後始末屋の特異点   作:緋寺

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戻るまでが戦い

 阿手を始末し、出洲も去っていったことで、この島での戦いは終了となる。海底から入ってきた潜水艦隊ともここで合流し、念の為の探索をここから再開。海防艦達は先んじて海上へと戻り、提督達へと知らせてくると言い、大急ぎで浮上していった。海防艦だけでは何かあった時に困るため、伊26が付き添い。『ソナー』の曲解のおかげで警戒はかなり強め。

 

「フーミィ達は、ずっとここで出洲達と睨み合いしてたのか?」

「そう。動けなかった。でも、私達が動かなかったから、アレもあの場で何もしなかった」

 

 伊203はそれまでずっとそこに待機させられていたことに苛立ちを覚えていた。時間の無駄だとわかっていても、余計なことが出来ないというあの緊張感。出洲の強さを嫌というほどわからされ、今この場で戦いを挑んでも、勝てるかどうかがわからなかった。いや、戦えばいい勝負は出来ていたかもしれないが、そこに海防艦の潜水艇があったため、無茶は出来なかった。それが逆に誰にも被害が出なかったという最善の行動になったのだが。

 

「……ミユキ、テメェまた変わったのかよ」

「ああ、電と一緒にな」

 

 スキャンプは深雪の姿が変わったことに少し難癖をつけてやろうと前に出たが、その隣に控えていた電の変わりように狼狽えるほど驚いていた。身長はそこまで大きく変わっていなかったものの、それ以外が大きく変わりすぎている。言われれば電とわかるくらいなのだが、そうでなければすぐには気付けない。

 

「あたしも、電も、みんなの願いを受け取ったからこうなった。それに、こうなるまでにもいろいろあった」

「そうかよ。なら詳しいことは今は聞かねぇ。聞く必要もねぇ」

「ああ、そうしといてくれ」

 

 話題に挙がった電だが、ここまでの力の行使によって疲労が大分蓄積されており、倒れるまではいかないが、少しだけフラついていた。この戦場で初めてここまでの変化をしたため、深雪ほど慣れているわけがなく、しかも慣れていないせいですぐに元に戻ることも出来ないため、壁に手をついて休んでいる。

 戦闘が終わったことで少し緊張が解けたのだろう。ここまでの戦いの疲れがどっと来てしまったようだ。特に最後の出洲との対話は精神を蝕むレベルで緊張してしまっていた。

 

 そんな電にすぐさま駆け寄ったのは深雪だった。

 

「大丈夫か電」

「だ、大丈夫なのです、少し疲れただけなのです」

「もう少しの辛抱だ。うみどりに戻ったら身体も元に戻そうな」

「なのです」

「余裕ある時にあたしと同じように練習しよう。まだこの力を使う時があると思うしな」

 

 電もこの力を自由に使えるように練習していこうと意気込む。深雪の隣に立つことで、互いに強くなれるのはいいこと。あの出洲との戦いでも、きっとこれが役に立つはずだと、電は疲れていてもやる気満々である。

 

「それじゃあ、調査隊の調査のキリがついたら戻るわよ。ただ、ここまで階段だったのよね……降りてくるのはいいけど、これ全部上るのか……」

 

 神風がうんざりしたような表情を見せる。現在の戦場は島をくり抜かれた空間の最下層。おそらくエレベーターか何かはあるのだろうが、それが何処かはすぐにわからないし、まずはあの空間で待機している仲間達とも合流しなくてはならない。

 無事に帰るまでが戦いとはよく言ったモノで、ここから全員無事にうみどりまで戻って、初めてこの戦いが終わったことになるのだ。まだまだ懸念点は沢山ありそうだが、まずはちゃんと戦いを終わらせるところから、である。

 

 

 

 

 空間に戻った深雪達は、そこを守っていた仲間達に事の顛末を伝える。力を合わせて、最後は阿手を討ち滅ぼすことが出来たことは、全員にとっての朗報だった。戦いが終わってへたり込む者もチラホラいたが、神風が先程自分でも考えたように、まだ戦いは全部終わったわけではないということに気付くと、大きな大きな溜息を吐く羽目になっている。

 

「後始末はまだ始まりもしねぇな……ここにいる連中は……って、梅、まさか……」

「は、はぃい、『量産』阿手、全部解体しましたぁ……つ、疲れた……」

 

 30人出てきた阿手に『解体』が通用することがわかっていたため、足止めで終わらせるだけでなく、しっかりトドメも刺していた。白雲が凍らせるだけで終わっている個体なども、二度と目覚めないように息の根を止めている。

 また、まだ『舵』が埋め込まれている敵のそれも全て『解体』済み。一部の駆逐水鬼などにそれが見られたため、出来ることは既にやっておいた様子。

 

 その分、梅は誰よりも消耗している。『標準型』を連発した叢雲よりも消耗しているとすら感じる。叢雲も相当キているのだが、梅は既に立ち上がれないレベル。

 

「今回の戦い、梅がいなかったらどうにもならなかったかもしれねぇ……本当に助かったぜ」

「なのです。梅ちゃんが今回の戦いの一番なのです」

「あ、あはは……そう言ってもらえると光栄ですねぇ……」

 

 ヘトヘトすぎる梅は、今は少しだけ休ませてほしいと苦笑した。歩けるようになったら行くと言いたいようだが、流石にあまりここに長居するわけにもいかないため、最悪深雪が抱き抱えて戻る予定。

