後始末屋の特異点   作:緋寺

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島の戦いの終わり

 島での戦闘が終了したということで、各々帰投することになるのだが、地下空間での戦闘後に地上に戻るというのは、考えている以上に難儀である。エレベーターが無いかを探しているようで、それがあれば、白雪がハッキングして使えるようにするという方向で進めていた。あったとしても、今ここにいるのはそれなりに大人数。特に多いのは捕虜だ。

 

「あたしは梅を支えていくけど、他はどうするよ」

「叢雲さんは私が」

 

 梅に続いて、『標準型』の連続行使で消耗が激しい叢雲にはフレッチャーがついた。戦闘中でも、その経緯などで気が合ったか、割と組んで行動することが多く、そのおかげで今回はフレッチャーが救われたりと、交流を深めることでいいことばかりが起きている。

 

「『舵』があった連中は、誰かが支えてあげた方がいいわね。そうでなく阿手に従ってた連中は、尻を蹴ってでも自力で帰らせるわ。特にアレね」

 

 仲間がフラつくなら、それを支えてあげるというのは当然のこと。だが、敵はどうかと言われたら、そんなことをしてやる義理もない。なので、自分の足で少なくとも施設の外には出てもらう。階段を上らせ、弱音なんて吐かせず、これまでの行いを反省させるかのように。

 それをするのは、ここまでで大分消耗しているであろう神風。そして、アレと指を差したのは、阿手の側近としてここで苦戦させられた飛行場棲姫。梅が次から次へと量産型阿手を『解体』していくところを見せつけられ、もうダメだと諦めの境地に辿り着いてしまい、茫然としているだけ。まるで心が壊れてしまっているかのようだった。

 

「……こら、何をボーッとしてるの。愛しい阿手先生が死んだことにショックを受けるのはいいけど、ここから移動してもらわないと話が先に進まないの。動きなさい」

 

 そこは心を鬼にして、神風は飛行場棲姫を移動させるために立ち上がらせる。子日のワイヤーで雁字搦めにされているため抵抗は出来ずに、しかし痛みはあるため顔を顰める。

 

「ここにいたら万が一の時に貴女も命を失うわ。そんなことは許さない。貴女達のしたことは、正しく償ってもらうわよ。その結果で死罪になるかもしれないけれど、それだけのことをしたってことくらい理解してもらわないと困るわ」

「……自分達のことを棚に上げて……特異点を庇い立てする愚か者に……」

「私達は、自分の欲のために何も知らない島の住人を実験台にするようなことはしない」

 

 こういう反応をする辺り、やはり阿手の側近なのだなと理解出来る。神風は知らないことだが、特異点Wに現れた阿手の側近だったという新量産空母棲姫も、自分達のことを棚に上げて一方的に特異点が悪いと言い続ける者だった。この飛行場棲姫も似たような者。

 今は気を失っているが、重巡新棲姫の方も同じような反応をすることだろう。自分達が正義であり、特異点こそが悪。自分達のやることは間違っていないと。

 

「私達は阿手を始末した。でもその前に貴女達は何人の人間の命を弄んだの。まさか、愛しの阿手先生に全てなすり付けるわけじゃないわよね。自分達は指示通りにしただけだなんて言わないわよね」

「……」

「私達が貴女達に言う罪は、定められた罪よ。簡単なことだからわかるわよね。でも、私達に向けて言う罪は、阿手のでっち上げよ。気に入らないからアイツが悪い。ただそれだけの、何にも中身の無い言い分だったわ。そろそろ気付きなさい。自分は新興宗教にハメられたってことに」

 

 これだけ口撃はするものの、神風は身体を傷付けるようなことはしていない。一応は被害者扱いしているからだ。元凶である阿手にハメられ、思想を徹底的に破壊され、今のような態度を取っているという可能性もあるのだから。

 2人の軽巡新棲姫のように容赦なく始末した者もいたが、出来ることならばそういうことも避けたいところ。

 

「やっぱりあったよ、地上まで上がれそうなエレベーター」

 

 ここで、地下を調査していた響と白雪が戻ってきた。ここまで島の地下奥深くまで潜ったような場所だ。エレベーターが無いわけがないと睨んでいたが、まさにその通りだったようである。

