丹陽から借り受けたフレッチャーの『未来視』により追い詰め、仲間達のサポートを受け、響のとっておきであるトリモチ爆弾に引っかかった阿手。小さなPT小鬼群の姿をしているため、捕らわれたら最後、もう抜け出すことは出来ない。
そこで負けを認めたような発言をしたが、フレッチャーからしたら、その言い方はまだ負けを認めていない言い方。いい加減にしてほしいと、主砲を阿手に突きつけた。
「……待ちなさい。本当に私を殺すつもりですか?」
この期に及んでまだ何か言うつもりかと一同は呆れる。何故ここまでして殺されないと思うのか。自分のことを棚に上げて、人を殺すなんてと非難しようとでも言うのか。
そんなことを言われても何も変わらない。阿手はここで始末する。それは決定事項。ここで命乞いでもするのならまだしも、未だに上から目線を続けるのは逆に感心した。
「命乞いをするならもっと下手に出ろよ。なんでテメェは常に上から目線なんだ。自分の立場わかってんのか」
「死にたくないなら、ごめんなさいの1つくらい言えないのですか……どうしてそこまで歪んでいるのです……」
深雪も電も素直な感想を口にする。ここまでの危機に陥り、もう死ぬしかないという状況で、未だ自分が正義であり、相手に非があると言い切るような態度は、口を噤んでいられなかった。
「私を殺せば、貴女達も死ぬことになるでしょう。それでもいいのですか」
「どういうことだよ」
「私が死んだ時、この施設に仕掛けた爆弾が全て爆発するように設定していますから」
その言葉に、深雪達は顔を顰める。強かとは言ってやりたくなく、しかし狡いとも言いにくい。とにかく、面倒なことばかりやってくる。
それがあるから自分は殺されない、むしろ脅しの材料として使い、あくまでも自分が有利である状況に持っていこうとする。
戦場で水爆が爆発しないように否定したため、スイッチで爆発はしなくはなっているだろう。だが、さらに違う手段で起爆出来るようにされているのなら、完全否定から外れているかもしれない。
深雪と電は、あくまであのスイッチによる起爆を否定したに過ぎず、違う起爆方法があるのならば、それは実行出来る可能性はある。そもそも、起爆は否定しても、水爆そのものはそこにそのまま鎮座しているのだ。何かしらの干渉が出来れば、再び爆発させることも不可能ではない。
その手段を阿手が持っている。そして、その手段が阿手の命と直結している。スイッチが無効化された時のために、第二、第三の手段は作っていてもおかしくはないが、そこまでして生き延びたいかと驚きを隠せない。
「それでもいいなら、殺せばいい。だが、
そして案の定、余計なことを言う。この物言いは、ここにいる者達からの反論を呼び起こすには充分すぎた。
「テメェ何言ってんだ。誰のせいだって?」
「全て貴女達のせいですよ。貴女達が私を殺せば、そのせいで皆死ぬ」
「……じゃあこちらからも質問させてもらうぞ。よかったな、その間は死なずに済むぜ」
トリモチ爆弾で捕えられている阿手を冷ややかな目で見下し、深雪は質問をする。
「ここの爆弾を作ったのは何処の何奴だ」
「私の部下ですね。それが何か?」
「ここに仕掛けようと考えたのは」
「……私の部下ですね。貴女達を始末するために」
「テメェの命と起爆を直結させることを考えたのは」
「……」
質問の意図が見えてきたようで、阿手の口が動かなくなってきた。
「いつものように話せよ。上から目線で。自分のやったことは正義なんだろ。ほら、答えろ。テメェの命と、起爆を、直結させることを考えたのは、何処の何奴だ」
「……私の部下ですね」
「それが本当かは知らねぇけどな。で、それをやると決断して、わざわざそれを自分の身体に埋め込んだのは何処の何奴だ」
視線だけで殺せそうなくらいに睨みつける。ここまで来ると、その怒りは非常に静かなモノだった。
「……」
「おい、ドヤ顔はどうしたよ。テメェ、自分のやることが正しいと思ってんだろ。なら言うのを躊躇うなよ。誰が、わざわざ命と直結させたんだ。そういう案を出したのはテメェの部下かもしれねぇ。あの場所に置いたのも、爆弾自体を作ったのもテメェの部下かもしれねぇ。でも、最後の起爆はテメェの意志でテメェの
阿手はここから言葉を紡げなくなった。追い詰められていると嫌でも自覚出来たのだろう。何を話しても結末は見えている。
「テメェは誰かに責任を押し付けないと生きていけないクソだ。そのくせ、いいことがあったら全部自分の手柄なんだろうな。見なくてもわかっちまう。そんなテメェは今、自分で自分の首を絞めたぞ」
「爆弾を起爆させてやるっていう気持ちが、貴女にはあるということですよね。それは誰のせいでもない、貴女のせいなのです。電達のせいじゃない。全部貴女がそんなことをしなければいいだけの話なのです」
「しかし引き金を引くのは貴女達でしょう」
「引かせようとしてるのはテメェだろうが。爆弾持ってるから死にたくなかったら言う通りにしろって脅してるんだよな、テメェは」
何を言っても、阿手は自分の言葉で不利になる。これまではそれが罷り通ってきたのかもしれないが、もうその手段が押し通せるような段階に無い。