 

「アンタ達にも助けられたな。ありがとう、途中から仲間になってくれて」

「一緒に来てもらえますか?」

 

 事が済んだために、何をするでもなく立っている金剛達元秘書艦の4人。電の問いに、非常に素直な頷きで返した。

 阿手が全滅した後は、熊野のところに集合し、本来の仕事である駆逐水鬼達の見張りに徹している。駆逐水鬼達も一部は目を覚ましているが、血塗れの金剛の姿を見て恐れを成していた。

 その中でも、『舵』を取り除かれた事で洗脳から脱却した者達はより一層怖がっている。正気に戻ってしまえば、中身は一般人。戦場でいきなりこんなことになっていたらこうもなろう。

 

 だが、()()一般人は一味も二味も違った。

 

「痛た……なんか身体が痛い……記憶も飛んでるし……何があったんだっけ……」

 

 離島棲姫である。『舵』にやられた後、深雪によってそれを消され、ついでにその時の記憶も消されているため、何処かのタイミングからすっぽり抜けてしまっている。その上でグレカーレに薙ぎ倒され、硬い地面で寝かされていたため、回復はしていても身体は痛いらしい。

 そして、目が覚めたところでそれ──変化した電が目に入った瞬間、物凄い反応を始める。

 

「え、誰あの可愛い子、え、光ってるしもしかして特異点の、嘘でしょ、ただでさえ2人お似合いカップリングだったところに片方大人になるとかいうすごいシチュだったのにもう片方も大人になってるっておっぱいデッカ……!」

「アンタも元気そうで何よりだよ」

 

 独り言を捲し立てている離島棲姫に、ある意味同類のグレカーレが近付き、一旦立たせる。自分がやってしまったこともあり、少し心配はしていたらしい。

 

「えっと、私また何かやらかした……?」

「覚えてないなら忘れときなよ。あたしもそうだから」

「そ、そうなんだ……なんかごめんなさい」

「いいよいいよ。あたしも謝るなって言われてるから。その罪を持ってる奴はちゃんとぶっ倒したってさ」

 

 阿手がやられたことを聞き、これで本当に戦闘が終わったのだと安堵の息を吐く。ここまで連れてこざるを得なくなった一般人で、幾度とそのよくわからない直感から部隊を少しだけサポートしていた離島棲姫も、今となってはもう普通の被害者として扱える。

 

「……コイツらも連行でいいな」

 

 深雪は重巡新棲姫と飛行場棲姫の方にも目をやる。こちらは『舵』無しであり、本心から阿手に仕えていた者達。阿手の死を知り、もう勝てないの悟ったことで、ぐったりとその場で動かなくなっていた。重巡新棲姫は絞め落とされているためまだ気を失ったままだが。

 こうなってしまえば、後は大本営に差し出すだけ。最終的にどんな運命が待ち受けているかはわからないが、そこからはもう深雪達の管轄ではない。被害者かもしれないが、同時に加害者である者達がどうされるかまでは、後始末には含まれない。

 

「お姉様、ご無事で何よりです」

「ああ、白雲も大丈夫だったみたいだな」

「はい、お姉様が行かれたから、ここでは何も起きておりませぬ。こうまですれば、敵対する者は黙ります故」

「違いねぇ」

 

 仲間達は全員が無事。消耗は激しいが、それでも自己修復なども込みで全員が傷も無くなっている。それだけでも充分な戦果だ。

 阿手の卑劣なやり方で、誰1人として欠けることなく終われたのは素晴らしいこと。この激戦を潜り抜けることが出来たのは、その全員が懸命に戦い、互いを補い合って突き進んだ結果であろう。

 

「……誰も堕落なんてしねぇよ。あたしだってまだまだなんだ」

「なのです。みんなに特異点を頼り切るなんて選択肢、何処にもないのです」

 

 出洲のさっきの言葉を思い出す。特異点を罪と語った理由、万能性による人間の堕落。深雪も電も、自分を万能だとは思っていない。本当に万能なら、身体も心も傷つく者なんていない。そもそもそうなっても自力で何とかしてしまう。

 

「だから、アイツの……出洲の言ってることは、あたし達が否定してやる。あたし達に罪なんてねぇ」

「当然なのです。絶対に負けないのです」

 

 深雪と電は笑い合い、改めて手を繋いだ。特異点としての力が互いを循環するように感じ、ただそれだけでも心地よい。

 

「最後の戦いに向けて、いろいろやっていかないとな。出洲との直接対決まで、もうあまり時間がないだろうし」

「舞台を向こうが用意してくれるということですし……どんな戦いになるかわかりませんが、準備は必要なのです」

「あたし達は、今の姿での戦いに慣れなくちゃな」

「なのです。電はまずこの身体に慣れなくちゃなのです」

 

 

 

 

 ここからまずは帰投することになるのだが、うみどりではまたいくつかの波乱が待ち受けていることは、既に深雪達の中でもうっすらと気付いていることであった。

 




離島「なんなのあのカップル、手ェ繋ぎ始めたよ。しかもナチュラルに。私の知らない間に関係がもっと近付いたってこと? なんでその瞬間見られなかったかな。推しが幸せならOKかもしれないけど、その幸せになる瞬間まで見たいのが私達なんだよ。経緯なんだよ経緯」
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