 電力などは2人がうまく復旧させたらしい。予備電源が未だ破壊されていなかったことが幸いしたようで、システム面は白雪が、そしてハード面は響がちょちょいのちょいしたとのこと。

 

「ただ、あまり広くないからね。何人かずつで行こう。一番疲れてるであろう梅と叢雲を優先させてあげてほしい」

「だな。そのエレベーター、何処に繋がってるかわかるのか?」

「ああ、場所的には島の小高い場所に出ると思う。その近くに出口もあるだろうね。方向的に、杏が脱出したという場所にも繋がっていると思う」

 

 ここまでやってきた経路を全て把握し、脳内で地図を作っていた響だからこそ、ここまでスラスラと言えた。

 とはいえ、阿手がいなくなっても他の敵がいないとも限らない。エレベーターはわかりやすく密室だし、出待ちされている可能性も充分にあり得る。そこだけは慎重に向かわねばならない。

 

「何人入れそうだ?」

「艤装込みなら3人が限界だね。だから、私としてはまず、君と梅、あと子日に行ってもらうのがいいと思う」

 

 疲労困憊の梅を安全に外に出すため、まずは子日の『迷彩』を使って確実な脱出を目指す。そこが安全であることがわかれば、あとは順当に全員を上がらせるだけでいい。

 

「よし、それじゃあ、ここから出よう。いい加減、ここにもいたくねぇ」

「ええ、そうしましょ。場所は悪いかもしれないけれど、あの学校でもう一度落ち合いましょうか」

「だな。それじゃあ、ゆっくりでもいいから安全に出るぞ」

 

 戦いを締めくくる脱出が始まった。ここまで来ればもう殆ど安全のようなものだが、最後まで気を抜かないのがこのメンバーだ。煙幕だってもう惜しみなく使うくらいである。

 

 

 

 

 地下空間からの脱出は順調に進み、エレベーターで何往復もすることになったが、全員無事に地上に戻ることが出来た。

 

「あとは、外に出られれば終わりだ。出待ちも無かったしな」

「なのです。煙幕はまだまだ出しておきましょう」

「だな、帰るまでずっと出しておこう。これだけ戦ったんだから、もう充分すぎる。嫌な思いはしたくねぇよ」

 

 大人数での移動になるが、確実な帰路についた。煙幕を漂わせ、まだ残っているかもしれない敵や出来損ないに注意し、一同はまず港町へと下りていくための出口を探す。

 そこは脳内マッピングが完璧である響が先頭に立ち、迷うことなくココから出られると進んでいくと、宣言通りの出口を発見。先んじて調べていた、杏が脱出したであろう扉。

 

「……そういえば、杏の母ちゃんは何処にいたんだろうな」

 

 杏が脱出した扉という話が出たことで、杏関係の話題が浮かび上がる。

 

 杏は命からがらこの施設から逃げ出した島外の人間。その時に、この島に来た理由も聞いている。

 黒井兄妹と同様、親族が重い病気を患っており、その治療をこの島でやれると聞いて訪れている。そしてその親族──母は、他の者達と同様に騙され、病気は治ったが深海棲艦の身体に改造されている。

 その改造された母が何処にいるのかは、結局わからないでいる。当たり前だが、自分が杏の母だと名乗ってはいないし、杏本人からどの深海棲艦に改造されたかも語られていない。一般人に深海棲艦の判別は難しいため、そこは仕方ないことである。

 

「今なら外にも連絡が出来るのです。聞いてみますか?」

 

 電が提案。外に出てさえすれば、通信が可能になる。別れてからある程度は時間が経過しているため、学校にいた面々は今頃、うみどりに到着しているくらいであろう。それならば、いくらでも話は出来そうである。

 戦闘が終わったことは、潜水艦隊などから既に通っているとも思われる。伊203とスキャンプはなんだかんだでこちらに同行しているが、潜水艦隊の通信設備を持っている伊26は、海防艦を無事に帰投させるためにそちらと同行しているため、いち早く通信が可能。そもそも海防艦達も逐一昼目提督と話せるようには作っているはずなので、事が済んだとわかったら報告くらいはしているだろう。

