追い詰められた阿手は、自らの命と水爆が直結していると脅しにかかったが、特機の力によってそれを無効化。さらに白雪がハッキングを仕掛け、悪足掻き出来そうな要素を全て破壊した。それでも懲りずにに出洲の情報を差し出すと、死から逃がれようとしたが、深雪達がそれを許すわけがない。
もう後が無くなった阿手は、最後は死にたくないと本音を漏らしたが、それで止められるわけがなかった。これまでの行いからして、結末は決められたようなモノ。
そして、フレッチャーの砲撃によって、阿手の頭は吹き飛び、絶命した。自己修復していく様子もなく、トリモチ爆弾に捕えられた身体も、もうビクともしなかった。
「……これで、終わりでしょうか」
数々の思いを背負ったフレッチャーは、阿手の亡骸を見てもまだ警戒を解かない。これまでのことを考えると、ここからでもまだ逃げているということが考えられてしまう。『迷彩』や『隠遁』など、攻めるより逃げることに特化した曲解のことを考えると、まだまだ緊張は残ったまま。
「煙幕は出してる。今のところ、何も見つかってない」
「なのです。ここにいるみんなの反応以外は見えないのです」
特異点の煙幕により一帯は調査しているが、これまでに見てきた反応以外は発見されていない。息を潜めて隠れているとしても、煙幕はどのような隙間にだって潜り込む。この施設内にいるのならば、確実にその居場所を突き止めるだろう。
調査隊の響と白雪は、念のためまだ調査していない部屋が無いかを探り始めている。この最後の部屋に来る前に案内があったため、途中の過程を飛ばしているところもあるため、念には念を入れて。
「そうだ、あの艦載機、結局は誰のなんだ?」
「……わからないわね……深海棲艦の艦載機が使える子は何人かいるけど、ここを的確に案内出来る子なんていたかしら……」
ここで最後に謎が残る。阿手の行方を探っている最中に道案内をしてくれた艦載機が誰のモノか。うみどりの仲間達のモノとは正直思えず、ならば誰なのかと言われればピンと来ない。深雪と電には何処かで見たような感覚があったが、それが何かと言われるとすぐに答えが出なかった。
その艦載機は、この部屋の外に漂っていた。じっと部屋の中を見るように、一点──阿手の亡骸を見つめていた。
「お、いたいた。声、聞こえてっか?」
艦載機に話しかける深雪。その向こう側に誰がいるかはまだわかっていない。
「案内してくれたんだよな。ありがとな」
「おかげでこの戦いを終わらせることが出来たのです。ありがとうございます」
深雪は手を振り、電も丁寧にお辞儀をした。艦載機はその2人の姿を見て、ゆっくりと後退していく。それもまた、まるでついてこいと言わんばかりである。
「……来いってことか?」
「直接お礼が言えるかもしれないのです。大丈夫でしょうか」
「敵の気配は今のところ無ぇ。一応、行ってみるか」
神風とフレッチャーも頷く。誰がこんなことをしたのかは知っておきたい。その相手がどんな相手でも、礼くらいは言っておきたいと。
残された阿手の身体は、深雪がトドメに消し飛ばした。少しだけでも残っていたら、時間をかけてでも復活するとかだと困る。その懸念は消しておいた。
「……さようなら先生、もう二度と、私の中の彼女のような被害者が生まれないことを祈ります」
フレッチャーはその終わりを見届けて、小さく祈る。二度とこんなことが起きないようにと。その祈り──願いは特異点に聞き届けられ、そしてきっと叶うだろう。
最後の部屋はこれでいる必要が無くなったため、深雪達は艦載機の後を追う。響と白雪は調査隊としての仕事を優先すると、その艦載機については4人に礼を任せた。
艦載機はゆっくりとある場所に向かっていく。歩いていく内に、それが島の外に出るための道であることを薄々気付いていく。
水の音、海水が流れ込むような音が聞こえてくる。外に繋がってはいるが、その門が破壊されたのではと思えるような音。戦闘中に伊203達が片っ端から破壊していたのを思い出し、向かっている場所はそのうちの1つなのだろうと察した。
だが、そこにいる者だけは予想出来なかった。
「……嘘だろ」
深雪がそう呟くのも無理はない。そこにいるのは、もう随分と前に見たようにも思える、この戦いの発端。
「出洲……!」
「特異点、久々に見たが、随分と見違えたね」
余裕のありそうな出洲。その隣には、常に刀に手を置いた中柄と、満面の笑みで手を振っている小柄。そして、その後ろで動けずにいる潜水艦隊。しかし、伊203筆頭に全員無傷であるため、そこは安心した。
「テメェ……何のつもりだ」
「今回に限り、我々と君達の目的が一致した。特異点以上にこの世界の平和を乱す存在を始末したくてね。ここにいる君の仲間達にも説明したが、私には彼女にある程度の恩があるので、直接手を下すのには気が引けた。だから、君達にそれをやってもらうことにしたのさ。少しだけ、手助けはしたが、ね」
艦載機の持ち主が出洲だとわかり、深雪はより驚愕に染まる。出洲と阿手が既に決別していることは知っていたが、特異点のサポートまでするのは予想していなかった。
自分の手を汚さずに決別した阿手の始末を達成したようなモノなのだが、利害が一致しているのだからギリギリセーフというところか。
「礼を言わせてもらうよ特異点。君達のおかげで、平和を脅かすモノが1つ減った。心より感謝しよう」
これを本心から言っているのだから恐ろしい。思惑があるわけでもない。本当に感謝の気持ちを伝えているだけ。