「爆弾を作ることを許可したのはテメェだろ」
「爆弾をあの場所に置くことを許可したのも貴女ですよね」
「全部テメェのせいじゃねぇか。テメェは部下の独断でこんなことやらせるわけがねぇ。自分に危険な及ぶからな」
「なら、何もかもが貴女のせいなのです。電達のせいじゃない」
いよいよ阿手は言い逃れが出来なくなった。全てを特異点のせいにしてきた
「他には誰のせいにするよ。出洲か? アイツはテメェのようなことはしねぇな。断言してやる」
「まだ一度しか相対していませんが、あの人は敵でも、貴女とは絶対に違うと言い切れるのです」
「……何を根拠に」
「テメェと違って、嫌がる奴を無理矢理改造とかしねぇらしいからな。それに、出洲自体がテメェのことをもう見限ってんじゃねぇのか?」
阿手はだんまりである。
「もういいな。こうなるのは全部テメェのせい、自業自得だ。でも、本当に命と起爆を直結させられてたら堪ったモンじゃねぇ。だから、こっちはこっちでいろいろやらせてもらうぜ」
深雪がそういうと、特機を阿手に差し向けた。体内を確認するのなら、これ以上適したモノはない。
それを見て阿手は明らかに顔を顰めた。特機の見た目は明らかに忌雷。自分が使っていた、敵を味方に変える洗脳兵器。それが逆に自分に襲いかかってくる。
「それは……我々の」
「おう、悪いが使わせてもらってるぜ。テメェがコイツらを開発しなければ、テメェもこんなカタチで調べられることはなかったんじゃねぇか? じゃあ、こうなってるのもテメェのせいだよな。テメェの理論で言えば」
特機が阿手の小さな身体に入り込む、特機自体も嫌そうにしていたが、今この場を切り抜けるためには、自分達の仕事が一番活躍するのだと自覚して、阿手の体内を隅々まで調べ尽くす。だが、当然カテゴリーWに変えてやるようなことはしない。あくまでもただ見るだけ。
そして、それを見つけ出した。
「くっ……そこは……」
特機が何処にいるかもわかっているのだろう。触れられたくないところ、起爆装置の場所にいると。
「解析して、そいつから引っ剥がせ」
「そんなことが出来るわけ……ぐっっ」
阿手は忌雷としてのスペックはわかっていても、特機としてのスペックは理解していないだろう。『舵』を破壊した時に体内に残された針も抜き出すことが出来、さらに寄生している忌雷ごとどうにか出来る特機には、体内に仕込まれた装置をどうにかするのは非常に容易である。
スルスルと特機は阿手の体内から抜け出て、その触手には小さな装置が握られていた。心音を検知し、止まったら起爆するという仕組み。そして、この装置そのものを破壊しても起爆の合図を出す程の徹底ぶり。
そのため、特機が心音の検知を自らの脈動で誤魔化し、阿手から離れていても阿手は生きていると誤認させる。こうしている間はもう爆発もしないだろう。
「アイツの中に、まだ他に何かあるとか無かったか?」
特機は深雪に頷くように蠢いた。触手で敬礼するかのようなポーズも取っている。
「だ、そうだ。ならテメェの命に用が無くなったな」
「この……私達の兵器を裏切らせるだなんて……」
「裏切り、か。そいつは悪かったな。そもそもコイツらはあたしの仲間を裏切らせるモンだろうが」
特機にしばらく頼むと心音検知の装置を任せ、これでもう本当に何も無いことを確認。阿手には何も仕掛けられていない。あとはところどころ破壊したこの部屋ではあるのだが、そこは今ここにいるハッカーが調査済み。
「部屋にももう何もありません。ありそうなモノは、全てアクセスして破壊しました」
「流石だぜ白雪。あたしにはよくわからねぇけど」
「こういう技術はこういう時に使わないと。かなり強固なプロテクトがありましたが、突破させてもらいました。もう本当に何も残されていません」
本格的に絶体絶命となった阿手は、ついに自らの死の匂いを感じ取った。もうダメだと、確実に理解した。
「わ、わかりました。確かにもう私には何も残されていない。ならば、貴女達の敵である出洲君を斃すために協力しませんか。私も彼とはもう敵対している身、役に立つ情報なども」
「往生際が悪いですね、先生。もう、貴女からは何もいらないと言っているのです」
フレッチャーの向けた主砲が、阿手にさらに近付く。トリモチのせいで避けられない。反撃も許されない。特異点の命を天秤にかける策も全て解除された。そして、仲間が助けに来てくれることもない。
阿手の目には、遠くで出洲の艦載機がこちらを見ているのを確認出来た。後ろから撃つことで、阿手を救うことも出来ただろう。だが、そんなことはしない。
そもそも、その艦載機がここまで案内したのだ。阿手はもう、誰からも見捨てられた。
「し、死にたくない……」
「今更命乞いをしてもダメです。私が、丹陽お姉様と、米駆逐棲姫さんと、皆さんの思いを背負い、貴女に引導を渡します」
阿手の顔が恐怖に染まった。だが、誰も同情はしなかった。
そして、砲撃は放たれる。阿手の頭は、それこそ爆弾が爆発したかのように弾け飛び、もう何も言うことは無くなった。