達の頭が足りないから、理解出来ないのでしょう」
「この期に及んで、よくまぁそんなことが言えるな。追い詰められた時に交渉しようとか抜かしてきた人格の主のくせによ」
深雪は阿手に主砲を向ける。相手がどんな存在であろうと関係ない。始末をしなくてはいけない相手であることは間違いないのだ。
だが、当然侮ってなんていない。主砲に阿手を完全否定する願いを乗せているだけでなく、どんな力を使われても反応出来るように慎重に。
相手は小鬼群、回避能力があらゆる深海棲艦の中でもトップクラス。逃げ足の速い阿手にはもってこいなスペック。目の前で砲撃を放ったところで回避される可能性は高いと言える。戦闘の素人で、いつもふんぞり返って巫山戯た指示ばかりを飛ばす提督の器でもない者であっても、そのスペックがあるのなら、回避に特化していてもおかしくない。
「撃てるモノなら撃ってみればいい。当然、私も抵抗させてもらいますが」
「好きにしやがれ。どうあっても、今ここで、テメェを始末する」
深雪の消し飛ばす否定の砲撃。部屋はそこまで広くないため、その砲撃は部屋そのものを破壊しかねない程の威力となっている。
しかし、阿手はそれを完璧に避けた。『ジャミング』で逸らしたとかもなく、『ダメコン』や『装甲』で耐えたとかもなく、純粋な自分のスペックのみで。
やはり小鬼群と化したことで、回避能力特化になっている。しかし致命的な一撃を与えることが出来ないため、深雪に向けての反撃はない。ただ避けただけである。
阿手が他者を使っていたのは、これも理由である。自分で出来る攻撃が極端に少ない。自分の手を汚さないのではなく、
「何処を狙っているのです」
「煽らないと動けねぇのかテメェ」
部屋が粉々になりつつも、阿手はその隙間を縫うように飛び回る。追い詰められてはいるが、小鬼群の力を十全に使い、生き延びることに特化している。
「そのクソババアを捕まえてくれ!」
「捕まりませんよ、私は。貴女達ごときに」
「ごときに?」
阿手が避けた先。そこに先んじて控えていたのは、フレッチャーだった。主砲でもなんでもなく、怒りの篭った拳を、阿手の顔面に叩き込んでいた。
「っ!?」
「頑丈ですね、先生。ですが、私達ごときに負けるんですよ、貴女は」
フレッチャーの目は据わっていた。これまでの恨みが溢れ出しており、そこに丹陽の思いも乗っているため、その拳は血が滲みそうな程に強く強く握られている。
主砲で狙えば、他の仲間達に被害が出るかもしれない。深雪の一発目はいいとしても、これ以上の砲撃は控えた方がいい。何より、その拳を叩き込みたい。その気持ちで、フレッチャーは拳を振るっていた。
「私は──いえ、私の中にある彼女の記憶は、信頼していた貴女に裏切られたという気持ちでいっぱいですよ。本来歩ける人生を破壊されて、貴女の思い通りにされて、そして役に立たなくなったら責任を押し付けて捨てる……人として腐っていることはよくわかりました。昔から何も変わらない。初風さんを自爆に追い込んだのも、罪と思っていないでしょうから」
フレッチャーが殴り掛かろうとし、阿手はそれを避けようと移動を始める。しかし、次の瞬間にはフレッチャーの拳が阿手に入っていた。
「なっ、何故避けられない……っ」
「私だけでは無理でしょう。特異点の力を借り、そして……私は丹陽……
顔面に叩き込んだ拳を思い切り振り、阿手を壁に叩きつける。阿手はおそらく『装甲』なども持っているため、それだけやってもノーダメージだろう。しかし、避けられるはずの攻撃が当たることが、精神的にダメージになる。
自分は誰よりも上であるという小さなゲスのプライドが、ただそれだけで傷つく。
「お姉様からいただいたのは、第一世代の技術だけではありません。勿論、お姉様の技術は素晴らしい。私では辿り着けない極地を教えてくれた。こうして拳を振るえるのは、お姉様のおかげでしょう。ですが……私はもう一つ与えられた」
フレッチャーの瞳が輝きを増したように見えた。そして、足掻いて逃げようとする阿手に、また拳が叩き込まれる。
「っく……私の行動が、予測されている……!?」
「お姉様の本当の力、私は断片的にしか使えませんが……視えているんですよ。その先々が!」
丹陽の、雪風の本当の力。曲解ではない、純粋な力。第一世代だからこそ持っていてもおかしくない、本当の高次の力。
それは、『未来視』である。