 

 深雪達の無事を報せるためにも、こういう時は出来る限り早めに連絡がいるだろうと、この提案を実行する。他のところでも戦っていた者はいるため、そこにも話を通しておきたい。

 

「こちら、電なのです。戦闘終了、なのです」

 

 電の報告を受け、スピーカーにしていた通信の声がわっと大きくなる。

 

『こちら、正面突破部隊の三隈ですわ。無事に終わったようで何よりです』

『潜水艦隊のニムだよ。今は正面突破から別働隊になって、埋めた敵深海棲艦の見張りをしてた妙高さんと合流したよ』

 

 各々、少し疲れた声ではあるが、未だ想定外の事態は起きていないようである。

 

『お疲れ様、みんな。うみどりのハルカよ。先んじてマークちゃんから聞いていたけど、無事な声が聞けて本当に良かった。そちらで先に送ってもらった捕虜の方も、ついさっき全員無事に到着しているから安心して。って、あらあら、流石に居ても立っても居られないいられなくなったみたいね』

 

 すごく久しぶりに聞いたようにも感じる伊豆提督の声に、深雪達は戦いは終わったんだと実感する。

 だが、向こう側で何やら起きているようで、伊豆提督の苦笑するような声と共に、少しだけバタバタとした音が聞こえてくる。

 

『すみません、すぐにでも知りたくて。あ、おばあちゃんですよ』

「丹陽……気持ちはわかるけど、もう少し落ち着こうぜ」

『これが落ち着いていられますか。それで、阿手は……』

 

 その丹陽には、力を借り受けているフレッチャーが一歩前に出て話し始める。

 

「丹陽お姉様、阿手は……私が最後、始末をつけました。阿手はPT小鬼群の姿をしており、皆さんの助力のおかげで捕えることが出来、そして……その頭を撃ちました。生きていないことも確認済みです。自己修復もしておりません。丹陽お姉様の力を借りたことで、丹陽お姉様の力を使って、引導を渡すことが出来たのです」

 

 その報告に、少しだけの沈黙。そして、鼻を啜るような音が聞こえた。

 

『……そう、ですか。そうですか。その報告が聞けて、本当に嬉しいです。仇は、取れたんですね』

「はい……本当なら、丹陽お姉様が手ずから決着をつけたかったと思います。ですが、私も皆さんの思いを背負ってその場に立っていたと自負しております。皆様も怒りを覚えていたでしょうが、私にそれを譲ってくださいました。丹陽お姉様、これで……良かったですよね?」

『はい、本当にありがとうございます。私の思い、私の苦しみ、その全てが今、解放されたと思います。こんな言い方は悪いかもですが、初風さんも浮かばれることでしょう。勿論、それ以外の被害者も』

 

 最後は涙声だった。鼻を啜る音も何度も聞こえ、しかし声色は明るい。これまで長い時間を苦しみ続けていた丹陽の隠し続けてきた恨みが、今ここで完全に晴らされたのだ。

 

『ハルカちゃん、すみません、通信をお返ししますね。私、ちょっと顔洗ってきます』

『ええ、ゆっくりしていらっしゃい。感慨深いモノもあるでしょうから。落ち着いてからまたこちらに来てくれればいいわ』

『はい……ぐすっ……少し席を外しますね』

 

 丹陽が離れたようだが、遠くの方でどう聞いても泣いている声が聞こえた。それは悔しくて悲しくての涙ではない。決着がついたことに対する感涙である。

 

 

 

 

『それじゃあ、あとは上手く戻ってきてちょうだいね』

「ああ、それじゃあ、帰るぜハルカちゃん」

『ええ、最後まで気をつけてちょうだいね』

 

 この声で、数人は力が抜けてしまったまであった。戦いは本当に終わったのだと実感して、疲れがどっと押し寄せてきたようだった。

 




離島「え、もしかしてあの声が貴女達の提督の声? 声だけだとイケメン声だけど、オネエ系!? ちょっと早く顔が見たい……ここでさらに推しが増えるかもしれないんだけれど。この戦い、ちょっと怖いわ……」
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