「彼女達にも伝えているが、阿手さんを始末してくれたお礼に、今君を始末することはやめよう。これも恩だ。君がこの世界の平和を脅かす存在であることには変わりないが」
「……そうかい、あたし達も疲れてるからな、ここで連戦はしたくなかった。ありがとよ」
阿手とは違う見下しを感じた深雪だが、それでも出洲には皮肉のように礼を伝える。艦載機を出してくれたことには感謝の気持ちがあるため、それだけは礼を言うに値する行動だと。
「でもな、そろそろちゃんと教えろ。つってもテメェと顔を合わせるのはまだ2回目だけどな」
「いいだろう、何を知りたい」
「テメェ、あたしのことを、特異点のことを、生きているだけで罪だっつったな。その理由だ。あたしの何処が罪だ。阿手は適当なことを言って、結局自分が一番になれないのが気に入らねぇって感じだったが、テメェは違うだろ」
そんな深雪の言葉に、なるほどと出洲は小さく笑みを浮かべる。しかし目は一切笑っていない。
「君の罪は、その存在──わかりやすく言おう、その万能性だよ」
「……万能性……?」
「ああ、君が平和を脅かす理由は至極簡単なことさ。君の万能性は、普通の人間を堕落させる。君に願えば何でも叶う。それがわかれば、人間は次第と自堕落になるだろう。全て人任せになる、本来なら汗水垂らして努力する道を、特異点という存在が全て近道に変えてしまう。それは決して許されるモノではない」
深雪の力──願いを叶える力は、優しい願いしか叶えない上に、深雪の判断で取捨選択出来る。それもまた万能の一種ではある。出洲は、その
何もしなくても願いが叶ってしまう状況は、人から努力を奪う。全て特異点に願えばいい。自分でやらずとも、特異点が全てやってくれる。そして、人間は堕落する。それを憂いているのだと。
「……テメェ、あたし以外の特異点も見たことがあんのか」
「ああ、これまでに3人ほど始末させてもらった」
「……っ」
言葉も無かった。自分と同じような存在を、既に3人始末している。そんなことは初めて聞いている。
「その全てにおいて、特異点に頼り切る人間を観測した。そのような堕落は、平和には枷でしかない。確実に足を引っ張る存在となるだろう。それは許されないことだ。特異点がいるから、世界は平和にならない。故に、特異点は生きているだけで罪だ」
絶句しつつも、阿手よりもまだ理解出来る理由だった。本来ならば自分の手でやるようなことも、特異点が何でも出来てしまうために、自分でやることを放棄してしまう者がいたならば、確かにそれは
「……阿手よりは納得出来る理由で助かったぜ。でもな、うみどりのみんなは、あたしに頼るようなことは無ぇぞ」
「そのようだね。実に素晴らしい組織だ。だが、やはり特異点という存在が許されるモノではない。直に君を欲しがる者による諍いも起きるだろう。万能性というのは、凡人にとっては煌びやかな宝石と同等なのさ。手元に置きたく、手放したくない。うみどりの彼は実に無欲で素晴らしいが……しかし、人間とは全員が彼のような者ではない。君もそれは理解しているだろう」
それこそ、阿手のような思想の者もいる。自分が一番になれないから、その万能性を破壊しようと考える者が、今まで生きていた。それ以外にも、全員阿手の信奉者かもしれないが、自分勝手に振る舞う者は沢山見ている。良いも悪いも、深雪は人間を見てきた。
「特異点の存在は、その万能性によって弱者を作る。強者をも淘汰し、人類の全てを奪い取る。争いを無意味としても、特異点という宝石は高次へと至った者ですら堕落させるモノとなるだろう。意味をなくしても、また意味を与えられる。それこそが、特異点の持つ罪さ」
深雪は何も言えなかった。だが、その全てを納得していない。自分を頼ってくる人間が生まれるから、頼られる者が罪だと言っているのだから。万能に願いを叶えることが出来る存在がいるからダメだと断言してしまっている。
「今はまだ君を頼りにしすぎることはしていないかもしれない。だが、今回の戦い、遠目で見せてもらったが、随分と君頼りな戦いとなっていたようだ。堕落の片鱗が見えているとは思わないかい」
そうしなければ全滅していたのだから仕方ない。『舵』によって傷付く者もいた。命を脅かされた者もいた。それを救って何が悪いのだと、深雪は口に出そうとした。
だがその前に口を開いたのは、神風だった。
「思わないわね。私達は深雪を頼っているんじゃない。深雪と並び立っているだけよ。背中を合わせて、出来ることで出来ないことを補ってる。それは堕落じゃない。人として当然のことよ」
凛とした神風の言葉に、深雪は救われた。そうだ、願いを叶えることは堕落を呼び寄せているわけではない。あくまでも出来ることで協力し合っているだけ。仲間達は深雪がいなくても懸命に戦い続けていたのだ。この戦場でも、ずっと。
「そうかい。なら、今はそれでいいさ。だが、ここで宣言しておこう。今は見逃すが、次は我々が特異点を狙おう。構わないね?」
「……おう、かかってこい。いつでも相手してやる」
「ならば、そのうち我々の拠点の位置を教えよう。我々のホームで戦うことになることは許してもらいたい。人間に被害が及ばない場所でやらねばならないからね」
そう言い残すと、出洲は仲間達を連れてその場から去っていった。小柄はニッコニコで手を振り、バイバイとまるで遊んでいるかのように。中柄はじっと神風を見つめると、口が小さく動いた。その時に決着をつけるぞと、神風に伝えるように。
島での戦いはこれで終わりとなる。懸念点はまだあるが、阿手は本当に終わったのだ。